婚約破棄された引きこもり令嬢は、モフモフを愛でたい。~え?そのモフモフが辺境伯様?求婚されても困ります。私が好きなのはモフモフですからっ!?
春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜
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番外編 狼と人間 5
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ベッドに横になり、今日の出来事を思い出す。
叔父夫婦はとても素敵な方々だった。
レイラ様にお願いされた後、叔父様は足元に魔法陣を展開し、白い光とともに黒狼へと姿を変えた。
私はレイラ様に手を引かれて黒狼の前に立ち、黒狼と同じ目線になるために膝をついた。目や手の傷にそっと触れ、あの日のお礼を言えた。やっと、黒狼に言うことが出来た。
黒く艶のある毛並みはフワフワで素晴らしく、我慢できずに首元をモフモフと撫でてしまった。
黒狼はプイッと私から顔をそらした。そして、レイラ様がお腹を抱えて笑っている姿を視界に捉えると、その瞳はとても優しい光を宿していた。
レイラ様は、いつか黒狼の叔父様を受け入れられるようになりたいと陰ながら努力していたらしい。小さな動物から慣らしていき、最近やっと大型犬で気絶しなくなり、叔父様に黒狼姿になって欲しいことを、いつ相談しようか機会を窺っていたところだったそうだ。
「レイラ様。良い方だったろ?」
隣で寝転ぶアルトゥールが、私の方を見て言った。
「ええ。とても素敵な方だったわ。ずっとアルトゥールとユストゥスの事を心配されていたのね」
「そうだな。今日、話を聞いて思ったんだ。俺は多分、エヴァに会わなければ、父のように銀狼として生きる道を選んだかもしれないって」
「えっ?」
「銀狼になって国を追われ、一人で彷徨っていた時、このまま銀狼のままだったらって事も考えたんだ。そしたら、意外とそれもありかもなって思えたんだ」
「モフモフで可愛いから?」
「ん? いや、そうじゃないけど……」
エヴァだったらそうだろうね。とアルトゥールは笑いながら付け足した。
「ご、ごめんなさい。ふざけて言ったわけじゃないの。アルトゥールはどうして銀狼のままでいいと思ったの?」
「俺は銀狼のままなら、ロドリゲス辺境伯の名を継がなくていいんだな、って思ったんだ。肩の荷が下りた。誰も傷つけなくて済むし、心を痛めることもなくなるんだって」
アルトゥールも悩んでいたんだ。
私は出会う前の彼を知らない。今日話を聞いて、彼のことをもっと知りたいと思う自分がいることに気がついた。
「たくさんお話が聞けて、良かったわね」
「ああ。両親の話を聞いて、父が悩んでいたことを知って、安心した。それに、叔父上とレイラ様の話も聞けて良かったよ」
「そうね。叔父様、黒狼の姿でレイラ様にギュって抱きしめられて、とても幸せそうだったわ」
「ああ。ロドリゲス家の男は……人だけど狼にもなれる。どちらも自分で、やっぱりパートナーには、どちらも受け入れて欲しい。俺に息子が生まれたら、その子にもそんなパートナーが見つけられるといいな」
アルトゥールは天井を見上げ、まだ見ぬ我が子への思いを告げた。
「うん。私達の子供にも話しましょう。人と狼が結ばれることは難しいかもしれないけれど、誰かと心を通わせ、幸せになってほしいもの。私達や、その親、そしてロドリゲス家の人達が、今までどんな風に結ばれてきたかを知ったら、きっと自分の心に素直に向き合えると思うの」
