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第7章
出会いと別れ
しおりを挟む出会い
リアムが具現化した場所は混沌する世界だった。
魔物や怪物が横行し、町は廃れ、多くの人は
その現実に心を蝕まれていた。
城も機能せず、辛うじて魔物や怪物から、
少ない人が住む土地を守っていた。
生きる……それだけの意思で
リアムは行く宛ても無く彷徨う、人が人の
意識を保ち、希望に戦う人々の姿も無く時は
無駄に過ぎて行く
リアム「ネロ……何故姿を見せては
くれない……」
ネロは此処に行き着いてから一度も顔を見せる事は
無かった。
枯れた土地に荒んだ心を持つ人々に日々
行き着く町で追われていたリアムだった。
彼の容姿にやだ人々は怯え、恐怖から迫害に
及んだ。
彼は鴉のついばみ時代に多くの骸を見た。
彼もその骸を増やした事に罪悪感や葛藤に
悩まされていたが故に人がどんなに荒んでも、
無益な殺生はしなかった。
石を投げられ、貯めた飲み水に毒水を
入れられる事もしばしばあった、
彼はそれに気付きながらも、体に耐性がある
事もあり、彼らの仕打ちを甘んじて受けていた。
耐性があろうが苦しむのは変わらない、彼は
それを今までして来たことへの懺悔とも
感じていたのかも知れない。
飲んでは苦しみ、苦しんだ所を襲撃される。
彼に安住の地は無かった。
この地域は特にモンスターとの戦況も激しく、
旅の合間に町や村を襲う魔物と戦う日々は続く。
それは信念の戦いではなく、ただ今迄の戦い
から得たモノをレベルの差で勝つと言った
もので、ただ戦う彼の身体は普段なら容易に
躱せる筈の攻撃も受け、傷付き、次第に
心も病んでいく、まるで自分を殺そうとする
ような戦いは次第に彼から記憶をも
薄れさせていった。
本能……その想いは彼が心許す数少ない人間達の
想いからであった。
中にはそういう人間もいるかも知れない、
出会った訳ではないが、もし、そう言う人間が
居たなら、私は彼等を助けたい、その一念で
あった。
こうして2年が過ぎた……
ココ村という村に着いた彼は村へ入るのを
恐れ、近くの山に寝床を置き何時もの様に、
生きる為だけの生活を始める。
此処に来ても事態は同じであった。
村人は得体の知れぬ男が山に住み着いている、
そしてその姿は正に異形の者、
村は統括する市政へと討伐隊を依頼、リアムは
もう逃げるのも疲れ果てていた。
何回も来る討伐隊を出来るだけ殺さず、
それを退ける。
生き残った兵は、負傷者の出た現状から、
次は更に多くの兵、
そして更に強い兵を用意し、討伐へと向かった。
身を守る為に戦う、気を配ってはいるものの、
時には倒してしまう日々は日毎、彼等が
強くなる程に増えて行く。
彼は殺人鬼と謳われた。
リアム「結局、俺は殺人鬼……なのだな」
時折、涙を流すリアムの差し伸べられる
血の通った暖かい手は無い……
しかし彼は此処を離れようとはしなかった。
その理由はーー
彼がいる隣の山にベヒーモスが居たからだ、
この世界のレベルで言う90クラス、
現存するモンスターの中では破格の
強さを持ったこのモンスターは100人の衛兵で
立ち向かったとしてもひとたまりも無い、
このモンスターが村を襲えば1時間も立たず
村は壊滅する事は目に見えていた。
彼は衛兵との戦いの間、このモンスターとも
戦っていたのだ。
ベヒーモスは彼の世界の中でもお伽話に
出て来る伝説の魔物、その肉体は鋼の様に固く
刃物も一切通らない。
そして魔王と言われる者が作り出した
合成キメラと言われていた。
彼は魔王と言う者が存在するかも疑問には
思ってはいたが、魔物を使役する存在がいる
事は認知していた。
リアムもこの魔物には倒せずに苦労していた。
刃物が通らない上に同じ属性である
コルトボーンの鋭い歯も一切受け付けず、
囲い石も使えない状況であった。
村はリアムのお陰で平和が保たれている事等、
思いもよらなかった。
そして今日、とうとう、王都最強英雄が1人、
雪風が彼の前に立ちはだかる。
凛とした顔立ちに真紅と純白の鎧を纏った、
かも美しい女魔法剣士であった、
その出で立ちは見る者を魅了する程に美しい。
雪風「お前が山に住む魔物か……我が名は雪風、
王都最強英雄が1人お前を退治しに来た。
抵抗するなら良し、無抵抗も良し、選ぶが良い
貴様の人生を」
リアム「……」
雪風「言葉を持たぬか……」
「それもまた良し、我が魔法は木樹を操りし
大地の加護を持つ者いざ参る!」
雪風はリアム目掛け木の葉をカッターの様に
飛ばし、リアムを襲う。
リアムは俊敏な動きで幻影を作り出しそれを
躱すが全ては躱す事は叶わず身を切られた。
リアム「……お前らに構っている暇は……無い」
雪風「お前に無くとも私達にはある」
「異形の者よ、我が王都に逆らいし者よ、
秩序は保たれてこその平和、衛兵に逆らうは
王都への反逆、それは小さなモノでも
摘まねばならぬのだ、正義を執行する」
リアム「……正義」
「私は……悪……なのか……」
力が抜けて行くリアム
武器を下ろし膝を折り、魂の抜けた骸のように
雪風には映った。
雪風(噂に聞くこれが殺人鬼なのか……?
