貴方が呼んでくれるから

ツナコ

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 朝日の差し込む気配で徐々に目が覚めてきた。

 俺はベッドの中できちんとパジャマを着ていて、体にも昨日の残穢は残っていなくてすっきりしている。

 …颯真さんが拭いてくれたのかな。。

 時計を見たら8時。

 ベッドの中でモゾモゾしていたら、軽いノックの後遠慮がちにドアが開く。

 「律…起きているか」

 颯真さんがひょこっと顔だけ出している。

 「…うん」

 「…朝食の準備ができた。食べよう」

 「うん。今、行く」

 昨日の自分の痴態を思い出し、赤面しながらダイニングテーブルにつくと魚、卵焼き、ひじきの煮物、きゅうりの和え物の立派な和朝食が用意してある。

 
休みだからかいつもの朝食より豪華だ。

 颯真さんがご飯と味噌汁をよそってくれる。

 「…いただきます」

 あー、「美味い…」

 「そうか、良かった…」

 颯真さん の口角が上がる。

 こんなに良くしてくれて、思ってくれる颯真さん に、俺は18.19の頃を思い出した事はやっぱり言えなかった。

 ウリ専なんて。。

 「…料理上手いよね。趣味なの?」

 「そうだな。
 元々ハウスキーパーは雇っていなかったし、家事は得意だ。
 最近仕事がますます忙しくなってきたから、しょうがなく松本さんに平日はお願いしたけど。お前もいるし」

 「そっか」

 話しながらがつがつ食べてる俺に颯真さんが微笑む。

 「お前、1人だとカップラーメンしか食べないって言ってたから、栄養のあるもの食わせたかったんだ。…良かった」

 「颯真さん…」

 俺ってその辺変わってないんだな…。

 「律、もしよかったら、今日は天気も良いしドライブでもしないか」

 「ドライブ?」

 「ああ、奥多摩の辺りとか」

 「いいね!行きたい!」

 最近閉じこもっていたので素直にドライブは嬉しい。

 用意をして颯真さんのレクサスに乗り込む。

 颯真さんの運転はやっぱりスムーズで乗り心地がいい。

 助手席から過ぎていく風景を眺めながら、

 「いいなぁ、車。
 俺、免許持ってるのかな?
 免許証がないから取ってないか」

 「免許はないと、言っていたな。
 …落ち着いたら、取りに行けばいい」

 「そうだね…」

 もう少ししたら、色々先のことを考えないといけないよな…。

 休憩を挟みながら2時間ほど走らせて、奥多摩湖付近に到着する。

 「昼にしよう。
 ここの釜めしが美味いらしい」

 「へー…」

 颯真さんのエスコートで、古民家風の雰囲気のいい店に入る。

 俺の椅子を引いてくれたり、注文からなにから本当スマートな颯真さん、かっこいいな…。

 ブルーのシャツに紺のテーパードパンツの清潔感のある服に、今日は黒髪は下ろしてセンターで分けている。

 彫りの深い凛々しい容貌。

 窓から景色を眺める横顔も鼻が高くて、飾ってる彫刻みたいに綺麗だ。

 混み合っている店内の女の子達もチラチラと颯真さんを見てる、結構有名人らしいしな。

 そんな観察をしてると、注文してた鶏ごほう釜めしがきた。

 早速いただくと。。鶏ごぼう、うまっ!

 パクパクと勢いよく食べる俺を、颯真さんは優しく微笑みながら見ている。

 ランチを終えて、車に乗り込み奥多摩湖にやってきた。

 降りて腹ごなしに少し散歩する。

 青い湖に光が反射してキラキラしている。

 「颯真さん!すっごいキレー!」

 俺は後ろを歩く颯真さんを振り向いて見る。

 「…ああ、綺麗だな」

 それからしばらくほとりを歩いていると、

 「水切りするぞ」

 と颯真さんがしゃがんで水辺の石を拾い始めた。

 「水切り?」

 「やった事ないか?ほら、こうやって」

 石をひゅっとなげると、湖面を石がピョンピョンと飛び跳ねる。あー、これか。

 テレビで見た事ある。

 「湖とか来たことなかったからやった事ないや。やりかた教えて」

 そこから石の選び方から投げ方のコツを教わって投げ始める。

 何回目かで跳ねるようになってきた。

 「そうだ。筋がいいな…。
 どうだ、2回分ハンデをやるから俺と勝負しないか」

 と颯真さんがニヤニヤしながら賭けを持ちかける。

 「負けたほうが勝ったほうの言う事をなんでも一つ聞く、どうだ?」

 何でも、だと?

 今日初めて投げた俺に分が悪くないか?  

 でも2回分か。。なら、勝つかもな。。

 「よし、乗った」

 そこからまた練習し、いざ、勝負。

 まずは俺から。

 とっておきの平べったい石を投げると、三回水の上を弾く。

 元々運動神経も悪くはないし、なかなかの記録が出たと思う。
  
 ハンデを加えると、颯真さんは6回は弾かないといけない。

 「これは俺勝ったと思う」

 「そうかな?勝ったら、願い事は何にする?」

 「うーん、、なんだろ。
 …夕飯、ラーメンが食べたい」

 「は?インスタントはダメだぞ」

 「違う違う、二郎系、食べたい」

 「おま…好きなのか?
 そんなハイカロリーなもの…」
  
 「大好き。ペロリだよ、知らなかった?」

 前の俺は猫かぶってたのかな。
  
 「…これは勝たなきゃな。
 黙ってたけど俺は7回は飛ぶぞ」 

 「えぇっ!ズルい」

 「ずるくないだろ…それ!」

 颯真さんが振りかぶって石を投げる。

 すごい勢いで飛んで………7回!

 「いやったー!」いや、めっちゃ喜ぶやん。
 
 飛び上がって喜ぶ颯真さんが、いつも上から目線の彼と違い子供のようでおかしくって、俺は笑い転げてしまった。

 はっと気づき照れ顔の颯真さんに

 「はぁっ…ふふっ面白かった…。
 颯真さん、願い事って、なに…?」

 と笑いで滲んだ涙を拭いながら聞いてみると
 「…呼び捨てで呼んでほしい」

 と小さく呟く。え?呼び捨て?

 「俺、呼び捨てで呼んでたの?」

 「…いや、さん付けだった。
 でも、恋人同士なら呼び捨てがいいと思ってた」

 そっぽを向いてぶっきらぼうに言う颯真さんが可愛くて、

 「分かった…、緊張するけど…颯真?」

 呼んでみたら、照れるな…。

 でも颯真さんが「律…!」

 と抱きついて来たのにびっくりして照れも吹き飛んだ。

 「ちょ、周り…!人、いるから…!」

 「関係ない。俺たちは恋人同士だ。
 恥ずかしくない」

 そうだけど、ゲイは大っぴらに人前でベタベタしないだろ?

 俺は平気だけど、あの人はものすごく嫌がった。。

 ん?あの人って、誰だっけ?

 俺は何かを思い出しそうで立ち尽くしていたけど、颯真さんに買い物しようと手を引っ張られて、それきり忘れてしまった。
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