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第四章
001 共闘
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会食から始まり王妃の茶会、そして気まずい馬車の中。緊張続きの時間にやっと終わりが見えてきた。
第二王子宮へ戻って来ると、馬車の降車場にはユーリが不安そうに待っていて、ルゥナの腕に巻かれたリボンを見て顔をしかめた。
「な、何をされているのですか?」
「それが――」
「アレクシア様には、王妃と共謀し、ベネディッド様暗殺の容疑がかけられている」
「は?」
ユーリは思いもよらぬヴェルナーの言葉にポカンと口を開いた。そしてその顔を見たベネディッドは満足そうに笑みを溢す。
「ほらっ。ユーリのこの反応。やっぱりヴェルナーの思い過ごしだろ?」
「…………分かりました。ですが、ご就寝まで側で見張らせていただきます」
ヴェルナーは少しだけホッとした様な顔をすると、ルゥナの手首のリボンを外しポーチを返してくれた。
馬車を降りる際、ベネディッドとヴェルナーは二人で賭けをしていた。ユーリの反応を見て、王妃との繋がりの真意を探ろうと。
ヴェルナーが、ユーリは感情が顔に出やすいから絶対に分かると言っていたのだ。その意見には同意するけれど、ヴェルナーはユーリの事も良く見ているのだと知り、二人は何処か似ているので分かるのかとルゥナは推測していた。
「さて、私は兄からの頼まれ事があるから、また夕食の時に」
「はい」
ベネディッドはルゥナの頭をポンッと撫でると温室の方へと去って行った。ユーリはその後ろ姿を訝し気に眺め、尋ねた。
「あの。何があったのでしょうか?」
「それは、中で話そう」
お前が返事をするのかよ。と言った表情でユーリはヴェルナーを見つめ返した。
◇◇
ルゥナの部屋にてスーザンが入れてくれた紅茶をいただきながら現状を報告した。
この国が側室制度がある国であること。ベネディッドは側室の子で、王妃に毒殺されそうになっていること。城での奇行は、ベネディッドが毒せいで……なのかはよく分からないが、体の調子が悪かったから撮れた映像らしい事を簡潔に話した。
向かいのヴェルナーの顔が怖かったので本当に片言程度で。
ルゥナの隣にはユーリが、そして向かいのソファーにはヴェルナーがとスーザンが腰を下ろし、スーザンはアレクシアの報告も兼ねてアレクシアの手帳に内容を記入してくれている。
スーザンは私にお任せください。と言っていたので、恐らくスーザンでもあの手帳を使うことができるのだろう。
ユーリは書き終えたスーザンの手帳を手に取り、ヴェルナーに尋ねた。
「それで、何故アレクシア様にベネディッド様の暗殺容疑がかけられているのですか?」
「へ? 暗殺だなんて物騒な……」
スーザンが驚きヴェルナーへ目を向けると、彼は溜息を漏らした後、重い口を開いた。
「王妃の計画をアレクシア様はご存知のようでしたので、そちら側へついたのだと判断しました」
「は? 判断って……。先程の言葉は、悪い冗談ではなかったということですか? ヴェルナー殿は、アレクシア様が暗殺に加担すると思ったのですか?」
「……そうだ」
ヴェルナーの返事を聞くと、ユーリは手帳をテーブルに叩きつけて立ち上がり食って掛かった。
「出て行ってください。目障りです」
「ユーリ、言い過ぎです。ヴェルナーはベネディッド様の従者の方です。私がベネディッド様と婚約破棄したいと言うことを伝えたので、嫌われて当然なのです。それに……王妃様は本当に恐ろしいお方でしたので、警戒される気持ちは分かります」
「俺の気持ちなど分かってはいない。貴方が会食であんな事を言い出さなければ王妃に目を付けられる事は無かったのに。ああする前に……相談さえしてくれれば……」
言葉を濁すヴェルナーに、スーザンは手帳とにらめっこしながら、遠慮がちに手を挙げた。
