ーーリアム物語ーー天使と悪魔の天秤

しおじろう

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第1章

旅立ち

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 衛兵に追われるリアムは数カ所に傷を負い、
火事の時に切った手首の出血も止まらず
意識は朦朧としていた。
 
 疾走する彼の姿を見た町人達はその姿を
見て化け物と叫ぶ、彼の顔の半分は白い
仮面の様相で片手には斧を持ち血だらけで
走るその姿は悪鬼にしか見えなかった。
 
 人の印象は見た目で決まるもの
なのであろう。

 衛兵以外捕まえようとする者は
居なかったが、時折投げられる投石が体に
付く傷より彼の心を深く確実
に傷付けて行く……

 自分を見て怯える人々、罵倒を浴びせる者、
石を投げる者私の受けた拷問や境遇を
知る者は確かに居ない。

 しかし私はお前たち町民の娘の
命を救ったのに…

 私はお前達に何かしたのか、天に唾を
吐く様な事をしたのか?
その怯える目の奥には軽蔑や悪寒、
憎悪を感じる。

 リアムは泣いた

 泣きながら思った。

 鏡こそ無いが自分はもう人の仲間では
無いのかも知れぬ、見た目もそうだろう
しかし心の奥の憎悪は人のそれでは
無いのかも知れぬと湧き上がる周囲への殺意
を解放し異質なオーラを纏い始める。

 やがて先回りされた衛兵に道を塞がれる
衛兵の数は十人

 衛兵「この奴隷野郎っ!」
 
 リアム「俺……は何もしてない、
ただ少女を助けただけだ」

 衛兵 「お前が夫婦の母屋に火を付け少女
を殺そうとした事は聞いている、 大人しく、
その斧から手を離せ」

 リアムは素直に斧を手放した。

 リアム 「俺……本当に何もしてない……
信じて……」

 数人に取り押さえられるもリアムは
抵抗はしなかった。

 衛兵はリアムの顔を足で踏みつけながら
唾を吐きかける。

 衛兵の1人がリアムの耳元で囁く……

 衛兵 「お前がやってない証拠はあるのか?
あろうがなかろうが、お前の様な奴隷の者の
言葉を信じる者も居なければ、証言者の
夫婦はドレン卿の配下、何が正しいか
では無いのだよ」

