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第1部
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週末のデートは今回は演奏会に行く事にした。
有名な指揮者が出演するとのことでチケットはすぐ完売したが、当初行くはずだったモナハンが急遽用事が入り、泣く泣く譲ってくれたのだった。
2人で馬車から降り
「今日の指揮者は新世代として有名らしいけど、イーサンは知っている?
私はあまり詳しくなくて」
「確か…父と兄がオーケストラが好きでね、名前は聞いた事がある」
「そうなの!」
と話しながらホールに入った瞬間、
「イーサン?」と声をかけられる。
声がした方を見たのとイーサンが「…兄上?」と驚きの声を上げるのが同時だった。
お兄様?
確かにイーサンに良く似た顔立ち、少しクセのある黒髪も似ているけど、イーサンのブラウンの目ではなくお兄様は青い目、何となく冷たい目をしていた。
そして、彼は杖をついていた。
「全く家に顔を出さないと思えば、こんな所で会うとはな」
「…申し訳ありません」
そして私を見て、
「アイシャ…兄のセドリックだ。
兄上、こちらはアイシャ マルテッロ侯爵令嬢です」
セドリック様は私を見やると、少し目を見開く。
「セドリック様、初めまして。
アイシャ マルテッロと申します」
と挨拶をすると、
「…初めまして。
セドリック マグナートです。
…お噂はお伺いしてましたが、噂以上に、大変お美しいですね」
「まあ、いえ、そんな…」
噂って何かしら、どう答えてよいかも分からず変に返してしまったわ。
セドリック様は辺りをちらりと見渡して、
「…まだ開演まで時間がある。
少しガーデンでも行かないか」
とイーサンを見る。
わたしはいいけど、イーサンはどうかしら。
見ると無表情に、「…分かりました」と了承する。
やはり仲があまり良くないのね…、でも、いずれ結婚するときには話をしなくてはならないし…と3人でホールの外にあるガーデンへと向かう。
演奏会の休憩時間はここで寛ぐ人も多い。
今はほとんど人がおらず、誰もいないガゼボでチェアに腰掛け寛ぐ。
セドリック様は今日の演奏会の指揮者のファンらしく、スピード感とメリハリのある演奏が素晴らしいのだ、と熱く語る。
私は興味深く聞いていた。
セドリック様は私の目を見つめて
「アイシャ殿は聞き方が上手い…、どんどん話したくなる。貴女の趣味は?」
と聞かれ、今は遠乗りや、お菓子作りが好きだと答えた。
セドリック様は私にばかり話しかける。
イーサンには話しかけにくいのかしら…。
イーサンも黙って前を見ているばかりだ。
そんなイーサンにセドリック様が
「喉が乾いたな。
イーサン、中のバーで飲み物を買ってきてくれないか」
「分かりました」
イーサンはすっと立ち上がり行ってしまって、私はセドリック様と2人きりになる。
「…貴女は、イーサンとおつきあいしているのか?」
とセドリック様がストレートに聞いてくる。
「は、はい」
「そうか…、あれのどこがいいのだ?」
そんな聞き方…
「…イーサン様は、とても優しくて頼もしい方です」
「優しいか…、そうだな。あいつは優しい。
自分のせいで足を悪くした兄の言う事は全て聞くからな」
え…
「イーサンは言っていないか。
私の足は、10年ほど前かな、イーサンと私で遠乗りに行って、途中降りて休憩中に雷が鳴ってな、その音に驚いたイーサンの馬の繋ぎ目が解けて、イーサンのもとへ全速力で駆けてきたんだ。
私は咄嗟にあいつを庇うため駆け出して、馬に踏まれた。
…急いで持参していた治癒の魔鉱石を使ったし、病院にも担ぎ込まれて命は助かったが、骨が粉々になった足は元に戻らなかった。
私も昔は遠乗りが好きだったのだが、もう乗れなくなってしまった」
「まあ…」
わたしは何と言っていいか分からない。
「それ以来、あいつは罪の意識から、何でも私の言う事を聞くようになった。
もう馬に乗らないなどと言うから乗れと。
学園では首位を保て、と、卒業したら私の手伝いをしろ、と。
全部な。
馬はあいつも好きだろうが、あとは自分の希望などないのだ」
セドリック様はじっと遠くに咲いている薔薇を見ている。
私は、そういう形でイーサン様を縛ることが、果たして彼の本望なのだろうか、と考えていた。
そこへ「お待たせしました」とイーサンが果実水を3つ携えてやってくる。
それを頂き、当たり障りのない話題を主に私とセドリック様でやりとりしながら、時間まで過ごした。
そのあとの演奏会は素晴らしかったが、イーサンは心ここに在らずの状態で、演奏の間の休憩はまたセドリック様に呼ばれたと席を外した。
そして第2部の演奏が始まる前に戻ってきて、私に
「アイシャ、今日だが…演奏会が終わったら一人で家に帰れるか?」
と聞いてきた。
セドリック様から話があると言われたらしい
「大丈夫よ。うちの馬車もまだ待たせているから」
デートでこんな早い時間にお開きするのは初めてね。
でも、あの感じでは2人でもっと話した方がいいわ。
私は念の為待たせておいた家の馬車で帰途についた。
有名な指揮者が出演するとのことでチケットはすぐ完売したが、当初行くはずだったモナハンが急遽用事が入り、泣く泣く譲ってくれたのだった。
2人で馬車から降り
「今日の指揮者は新世代として有名らしいけど、イーサンは知っている?
私はあまり詳しくなくて」
「確か…父と兄がオーケストラが好きでね、名前は聞いた事がある」
「そうなの!」
と話しながらホールに入った瞬間、
「イーサン?」と声をかけられる。
声がした方を見たのとイーサンが「…兄上?」と驚きの声を上げるのが同時だった。
お兄様?
確かにイーサンに良く似た顔立ち、少しクセのある黒髪も似ているけど、イーサンのブラウンの目ではなくお兄様は青い目、何となく冷たい目をしていた。
そして、彼は杖をついていた。
「全く家に顔を出さないと思えば、こんな所で会うとはな」
「…申し訳ありません」
そして私を見て、
「アイシャ…兄のセドリックだ。
兄上、こちらはアイシャ マルテッロ侯爵令嬢です」
セドリック様は私を見やると、少し目を見開く。
「セドリック様、初めまして。
アイシャ マルテッロと申します」
と挨拶をすると、
「…初めまして。
セドリック マグナートです。
…お噂はお伺いしてましたが、噂以上に、大変お美しいですね」
「まあ、いえ、そんな…」
噂って何かしら、どう答えてよいかも分からず変に返してしまったわ。
セドリック様は辺りをちらりと見渡して、
「…まだ開演まで時間がある。
少しガーデンでも行かないか」
とイーサンを見る。
わたしはいいけど、イーサンはどうかしら。
見ると無表情に、「…分かりました」と了承する。
やはり仲があまり良くないのね…、でも、いずれ結婚するときには話をしなくてはならないし…と3人でホールの外にあるガーデンへと向かう。
演奏会の休憩時間はここで寛ぐ人も多い。
今はほとんど人がおらず、誰もいないガゼボでチェアに腰掛け寛ぐ。
セドリック様は今日の演奏会の指揮者のファンらしく、スピード感とメリハリのある演奏が素晴らしいのだ、と熱く語る。
私は興味深く聞いていた。
セドリック様は私の目を見つめて
「アイシャ殿は聞き方が上手い…、どんどん話したくなる。貴女の趣味は?」
と聞かれ、今は遠乗りや、お菓子作りが好きだと答えた。
セドリック様は私にばかり話しかける。
イーサンには話しかけにくいのかしら…。
イーサンも黙って前を見ているばかりだ。
そんなイーサンにセドリック様が
「喉が乾いたな。
イーサン、中のバーで飲み物を買ってきてくれないか」
「分かりました」
イーサンはすっと立ち上がり行ってしまって、私はセドリック様と2人きりになる。
「…貴女は、イーサンとおつきあいしているのか?」
とセドリック様がストレートに聞いてくる。
「は、はい」
「そうか…、あれのどこがいいのだ?」
そんな聞き方…
「…イーサン様は、とても優しくて頼もしい方です」
「優しいか…、そうだな。あいつは優しい。
自分のせいで足を悪くした兄の言う事は全て聞くからな」
え…
「イーサンは言っていないか。
私の足は、10年ほど前かな、イーサンと私で遠乗りに行って、途中降りて休憩中に雷が鳴ってな、その音に驚いたイーサンの馬の繋ぎ目が解けて、イーサンのもとへ全速力で駆けてきたんだ。
私は咄嗟にあいつを庇うため駆け出して、馬に踏まれた。
…急いで持参していた治癒の魔鉱石を使ったし、病院にも担ぎ込まれて命は助かったが、骨が粉々になった足は元に戻らなかった。
私も昔は遠乗りが好きだったのだが、もう乗れなくなってしまった」
「まあ…」
わたしは何と言っていいか分からない。
「それ以来、あいつは罪の意識から、何でも私の言う事を聞くようになった。
もう馬に乗らないなどと言うから乗れと。
学園では首位を保て、と、卒業したら私の手伝いをしろ、と。
全部な。
馬はあいつも好きだろうが、あとは自分の希望などないのだ」
セドリック様はじっと遠くに咲いている薔薇を見ている。
私は、そういう形でイーサン様を縛ることが、果たして彼の本望なのだろうか、と考えていた。
そこへ「お待たせしました」とイーサンが果実水を3つ携えてやってくる。
それを頂き、当たり障りのない話題を主に私とセドリック様でやりとりしながら、時間まで過ごした。
そのあとの演奏会は素晴らしかったが、イーサンは心ここに在らずの状態で、演奏の間の休憩はまたセドリック様に呼ばれたと席を外した。
そして第2部の演奏が始まる前に戻ってきて、私に
「アイシャ、今日だが…演奏会が終わったら一人で家に帰れるか?」
と聞いてきた。
セドリック様から話があると言われたらしい
「大丈夫よ。うちの馬車もまだ待たせているから」
デートでこんな早い時間にお開きするのは初めてね。
でも、あの感じでは2人でもっと話した方がいいわ。
私は念の為待たせておいた家の馬車で帰途についた。
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