72 / 102
第七章 争乱と奇跡の力
003 鞭で叩かれるべきなのは
しおりを挟む
「ど、どうして私を叩いたの!?」
リリアーヌはヒステリックに叫んだ。
反対にアルベリクは冷静だった。悲しみと怒りを抑えてリリアーヌを睨み返し、背中のマントを外しセシルに掛けた。
「姉上こそ、ご自分が何をしているか分かってますか?」
「だって、この子はクリス様を誑かして指輪をもらっていたのよ。アルベリクだって、この子に騙されているのよ!」
アルベリクはリリアーヌから鞭を取り上げ空を切った。
風を切る鞭の音に、セシルは背中がゾクッとした。
それはリリアーヌも同じだったようだ。
青い顔でアルベリクを見つめている。
「鞭を打って悪い心を追い出すべきなのは姉上ではないのですか?」
「私が、なぜ? この子が悪いのよ。私の婚約者に手を出して、キスまでしたのよ?」
アルベリクは怒りに任せて鞭をへし折った。そして折れた鞭をリリアーヌに突き返す。
「手を出したのは、その男の方です。迷惑しているのは俺とセシルの方だ。人の庭に勝手に入って俺の所有物に指輪まで渡して……。ちゃんと姉上が糞王子の面倒を見ていてください」
「あ、アルベリク、何を言っているの? やっぱりその子に騙されているのよ。貴方おかしいわよ」
リリアーヌは手に持った鞭を握りしめ、必死でアルベリクに訴えかけるも、聞く耳を持ってもらえなかった。
「姉上。忠告しておきます。誰かを陥れて自分をよく見せるなんて事、考えない方がいいですよ。下劣すぎて吐き気がします。姉上には、そんな人になって欲しくないのです。その悪意は、微かな切っ掛けで膨れ上がり、人を殺めることになるかもしれません。俺は、姉上に……人殺しにはなって欲しくないのです。ですから、今後一切、セシルとは関わらないでください」
アルベリクはポケットからアクアマリンの指輪を取り出し、リリアーヌに渡した。
「アイツの浮気を責めたいんなら、これをどうぞ。欲しかったんですよね?」
「浮気だなんて……違うわっ」
「そうですか。まだ婚約者でもないですから、そうかもしれませんね」
「アルベリク!? いくらなんでも酷すぎるわ!」
指輪を握りしめて涙する姉を、アルベリク冷ややかな目で見下ろした。
「俺は来週、北へ行きます。姉上の為に、ファビウス家の名をあげて参ります。その間にもし、セシルに手を出したら……家族の縁を切りますから」
「そ、そんな事言わないで。こんな女の――」
リリアーヌはアルベリクの瞳を見て口を接ぐんだ。
今まで怒ったところすら見たことの無かった弟が、怒りを通り越してリリアーヌに殺意のこもった瞳を向けていたのだから。そんな目で、自分を見て欲しくなかった。
「で、出ていって。早く出ていって!」
「失礼します。姉上」
アルベリクはセシルを抱き上げると部屋から出ていった。
リリアーヌは部屋の花瓶を床に叩きつけ、ベッドで涙を流した。
「どうして、どうしてあんな子を庇うの……。ミリア。あの子が悪いわよね? アルベリクは、私やクリスが悪いって言うのよ!?」
「……セシルが悪いかどうかは分かりませんが……。今の国王は妻が三人います。あ、一人お亡くなりになっているので、四人ですね。王族とは……そういうものかと存じております。リリアーヌ様も、王家の一人となりたいのでしたら、その様な覚悟はすべきかと思います」
ミリアは冷静に自身の考えを述べた。
「……何よそれ。私は王族になりたいのではないの!? クリス様を独り占めしたいだけなの!?」
「……そうですか」
ミリアにはその気持ちは理解できなかった。
自分の母親も同じ事を言っていた。
父クロードが、レクトの母親と恋仲になった時に。
でも、クロードはどちらも愛していた。
それじゃ駄目なのだろうか。
ミリアもリリアーヌの一番になりたいけれど、リリアーヌが幸せならそれでいいとも思えるのだ。
「リリアーヌ様はお美しく、優しさと聡明さに溢れたお方だと存じております。きっと、クリス王子様も、そんなリリアーヌ様だからこそ、屋敷に足を運ばれているのです。ですから、ご自分に自信を持ってください」
「自信……?」
リリアーヌはアクアマリンの指輪を見つめた。どうしてセシルに渡したのか、なぜキスなんかしたのか、考えると悔しくて仕方なかった。
「きっとクリス王子様は可哀想なメイドに施しのつもりで指輪を渡したのです。いらした時に、お尋ねになってはいかがですか?」
「そうね。あの子より私の方が劣るなんてあり得ないわ。本当に……目障りな子」
リリアーヌは指輪をきつく握りしめた。
リリアーヌはヒステリックに叫んだ。
反対にアルベリクは冷静だった。悲しみと怒りを抑えてリリアーヌを睨み返し、背中のマントを外しセシルに掛けた。
「姉上こそ、ご自分が何をしているか分かってますか?」
「だって、この子はクリス様を誑かして指輪をもらっていたのよ。アルベリクだって、この子に騙されているのよ!」
アルベリクはリリアーヌから鞭を取り上げ空を切った。
風を切る鞭の音に、セシルは背中がゾクッとした。