「あの。共闘しませんか? 王妃様の陰謀を協力して暴きましょう。アレクシア様は人々の命を敬う心の優しい人お方です。そして、悪意を持った者へと立ち向かう勇気もお持ちの方です。王妃の心へ近づいたたのは、婚約を破棄したかったから、ただその一点に尽きるのですから」
スーザンは手帳からアレクシアの指示を受けたようだ。普段から淡々と落ち着いた雰囲気の女性だと思っていたが、とても頼りになる。スーザンは更に言葉を続けた。
「ベネディッド様には、道中大変お世話になりました。ですから、婚約破棄さえ約束していただければ、お力になりたいと思っております」
「……婚約破棄は、したいままなのだな」
ヴェルナーは率直な疑問を口にしてルゥナへと視線を向けた。
「それは……」
「申し訳ありません。私共は、元々婚約を破棄するつもりでここへ参りました。アレクシア様には、兼ねてからの想い人がいらっしゃるのです。それが、ルナステラ王の策略で、噂の良くない王子と無理矢理婚約させられたのです」
「成程……そうだったのか。それで婚約を破棄する為に記録を取り、会食でもあんな事を言ったのですか?」
「……はい。婚約を破棄することになれば、ベネディッド様や周りの方々を傷つけることになる事も承知の上で、そう致しました。とても自分勝手なことだという事は存じています。ですが……」
「父親に命が狙われているというのに、国へ戻って平気なのですか?」
「それは……」
ユーリとルゥナには答えが見つからず、二人はスーザンへと目を向けた。
「アレクシア様のお兄様が守ってくださいます。ただ、国へ帰るまでが不安です。……他の近衛騎士がこちらへ来れればよいのですが」
「ロンバルトから騎士を出す。疑ってしまったお詫びとして、お兄様のところまで俺が責任を持って送り届けよう」
ヴェルナーは暫し間を置いた後、ルゥナを見据えて言った。その瞳には先程感じた怒りは見られず、ルゥナは少しだけ緊張が緩んだ。
「あの、信じてくださるのですか?」
「……はい。嘘をついているようには見えませんでした。しかし、王妃の前ではあちら側の人間の様に振る舞ってください。絶対にですよ」
王妃の名を口にする時のヴェルナーの瞳には、憎しみと怒りの色が滲み出ていた。
第二王子宮へ戻って来ると、馬車の降車場にはユーリが不安そうに待っていて、ルゥナの腕に巻かれたリボンを見て顔をしかめた。
「な、何をされているのですか?」
「それが――」
「アレクシア様には、王妃と共謀し、ベネディッド様暗殺の容疑がかけられている」
「は?」
ユーリは思いもよらぬヴェルナーの言葉にポカンと口を開いた。そしてその顔を見たベネディッドは満足そうに笑みを溢す。
「ほらっ。ユーリのこの反応。やっぱりヴェルナーの思い過ごしだろ?」
「…………分かりました。ですが、ご就寝まで側で見張らせていただきます」
ヴェルナーは少しだけホッとした様な顔をすると、ルゥナの手首のリボンを外しポーチを返してくれた。
馬車を降りる際、ベネディッドとヴェルナーは二人で賭けをしていた。ユーリの反応を見て、王妃との繋がりの真意を探ろうと。
ヴェルナーが、ユーリは感情が顔に出やすいから絶対に分かると言っていたのだ。その意見には同意するけれど、ヴェルナーはユーリの事も良く見ているのだと知り、二人は何処か似ているので分かるのかとルゥナは推測していた。
「さて、私は兄からの頼まれ事があるから、また夕食の時に」
「はい」
ベネディッドはルゥナの頭をポンッと撫でると温室の方へと去って行った。ユーリはその後ろ姿を訝し気に眺め、尋ねた。
「あの。何があったのでしょうか?」
「それは、中で話そう」
お前が返事をするのかよ。と言った表情でユーリはヴェルナーを見つめ返した。
◇◇
ルゥナの部屋にてスーザンが入れてくれた紅茶をいただきながら現状を報告した。
この国が側室制度がある国であること。ベネディッドは側室の子で、王妃に毒殺されそうになっていること。城での奇行は、ベネディッドが毒せいで……なのかはよく分からないが、体の調子が悪かったから撮れた映像らしい事を簡潔に話した。