「確かにそうだよな。人として生きるのなら、誰かと心を通じ合わせなければならない。でも、参考になる話は今日聞けた話だけでも、色々と揃っているな。狼が苦手だったレイラ様。動物が大好きだけど動物に避けられてしまうヘレナ。そして動物が大好きだけど人間が嫌いな母上と、エヴァ。それから父親は……」
何かを言いかけて、アルトゥールは考え込んでしまった。
「どうかしたの?」
「いや。父親ってどんな存在なのかなって、急に不思議に思ってさ。……俺の父親はほとんど屋敷にいなかったから、父親がどう子供と接したらいいかとか分からないなって思って」
アルトゥールには父様との思い出があまりない。
私が小さい頃の父の記憶といえば、娘に甘々だったということくらいしかない。姉や妹と一緒に父の背中に乗り、お馬さんになってもらって遊んでいたことをよく覚えている。
「そしたら銀狼になって背中に乗せてあげたり、モフモフさせてあげたらいいのではないかしら?」
「そうか。エヴァの子なら、それでどうにかなりそうだな」
「ええ。子は親を見て育つっていうもの。私がモフモフの素晴らしさを子どもたちにたくさん伝えるわ。反面教師にならないように、今からたくさん教養をつけなきゃ」
「ああ、そうだな。そうとなれば今夜も頑張らなくては」
「ええ。今夜も……って、それって……よ、夜は銀狼になる約束は」
「もちろん。エヴァとの約束だ。俺はずっと、君だけのオオカミになるよ」
「良かった。──ん? 良かったのかしら」
「君がパートナーで……本当に俺は幸せだよ」
アルトゥールはそう言って、私の額に軽くキスをした。
「ちなみにエヴァは……狼の姿の俺と人間の姿の俺、どっちのほうが好き?」
「狼よ」
「返答が早過ぎるよ。最大のライバルは自分か……」
アルトゥールはそう呟くと、微かに発光して銀狼の姿に変わった。
狼のアルトゥールが一番で、二番目が人間のアルトゥールが好き。私の好きの上位はアルトゥールで埋められているってことは、黙っておこう。
月明かりに照らされる銀狼は、何度見ても美しい。
私は銀狼の首に手を回し、ギュッと抱きしめ首元をモフモフした。
アルトゥールの匂いがする。優しくて温かくて陽だまりみたい。日向ぼっこでもしていたのかしら。
「大好きよ。アルトゥール……」
叔父夫婦はとても素敵な方々だった。
レイラ様にお願いされた後、叔父様は足元に魔法陣を展開し、白い光とともに黒狼へと姿を変えた。
私はレイラ様に手を引かれて黒狼の前に立ち、黒狼と同じ目線になるために膝をついた。目や手の傷にそっと触れ、あの日のお礼を言えた。やっと、黒狼に言うことが出来た。
黒く艶のある毛並みはフワフワで素晴らしく、我慢できずに首元をモフモフと撫でてしまった。
黒狼はプイッと私から顔をそらした。そして、レイラ様がお腹を抱えて笑っている姿を視界に捉えると、その瞳はとても優しい光を宿していた。
レイラ様は、いつか黒狼の叔父様を受け入れられるようになりたいと陰ながら努力していたらしい。小さな動物から慣らしていき、最近やっと大型犬で気絶しなくなり、叔父様に黒狼姿になって欲しいことを、いつ相談しようか機会を窺っていたところだったそうだ。
「レイラ様。良い方だったろ?」
隣で寝転ぶアルトゥールが、私の方を見て言った。
「ええ。とても素敵な方だったわ。ずっとアルトゥールとユストゥスの事を心配されていたのね」
「そうだな。今日、話を聞いて思ったんだ。俺は多分、エヴァに会わなければ、父のように銀狼として生きる道を選んだかもしれないって」
「えっ?」
「銀狼になって国を追われ、一人で彷徨っていた時、このまま銀狼のままだったらって事も考えたんだ。そしたら、意外とそれもありかもなって思えたんだ」
「モフモフで可愛いから?」
「ん? いや、そうじゃないけど……」
エヴァだったらそうだろうね。とアルトゥールは笑いながら付け足した。