それはリリアーヌも同じだったようだ。
青い顔でアルベリクを見つめている。
「鞭を打って悪い心を追い出すべきなのは姉上ではないのですか?」
「私が、なぜ? この子が悪いのよ。私の婚約者に手を出して、キスまでしたのよ?」
アルベリクは怒りに任せて鞭をへし折った。そして折れた鞭をリリアーヌに突き返す。
「手を出したのは、その男の方です。迷惑しているのは俺とセシルの方だ。人の庭に勝手に入って俺の所有物に指輪まで渡して……。ちゃんと姉上が糞王子の面倒を見ていてください」
「あ、アルベリク、何を言っているの? やっぱりその子に騙されているのよ。貴方おかしいわよ」
リリアーヌは手に持った鞭を握りしめ、必死でアルベリクに訴えかけるも、聞く耳を持ってもらえなかった。
「姉上。忠告しておきます。誰かを陥れて自分をよく見せるなんて事、考えない方がいいですよ。下劣すぎて吐き気がします。姉上には、そんな人になって欲しくないのです。その悪意は、微かな切っ掛けで膨れ上がり、人を殺めることになるかもしれません。俺は、姉上に……人殺しにはなって欲しくないのです。ですから、今後一切、セシルとは関わらないでください」
アルベリクはポケットからアクアマリンの指輪を取り出し、リリアーヌに渡した。
「アイツの浮気を責めたいんなら、これをどうぞ。欲しかったんですよね?」
「浮気だなんて……違うわっ」
「そうですか。まだ婚約者でもないですから、そうかもしれませんね」
「アルベリク!? いくらなんでも酷すぎるわ!」
指輪を握りしめて涙する姉を、アルベリク冷ややかな目で見下ろした。
「俺は来週、北へ行きます。姉上の為に、ファビウス家の名をあげて参ります。その間にもし、セシルに手を出したら……家族の縁を切りますから」
「そ、そんな事言わないで。こんな女の――」
リリアーヌはアルベリクの瞳を見て口を接ぐんだ。
今まで怒ったところすら見たことの無かった弟が、怒りを通り越してリリアーヌに殺意のこもった瞳を向けていたのだから。そんな目で、自分を見て欲しくなかった。
「で、出ていって。早く出ていって!」
「失礼します。姉上」
アルベリクはセシルを抱き上げると部屋から出ていった。
リリアーヌは部屋の花瓶を床に叩きつけ、ベッドで涙を流した。
「どうして、どうしてあんな子を庇うの……。ミリア。あの子が悪いわよね? アルベリクは、私やクリスが悪いって言うのよ!?」
「……セシルが悪いかどうかは分かりませんが……。今の国王は妻が三人います。あ、一人お亡くなりになっているので、四人ですね。王族とは……そういうものかと存じております。リリアーヌ様も、王家の一人となりたいのでしたら、その様な覚悟はすべきかと思います」
ミリアは冷静に自身の考えを述べた。
「……何よそれ。私は王族になりたいのではないの!? クリス様を独り占めしたいだけなの!?」
「……そうですか」
ミリアにはその気持ちは理解できなかった。
自分の母親も同じ事を言っていた。
父クロードが、レクトの母親と恋仲になった時に。
でも、クロードはどちらも愛していた。
それじゃ駄目なのだろうか。
ミリアもリリアーヌの一番になりたいけれど、リリアーヌが幸せならそれでいいとも思えるのだ。
「リリアーヌ様はお美しく、優しさと聡明さに溢れたお方だと存じております。きっと、クリス王子様も、そんなリリアーヌ様だからこそ、屋敷に足を運ばれているのです。ですから、ご自分に自信を持ってください」
「自信……?」
リリアーヌはアクアマリンの指輪を見つめた。どうしてセシルに渡したのか、なぜキスなんかしたのか、考えると悔しくて仕方なかった。
「きっとクリス王子様は可哀想なメイドに施しのつもりで指輪を渡したのです。いらした時に、お尋ねになってはいかがですか?」
「そうね。あの子より私の方が劣るなんてあり得ないわ。本当に……目障りな子」
リリアーヌは指輪をきつく握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
どちらの王妃でも問題ありません【完】
mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。
そんな中、巨大化し過ぎた帝国は
王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。
争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。
両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。
しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。
長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。
兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる