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第二章 専属メイド兼、庭師!?
003 セシルの得意なこと
しおりを挟む「あ、あ、アルベリク様!?」
アルベリクはセシルを見下ろし明らかに苛立っている。これは不味いと思い、咄嗟にレクトに視線を伸ばすも、知らん顔で廊下のモップがけをしていた。
「セシル……それからレクト!」
「「は、はい!」」
それから、レクトもアルベリクの逆鱗に触れ、二人仲良く叱責された。花瓶を壊したことも怒られたが、廊下で競っていたことの方が、アルベリクの逆鱗に触れたようだ。
レクトは罰として書庫の整理。
セシルは庭に放り出されてしまった。
「いいか。お前はもう屋敷内の全ての陶器に触れるな。お前がいるだけで皿は割れ、お前が見ただけで花瓶が割れる。そう心得ておけ!」
「はい。申し訳ありません」
「全く……お前には罰として庭の掃除だ」
「えっ? 庭掃除ですか!?」
「ああ……」
「畏まりました。任せてください!」
セシルは急に表情を明るくし、意気揚々と庭へ駆け出した。さっきまでは死んだ魚の様な目をしていたセシルだが、今は違う。
瞳をキラキラと輝かせながら雑草を引き抜いていく。
メアリはアルベリクの隣に立ち、その光景を微笑ましく眺めていた。
「あらあら。張り切ってるわね。──アル様、大切なお庭ですが、宜しいのですか?」
「ああ。庭は元々、あいつに任せようと思っていたんだ」
「そうなのですね。あの子の力が、お庭に役に立つのですね」
「……周りの者に知れないように。よく見張っていてくれ」
「はい。かしこまりました。アルベリク様」
こうしてセシルはアルベリクの専属メイド兼、庭師として働くことになった。
◇◇◇◇
セシルがファビウス邸に来てから、早くも一ヶ月が過ぎた。
料理もダメ、掃除もダメ。役立たずのレッテルを貼られかけていたセシルたったが、庭師の仕事は至って順調だった。
この庭はアルベリクの母の愛した庭だったらしい。母が六年前に亡くなると、前当主であるアルベリクの父が自ら手入れを引き継いだという。
しかし前当主も半年前に病で他界した。
まだ若い長男が後を継ぎ、公爵家から妻を迎えるなど、忙しくて庭の事を放っておいてしまったらしい。
それに前当主は庭を他人に弄られたくなかったらしく、屋敷のメイドや執事の中にも庭を触らせなかったそうだ。実際、庭に詳しいもの者もおらず、後任探しが難航していたという。
そんな経緯を聞き、セシルは俄然やる気に満ちていた。聖女の時も、ただの孤児だった時も、教会の庭はセシルが世話をしていたから、庭仕事には自信を持っていた。
雑草を抜き、土も耕し、畑でも出来そうな程に花壇は整え終えた。何を植えようか悩みメアリに相談すると、アルベリクが花やハーブの種を用意してくれたので、早速植えてみた。
今から成長が待ち遠しい。庭は大分整ってきたので、次は奥にある小さな温室に取りかかろうとまで考えていた。
「おい。セシル。本当に庭仕事は得意だったみたいだな」
「ええ。得意だって言ったでしょう?」
レクトに冷やかされても、セシルは胸を張って言い返せた。
二人一緒に怒られたあの日から、レクトはセシルを名前で呼ぶようになっていた。少し生意気ではあるが、レクトは器用で要領もよく中々できる執事見習いだった。セシルもそこは認めている。
レクトはセシルをつまらなそうに流し見ると、様々なハーブが植えられた花壇に目をやった。まるで、粗探しでもしているかのように。
「あのハーブって種から育てたんだよな。ひと月足らずで随分と伸びたな」
「えっ? そ、そう? あ。ほら、レクト。アルベリク様、お茶の時間よ!」
「あ、やべっ」
セシルは明らかに動揺しつつ、何とか話題を反らすことに成功した。タイミングよくアルベリクが庭に出てきて良かったと、内心ホットしていた。
レクトに指摘されたハーブ。実はセシルの魔法のせいで成長を早めてしまったのである。意図して早めた訳ではないが、早く大きくなるようにと心の中で思いながら水をまくと、ぐんぐん育ってしまうのだ。
この力が知られては大変だ。レクトは意外と勘が良さそうなので、気を付けなくてはいけないと、セシルは心に留めておくことにした。
◇◇
アルベリクは庭仕事に精を出すセシルを紅茶をすすりながら眺めていた。
セシルが来てから、午後のティータイムは庭で戴くことにした。ここからならセシルの姿がよく見えるからだ。
そして勿論、セシルの力の影響が植物に出ていることにも気付いていた。
「アル様。セシルも大分、屋敷に馴染んできましたね」
「そうか」
仏頂面のまま紅茶を啜るアルベリクに、メアリは穏やかに尋ねる。
「あらあら。喜ばれないのですか?」
「別に。あいつを使用人にしたかった訳ではない」
「と、言いますと……。セシルをどうされたかったのですか?」
「それは……。あいつ自身が決めることだ。俺は知らない」
「左様ですか。ふふふっ」
アルベリクはメアリを横目で見やり小さく溜め息をつくと、セシルに視線を戻した。
「俺は知らない。どうすればあいつが――」
アルベリクは言葉を濁し、額に手を添えうつむいた。
「アル様。如何されましたか?」
「大丈夫だ。部屋に戻る。夕食まで一人にしてくれ」
「はい。畏まりました」
心配するメアリを残し、アルベリクは青白い顔で書斎へと足を向けた。
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