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 後は若いお二人で~。なんて自分の方が若いくせにダリアはそう言い残して部屋を出ていった。

 ベッドの上でにアルジャンモドキと二人きり。

 でも、人に言えないようなことをしている訳ではない。
 私は今、唯一アルジャンな部分である尻尾のブラッシングをしている。

 ダリアが出ていくと、アルジャンモドキは、いつものアルジャンみたいに我が物顔でベッドを半分占領した。それから、私に背を向けて寝転び、尻尾を預けてきたのだ。
 
 別に、嬉しくなんかありませんけど?

「エヴァのベッドって柔らかいよな。でも、一人で使うのに何でこんなにデカイんだ?」
「引きこもりの私の為にお姉様がお父様にお願いした特注のベッドなの。小さい頃は、よくお姉様と妹と三人で寝たわ」
「仲がいいんだな……」
「貴方は弟さんがいるのよね?」

 呪いをかけたのは弟って言ってたわよね。
 ということは、仲は良くなさそう。

「ああ。弟が一人。俺の背中を預けられるのはアイツだけだと思ってたんだけどな……」
「ふーん……」

 なんだ。信頼してて裏切られたのね。可哀想。
 アルジャンモドキの背中に、群れからはぐれてしまった獣の様な憂いを感じた。

 私は無意識の内にその背中に手を伸ばしてい、触れかけた時、アルジャンモドキは急に体を起こして振り向いた。

「エヴァ。終わったか?」
「へっ? お、終わったわ」

 いつの間にか手を止めてしまっていた。
 本当はもう少しやりたかったけど……。
 
 アルジャンモドキは眠そうな顔をしていた。
 アルジャンもいつも、ブラッシングをすると気持ち良さそうに眠っていた。

「そうか。ならもう寝よう。何だその目は……」
「本当にここで寝るの? アルジャンモドキの分際で」
「モドキって……まだ認めないのか?」

 アルジャンモドキはそう言って目を細めると、私をベッドに押し倒した。
 腕はベッドに押さえつけられ、アルジャンモドキが私の上に馬乗りになる。
 でも、体重は感じないし、力も弱い。
 多分、手加減してくれてる?

「俺が狼になった時、弟に言われたんだ。――誰かに愛されないと、人間に戻れないって」

 アルジャンモドキは私に、恋い焦がれた少年みたいな目を向ける。あまりの近さに、その目から逃れることは出来なくて、どうしてか反らすことも出来なかった。

「俺は人間に戻れた。それはエヴァのお陰だ。エヴァが俺を――だからさ。そんなにお前じゃねぇよって目で見つめないでくれよ。傷つく」

 小さくため息を吐くと、アルジャンモドキは私を解放して、こちらに背を向け、隣に寝転んだ。
 拗ねた狼みたいに。

「え?」
「おやすみ。エヴァ。君がいうアルジャンモドキに少しでも触れたら襲うから」
「へっ? し、尻尾はアルジャンだからいいわよねっ!?」

 多分、無意識の内に絶対に触れちゃう。

 アルジャンモドキは恨めしそうに細目で私を睨むと、わざとらしく大きなため息を吐いた。 

「尻尾なら、どうぞご自由に」

 アルジャンモドキは不機嫌そうにそっぽを向いて、そのまま寝た。

 早っ。寝るの早っ。
 でも、アルジャンも寝るの、早かったかも。
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