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最終章
013 招待状
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窓から顔を覗かせたヴェルナーはジョスを見つけるとため息を漏らした。
「ジョス。またここにいたのか?」
「よっ。旦那が来たぞ」
「ジョスさん!?」
ルゥナに向かって茶化すようにジョスが発言するので、ルゥナは慌てて反論したが、ヴェルナーはジョスの言葉など全く気に留めていない。
元々領主の息子であるヴェルナーを旦那と呼ぶ商人もいるので過剰に反応する必要は無かったのかもしれない。
「何の話だ? それよりジョス。親父さんが怒っていたぞ。今日は予約が入っていんだろ」
それを聞くとジョスは慌てて残りのスープを飲み込んで立ち上がった。
「げっ。忘れてたっ。ユーリさん。ごちそうさまでした。また明日来ます!」
「来なくても大丈夫ですよ」
「了解です! また美味しいパンを作ってきます!」
ユーリの牽制も軽く喜んで、食器を流しに片付けると、ジョスは勝手口から飛び出していった。朝から元気のいい人だと感心する。
ユーリはジョスを横目で見送り、ヴェルナーへと悪戯な笑みを浮かべた。
「ヴェルナー。ジョスがここへ来るようになってから貴方も毎朝来ますが、心配しなくても大丈夫ですよ」
「心配?」
「はい。ルゥナはジョスを恋愛対象として見ていませんので、ご安心ください」
「ゆ、ユーリ。朝から変なことを言わないで。別にヴェルナーはそんなつもりで来ている訳ではないのだから。ねっ!?」
「ああ。ジョスはユーリに気があるから毎朝通っているのだぞ」
ヴェルナーの言葉にユーリは食べかけのパンを皿に落としかけた。
「へ? なななな何を言ってるんですか!? そんな馬鹿な話……」
瞳を泳がせユーリはルゥナへと助けを求めるが、ルゥナも頷いてみせた。
「そうです。ジョスさんはユーリしか見ていません」
「る、ルゥナまで!? 全く、朝からふざけ過ぎです。私は森で何か材料を取ってきますので失礼します」
「ユーリ。そんなに急がなくても。開店準備だってあるのに」
「それはヴェルナーにでも手伝ってもらってください。ではっ」
ユーリは、赤い顔を隠すようにバタバタと出て行った。
「もう。――でも、これでジョスさんとユーリが仲良くなれたら……嬉しいかも」
「店の準備はいいのか? 手伝うぞ」
「ヴェルナーは忙しいでしょ。私一人でもできますから、お仕事に戻ってください」
両親の後を継ぐために、ヴェルナーは毎日島内を走り回っている。ルゥナに構っている時間などないのだ。食器を片し、調合部屋に置いておいた回復薬入りの木箱を持ち上げようとすると、それはフワッと軽く持ち上がり、ルゥナの頭の上を超えていった。
「あっ……」
「無理をするな」
後ろに立っていたヴェルナーがルゥナの手が届かないように木箱を持ち上げていた。
「こ、これぐらいなら私でも出来ます」
「怪我をしたら困る。それに、二人でやった方が早い。モッキュも俺と同じ意見みたいだな」
ヴェルナーの肩にちゃっかり乗っているモッキュはご機嫌な様子で尻尾を振っていた。モッキュはいつもヴェルナーの味方ばかりする。
「モッキュを理由にするなんてズルいです」
「口よりも手を動かしたらどうだ? 時間がないぞ」
「うぅ。分かりました。ありがとうございます」
仕方なく薬瓶はヴェルナーに任せ、ルゥナは勝手口から外へ出て、庭に干して乾燥させていた薬草をカゴいっぱいに回収して店へ向かう。ヴェルナーは薬瓶を棚に並べ終えるところだった。
「ルゥナ。ユーリが居ない時は俺を頼れ」
「えっ?」
「別に、居る時でもいい。ここへ招いたのは俺だ。最近忙しそうにしているから、心配で」
忙しいのは自分の方なのに、何を言っているのだろう。やっぱりヴェルナーはユーリに似ている。心配性で過保護だ。
「そんなに忙しくないですよ。それに、私の回復薬は良く効くんです。だから大丈夫です」
「薬に頼るのは良くない。ちゃんと休息を取らないと駄目だ。……そこでなんだが、休暇も兼ねて行きたいところがあるのだ。ユーリとジョスも誘って、四人で――」
珍しく歯切れ悪く話すヴェルナーが、ポケットから何か取り出そうとした時、開店前の扉がノックされた。返事も待たずに開かれた扉の先にはベネディッドが立っていた。
「おはよう! ルゥナ。朝一番の便で……。お。ヴェルナーもいたのか」
「げっ。ベネディッド様」
「げ。は余計だぞ。ルゥナ」
「申し訳ございません。ベネディッド様の注文は、いつも桁違いで大変なのでつい」
ベネディッドは、何かと理由をつけて、二週間に一度はこの店を訪ねてくる。騎士団の仕事で近くに来たとか、注文したい物があるとか、内容はそんなところだ。
「それはすまなかった。納期は出来次第で構わないよ。最近はあちこちの国へのルートを開拓中でな。魔物を殲滅させる為に騎士団は引っ張りだこなのだ」
「凄いですね。お怪我の無いよう頑張ってください。あ、お忙しいと存じますし、注文は手紙で十分ですよ?」
「そんな冷たい事を。まぁよい。実は、今日はアレクシアからの招待状を持ってきたのだ」
「あっ、それ」
ベネディッドが胸ポケットから招待状を取り出しルゥナに見せつけると、ヴェルナーも慌てて同じ物をポケットから取り出した。
「何の招待状なのですか?」
「ヴェルナーにも来ていたか。これはアレクシアの結婚式の招待状だ。ルゥナ。私のパートナーとして参加してくれないか?」
「わ、私がですか? 困ります。私とベネディッド様では不釣り合いですから」
「そんな事はない。それに、アレクシアに会いたいとは思わないのか? きっとルゥナへこの招待状が届いていないのは、私が誘うとアレクシアには分かっていたからだ。ルゥナも、そう思うだろう?」
「ですが……」
ベネディッド様の隣に立ったら、婚約者だと明言するようなもの。ルゥナには荷が重すぎる。はっきり断るにはどんな言葉をかけたらよいか思案していると、ヴェルナーが口を開いた。
「ベネディッド様。ルゥナは俺と行くのでご安心を。俺の招待状を見てください。ルゥナとユーリの名前もありますから」
ヴェルナーの招待状には、アレクシアの直筆で、『ルゥナとユーリ、それからお友達も是非ご一緒に』と書かれていた。さっきヴェルナーの様子がおかしかったのは、この事を誘おうとしてくれていたのかもしれない。
ベネディッドは招待状を手に取り何度も瞬きして、内容を確認した。
「何っ!? アレクシア。酷いじゃないか。いや、しかし、ご一緒にと書かれているだけか。私の方はパートナーの指定はないのだし、私と行っても問題ない。ルゥナ、私とヴェルナー、どちらと行きたいのだ?」
「ジョス。またここにいたのか?」
「よっ。旦那が来たぞ」
「ジョスさん!?」
ルゥナに向かって茶化すようにジョスが発言するので、ルゥナは慌てて反論したが、ヴェルナーはジョスの言葉など全く気に留めていない。
元々領主の息子であるヴェルナーを旦那と呼ぶ商人もいるので過剰に反応する必要は無かったのかもしれない。
「何の話だ? それよりジョス。親父さんが怒っていたぞ。今日は予約が入っていんだろ」
それを聞くとジョスは慌てて残りのスープを飲み込んで立ち上がった。
「げっ。忘れてたっ。ユーリさん。ごちそうさまでした。また明日来ます!」
「来なくても大丈夫ですよ」
「了解です! また美味しいパンを作ってきます!」
ユーリの牽制も軽く喜んで、食器を流しに片付けると、ジョスは勝手口から飛び出していった。朝から元気のいい人だと感心する。
ユーリはジョスを横目で見送り、ヴェルナーへと悪戯な笑みを浮かべた。
「ヴェルナー。ジョスがここへ来るようになってから貴方も毎朝来ますが、心配しなくても大丈夫ですよ」
「心配?」
「はい。ルゥナはジョスを恋愛対象として見ていませんので、ご安心ください」
「ゆ、ユーリ。朝から変なことを言わないで。別にヴェルナーはそんなつもりで来ている訳ではないのだから。ねっ!?」
「ああ。ジョスはユーリに気があるから毎朝通っているのだぞ」
ヴェルナーの言葉にユーリは食べかけのパンを皿に落としかけた。
「へ? なななな何を言ってるんですか!? そんな馬鹿な話……」
瞳を泳がせユーリはルゥナへと助けを求めるが、ルゥナも頷いてみせた。
「そうです。ジョスさんはユーリしか見ていません」
「る、ルゥナまで!? 全く、朝からふざけ過ぎです。私は森で何か材料を取ってきますので失礼します」
「ユーリ。そんなに急がなくても。開店準備だってあるのに」
「それはヴェルナーにでも手伝ってもらってください。ではっ」
ユーリは、赤い顔を隠すようにバタバタと出て行った。
「もう。――でも、これでジョスさんとユーリが仲良くなれたら……嬉しいかも」
