聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

文字の大きさ
30 / 102
断章 ファビウス邸の日常

03 羽化

しおりを挟む
 今日は満月の夜。

 光蝶は満月に羽化をする。

 そんなロマンチックなことを言い出したのはアルベリクだった。レオンとクロエは大喜びで、半信半疑だったセシルは、取り敢えずは信じたふりをしていた。

 空に大きな満月が輝く中、双子とセシル、そしてアルベリクとミリアとレクトは温室に集まっていた。

 温室の扉は開いたままにしている。羽化した後、好きなところへと飛んでいって欲しいというレオンの考えでだ。

 今か今かと待っているレオンとクロエ。
 ――しかしその時はすぐにやってきた。

 月明かりに照らされた瞬間、サナギがピクッと動いたのだ。
 サナギの背中が裂け、中からモゾモゾと蝶の頭が見えてきた。

 一同は瞬きすら我慢してその様子を見守った。

 頭の次は足が出で触覚が伸びた。
 触覚の先がキラキラと白く光って見える。

「キレイ……」

 クロエが感嘆の声を漏らし、レオンはその横でペンを握り蝶の様子を描き始めた。

 しわしわだった羽がゆっくりと伸ばされていく。
 羽の縁は黒く、その表面は濃い青紫色で、内側にいくにつれて薄い色味へと変化しグラデーションになっている。所々に金色の丸い斑点が有り、全体的に金属のような光沢を放つ。

 まるで夜空を切り取って背中に付けた様だ。
 一度その姿を目にしたら、二度と忘れないだろう。
 光蝶の名に相応しい美しさだと、セシルは思った。

 蝶はゆっくりと羽を動かし始めた。

「あ。もう行っちゃうんだ……」

 名残惜しそうなクロエの声がしんみりと温室に響いた。

 次の瞬間──光蝶が上空へと舞い上がった。金色の鱗粉を撒き散らしながらヒラヒラと温室の中を自由に飛び回る。

 レオンはそっと光蝶に手を伸ばした。
 この蝶は、レオンの手を介さなくても何処へでもいける。自分はもう必要ないのだと気づき、手を引き静かに見送ることにした。

「バイバイ。芋虫……」

 レオンが呟くと、光蝶はヒラヒラと手を振るかのように羽を動かし、そしてレオンの頭の上に舞い降りた。

「わぁ。セシル、クロエ、芋虫は!?」
「今、レオンの頭の上だよ──あっ」

 光蝶は別れを告げるようにレオンの頭で羽を休めた。
 しかし、それはほんの一瞬で、金色の鱗粉を微かに残し、光蝶は飛び立っていった。

 今度はもっと高く。月の光に導かれるように。

「セシルの言った通りだったね。芋虫、僕のこと覚えていたみたい」
「ズルいなぁ。私も芋虫と一緒に散歩すれば良かったなぁ……」

 満面の笑みを浮かべるレオンと、口を尖らせて空を見上げるクロエ。そんなクロエを見てアルベリクは空を見上げて言った。

「また庭に卵を産みに来る。そしたら今度は散歩でもしてやるといい」
「そうなの!? じゃあ僕、次の芋虫に芋虫二世って名前を付けるよ!」
「えー。芋虫に芋虫って名前付けるのやめようよ。可愛くないもん」

 さっきまでのしんみりとした空気は何処へやら。
 言い合う双子に、セシルはほっこりとした気持ちになっていた。

 しかし、ふと視線を感じて振り返ると、アルベリクがセシルを無機質な瞳で見下ろしていた。

「お前も、覚えていたらいいのにな……」
「えっ?」

 セシルが疑問の声を漏らすと、アルベリクは目を丸くさせ自身の口を押さえた。自分が言葉を発していたことに気づいていなかったようだ。

「あの……私、なにか忘れていますか?」

 珍しく狼狽えた様子のアルベリクの反応に意味が分からず、セシルは自分が何かとんでもない事で犯してしまったのではないかと不安になった。

「お、お前は……皿の洗い方ぐらい覚えろ。それからモップの使い方も覚えてないだろっ。芋虫の方が、物覚えがいいかもな」
「ええっ!? 芋虫と比べるなんて酷いです……」
「言われたくないなら、ちゃんと出来るようにしろ」
「はい……」

 折角、双子と過ごせてほっこりモードだったのに、アルベリクのせいで台無しだ。ロマンチックな所もあるのだと見直していたのに、そんなの欠片もない男だ。

 すると、肩を落とすセシルにレオンが抱きついてきた。
 続けてクロエも。


「ねえ。セシル。芋虫の名前は芋虫二世がいいよね!」
「嫌よ。ルミエールって名前にするの!」
「どちらも可愛いと思いますよ~」
「じゃあ。先に見つけた方の名前にしよう。クロエ」
「そうね。先に見つけた方の名前にしましょう。レオン」

「わぁ。楽しみですね~」
「「うん!!」」

 喧嘩をしてても結局、息かピッタリな双子を前に、セシルは早く芋虫に会えないかと、今から待ち遠しく思うのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

処理中です...