 「仮にお前がやってないとしても、
このままでは収まりが付かないであろう?
化け物が悪行を働く、どうだ民は納得
するであろう?」

 「どう収めるか、なのだよ、それに何故
お前の様な下劣な者の為に我々が汗水流して
捜査せねばならぬのだ?」

 「お前が私達に賄賂を渡せると言うなら
話は変わってくるかも知れぬぞ?
労働には対価というものが必要なのだよ」

 周りの衛兵が高笑いをあげる

 リアム「衛兵は町や人を守るのが仕事では
無いのか!」

「お前達……貴族や町人の正義……
は何なんだ」

  衛兵「あん?奴隷は人ではないだろう、
人間様に何、説教垂れてんだ」

  衛兵「皆さん、ごらんの通り罪人家畜は
衛兵が捕らえた薄汚い仮面を剥いだ顔を
しっかり目に焼き付け各々の奴隷の躾を
しっかり監視するがよい」

 そう言うと衛兵はリアムの顔の半分を
占める白く硬質化した仮面の様な顔に
手をかけ、剥がそうとした、

 衛兵……

 衛兵「ん?」
 「取れないぞ?……」

 複数が仮面に手をかけ無理矢理剥
がそうとする無論仮面では無い硬質化した
縁の皮膚から血が出始める

 衛兵「こ……いつ、もしかして……」
「本物の化け物だっ!」

 叫ぶや否や衛兵達や周りを取り囲む町人の
顔がみるみる青ざめてゆく……

 リアムは自分が化け物と見えている
現実を知った。

 無論彼は人間である、それも元、王に
仕える衛兵隊長の息子である。

 しかし彼にとって思考している
暇はなかった。

衛兵は槍を構えすぐ様、彼の頭目掛け槍
を突く、彼の硬質化した頰に槍は弾かれ
更に衛兵や町人の恐怖を煽った。

 町人「ひぃぃ槍も通さない
悪魔だっ殺せっ!」

 衛兵達の槍を辛ろうじて避けるも少しづつ
リアムの身体に傷は増えてゆく

 リアム「待って……俺は人だ……お前達を
傷つけるつもりはな……い」

 そう言う彼の言葉に耳を傾けてくれる者は
只一人もいない、彼の腕に槍が刺さる苦痛
からリアムは刺した槍を持った衛兵
を突き飛ばす

 数人の衛兵がさらにリアムを追い詰める
その目は朱色に染まり恐怖に歪んだ
顔に見えた、槍は長く鋭いその穂先を容赦
無くリアム以外の周りをも傷付けながら
リアムを追い込む、その穂先には先程まで
取り囲む様に観覧していた町人達の血
でも染まっていた。

 逃げ惑う町人達から衛兵を遠避ける様に
刺されながらもリアムは必死に10本の槍の
鋭い突きを辛うじて避ける

 振り回す衛兵にはもはや町人の姿は
写っては居なかった、衛兵の一人が
倒れている少年の身体に躓く

 衛兵「邪魔だっ!ガキっ!」
衛兵は少年に向かいその矛先を彼に突き
立てようとした瞬間、リアムは彼を抱いて
その矛先から少年を庇った

グサっ

 苦痛に歪むリアムの顔に守られた少年は
持っていたナイフでリアムの首を刺した、
辛うじてそれを手で受け頸動脈から守った

 少年「この化け物め僕から離れろ!
僕は悪には屈しないぞっ!」

衛兵は少年を庇ったリアムの
行動に勝機を感じた、

 彼等は仕留められないリアムの代わりに
少年を狙い始めた、その矛先に向けられた
凶器の先をリアムは全て己の身で受ける。

 えぐられた身は塊となって飛び散る
 
 少年はリアムに石を投げ、衛兵は少年を
狙う矛先がリアム自ら刺されに来る
状況を利用した。

 それでもリアムは槍の勢いが少年を
仕留めるに充分な力が込められている状況に
刺される他はなかった

 やがてリアムは大量出血で意識が朦朧と
し始め彼を庇いながら避ける事が難しくなり
やがて少年の前で仁王立ちとなるのであった

 容赦無く刺さる槍はもはや獲物を弄ぶ
凶器となり仕留められる内臓を狙わず彼の
腕や足に向けられた。

 そして仁王立ちとなる彼の背中に激痛が
襲う、

「ぐぉぉぉぉ」

 少年は持っていたナイフでリアムを背後
から刺したのだ、

リアム「何故?……」

 化け物と罵る少年の姿はもはや衛兵と
変わらぬ目をしていた、人は先入観と、人に
見えないリアムを悪と判断し、リアムの
少年を守る行動は視界には入っても脳が
それを悪を倒す好機と見なしたのか?

 最早、何が正義で何が悪か……何が
守るもので何が敵なのか
守るものも彼を容赦無く切りつける

 そう身体も心も容赦無く……

 リアムは叫んだ
内臓から振り絞る様に感情が入り乱れる

 しかしリアムは背後にいる少年を傷つける
事は出来なかった、
 
 リアムは少年から離れる事により、利用
しようとする衛兵から少年と自分を守る
手段を取る他無かった。

 逃げ惑う中リアムの攻撃は衛兵を一人、
一人なぎ倒して行った、
正義は最早此処には存在しない。

 大怪我を追いながらも城門から逃れた
リアムは息絶え絶えになりながら身を隠す
為に山へ逃げ込んだ

 そして彼は意識を失った……

 チュンチュン……

 リアムは久し振りに幸せな幼少期のような、
眩しい陽射しの中目を覚ます……

 その温かい日差しは彼に先程までの地獄の
記憶を忘れさせる。

 リアムは幼き日の夢を見ていた。
心の何処かでそれはもう遠い記憶の中の事と
認識しているのだろう。

彼は涙を流しながら微笑む様に目を覚ます。
 
 意識が混濁し思わず涙で歪んだ人の姿に

 リアム「パパ……?ママ?……」

 そっとリアムの大きい身体を包む暖かい
体温にリアムは溢れる涙を抑える事が
出来なかった

 「ママ、とても怖い夢を見たの、人が
その姿のまま化け物となって僕を虐めるの、
パパもママも側に居なくて僕はとても
寂しかったんだ、あぁ夢なのに何て残酷な
夢だったんだろう……」