「店の準備はいいのか? 手伝うぞ」
「ヴェルナーは忙しいでしょ。私一人でもできますから、お仕事に戻ってください」
両親の後を継ぐために、ヴェルナーは毎日島内を走り回っている。ルゥナに構っている時間などないのだ。食器を片し、調合部屋に置いておいた回復薬入りの木箱を持ち上げようとすると、それはフワッと軽く持ち上がり、ルゥナの頭の上を超えていった。
「あっ……」
「無理をするな」
後ろに立っていたヴェルナーがルゥナの手が届かないように木箱を持ち上げていた。
「こ、これぐらいなら私でも出来ます」
「怪我をしたら困る。それに、二人でやった方が早い。モッキュも俺と同じ意見みたいだな」
ヴェルナーの肩にちゃっかり乗っているモッキュはご機嫌な様子で尻尾を振っていた。モッキュはいつもヴェルナーの味方ばかりする。
「モッキュを理由にするなんてズルいです」
「口よりも手を動かしたらどうだ? 時間がないぞ」
「うぅ。分かりました。ありがとうございます」
仕方なく薬瓶はヴェルナーに任せ、ルゥナは勝手口から外へ出て、庭に干して乾燥させていた薬草をカゴいっぱいに回収して店へ向かう。ヴェルナーは薬瓶を棚に並べ終えるところだった。
「ルゥナ。ユーリが居ない時は俺を頼れ」
「えっ?」
「別に、居る時でもいい。ここへ招いたのは俺だ。最近忙しそうにしているから、心配で」
忙しいのは自分の方なのに、何を言っているのだろう。やっぱりヴェルナーはユーリに似ている。心配性で過保護だ。
「そんなに忙しくないですよ。それに、私の回復薬は良く効くんです。だから大丈夫です」
「薬に頼るのは良くない。ちゃんと休息を取らないと駄目だ。……そこでなんだが、休暇も兼ねて行きたいところがあるのだ。ユーリとジョスも誘って、四人で――」
珍しく歯切れ悪く話すヴェルナーが、ポケットから何か取り出そうとした時、開店前の扉がノックされた。返事も待たずに開かれた扉の先にはベネディッドが立っていた。
「おはよう! ルゥナ。朝一番の便で……。お。ヴェルナーもいたのか」
「げっ。ベネディッド様」
「げ。は余計だぞ。ルゥナ」
「申し訳ございません。ベネディッド様の注文は、いつも桁違いで大変なのでつい」
ベネディッドは、何かと理由をつけて、二週間に一度はこの店を訪ねてくる。騎士団の仕事で近くに来たとか、注文したい物があるとか、内容はそんなところだ。
「それはすまなかった。納期は出来次第で構わないよ。最近はあちこちの国へのルートを開拓中でな。魔物を殲滅させる為に騎士団は引っ張りだこなのだ」
「凄いですね。お怪我の無いよう頑張ってください。あ、お忙しいと存じますし、注文は手紙で十分ですよ?」
「そんな冷たい事を。まぁよい。実は、今日はアレクシアからの招待状を持ってきたのだ」
「あっ、それ」
ベネディッドが胸ポケットから招待状を取り出しルゥナに見せつけると、ヴェルナーも慌てて同じ物をポケットから取り出した。
「何の招待状なのですか?」
「ヴェルナーにも来ていたか。これはアレクシアの結婚式の招待状だ。ルゥナ。私のパートナーとして参加してくれないか?」
「わ、私がですか? 困ります。私とベネディッド様では不釣り合いですから」
「そんな事はない。それに、アレクシアに会いたいとは思わないのか? きっとルゥナへこの招待状が届いていないのは、私が誘うとアレクシアには分かっていたからだ。ルゥナも、そう思うだろう?」
「ですが……」
ベネディッド様の隣に立ったら、婚約者だと明言するようなもの。ルゥナには荷が重すぎる。はっきり断るにはどんな言葉をかけたらよいか思案していると、ヴェルナーが口を開いた。
「ベネディッド様。ルゥナは俺と行くのでご安心を。俺の招待状を見てください。ルゥナとユーリの名前もありますから」
ヴェルナーの招待状には、アレクシアの直筆で、『ルゥナとユーリ、それからお友達も是非ご一緒に』と書かれていた。さっきヴェルナーの様子がおかしかったのは、この事を誘おうとしてくれていたのかもしれない。
ベネディッドは招待状を手に取り何度も瞬きして、内容を確認した。
「何っ!? アレクシア。酷いじゃないか。いや、しかし、ご一緒にと書かれているだけか。私の方はパートナーの指定はないのだし、私と行っても問題ない。ルゥナ、私とヴェルナー、どちらと行きたいのだ?」
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