54 / 102
第五章 男ばかりの訓練所
011 使用人と御主人様
しおりを挟む
セシルの訓練所生活は、オリヴィアに気に入られたことで益々充実していった。
午前中はハロルドとゆる~い訓練をし、昼はオリヴィアと庭で昼食。そして午後は庭の手入れ、訓練後は訓練生達の怪我を診た。
オリヴィアはアルベリクに会いに来ていると言っているが、アルベリクには無視され続け、会話は一度も成り立っていない。
しかしそれが良いのだと言う。
セシルにはそれは良く分からなかった。
オリヴィアは同年代の女の子と話がしたいらしく、セシルは毎日のようにオリヴィアの話に付き合わされた。庭の野菜やお花の話など、オリヴィアは喜んで聞いてくれた。
そんなオリヴィアは、毎日違うドレスを着てくる。セシルは次はどんなドレスを来てくるのかと楽しみであった。
ちなみに、今日のオリヴィアは藍色のドレスを着ている。
「あ~。明日でセシルが帰ってしまうなんて……ライラと交換なんて出来ないかしら?」
「いや~無理ですよ。オリヴィア様。すぐバレますって。顔のシワでっ──いたっ」
空かさずハロルドにライラからの肘打ちが入った。
ライラはあまりしゃべらないが、ちょっと怖い。
「そうよね。せめてなにかプレゼントしたいわ。セシルは何が好き?」
「えっ。そんな……プレゼントなんていただけません」
「え~。そんなこと言うと私が付いていってしまうわよ?」
オリヴィアの目が本気だ。これは不味い。
「そ、それは……。あ。でしたら、次に来た時に、オリヴィア様がお育てになったお野菜をいただきたいです」
「まぁ。そんな物でいいの? それに、また私と会ってくれるのね。セシル……可愛い。大好き!」
オリヴィアはそう言うとセシルに抱きついた。
隙あらば、こうしてセシルに抱きついてくる。
しかし、その度に甘美な薫りが鼻をくすぐり心地よい。
「ははは~。セシル。オリヴィア様に気に入られたね~。あ、そうそう。セシルの好きな者と言えば、アルベリク様だよね?」
ハロルドが突然、穏やかに可笑しな話を始めた。
「えっ。そんなことは……」
「あら。そんなの当たり前でしょ。主人を嫌う使用人なんていますの?」
オリヴィアはハロルドに目をやった。ハロルドは真っ直ぐにオリヴィアを見つめ返して笑顔のまま固まった。
「あー。……はい。いないですかね~」
「でしょ。ハロルドも私を一番に愛してますでしょう?」
謎の間を置いて、ハロルドは抑揚のない声で答える。
「あー。……はい」
「もう。恥ずかしがっちゃって。……私の命がもしも危険にさらされたら、ハロルドは身を呈して守ってくれるでしょう?」
「あー。……はい」
ハロルドは肯定するものの、感情があまりこもっていないように聞こえるのは、気のせいではないと思う。
「だそうですわ。セシルもそう?」
「身を呈して……ですか?」
アルベリクの方が強すぎて想像できない。
もしアルベリクが危険な目に遭ったら、セシルはどうするだろうか。思い悩むセシルに、ハロルドが助け船を出す。
「セシルじゃなくて、アルベリク様の方が身を呈して守りそうですよね~」
「あら。それ素敵」
乗り気なオリヴィアに、ハロルドはニコニコとしながら突っかかる。
「いいんですか。オリヴィア様。セシルにアルベリク様が取られちゃいますよ?」
「おーほっほっほっほ。それは心配いらなくてよ。だってセシルはいずれ私のメイドになるのですし、貴族と使用人……結ばれる筈のない身分ですわ」
「結ばれる筈のない身分……」
余裕綽々といった様子で高らかに笑い飛ばすオリヴィアに、セシルはある人の言葉を思い出した。
一度目の記憶の時の、クリスの言葉だ。
──『セシルが貴族の生まれだったら、もっと身分が高ければ、結婚を申し込んだのに……』
そう言われた。言われた瞬間は嬉しかったけれど、少し経ってその意味が分かった時、絶望した。
結婚したいほど好き。だけど身分が低いから無理。
そう、はっきり言われたのだから。
考えたこともなかったけれど、アルベリクとも同じだ。
近くにいるけれど、その間には見えない壁があるのだ。
うつ向くセシルにハロルドが小声で話しかけてきた。
「セシル。ごめんね。嫌な話をして……。アルベリク様とセシルを見ていて、少し気になってさ。僕達使用人は、御主人様といつまで経っても平行線のままなんだよ。同じ敷地に住んでいても、住む世界は違うまま。交わることはない」
「よく……分からないよ」
本当は分かっているけれど、セシルは言葉を濁した。
ハロルドは困ったような笑顔を返す。
「うん。そうだね……。──さぁてオリヴィア様。そろそろ帰りましょうね」
「そうね。セシル、明日は見送りに来ますからね」
「はい。ありがとうございます」
明日でお別れかと思うと、ちょっと寂しい。
この胸の苦しさは、きっとオリヴィア様との別れが悲しいだけ。
