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第七章 争乱と奇跡の力
005 出発前夜
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セシルは破れたメイド服を着替え、自室でメアリによしよしされていた。
「セシル。私が一人で行かせてしまったのがいけなかったの。本当にごめんなさいね」
「メアリさんは、悪くないです」
セシルはメアリにギュッと抱きついた。
癒される。怖いことも、メアリに撫でられていたら、その時だけは忘れられる。
「ねぇ、セシル。一つ聞いてもいいかしら?」
「はい」
「ネックレスについている指輪……さっき着替える時に見えたのだけれど、初めて見たわ」
「あ……えっと……」
「あらあら。やっぱりアル様からのプレゼントなのね」
「ええっ!? どうして」
「顔を見たら分かるわ。でもね、きっとこうなるって分かっていたの。初めてセシルがここに来たときからね」
「えっ……?」
メアリがニコニコとセシルに微笑みかけた時、扉がノックされた。アルベリクが戻ってきたのだ。
しかし、アルベリクは騎士団の方に戻らないといけないとの事だった。
当主であるエドワールから、リリアーヌに東館での軟禁令が出たそうだ。だから、安心して良いとの事だった。
戻ってきたら一緒にいてくれるのかと思っていたのに。
セシルは今一度、メアリの体にギュっと抱きついた。
◇◇
夕方、アルベリクと一緒に帰って来たレクトは、破れたメイド服を見て絶叫していた。
「俺の力作がぁぁぁ!?」
「姉上が破いたのだ」
「ああ~。やりそうだ。って、ええっ!? 大丈夫かよ。セシル……」
震える手でメイド服を掲げ、真っ青な顔で振り向いたレクトを見たら、セシルは可笑しくて笑ってしまった。
「うん。平気だよ」
「アル様。やっぱりセシルも連れていきましょう。全然平気な顔してないですから!?」
レクトもセシルを心配してくれているようだ。でも、アルベリクの意思は固く、セシルを連れていくことは絶対にないと断言していた。
◇◇
あれから数日間、アルベリクは毎日セシルの心配ばかりしていた。北での事も気掛かりなはずなのに、屋敷に帰るとすぐにセシルの元を訪れ、側にいてくれた。
そして、ついに出発前夜になった。
いつものハーブティーの時間。
セシルはお茶ともう一つプレゼントを用意していた。
喜んでくれるかと思っていたのに、アルベリクはそれを見て一言。
「セシル。またズルをしたな」
「えっ。……ちょ、ちょっとだけですよ。アルベリク様、好きかなって思って」
セシルは小さな鉢に植えられた青い薔薇を書斎に飾った。
蕾だったものを魔法で咲かせようとしたら、ちょっとやりすぎてしまい、薔薇が三つも咲いてしまった。明日でアルベリクは行ってしまうから、咲いた薔薇を見せてあげたかったのだ。
「全く。お前は……」
「きょ、今日は初心に帰ろうと思いまして、カモミールホットミルクティーにしました」
「……一緒に飲もう」
「は、はい」
二人でソファーに腰掛けお茶を飲んだ。
このところ毎晩こうして一緒にお茶を飲んでいる。
アルベリクは一口お茶を飲むとセシルに何冊か本を渡した。
「これは……?」
「魔法についての本だ。それから、他の国のおとぎ話だ。他国の事が少しでも分かるかと思ってな」
「へぇ~。アルベリク様が留守の間に読みますね」
「それを読んで大人しくしているんだぞ。兄上に迷惑がかからないように。──それから、何か心配なことはないか?」
「はい。メアリさんもいるので、大丈夫です。アルベリク様も、お気を付けてくださいね」
「ああ。俺は平気だ」
一体どこからそんな自信が来るのだろう。
そんな事を思いながらお茶をすすると、アルベリクの視線を感じた。
じーっと甘えた瞳でこちらを見てくる。言いたいことは分かっているけど、たまには意地悪してみたくなった。
「お茶のお代わりですか?」
「違う。明日から当分会えないから」
「から?」
「セシル。お前分かっていってるだろ?」
「えへへ」
アルベリクはセシルの手を握り、顔を近づける。
じっと動かずにアルベリクを待つセシルに、アルベリクは囁いた。
「セシルから、して」
「ぇ!?」
眼前で目を閉じるアルベリクに、セシルは戸惑った。
まさかそう来るとは。意地悪するんじゃなかった。
「セシル?」
「ぅぅ……」
思いきってアルベリクの唇に軽くキスをした。恥ずかしすぎてそれは一瞬だったけれど、セシルなりに頑張ったと思う。
しかし、アルベリクは不満そうだった。
「なんだ、今のは」
「が、頑張りました!」
「……そんなんじゃ。足りない」
今度はアルベリクからセシルに唇を重ねた。
さっきみたいに軽いキスではなくて、優しくて深いキスを。
それは甘いカモミールの味がした。
◇◇
セシルが部屋に戻ると、アルベリクは書斎の隅に置かれた簡素な古い木箱を開いた。
その中にはいつもアルベリクが読んでいる本と、黒い短剣、そして金色の粉が付いた枯れ葉が入っている。そこに、青い薔薇の花を一輪ちぎりると中へ入れ、そっと蓋を閉じた。
「揃ったのか……」
「セシル。私が一人で行かせてしまったのがいけなかったの。本当にごめんなさいね」
「メアリさんは、悪くないです」
セシルはメアリにギュッと抱きついた。
癒される。怖いことも、メアリに撫でられていたら、その時だけは忘れられる。
「ねぇ、セシル。一つ聞いてもいいかしら?」
「はい」
「ネックレスについている指輪……さっき着替える時に見えたのだけれど、初めて見たわ」
「あ……えっと……」
「あらあら。やっぱりアル様からのプレゼントなのね」
「ええっ!? どうして」
「顔を見たら分かるわ。でもね、きっとこうなるって分かっていたの。初めてセシルがここに来たときからね」
「えっ……?」
メアリがニコニコとセシルに微笑みかけた時、扉がノックされた。アルベリクが戻ってきたのだ。
しかし、アルベリクは騎士団の方に戻らないといけないとの事だった。
当主であるエドワールから、リリアーヌに東館での軟禁令が出たそうだ。だから、安心して良いとの事だった。
戻ってきたら一緒にいてくれるのかと思っていたのに。
セシルは今一度、メアリの体にギュっと抱きついた。
◇◇
夕方、アルベリクと一緒に帰って来たレクトは、破れたメイド服を見て絶叫していた。
「俺の力作がぁぁぁ!?」
「姉上が破いたのだ」
「ああ~。やりそうだ。って、ええっ!? 大丈夫かよ。セシル……」
震える手でメイド服を掲げ、真っ青な顔で振り向いたレクトを見たら、セシルは可笑しくて笑ってしまった。
「うん。平気だよ」
「アル様。やっぱりセシルも連れていきましょう。全然平気な顔してないですから!?」
レクトもセシルを心配してくれているようだ。でも、アルベリクの意思は固く、セシルを連れていくことは絶対にないと断言していた。
◇◇
あれから数日間、アルベリクは毎日セシルの心配ばかりしていた。北での事も気掛かりなはずなのに、屋敷に帰るとすぐにセシルの元を訪れ、側にいてくれた。
そして、ついに出発前夜になった。
いつものハーブティーの時間。
セシルはお茶ともう一つプレゼントを用意していた。
喜んでくれるかと思っていたのに、アルベリクはそれを見て一言。
「セシル。またズルをしたな」
「えっ。……ちょ、ちょっとだけですよ。アルベリク様、好きかなって思って」
セシルは小さな鉢に植えられた青い薔薇を書斎に飾った。
蕾だったものを魔法で咲かせようとしたら、ちょっとやりすぎてしまい、薔薇が三つも咲いてしまった。明日でアルベリクは行ってしまうから、咲いた薔薇を見せてあげたかったのだ。
「全く。お前は……」
「きょ、今日は初心に帰ろうと思いまして、カモミールホットミルクティーにしました」
「……一緒に飲もう」
「は、はい」
二人でソファーに腰掛けお茶を飲んだ。
このところ毎晩こうして一緒にお茶を飲んでいる。
アルベリクは一口お茶を飲むとセシルに何冊か本を渡した。
「これは……?」
「魔法についての本だ。それから、他の国のおとぎ話だ。他国の事が少しでも分かるかと思ってな」
「へぇ~。アルベリク様が留守の間に読みますね」
「それを読んで大人しくしているんだぞ。兄上に迷惑がかからないように。──それから、何か心配なことはないか?」
「はい。メアリさんもいるので、大丈夫です。アルベリク様も、お気を付けてくださいね」
「ああ。俺は平気だ」
一体どこからそんな自信が来るのだろう。
そんな事を思いながらお茶をすすると、アルベリクの視線を感じた。
じーっと甘えた瞳でこちらを見てくる。言いたいことは分かっているけど、たまには意地悪してみたくなった。
「お茶のお代わりですか?」
「違う。明日から当分会えないから」
「から?」
「セシル。お前分かっていってるだろ?」
「えへへ」
アルベリクはセシルの手を握り、顔を近づける。
じっと動かずにアルベリクを待つセシルに、アルベリクは囁いた。
「セシルから、して」
「ぇ!?」
眼前で目を閉じるアルベリクに、セシルは戸惑った。
まさかそう来るとは。意地悪するんじゃなかった。
「セシル?」
「ぅぅ……」
思いきってアルベリクの唇に軽くキスをした。恥ずかしすぎてそれは一瞬だったけれど、セシルなりに頑張ったと思う。
しかし、アルベリクは不満そうだった。
「なんだ、今のは」
「が、頑張りました!」
「……そんなんじゃ。足りない」
今度はアルベリクからセシルに唇を重ねた。
さっきみたいに軽いキスではなくて、優しくて深いキスを。
それは甘いカモミールの味がした。
◇◇
セシルが部屋に戻ると、アルベリクは書斎の隅に置かれた簡素な古い木箱を開いた。
その中にはいつもアルベリクが読んでいる本と、黒い短剣、そして金色の粉が付いた枯れ葉が入っている。そこに、青い薔薇の花を一輪ちぎりると中へ入れ、そっと蓋を閉じた。
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