前世を思い出した侯爵令嬢ののんびり生活

ツナコ

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第1部

15

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 そして舞踏会当日、キースがいつものように迎えに来て、馬車に乗る。

 私はキースに、次の舞踏会はバカンスを挟んで9月になると思うけど、エスコートはお願いしないかも、と伝えた。

 キースは目を見開いて、静かに、
 「エスコートをイーサン様にお願いするのかな?」
 と聞かれる。

 私は慌てて、
 「まだ分からないわよ!もしも!
 もしもの話!」
 と返すもキースは無言。

 そのうち会場に着いてしまった。

 ケイトとウィリアム様がいたので手を振りかけよる。

 キースは飲み物をとりに行くと向こうへ行ってしまった。

 そんなキースの様子を不思議に思ったケイトに聞かれ、先ほどの馬車での会話が原因かも、と顛末を話すと、ケイトは私は鈍感だとは思っていたけどもう呆れるレベルだと睨まれる。

 「なんで?」
 と問うと、

 「自分の胸に聞いてみて。
 まず、アイシャはイーサン様が好きなのよね?」
 と問われ、ギクリとする。

 イーサン様と2人で会うようになって、確かに私はイーサン様に惹かれている。

 時々胸が苦しくなるあの感じ、イーサン様と一緒の時にしか感じたことはないもの。

 その時ちょうどイーサン様が会場に着いたのでまた胸が高鳴る。

 イーサン様はいつもパートナーが違う。
 
 今日は学園では見た事のない茶色の髪の大人っぽい女性、平民かしら、同じ職場の方だろうか。

 そんな事も気になる、前は気にならなかったのに。 
 
 イーサン様はあとで、と口パクして向こうへ行った。

 私はにっこりと微笑むと頷く。
 
 そんな様子を見てケイトは、キースはどうするの?と聞いてきた。

 「キース?どうするって?」

 「あーっ、私から言うのもあれだし、全くキースも…」
 とぶつぶつ悩ましい顔をしている。
 
 そんな私達を見ながらウィリアム様が、ちょっと席を外すね、と去って行った。

 そして、その先には前に楽器屋で見た黒髪の美女が。

 「あの方は誰?」とケイトに聞くと

 「オクサナ伯爵令嬢じゃないかしら、私たちより4つ上の最上級生よ」

 「そうなの、ところであれはいいの?」
 ウィリアム様とオクサナ様はダンスフロアに手をとっていく。

 「いいんじゃない、ダンスくらい。
 彼女は遊び人らしいけど、ウィリアムは相手にされないと思うわ」
 とケイトは強気な発言。
 
 この前、楽器屋で2人を見た事を言おうか…と悩んでいるうちに、キースがシャンパングラスを2つもってやってきたのて、話は途中となった。





 
 8月はバカンスとなり、1ヶ月ほど休みとなる。

 舞の世界の夏休み、てやつね。

 舞はずっと入院していたから夏休みというものもよく分かってなかったよね、たぶん…。

 名前は違えど、学生にとっては楽しみにしていた長期の休みだ。

 今回はケイト、キース一家も一緒に秋の国、メルクールへ行くことになった。

 メルクールもレーゲンブルク同様1年中気候が穏やかで快適な国で、実りも多く穀物をたくさん輸出している。

 私も美味しい食べ物と、紅葉狩りが楽しみだ。

 ケイトはゴシップ誌を移動中に読みながら、メルクールの王太子は美男子らしいわ、見てみたい!と言っていた。

 メルクールに到着し、母親達はスパにいったりお買い物に行ったりして、私達は護衛を連れて、ケイト、キース、モナハン、ケイトの弟のカイン、キースの妹のエレナと一緒に、キースの兄のクリスは遠乗りに行き別行動なので、計六人で観光を楽しみながら、夜はイーサン様と通信し今日の報告をする。

 イーサン様はまたまたオリバー兄様と一緒にうちの別荘を拠点に、キャンプや狩猟を楽しんでいるらしい。

 今日も通信を終え寝る準備をしていると、今度はキースから通信がきた。

 「明日、湖にカヌーをしに2人で行かないかい?」
 と誘われる。

 「ケイト達は?」と聞くと

 「ケイトは弟妹達も一緒に高原に行くみたいだけど、僕は湖に行きたくてね。
 兄様は山歩きに行くらしくて一緒に行く人がいないんだ、どうだろう」

 カヌーは初めてだわ。
 
 やってみたかったので、いいわよ、と返事をするとキースは喜び、ケイトには言っておくから、と明日の集合時間を決め通信を切った。

 


 翌日のカヌーは午前中のスタート。

 おっかなびっくりカヌーに乗り込むと、キースは慣れた様子でゆったりと漕ぎ出す。

 目の前には紅葉に染まった高い山がそびえ、湖の青とのバランスが本当に美しい。

 しばらくその光景に見惚れていると、キースが突然ぽつりと、

 「アイシャ、僕は、君のことがずっと好きだ。
 …幼馴染としてではなく、女性として」
 という。

 私は、びっくり…ではないのかもしれない。 

 もしかしたら、と思ってはいた。 
 
 でも余りにもキースのと距離はずっと近く、よく分からなくなったのかもしれない。

 私は景色からキースの方へゆっくりと向き合った。

 キースは
 「アイシャは、僕の事をどう思っている?」  
 と問う。

 私はしばらく考えて、
 「…ごめんなさい、キース。
 私、キースの事は大好きだけど、恋人とかは思えない」
 と正直に答えた。

 「他に好きな男性はいる?」
 と重ねて聞かれて、私は気になる人はいる、と答えた。

 「イーサン様?」
 と言われ少し驚きながら頷く。  
 気づいていたのね。

 キースは、私を微笑みながら見つめた。
 「分かっていたんだ。
 僕は君の幼馴染、それ以上にはなれないだろうって。
 でも僕が何か言ってこの関係が壊れるかもと思っていても、聞きたかった」

 「キース…」  

 「ごめんね、誘っておいて、今日はもう帰ろう」
 
 しばらく黙って2人カヌーを漕ぎながら、岸にたどりつく。

 「ホテルまでは馬車に乗って。
 僕は少し散歩してから帰るよ」
 と馬車まで送ってくれる。

 「…アイシャ、僕とまだ幼馴染でいてくれるかい?」

 「もちろん、私の大事な親友よ」
 と返すとキースは泣きそうな笑顔で、

 「…ありがとう。
 次に会う時は今日の事は忘れてて欲しいな。…僕も忘れてる。…またね」
 と林の中へ歩いて行った。

 私は、キースの背中をずっと見つめていた。

 次の日から、キースは秋の魚の研究をしたいから、と遠乗りが好きな兄のクリス様とキャンプに行く事になり、そのままバカンスが終わるまでホテルに戻る事はなかった。
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