前世を思い出した侯爵令嬢ののんびり生活

ツナコ

文字の大きさ
47 / 49
第1部

37

しおりを挟む
 週末のデートは今回は演奏会に行く事にした。

 有名な指揮者が出演するとのことでチケットはすぐ完売したが、当初行くはずだったモナハンが急遽用事が入り、泣く泣く譲ってくれたのだった。

2人で馬車から降り

 「今日の指揮者は新世代として有名らしいけど、イーサンは知っている?
 私はあまり詳しくなくて」

 「確か…父と兄がオーケストラが好きでね、名前は聞いた事がある」

 「そうなの!」
 と話しながらホールに入った瞬間、

 「イーサン?」と声をかけられる。

 声がした方を見たのとイーサンが「…兄上?」と驚きの声を上げるのが同時だった。

 お兄様?

 確かにイーサンに良く似た顔立ち、少しクセのある黒髪も似ているけど、イーサンのブラウンの目ではなくお兄様は青い目、何となく冷たい目をしていた。

 そして、彼は杖をついていた。

 「全く家に顔を出さないと思えば、こんな所で会うとはな」

 「…申し訳ありません」
 そして私を見て、

 「アイシャ…兄のセドリックだ。
 兄上、こちらはアイシャ マルテッロ侯爵令嬢です」

 セドリック様は私を見やると、少し目を見開く。

 「セドリック様、初めまして。
 アイシャ マルテッロと申します」
 と挨拶をすると、

 「…初めまして。
 セドリック マグナートです。
 …お噂はお伺いしてましたが、噂以上に、大変お美しいですね」

 「まあ、いえ、そんな…」
 
 噂って何かしら、どう答えてよいかも分からず変に返してしまったわ。

 セドリック様は辺りをちらりと見渡して、

 「…まだ開演まで時間がある。
 少しガーデンでも行かないか」
 とイーサンを見る。

 わたしはいいけど、イーサンはどうかしら。

 見ると無表情に、「…分かりました」と了承する。

 やはり仲があまり良くないのね…、でも、いずれ結婚するときには話をしなくてはならないし…と3人でホールの外にあるガーデンへと向かう。

 演奏会の休憩時間はここで寛ぐ人も多い。

 今はほとんど人がおらず、誰もいないガゼボでチェアに腰掛け寛ぐ。

 セドリック様は今日の演奏会の指揮者のファンらしく、スピード感とメリハリのある演奏が素晴らしいのだ、と熱く語る。

 私は興味深く聞いていた。

 セドリック様は私の目を見つめて

「アイシャ殿は聞き方が上手い…、どんどん話したくなる。貴女の趣味は?」
 と聞かれ、今は遠乗りや、お菓子作りが好きだと答えた。

 セドリック様は私にばかり話しかける。

 イーサンには話しかけにくいのかしら…。

 イーサンも黙って前を見ているばかりだ。

 そんなイーサンにセドリック様が

 「喉が乾いたな。
 イーサン、中のバーで飲み物を買ってきてくれないか」

 「分かりました」

 イーサンはすっと立ち上がり行ってしまって、私はセドリック様と2人きりになる。

 「…貴女は、イーサンとおつきあいしているのか?」
 とセドリック様がストレートに聞いてくる。

 「は、はい」

 「そうか…、あれのどこがいいのだ?」
 
 そんな聞き方…

 「…イーサン様は、とても優しくて頼もしい方です」

 「優しいか…、そうだな。あいつは優しい。 
 自分のせいで足を悪くした兄の言う事は全て聞くからな」
 
 え…

 「イーサンは言っていないか。
 私の足は、10年ほど前かな、イーサンと私で遠乗りに行って、途中降りて休憩中に雷が鳴ってな、その音に驚いたイーサンの馬の繋ぎ目が解けて、イーサンのもとへ全速力で駆けてきたんだ。
 私は咄嗟にあいつを庇うため駆け出して、馬に踏まれた。
 …急いで持参していた治癒の魔鉱石を使ったし、病院にも担ぎ込まれて命は助かったが、骨が粉々になった足は元に戻らなかった。
 私も昔は遠乗りが好きだったのだが、もう乗れなくなってしまった」

 「まあ…」

 わたしは何と言っていいか分からない。

 「それ以来、あいつは罪の意識から、何でも私の言う事を聞くようになった。
 もう馬に乗らないなどと言うから乗れと。  
 学園では首位を保て、と、卒業したら私の手伝いをしろ、と。
 全部な。
 馬はあいつも好きだろうが、あとは自分の希望などないのだ」

 セドリック様はじっと遠くに咲いている薔薇を見ている。

 私は、そういう形でイーサン様を縛ることが、果たして彼の本望なのだろうか、と考えていた。

 そこへ「お待たせしました」とイーサンが果実水を3つ携えてやってくる。

 それを頂き、当たり障りのない話題を主に私とセドリック様でやりとりしながら、時間まで過ごした。

 そのあとの演奏会は素晴らしかったが、イーサンは心ここに在らずの状態で、演奏の間の休憩はまたセドリック様に呼ばれたと席を外した。

 そして第2部の演奏が始まる前に戻ってきて、私に

 「アイシャ、今日だが…演奏会が終わったら一人で家に帰れるか?」
 と聞いてきた。
 
 セドリック様から話があると言われたらしい

 「大丈夫よ。うちの馬車もまだ待たせているから」

 デートでこんな早い時間にお開きするのは初めてね。
  
 でも、あの感じでは2人でもっと話した方がいいわ。
 
 私は念の為待たせておいた家の馬車で帰途についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...