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第二章
002 襲来
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「姫様、急で驚きましたね。ですが、夕暮れ前にはロンバルト騎士団と合流出来ると思いますので、ご安心下さい」
休憩の際、御者のビリーはルゥナを勇気づけるように声をかけてくれた。ビリーは近衛騎士の一人だそうだが、見た目は平凡で年齢も二十歳半ばといったところ。
陛下が用意した刺客にしては頼りなく見えるし、気さくな感じで好青年に見えた。それに実の娘の命まで狙うだろうかと疑問が残る。
馬車が動き出し、スーザンは平静を取り戻したように見えるが、ユーリは予想外の展開に神経を尖らせていた。
「二人で護衛に当たることすら無理があるのに、もう一人が味方かどうかも分からないだなんて……」
「でも、ロンバルト王国の騎士団が近くにいるそうですから、早々に合流すれば問題ありませんわ」
「先程の道は、まだルナステラに近く平凡な山道ですでしたが、山を越えた辺りは危険な場所なのですよ。そろそろ樹木が減ってきたでしょう? 活火山である隣の山の影響です」
確かにユーリの言う通り、草木が減り、気温も高くなってきたように感じる。
「でも、山を越えたらロンバルトの騎士団がいらっしゃるのよね。それなら――」
『モッキュン!? モキュキュっ』
言いかけた時、モッキュがルゥナの肩から滑り落ち目の前で身振り手振りで警鐘をならし始めた。モッキュの姿は捉えられないものの、ユーリもスーザンも声が聞こえた様子でルゥナへの方へと驚いて目を向けた。
「ど、どうしたの? モッキュ?」
「何か知らせたいようですね。ビリーさん。何か変わったことは?」
「異常無しですよ~」
ユーリが馬車から顔を出しビリーに尋ねたが、馬車は相変わらず道なりに走るだけである。
しかし、モッキュンの焦りは更にヒートアップしていく。
『キュゥっ、キュキュキュンっキュ!』
「ユーリ。一度馬車を止めてもらっ――きゃぁっ」
その時、馬のいななきと共に馬車は急停車し、ルゥナはユーリに抱き止められるも二人揃って体制を崩し馬車の椅子から落ち、スーザンは壁に頭を打って気を失った。
「ルゥナっ。無事ですか!?」
「ええ。……」
「す、すみませんっ。馬が急に……ぅおおおおっ。あ、あれはっ」
ビリーの驚愕の声と共に、馬車が影に覆われた。
雲一つなかった空が一変し、嵐でも吹き荒れるのか。
そんな不安に襲われた瞬間――。
『ギシャァァァァァァァっ』
大地を震わす程の轟音が鳴り響き、ルゥナとユーリは抱き合ったまま震え上がった。
「ゆ、ユーリ」
「……いますね。上空に……ドラコンが。山を越えた先に火竜の巣があると聞いていました。まさか、こんなところまで――」
『ギギャァァァァァァァ』
「な、何か苦しんでいない?」
「まさか、ビリーさん一人で応戦したのかもしれません。ルゥナはここに、……いえ。ここも危険かもしれませんので、一緒に外へ出ましょう」
「ええ」
先程よりも遠くの方でドラコンの叫び声が聞こえた時を見計らい、ユーリがスーザンを背負い馬車から恐る恐る出ると、上空の彼方で苦しみ悶える赤いドラゴンが小さく見えた。
ビリーは荷物を背負い、血の付いた短刀を手に馬車のすぐ横で自分に魔法で防護壁を張り呆然と空を見上げていた。
ユーリは街道の端にスーザンを寝かせると、ビリーに声をかけた。
「ビリーさん。ロンバルトとの合流地点までは後どれくらいですか?」
「へっ!? あー。この先の川を越えて道なりにずっとです。歩けば五時間ってとこです。お二人は早く馬車に戻ってください。ドラゴンが遠くでやり合っている間に、馬車を進めますからっ」
「やり合っている……とは、誰かがあのドラゴンと戦っているのですか?」
「ああ。さっき馬車の真上に落ちかけた時に、ドラゴンの背にいた騎士と目が合った。若い騎士だったぞ。そんなことより早くっ」
馬車へ戻るように急かすビリーに対し、ユーリは一歩も動こうとはしなかった。
「ビリーさん。もしや、馬車に私達を乗せて、ご自分だけ逃げるおつもりですか?」
「なっ……。俺は馬車に魔法で防護壁を掛けようとして降りただけだぞ」
「でしたら、その短刀はどうされたのですか?」
「これは――」
「それは、竜血樹の樹脂ですよね。もしかして――」
馬車の横にはナイフの様な者で切りつけられた赤い樹脂を流す竜血樹が生えていた。
「聞いたことがあります。ドラゴンを呼び寄せる時に竜血樹の樹脂を用いた香を焚くことがあると」
「ほう。よく知っているな。安心しろまだ火は着けていないし、香ではなく……これは、香油だ」
ビリーは手にしていた小瓶を開けるとルゥナへ向かって投げつけた。しかしそれは金属音と共にユーリが引き抜いた剣によって弾かれ、周囲に甘い香りのオイルが飛び散った。
「貴様っ。本当に陛下の刺客だったのか!?」
「は? ああ。そうだ。不運だったな、ユーリ。初任務で王女と一緒に――竜に殺されるんだからな。じゃ、俺は逃げる」