セシルは、そう自分に言い聞かせた。
午前中はハロルドとゆる~い訓練をし、昼はオリヴィアと庭で昼食。そして午後は庭の手入れ、訓練後は訓練生達の怪我を診た。
オリヴィアはアルベリクに会いに来ていると言っているが、アルベリクには無視され続け、会話は一度も成り立っていない。
しかしそれが良いのだと言う。
セシルにはそれは良く分からなかった。
オリヴィアは同年代の女の子と話がしたいらしく、セシルは毎日のようにオリヴィアの話に付き合わされた。庭の野菜やお花の話など、オリヴィアは喜んで聞いてくれた。
そんなオリヴィアは、毎日違うドレスを着てくる。セシルは次はどんなドレスを来てくるのかと楽しみであった。
ちなみに、今日のオリヴィアは藍色のドレスを着ている。
「あ~。明日でセシルが帰ってしまうなんて……ライラと交換なんて出来ないかしら?」
「いや~無理ですよ。オリヴィア様。すぐバレますって。顔のシワでっ──いたっ」
空かさずハロルドにライラからの肘打ちが入った。
ライラはあまりしゃべらないが、ちょっと怖い。
「そうよね。せめてなにかプレゼントしたいわ。セシルは何が好き?」
「えっ。そんな……プレゼントなんていただけません」
「え~。そんなこと言うと私が付いていってしまうわよ?」
オリヴィアの目が本気だ。これは不味い。
「そ、それは……。あ。でしたら、次に来た時に、オリヴィア様がお育てになったお野菜をいただきたいです」
「まぁ。そんな物でいいの? それに、また私と会ってくれるのね。セシル……可愛い。大好き!」
オリヴィアはそう言うとセシルに抱きついた。
隙あらば、こうしてセシルに抱きついてくる。
しかし、その度に甘美な薫りが鼻をくすぐり心地よい。
「ははは~。セシル。オリヴィア様に気に入られたね~。あ、そうそう。セシルの好きな者と言えば、アルベリク様だよね?」
ハロルドが突然、穏やかに可笑しな話を始めた。
「えっ。そんなことは……」
「あら。そんなの当たり前でしょ。主人を嫌う使用人なんていますの?」
オリヴィアはハロルドに目をやった。ハロルドは真っ直ぐにオリヴィアを見つめ返して笑顔のまま固まった。
「あー。……はい。いないですかね~」
「でしょ。ハロルドも私を一番に愛してますでしょう?」
謎の間を置いて、ハロルドは抑揚のない声で答える。
「あー。……はい」
「もう。恥ずかしがっちゃって。……私の命がもしも危険にさらされたら、ハロルドは身を呈して守ってくれるでしょう?」
「あー。……はい」
ハロルドは肯定するものの、感情があまりこもっていないように聞こえるのは、気のせいではないと思う。
「だそうですわ。セシルもそう?」
「身を呈して……ですか?」
アルベリクの方が強すぎて想像できない。
もしアルベリクが危険な目に遭ったら、セシルはどうするだろうか。思い悩むセシルに、ハロルドが助け船を出す。
「セシルじゃなくて、アルベリク様の方が身を呈して守りそうですよね~」
「あら。それ素敵」
乗り気なオリヴィアに、ハロルドはニコニコとしながら突っかかる。
「いいんですか。オリヴィア様。セシルにアルベリク様が取られちゃいますよ?」
「おーほっほっほっほ。それは心配いらなくてよ。だってセシルはいずれ私のメイドになるのですし、貴族と使用人……結ばれる筈のない身分ですわ」
「結ばれる筈のない身分……」
余裕綽々といった様子で高らかに笑い飛ばすオリヴィアに、セシルはある人の言葉を思い出した。
一度目の記憶の時の、クリスの言葉だ。
──『セシルが貴族の生まれだったら、もっと身分が高ければ、結婚を申し込んだのに……』
そう言われた。言われた瞬間は嬉しかったけれど、少し経ってその意味が分かった時、絶望した。
結婚したいほど好き。だけど身分が低いから無理。
そう、はっきり言われたのだから。
考えたこともなかったけれど、アルベリクとも同じだ。
近くにいるけれど、その間には見えない壁があるのだ。
うつ向くセシルにハロルドが小声で話しかけてきた。
「セシル。ごめんね。嫌な話をして……。アルベリク様とセシルを見ていて、少し気になってさ。僕達使用人は、御主人様といつまで経っても平行線のままなんだよ。同じ敷地に住んでいても、住む世界は違うまま。交わることはない」
「よく……分からないよ」
本当は分かっているけれど、セシルは言葉を濁した。
ハロルドは困ったような笑顔を返す。
「うん。そうだね……。──さぁてオリヴィア様。そろそろ帰りましょうね」
「そうね。セシル、明日は見送りに来ますからね」
「はい。ありがとうございます」
明日でお別れかと思うと、ちょっと寂しい。
この胸の苦しさは、きっとオリヴィア様との別れが悲しいだけ。
セシルは、そう自分に言い聞かせた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる