聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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第五章 男ばかりの訓練所

011 使用人と御主人様

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 セシルの訓練所生活は、オリヴィアに気に入られたことで益々充実していった。

 午前中はハロルドとゆる~い訓練をし、昼はオリヴィアと庭で昼食。そして午後は庭の手入れ、訓練後は訓練生達の怪我を診た。

 オリヴィアはアルベリクに会いに来ていると言っているが、アルベリクには無視され続け、会話は一度も成り立っていない。

 しかしそれが良いのだと言う。
 セシルにはそれは良く分からなかった。

 オリヴィアは同年代の女の子と話がしたいらしく、セシルは毎日のようにオリヴィアの話に付き合わされた。庭の野菜やお花の話など、オリヴィアは喜んで聞いてくれた。

 そんなオリヴィアは、毎日違うドレスを着てくる。セシルは次はどんなドレスを来てくるのかと楽しみであった。 
 ちなみに、今日のオリヴィアは藍色のドレスを着ている。

「あ~。明日でセシルが帰ってしまうなんて……ライラと交換なんて出来ないかしら?」
「いや~無理ですよ。オリヴィア様。すぐバレますって。顔のシワでっ──いたっ」

 空かさずハロルドにライラからの肘打ちが入った。
 ライラはあまりしゃべらないが、ちょっと怖い。

「そうよね。せめてなにかプレゼントしたいわ。セシルは何が好き?」
「えっ。そんな……プレゼントなんていただけません」
「え~。そんなこと言うと私が付いていってしまうわよ?」

 オリヴィアの目が本気だ。これは不味い。

「そ、それは……。あ。でしたら、次に来た時に、オリヴィア様がお育てになったお野菜をいただきたいです」
「まぁ。そんな物でいいの? それに、また私と会ってくれるのね。セシル……可愛い。大好き!」

 オリヴィアはそう言うとセシルに抱きついた。
 隙あらば、こうしてセシルに抱きついてくる。
 しかし、その度に甘美な薫りが鼻をくすぐり心地よい。

「ははは~。セシル。オリヴィア様に気に入られたね~。あ、そうそう。セシルの好きな者と言えば、アルベリク様だよね?」

 ハロルドが突然、穏やかに可笑しな話を始めた。

「えっ。そんなことは……」
「あら。そんなの当たり前でしょ。主人を嫌う使用人なんていますの?」

 オリヴィアはハロルドに目をやった。ハロルドは真っ直ぐにオリヴィアを見つめ返して笑顔のまま固まった。

「あー。……はい。いないですかね~」
「でしょ。ハロルドも私を一番に愛してますでしょう?」

 謎の間を置いて、ハロルドは抑揚のない声で答える。

「あー。……はい」
「もう。恥ずかしがっちゃって。……私の命がもしも危険にさらされたら、ハロルドは身を呈して守ってくれるでしょう?」

「あー。……はい」

 ハロルドは肯定するものの、感情があまりこもっていないように聞こえるのは、気のせいではないと思う。

「だそうですわ。セシルもそう?」
「身を呈して……ですか?」

 アルベリクの方が強すぎて想像できない。

 もしアルベリクが危険な目に遭ったら、セシルはどうするだろうか。思い悩むセシルに、ハロルドが助け船を出す。

「セシルじゃなくて、アルベリク様の方が身を呈して守りそうですよね~」
「あら。それ素敵」

 乗り気なオリヴィアに、ハロルドはニコニコとしながら突っかかる。

「いいんですか。オリヴィア様。セシルにアルベリク様が取られちゃいますよ?」
「おーほっほっほっほ。それは心配いらなくてよ。だってセシルはいずれ私のメイドになるのですし、貴族と使用人……結ばれる筈のない身分ですわ」

「結ばれる筈のない身分……」

 余裕綽々といった様子で高らかに笑い飛ばすオリヴィアに、セシルはある人の言葉を思い出した。

 一度目の記憶の時の、クリスの言葉だ。

 ──『セシルが貴族の生まれだったら、もっと身分が高ければ、結婚を申し込んだのに……』

 そう言われた。言われた瞬間は嬉しかったけれど、少し経ってその意味が分かった時、絶望した。

 結婚したいほど好き。だけど身分が低いから無理。

 そう、はっきり言われたのだから。

 考えたこともなかったけれど、アルベリクとも同じだ。
 近くにいるけれど、その間には見えない壁があるのだ。

 うつ向くセシルにハロルドが小声で話しかけてきた。

「セシル。ごめんね。嫌な話をして……。アルベリク様とセシルを見ていて、少し気になってさ。僕達使用人は、御主人様といつまで経っても平行線のままなんだよ。同じ敷地に住んでいても、住む世界は違うまま。交わることはない」
「よく……分からないよ」

 本当は分かっているけれど、セシルは言葉を濁した。
 ハロルドは困ったような笑顔を返す。

「うん。そうだね……。──さぁてオリヴィア様。そろそろ帰りましょうね」

「そうね。セシル、明日は見送りに来ますからね」
「はい。ありがとうございます」

 明日でお別れかと思うと、ちょっと寂しい。
 この胸の苦しさは、きっとオリヴィア様との別れが悲しいだけ。
 セシルは、そう自分に言い聞かせた。


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