『ギシャァァァ』
香りに掻き立てられるように、ドラゴンは上空で旋回し、ユーリ目掛けて急降下し始めた。
休憩の際、御者のビリーはルゥナを勇気づけるように声をかけてくれた。ビリーは近衛騎士の一人だそうだが、見た目は平凡で年齢も二十歳半ばといったところ。
陛下が用意した刺客にしては頼りなく見えるし、気さくな感じで好青年に見えた。それに実の娘の命まで狙うだろうかと疑問が残る。
馬車が動き出し、スーザンは平静を取り戻したように見えるが、ユーリは予想外の展開に神経を尖らせていた。
「二人で護衛に当たることすら無理があるのに、もう一人が味方かどうかも分からないだなんて……」
「でも、ロンバルト王国の騎士団が近くにいるそうですから、早々に合流すれば問題ありませんわ」
「先程の道は、まだルナステラに近く平凡な山道ですでしたが、山を越えた辺りは危険な場所なのですよ。そろそろ樹木が減ってきたでしょう? 活火山である隣の山の影響です」
確かにユーリの言う通り、草木が減り、気温も高くなってきたように感じる。
「でも、山を越えたらロンバルトの騎士団がいらっしゃるのよね。それなら――」
『モッキュン!? モキュキュっ』
言いかけた時、モッキュがルゥナの肩から滑り落ち目の前で身振り手振りで警鐘をならし始めた。モッキュの姿は捉えられないものの、ユーリもスーザンも声が聞こえた様子でルゥナへの方へと驚いて目を向けた。
「ど、どうしたの? モッキュ?」
「何か知らせたいようですね。ビリーさん。何か変わったことは?」
「異常無しですよ~」
ユーリが馬車から顔を出しビリーに尋ねたが、馬車は相変わらず道なりに走るだけである。
しかし、モッキュンの焦りは更にヒートアップしていく。
『キュゥっ、キュキュキュンっキュ!』
「ユーリ。一度馬車を止めてもらっ――きゃぁっ」
その時、馬のいななきと共に馬車は急停車し、ルゥナはユーリに抱き止められるも二人揃って体制を崩し馬車の椅子から落ち、スーザンは壁に頭を打って気を失った。
「ルゥナっ。無事ですか!?」
「ええ。……」
「す、すみませんっ。馬が急に……ぅおおおおっ。あ、あれはっ」
ビリーの驚愕の声と共に、馬車が影に覆われた。
雲一つなかった空が一変し、嵐でも吹き荒れるのか。
そんな不安に襲われた瞬間――。
『ギシャァァァァァァァっ』
大地を震わす程の轟音が鳴り響き、ルゥナとユーリは抱き合ったまま震え上がった。
「ゆ、ユーリ」
「……いますね。上空に……ドラコンが。山を越えた先に火竜の巣があると聞いていました。まさか、こんなところまで――」
『ギギャァァァァァァァ』
「な、何か苦しんでいない?」
「まさか、ビリーさん一人で応戦したのかもしれません。ルゥナはここに、……いえ。ここも危険かもしれませんので、一緒に外へ出ましょう」
「ええ」
先程よりも遠くの方でドラコンの叫び声が聞こえた時を見計らい、ユーリがスーザンを背負い馬車から恐る恐る出ると、上空の彼方で苦しみ悶える赤いドラゴンが小さく見えた。
ビリーは荷物を背負い、血の付いた短刀を手に馬車のすぐ横で自分に魔法で防護壁を張り呆然と空を見上げていた。
ユーリは街道の端にスーザンを寝かせると、ビリーに声をかけた。
「ビリーさん。ロンバルトとの合流地点までは後どれくらいですか?」
「へっ!? あー。この先の川を越えて道なりにずっとです。歩けば五時間ってとこです。お二人は早く馬車に戻ってください。ドラゴンが遠くでやり合っている間に、馬車を進めますからっ」
「やり合っている……とは、誰かがあのドラゴンと戦っているのですか?」
「ああ。さっき馬車の真上に落ちかけた時に、ドラゴンの背にいた騎士と目が合った。若い騎士だったぞ。そんなことより早くっ」
馬車へ戻るように急かすビリーに対し、ユーリは一歩も動こうとはしなかった。
「ビリーさん。もしや、馬車に私達を乗せて、ご自分だけ逃げるおつもりですか?」
「なっ……。俺は馬車に魔法で防護壁を掛けようとして降りただけだぞ」
「でしたら、その短刀はどうされたのですか?」
「これは――」
「それは、竜血樹の樹脂ですよね。もしかして――」
馬車の横にはナイフの様な者で切りつけられた赤い樹脂を流す竜血樹が生えていた。
「聞いたことがあります。ドラゴンを呼び寄せる時に竜血樹の樹脂を用いた香を焚くことがあると」
「ほう。よく知っているな。安心しろまだ火は着けていないし、香ではなく……これは、香油だ」
ビリーは手にしていた小瓶を開けるとルゥナへ向かって投げつけた。しかしそれは金属音と共にユーリが引き抜いた剣によって弾かれ、周囲に甘い香りのオイルが飛び散った。
「貴様っ。本当に陛下の刺客だったのか!?」
「は? ああ。そうだ。不運だったな、ユーリ。初任務で王女と一緒に――竜に殺されるんだからな。じゃ、俺は逃げる」
『ギシャァァァ』
香りに掻き立てられるように、ドラゴンは上空で旋回し、ユーリ目掛けて急降下し始めた。
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