「ご、ごめんなさい。ふざけて言ったわけじゃないの。アルトゥールはどうして銀狼のままでいいと思ったの?」
「俺は銀狼のままなら、ロドリゲス辺境伯の名を継がなくていいんだな、って思ったんだ。肩の荷が下りた。誰も傷つけなくて済むし、心を痛めることもなくなるんだって」
アルトゥールも悩んでいたんだ。
私は出会う前の彼を知らない。今日話を聞いて、彼のことをもっと知りたいと思う自分がいることに気がついた。
「たくさんお話が聞けて、良かったわね」
「ああ。両親の話を聞いて、父が悩んでいたことを知って、安心した。それに、叔父上とレイラ様の話も聞けて良かったよ」
「そうね。叔父様、黒狼の姿でレイラ様にギュって抱きしめられて、とても幸せそうだったわ」
「ああ。ロドリゲス家の男は……人だけど狼にもなれる。どちらも自分で、やっぱりパートナーには、どちらも受け入れて欲しい。俺に息子が生まれたら、その子にもそんなパートナーが見つけられるといいな」
アルトゥールは天井を見上げ、まだ見ぬ我が子への思いを告げた。
「うん。私達の子供にも話しましょう。人と狼が結ばれることは難しいかもしれないけれど、誰かと心を通わせ、幸せになってほしいもの。私達や、その親、そしてロドリゲス家の人達が、今までどんな風に結ばれてきたかを知ったら、きっと自分の心に素直に向き合えると思うの」
「確かにそうだよな。人として生きるのなら、誰かと心を通じ合わせなければならない。でも、参考になる話は今日聞けた話だけでも、色々と揃っているな。狼が苦手だったレイラ様。動物が大好きだけど動物に避けられてしまうヘレナ。そして動物が大好きだけど人間が嫌いな母上と、エヴァ。それから父親は……」
何かを言いかけて、アルトゥールは考え込んでしまった。
「どうかしたの?」
「いや。父親ってどんな存在なのかなって、急に不思議に思ってさ。……俺の父親はほとんど屋敷にいなかったから、父親がどう子供と接したらいいかとか分からないなって思って」
アルトゥールには父様との思い出があまりない。
私が小さい頃の父の記憶といえば、娘に甘々だったということくらいしかない。姉や妹と一緒に父の背中に乗り、お馬さんになってもらって遊んでいたことをよく覚えている。
「そしたら銀狼になって背中に乗せてあげたり、モフモフさせてあげたらいいのではないかしら?」
「そうか。エヴァの子なら、それでどうにかなりそうだな」
「ええ。子は親を見て育つっていうもの。私がモフモフの素晴らしさを子どもたちにたくさん伝えるわ。反面教師にならないように、今からたくさん教養をつけなきゃ」
「ああ、そうだな。そうとなれば今夜も頑張らなくては」
「ええ。今夜も……って、それって……よ、夜は銀狼になる約束は」
「もちろん。エヴァとの約束だ。俺はずっと、君だけのオオカミになるよ」
「良かった。──ん? 良かったのかしら」
「君がパートナーで……本当に俺は幸せだよ」
アルトゥールはそう言って、私の額に軽くキスをした。
「ちなみにエヴァは……狼の姿の俺と人間の姿の俺、どっちのほうが好き?」
「狼よ」
「返答が早過ぎるよ。最大のライバルは自分か……」
アルトゥールはそう呟くと、微かに発光して銀狼の姿に変わった。
狼のアルトゥールが一番で、二番目が人間のアルトゥールが好き。私の好きの上位はアルトゥールで埋められているってことは、黙っておこう。
月明かりに照らされる銀狼は、何度見ても美しい。
私は銀狼の首に手を回し、ギュッと抱きしめ首元をモフモフした。
アルトゥールの匂いがする。優しくて温かくて陽だまりみたい。日向ぼっこでもしていたのかしら。
「大好きよ。アルトゥール……」
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