やけに潔い)
「……抵抗せぬか、それも良し、連行しろ」
衛兵がリアムを捕える、内、兵士1人が
彼の顔を殴った。
衛兵「世話かけやがって」
リアムはただ無抵抗を通した。
雪風「おい、貴様、今何をした」
衛兵「いや……こいつのお陰でこんな田舎まで
くる羽目になって1発入れなきゃ気が
済まないと言うか」
雪風「貴様、無抵抗な者を殴るか!
それは王都の兵として
あるまじき、いや恥じる行為であるぞ」
雪風は衛兵を殴り飛ばした。
雪風「リアムと言ったか、衛兵の無礼を
詫びよう……罪は罪とし、裁かねばならぬが
裁く人間のする事ではなかった」
「心から謝罪する」
深々と一礼する雪風にリアムは困惑した。
リアム「……いいんだ」
か細い声で呟くリアムだった。
雪風「……」
「よし行くぞ!」
リアム「待て!一つ願いがある」
雪風「……」
「先程の詫びもある、申してみよ……」
リアム、「此処より西に山がある、
そこにベヒーモスが三匹居る、お前なら、
託せる、頼む、村を救ってくれ」
衛兵達「何!ベヒーモスだと!しかも三匹!」
雪風「誠か」
リアム「……」
雪風「誠の様だな」
衛兵「ちょっ、雪風様!衛兵隊の数50名、
こんな数じゃ勝てる訳がない!」
雪風(こいつの話が本当なら、いや真実だろう、
目が嘘を言ってはいない、だが……確かに
この数では叶うはずもない、一体でも
王都英雄2人がかりでも勝てるかどうか……)
(しかしコイツを放置して行く訳
にも行かない……)
リアム「急いでくれ、奴は夜になると動き
始める、一匹は手負いまで追い詰めた、
実質は2体だ」
雪風「……伝令を出す!エルド衛兵!前へ出よ!
これより我が隊はベヒーモス討伐へと向かう、
其方は急ぎ王都へ帰り、英雄が1人ロンドに
この事を伝え、増援を、と」
「残りの内、9名はリアムを連れ王都へ期間後、
審判が降るまで牢屋に」
衛兵「はっ!」
雪風「リアムとやら、村人を心配する其方を
私は悪とは思えない、先程は失礼つかまつった、
度々の非礼詫びよう、ここは私の命令に
従い、暴れず衛兵につき、
王都までご同行願いたい」
「私は其方の力量を見余ってはいない、
ベヒーモスを手負いに追い込む等、並みの
人間でなせる所業ではない、衛兵9名等、
倒し逃げる事は安易であろう事は
わかっているつもりだ、敢えて頼む」
「それに其方の目は……いや……
いい……」
リアム「その人数で対峙するつもりか……
勝てぬぞ……」
雪風「勝てぬが本懐では無い、民を守り守護
する為、我は王都に使えた、民を守る、
この行動が我が我である所以である」
立ち上がり的確に指示をだす雪風
そしてリアムは衛兵に連れられ山を後にした。
村に一旦立ち寄り、補給を済ませた後、
2日かかる王都への道のりを行くために
その頃、雷を操るベヒーモスは天空に
黒い雲を立ち込ませ
ゆっくりと、起き上がった……
こうして戦いに巻きこれて行く事となるが雪風との
この出会いもまた、ある人物との関わりの
きっかけとなるのであった。
そして彼の人生は大きく変わることとなる。
ーー第一幕完ーー
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ありがとうございます。きっといい思い出が彼を支える事でしょう。
凄く好きな世界観です!
続きが待ち遠しいです!
楽しみに待ってますね!!
感想ありがとうございます!彼の生き方と自分自身どう向き合って行くのか僕自身も楽しみです。
じょじょに盛り上がるタイプですね、4章辺りからの、どうなるか期待してます!
ありがとうございます、リアムはあまり喋らなくなる前説にやっと入りました、誤字脱字、改行のやり直しに追われてますが今後ともよろしくお願いします。