向かいのヴェルナーの顔が怖かったので本当に片言程度で。
ルゥナの隣にはユーリが、そして向かいのソファーにはヴェルナーがとスーザンが腰を下ろし、スーザンはアレクシアの報告も兼ねてアレクシアの手帳に内容を記入してくれている。
スーザンは私にお任せください。と言っていたので、恐らくスーザンでもあの手帳を使うことができるのだろう。
ユーリは書き終えたスーザンの手帳を手に取り、ヴェルナーに尋ねた。
「それで、何故アレクシア様にベネディッド様の暗殺容疑がかけられているのですか?」
「へ? 暗殺だなんて物騒な……」
スーザンが驚きヴェルナーへ目を向けると、彼は溜息を漏らした後、重い口を開いた。
「王妃の計画をアレクシア様はご存知のようでしたので、そちら側へついたのだと判断しました」
「は? 判断って……。先程の言葉は、悪い冗談ではなかったということですか? ヴェルナー殿は、アレクシア様が暗殺に加担すると思ったのですか?」
「……そうだ」
ヴェルナーの返事を聞くと、ユーリは手帳をテーブルに叩きつけて立ち上がり食って掛かった。
「出て行ってください。目障りです」
「ユーリ、言い過ぎです。ヴェルナーはベネディッド様の従者の方です。私がベネディッド様と婚約破棄したいと言うことを伝えたので、嫌われて当然なのです。それに……王妃様は本当に恐ろしいお方でしたので、警戒される気持ちは分かります」
「俺の気持ちなど分かってはいない。貴方が会食であんな事を言い出さなければ王妃に目を付けられる事は無かったのに。ああする前に……相談さえしてくれれば……」
言葉を濁すヴェルナーに、スーザンは手帳とにらめっこしながら、遠慮がちに手を挙げた。
「あの。共闘しませんか? 王妃様の陰謀を協力して暴きましょう。アレクシア様は人々の命を敬う心の優しい人お方です。そして、悪意を持った者へと立ち向かう勇気もお持ちの方です。王妃の心へ近づいたたのは、婚約を破棄したかったから、ただその一点に尽きるのですから」
スーザンは手帳からアレクシアの指示を受けたようだ。普段から淡々と落ち着いた雰囲気の女性だと思っていたが、とても頼りになる。スーザンは更に言葉を続けた。
「ベネディッド様には、道中大変お世話になりました。ですから、婚約破棄さえ約束していただければ、お力になりたいと思っております」
「……婚約破棄は、したいままなのだな」
ヴェルナーは率直な疑問を口にしてルゥナへと視線を向けた。
「それは……」
「申し訳ありません。私共は、元々婚約を破棄するつもりでここへ参りました。アレクシア様には、兼ねてからの想い人がいらっしゃるのです。それが、ルナステラ王の策略で、噂の良くない王子と無理矢理婚約させられたのです」
「成程……そうだったのか。それで婚約を破棄する為に記録を取り、会食でもあんな事を言ったのですか?」
「……はい。婚約を破棄することになれば、ベネディッド様や周りの方々を傷つけることになる事も承知の上で、そう致しました。とても自分勝手なことだという事は存じています。ですが……」
「父親に命が狙われているというのに、国へ戻って平気なのですか?」
「それは……」
ユーリとルゥナには答えが見つからず、二人はスーザンへと目を向けた。
「アレクシア様のお兄様が守ってくださいます。ただ、国へ帰るまでが不安です。……他の近衛騎士がこちらへ来れればよいのですが」
「ロンバルトから騎士を出す。疑ってしまったお詫びとして、お兄様のところまで俺が責任を持って送り届けよう」
ヴェルナーは暫し間を置いた後、ルゥナを見据えて言った。その瞳には先程感じた怒りは見られず、ルゥナは少しだけ緊張が緩んだ。
「あの、信じてくださるのですか?」
「……はい。嘘をついているようには見えませんでした。しかし、王妃の前ではあちら側の人間の様に振る舞ってください。絶対にですよ」
王妃の名を口にする時のヴェルナーの瞳には、憎しみと怒りの色が滲み出ていた。
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