貴方が呼んでくれるから

ツナコ

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 入院2日目の昼過ぎに、あの男がやってきた。

 今日はスーツじゃなく黒のコーチジャケットを羽織り、前髪を下ろしていてだいぶ若い。

 30代かと思ってたけどもっと下かなあ。

 俺はおそるおそる尋ねてみた。

 「あの…病院の支払いですが、もしかしてあなたが?」

 「ああ。そうだ。金なら気にするなよ。
 金ならある。」

 ええー。

 「そ、そうなんですか…。
 すみません…ありがとうございます」

 彼はニヤリとして

 「以前のお前からは想像できないな、お礼を言われるなんて」

 え?俺ってどんな奴だったの?

 「そ、そんな…、あの、でも、1人部屋じゃなくてよかったのに」

 「…大事なお前を、他の男と相部屋になんてできるか」

 えぇっ、思わずドキッと胸を抑えた。

 「…俺達、本当にパートナー…、恋人なんですか?
 …なんだか信じられなくて」 

 そう言うと彼は一瞬虚をつかれたような顔になり、 
 「…そうだ。俺達は愛し合ってた」 

 と切れ長の涼しげな目で俺を見つめる。
 
 「…俺達は、どこで?」

 「…俺の経営してる店にアルバイトでお前が入って来て、俺の一目惚れだ」

 ひ、一目惚れ?

 「あなたの店に?なんの店ですか?」 

 「カフェだ。
 …うちの会社で俺が担当してる店舗。
 …エリアルコーヒーは分かるか?」

 「はい、もちろん」

 エリアルコーヒーといえば、多分日本で1.2を争うコーヒーショップだ。

 「俺の実家はそのエリアルコーヒーを経営してて、俺はそこの副社長をしてる。
 俺は主に機器関係を担当しているが」

 副社長~?凄い金持ちじゃないか。

 そんな人と俺が?

 俺は想像がつかなくて彼をじっと見つめた。

 彼は俺から軽く目を逸らして、

 「…まあ、一緒にいれば徐々に分かるだろう…。また、明日来る」

 そう言って帰って行った。





 3日目の退院の朝、またあの男、藤田が迎えに来てくれた。

 診断の結果はやはり身体に異常はなく、記憶の経過観察のため、数日後また来なくてはならないとのこと。

 藤田の乗ってきた車、レクサス、だろうか。高そうな車だな…。

 「乗れ」と言われて助手席に恐る恐る座る。

 「あの、俺の家、分かりますか…?」

 「…お前の、じゃない。2人の家だ」

 ええー?!

 しばらく走って着いた先は見上げるほど高いタワーマンション。

 「す、凄い、デカいですね…」

 「中は結構狭いぞ。
 会社から近いからここにしたんだ」

 「お前の部屋はこっちだ」

 決して狭くはない2LDKの1部屋が、俺の部屋らしい。

 シンプルな白のカーテンとベッドがあり、ベージュのチェストを開けてみると、そこに俺の荷物が全部入っているようだ。

 かなり少ない。

 ハンガーラックには服がかかっているが、、安っぽいスウェットとパンツばっかり。

 俺、こういうのが好きだったのかな。なんだかこの部屋に似つかわしくないな。。

 「あの、藤田さん」

 「颯真、と呼べ」

 「へっ?」

 「藤田 颯真、…名前で呼んでくれ」

 呼べって言われても、慣れないな…。

 「そ、颯真、さん、前はそう呼んでいたのかな…。
 えと、俺は、本当にここに住んでたんでしょうか」

 「…住む予定だったんだ。
 だからお前のものをここに運んで、これから2人で住むはずだった」

 そうなの?

 颯真さんは俺の服をチラッと見て、

 「しかし、安っぽい服ばかりだな」

 ぐさっと来る一言、、

 「お前には似合わない。
 今度服を買いに行こう」

 「…俺のお金が、どのくらいあるか見てみて…」 

 「お前の金は使わない。
 俺がプレゼントしたいんだ。 
 とりあえず、落ち着いたら飯にしよう」

 しかしこの人、言い方がキツイな、、、俺の事考えてくれてるとは思うけど、本当に付き合ってたのかな俺たち…?

 なんて疑問が湧いてしまう。

 お昼は颯真さんがなんと手際よくサラダとスープ、あとご飯の上にハンバーグと目玉焼きの…ロコモコというらしい。

 それを作ってくれた。うま!

 颯真さん、料理上手!

 それから部屋で休んで、夜も颯真さんお手製のクリームパスタとサラダ、スープ、あと白ワインを嗜む颯真さんのつまみにもなる、タコとオリーブの、なんか和えてるやつとかサーモンのカナッペ?だっけ、とかいろいろ出てきた。

 3日間味気ない病院食だったので、昼も夜も美味しくて食べ過ぎてるな。

 「律、病院でも言ったが、今は20◯◯年の5月4日だ。
 あれから記憶はどうだ?」

 俺はもぐもぐと食べながら

 「いや、まだ、何も…」

 「…そうか、まあ、ゆっくりでいい。
 明日は、お前の服を見に行こう。
 とりあえず1週間は安静に、出かける時は俺と一緒だ。
 といっても、平日は俺は仕事で朝早いし帰りも遅い。
 家で映画を見たり本でも読んでいろ。
 朝9時から17時までハウスキーパーが来るから、家事や食事は心配するな」

 ハウスキーパー…凄いな。

 俺は咀嚼しながら頷いた。

 その日は早めに休め、とそれぞれの部屋で過ごした。

 恋人というからには、キス、とかあるのかな…と思ってたけど何もなく。

 まあ、俺も心の準備?もできていないので、良かったと安心した。
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