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第三章 甘い香りとティータイム
011 レクトとビーフシチュー
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セシルは自室に戻るとベッドに倒れ込んだ。
屋敷内は静まり返っていた。
夕食の時間はとうに過ぎ、厨房はもぬけの殻であった。
「あーん。メアリさんのシチュー、食べたかったのにぃ~」
今日の夕食はメアリ特製ビーフシチューだった。
昨日から仕込んでいたから楽しみにしていたのに……食べそびれてしまった。
昨日も今日も色々な事がありすぎてセシルの頭の中はカオス状態。そこにビーフシチューまで混ざってしまったのだから、もう何も考えられなかった。
「寝よう。もう寝て、嫌なことは忘れよう……」
そう言い捨て枕に顔を埋めた時――扉がトントンとノックされた。
「セシル? 開けていいか?」
声の主はレクトである。
そう言えばレクトも帰ってきていたのだ。
「どうぞ~」
返事と共に扉が開く。レクトも寝間着姿であるが、その手に持っている物が視界に入ると、セシルは「ぉぉぅ!」と唸り、身を乗り出した。
「お腹、空いてるかと思ってさ。それから、ちょっと話があるんだけど、食べながらでいいから聞いてくれるか?」
レクトの手には盆に乗せられたビーフシチュー。
しかも、わざわざ温めてくれたようだ。
「レクト。ありがとう。いいよ、何でも聞くよ。さぁ、入って入って!」
「おぅ。お邪魔しま――」
「ぁぁあああ。やっぱり駄目。出て、今すぐ出て!?」
急に叫び慌てふためくセシルにレクトは口を大きく開けて訳が分からないといった様子で立ち尽くしていた。
「レクト。廊下で話そう。廊下なら大丈夫!」
「意味分かんねーんだけど……何で?」
「男と密室で二人きりになったら駄目なんだよ!」
「はぁ?」
セシルに背中を押され、レクトは廊下へと戻されるのだった。
◇◇◇◇
「それって本当にアル様が言ったのか?」
「うん。ほぅだよ。アウヘイフ様がいっはの」
セシルはビーフシチューを頬張りながら答えた。
「あのさ。喋るか食べるかどちらかにしろよ。見苦しいし聞き取れないから」
セシルはにっこりと微笑み、食べることに専念した。
「それで……男と密室で二人きりにならない。って命令だから廊下なんだよな。それってやっぱりさ……俺の父親のせいだよな?」
「?」
セシルはすっかり忘れていたが、クロードはレクトの父親だったのだ。見た目は少しにているが、それだけしか共通点は見つからない。
「どうしても俺からもセシルに謝りたくて。本当にごめんな。……ああいう人なんだよ、昔から。でも、レオン様達に誓ってもうしないって言ったなら、それは絶対だから……セシルにはもう何も出来ないと思うから……」
レクトが謝ることではないのに。
レクトは額が床に着きそうなほど頭を下げてくれた。
セシルはそんなレクトの頭をくしゃっと撫でた。
「大丈夫だよ。減給と、西館への立ち入り禁止。それからアルベリク様の剣の相手をしてもらうって言ってたから」
「えっ? け、剣の相手か……」
レクトの顔は驚愕に満ちていた。
「少しだけって言っていたけど」
「少しか。少しなら大丈夫かな……」
「あ。そういえばさ、ミリアさんは大丈夫だったかな……」
「ああ。ミリアさんは大丈夫だよ」
「え? 即答だね。ミリアさんはレクトのお姉さんなの?」
レクトは先程とは違い少し口ごもる。
「ミリアさんは、俺の腹違いの姉さんなんだ。まあ、ああいう父親だからさ」
「そ、そっか。レクトの……ううん。何でもない」
お母さんは。と聞きたかったが止めた。
それは踏み込みすぎだと思ったからだ。
でも、察しのいいレクトは苦笑いで答えてくれた。
「母親は出ていったよ。俺を産んですぐ。俺は婆様に育てられたんだ。ミリアさんも同じだよ。あの父親はいつも新人メイドを見ると浮気するから。……もしかしたら、どっかに俺の弟妹がいるかもな!」
「それはそれは、いたらスゴいね」
「はははっ」
「あははっ」
第一印象は最悪であったが、レクトは気さくでいい人だった。多分、メアリに似たのだ。
「クロードさんは誰に似たんだろうね。レクトと全然違うもん」
「あー。爺様だよ。婆様に会うまで、爺様は凄い女好きだったらしい。俺も小さい時によく爺様の武勇伝を父親から聞かされていたから。──婆様、ああ見えて結構怖いらしい」
「想像もつかないね。本当、世の中知らないことだらけだよ」
「そりゃあ、まだ十年ちょっとしか生きていないんだから、当たり前だろ」
セシルは人生をちょこっとだけやり直している。
二年分を二周して、三週目に突入したから……セシルだってまだ十七年位しか生きていないのだ。
「そっか……そうだよね」
それからレクトと他愛もない話を山ほどした。
しかし、翌日は二人とも寝坊してしまい、メアリに怒られることとなったけれど。
屋敷内は静まり返っていた。
夕食の時間はとうに過ぎ、厨房はもぬけの殻であった。
「あーん。メアリさんのシチュー、食べたかったのにぃ~」
今日の夕食はメアリ特製ビーフシチューだった。
昨日から仕込んでいたから楽しみにしていたのに……食べそびれてしまった。
昨日も今日も色々な事がありすぎてセシルの頭の中はカオス状態。そこにビーフシチューまで混ざってしまったのだから、もう何も考えられなかった。
「寝よう。もう寝て、嫌なことは忘れよう……」
そう言い捨て枕に顔を埋めた時――扉がトントンとノックされた。
「セシル? 開けていいか?」
声の主はレクトである。
そう言えばレクトも帰ってきていたのだ。
「どうぞ~」
返事と共に扉が開く。レクトも寝間着姿であるが、その手に持っている物が視界に入ると、セシルは「ぉぉぅ!」と唸り、身を乗り出した。
「お腹、空いてるかと思ってさ。それから、ちょっと話があるんだけど、食べながらでいいから聞いてくれるか?」
レクトの手には盆に乗せられたビーフシチュー。
しかも、わざわざ温めてくれたようだ。
「レクト。ありがとう。いいよ、何でも聞くよ。さぁ、入って入って!」
「おぅ。お邪魔しま――」
「ぁぁあああ。やっぱり駄目。出て、今すぐ出て!?」
急に叫び慌てふためくセシルにレクトは口を大きく開けて訳が分からないといった様子で立ち尽くしていた。
「レクト。廊下で話そう。廊下なら大丈夫!」
「意味分かんねーんだけど……何で?」
「男と密室で二人きりになったら駄目なんだよ!」
「はぁ?」
セシルに背中を押され、レクトは廊下へと戻されるのだった。
◇◇◇◇
「それって本当にアル様が言ったのか?」
「うん。ほぅだよ。アウヘイフ様がいっはの」
セシルはビーフシチューを頬張りながら答えた。
「あのさ。喋るか食べるかどちらかにしろよ。見苦しいし聞き取れないから」
セシルはにっこりと微笑み、食べることに専念した。
「それで……男と密室で二人きりにならない。って命令だから廊下なんだよな。それってやっぱりさ……俺の父親のせいだよな?」
「?」
セシルはすっかり忘れていたが、クロードはレクトの父親だったのだ。見た目は少しにているが、それだけしか共通点は見つからない。
「どうしても俺からもセシルに謝りたくて。本当にごめんな。……ああいう人なんだよ、昔から。でも、レオン様達に誓ってもうしないって言ったなら、それは絶対だから……セシルにはもう何も出来ないと思うから……」
レクトが謝ることではないのに。
レクトは額が床に着きそうなほど頭を下げてくれた。
セシルはそんなレクトの頭をくしゃっと撫でた。
「大丈夫だよ。減給と、西館への立ち入り禁止。それからアルベリク様の剣の相手をしてもらうって言ってたから」
「えっ? け、剣の相手か……」
レクトの顔は驚愕に満ちていた。
「少しだけって言っていたけど」
「少しか。少しなら大丈夫かな……」
「あ。そういえばさ、ミリアさんは大丈夫だったかな……」
「ああ。ミリアさんは大丈夫だよ」
「え? 即答だね。ミリアさんはレクトのお姉さんなの?」
レクトは先程とは違い少し口ごもる。
「ミリアさんは、俺の腹違いの姉さんなんだ。まあ、ああいう父親だからさ」
「そ、そっか。レクトの……ううん。何でもない」
お母さんは。と聞きたかったが止めた。
それは踏み込みすぎだと思ったからだ。
でも、察しのいいレクトは苦笑いで答えてくれた。
「母親は出ていったよ。俺を産んですぐ。俺は婆様に育てられたんだ。ミリアさんも同じだよ。あの父親はいつも新人メイドを見ると浮気するから。……もしかしたら、どっかに俺の弟妹がいるかもな!」
「それはそれは、いたらスゴいね」
「はははっ」
「あははっ」
第一印象は最悪であったが、レクトは気さくでいい人だった。多分、メアリに似たのだ。
「クロードさんは誰に似たんだろうね。レクトと全然違うもん」
「あー。爺様だよ。婆様に会うまで、爺様は凄い女好きだったらしい。俺も小さい時によく爺様の武勇伝を父親から聞かされていたから。──婆様、ああ見えて結構怖いらしい」
「想像もつかないね。本当、世の中知らないことだらけだよ」
「そりゃあ、まだ十年ちょっとしか生きていないんだから、当たり前だろ」
セシルは人生をちょこっとだけやり直している。
二年分を二周して、三週目に突入したから……セシルだってまだ十七年位しか生きていないのだ。
「そっか……そうだよね」
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