 「僕は尊敬するパパの言い付けを守ったよ、
貴族として、パパの子供として、人として、
正しいと思った事をやったよ」

 彼のその言葉を聞いた、その暖かい、
ぬくもりは彼を一層強く抱きしめた、

 「そうかい、そうかい、偉いねぇ……」
その発する声に甘えつつも、毎日聞いた、
あの母の声と違う事に気付いた彼は、
その目を見開きその人物を見た、

 其処には見知らぬ老婆が彼を
抱きしめて居た。

 彼は驚いたが、その温もりに暖かさと
愛情を感じた彼はその温もりから
離れられずに居た。

 コトン……

 リアムの寝ているベッドに暖かいスープが
置かれた、

 「ほれ、起きたのなら、このスープでも
飲むがええ、お前さん一週間も寝っぱなし
だったぞ、血だらけで見つけた時は
びっくりしたぞ……」

 その声の主もとても心地良い暖かな
声であった。

「うちのばぁさんが山の麓でお前さんを
見つけてな、儂がお前さんを運んで
寝かせたのじゃ、高熱と出血で今にも
お前さんの心臓は鼓動を止めるかの
様じゃったで……」

 「毎晩お前さんの口に温かいスープを
流し込んでおった、バァさんに嫌でなければ
お礼の一つでも言ってやっておくれ」

 意識が鮮明になりリアムは自分を
助けてくれた老夫婦に感謝した。
その夫婦の包む空気はとても暖かく柔らかい
実に心地良い空間であった、

 お爺さんの名はムウ、
お婆さんはレイラと言った。

 ムウは山の中で暮らす代々森と共に生きる
木こりとしての生活をしていた。
森の木を伐採し取った数だけ新たな木を
植える、常に森と共に生き感謝の念を
忘れぬ生粋の木こりであった。

 リアム「お爺さん何故見ず知らずの、
俺……にこんなに親切にしてくれる……」

「それに、俺が怖くは無いのか?」

 お爺さん「ふぁははっ長年付き添った
バァさんが、お前を助けたいと言った、
それだけで儂はお前さんを助ける理由には
充分、事足りるわい」

 「それに顔は人の良し悪しを図る尺度には
ならん、お前さん血も赤かったではないか、
何があったか知らないが、お前さんからは
不思議と気品が感じられる。

「この世は今は混沌としておる、
悪徳貴族の醜悪な顔の方が余程怖いわい」

 高々と笑うムウの姿にリアムは
父の姿を重ねた…

 ムウ爺さんは長年監禁されて居たリアムに
この世界の現実を教えてくれた

 貴族の子供であったリアムは広い世界の
現実を知る事となる。
 
 奴隷の事は父から多少聞かされては
居たものの、その現場はリアムが自分の体で
知る事となったが、それ以外も国中の
至る所での内乱が起こっている現実

 そして世界には町での逃走時リアムが
恐れられた怪物という生命体が実際に少数
ではあるが存在している事

 その多くは戦争や内乱時において
無頼なる力を使い、傭兵として力を発揮する
者をはじめ、この世界の傍観者として
存在する者もいる。

 ここ2年前から、毎年紅い月が夜を
照らす時、足元の暗闇が濃くなり紅い光を
吸収する、その暗き闇から呻き声と共に
化け物は現れる。

 そして噂ではあるが町から近いこの山にも
城の噂は届き、リアムの父オスカーが
何者かにさらわれた夜からその現象は
起き始めたという。

 しかし現実に、その化け物と言われる
生命体はその夜を境に数を飛躍的に伸ばし
始めているという……

 しかし悲しい現実から化け物と呼ばれる
者も少なくない、多くは人でありながら
奴隷とされ、忌み嫌われ虐待や逃亡生活に
おいてその身を守るべく力を付けていき
化け物と同様の戦う力を身に
つけた者も多い。

 やがて、その心は人を恨む様になり
心までが化け物となる。

それは人間が持ち合せる本性なのかも
知れない、
 
 化け物は人が作るものでもあると
ムウは語るのであった……











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