92 / 102
第八章 終焉と死に戻りの秘密
011 約束
しおりを挟む
「私を……迎えに?」
嬉しかった。こんな事を言われたのは初めてだった。
アルベリクはセシルの頬に手を添え、セシルの溢れ出した涙を指で拭ってくれた。やっぱりアルベリクの手は温かい。
「ああ。お前は俺の事なんか覚えていないと思うが、六年前の約束を果たしに来た」
「覚えて……いますよ。私の憧れの……」
セシルはそこで言葉を止めた。
女の子と間違えていたなんて言って……嫌われたくない。
アルベリクは潤んだ瞳でセシルを見つめたまま微笑んだ。
「女の子じゃなくて……悪かったな」
「ええっ。な、何で、知ってるんですか!?」
「知ってる。他にも色々セシルの事を知ってるんだ。……癒しの魔法が使えることも。甘いお菓子が大好きなことも。騙され易くて、油断と隙だらけなことも……」
「な、何でそんなことを……」
――知ってるの?
アルベリクの瞳が優しい。まるで、さっきまで一緒にお屋敷で過ごしていたアルベリクの様に。
セシルはアルベリクの頬に触れようとして、その手を下ろした。泥で汚れた自分の手でアルベリクに触れてはいけない気がしたから。
でも、アルベリクはその手を握ってくれた。
そして左手の薬指に輝く指輪に視線を落とすと、驚いて目を何度も瞬かせていた。
こんな汚い娘が持っているような指輪じゃ、ないからかな。
「この指輪はどうしたのだ?」
「え……。えっと」
「覚えて……いないのか?」
寂しげに指輪を見つめるアルベリク顔は、前にも見たことがあるような気がした。
言わなきゃ。きっとアルベリクなら信じてくれる。
「お、覚えています。信じてはもらえないかもしれませんが……この指輪は――……アルベリク様から、いただきました」
言えた瞬間、アルベリクの瞳がパッと開いた。
驚いている?
嫌がってはいない?
信じてくれた?
どれともとれぬ表情で、セシルには分からなかった。
「あ、あの。いきなり可笑しな話ですよね。で、でも……」
アルベリクはセシルをもう一度強く抱きしめた。
「セシル。お前……遡る前のことを、覚えているのか?」
「ぇえっ? そ、それって。あ、アルベリク様も覚えているのですか?」
「ああ。全部覚えている。ずっとお前ばかり見てきた。聖女のお前も、使用人のお前も……」
なんでアルベリクも覚えているの?
分からないことだらけだけれど、嬉しくて涙が溢れた。
「……えっ。アルベリク様。何……で?」
「セシル?」
アルベリクが甘えた瞳でセシルを見る。
幾度と無く、セシルを見つめてくれたエメラルドの瞳。
あの時より少し幼いアルベリクだけれど、瞳を見たら気持ちがわかる。何がしたいのか、どうして欲しいのか。
セシルはそっと瞳を閉じアルベリクを待った。
頬にかかるアルベリクの吐息。耳元で囁かれた。
「セシル。ずっと一緒にいてくれ。俺もお前を愛してる」
「はい。私もで――んんっ」
セシルの返事を最後まで聞かず、アルベリクはセシルの唇を自身のそれで塞いだ。
心も身体もアルベリクで満たされていく。
アルベリクがこんなにせっかちだったなんて、知らなかった。
アルベリクから解放され、セシルには聞きたいことが山ほどあった。
「アルベリク様……っくしゅん」
全身ずぶ濡れだったことを、すっかり忘れていた。
気が付いたらもっと寒く感じ、くしゃみの次は身体がブルッと震えた。
「セシルっ。屋敷へ行こう。まずは、風呂だな」
「はい」
アルベリクはマントを外しセシルの身体をくるむとそのまま抱き上げ、屋敷へと向かった。
◇◇
屋敷に着くと、レクトはセシルを見て眉間にシワを寄せていた。
そうそう。レクトの第一印象は最悪だった。
メアリは変わらぬ穏やかな笑顔で迎え入れてくれた。
懐かしい。ずっとここにいられたらいいのに。
でも、今度はどうしたらいいのだろう。クリスから逃れるためには、やっぱり、ここにいたら駄目なんだろうな。
嬉しかった。こんな事を言われたのは初めてだった。
アルベリクはセシルの頬に手を添え、セシルの溢れ出した涙を指で拭ってくれた。やっぱりアルベリクの手は温かい。
「ああ。お前は俺の事なんか覚えていないと思うが、六年前の約束を果たしに来た」
「覚えて……いますよ。私の憧れの……」
セシルはそこで言葉を止めた。
女の子と間違えていたなんて言って……嫌われたくない。
アルベリクは潤んだ瞳でセシルを見つめたまま微笑んだ。
「女の子じゃなくて……悪かったな」
「ええっ。な、何で、知ってるんですか!?」
「知ってる。他にも色々セシルの事を知ってるんだ。……癒しの魔法が使えることも。甘いお菓子が大好きなことも。騙され易くて、油断と隙だらけなことも……」
「な、何でそんなことを……」
――知ってるの?
アルベリクの瞳が優しい。まるで、さっきまで一緒にお屋敷で過ごしていたアルベリクの様に。
セシルはアルベリクの頬に触れようとして、その手を下ろした。泥で汚れた自分の手でアルベリクに触れてはいけない気がしたから。
でも、アルベリクはその手を握ってくれた。
そして左手の薬指に輝く指輪に視線を落とすと、驚いて目を何度も瞬かせていた。
こんな汚い娘が持っているような指輪じゃ、ないからかな。
「この指輪はどうしたのだ?」
「え……。えっと」
「覚えて……いないのか?」
寂しげに指輪を見つめるアルベリク顔は、前にも見たことがあるような気がした。
言わなきゃ。きっとアルベリクなら信じてくれる。
「お、覚えています。信じてはもらえないかもしれませんが……この指輪は――……アルベリク様から、いただきました」
言えた瞬間、アルベリクの瞳がパッと開いた。
驚いている?
嫌がってはいない?
信じてくれた?
どれともとれぬ表情で、セシルには分からなかった。
「あ、あの。いきなり可笑しな話ですよね。で、でも……」
アルベリクはセシルをもう一度強く抱きしめた。
「セシル。お前……遡る前のことを、覚えているのか?」
「ぇえっ? そ、それって。あ、アルベリク様も覚えているのですか?」
「ああ。全部覚えている。ずっとお前ばかり見てきた。聖女のお前も、使用人のお前も……」
なんでアルベリクも覚えているの?
分からないことだらけだけれど、嬉しくて涙が溢れた。
「……えっ。アルベリク様。何……で?」
「セシル?」
アルベリクが甘えた瞳でセシルを見る。
幾度と無く、セシルを見つめてくれたエメラルドの瞳。
あの時より少し幼いアルベリクだけれど、瞳を見たら気持ちがわかる。何がしたいのか、どうして欲しいのか。
セシルはそっと瞳を閉じアルベリクを待った。
頬にかかるアルベリクの吐息。耳元で囁かれた。
「セシル。ずっと一緒にいてくれ。俺もお前を愛してる」
「はい。私もで――んんっ」
セシルの返事を最後まで聞かず、アルベリクはセシルの唇を自身のそれで塞いだ。
心も身体もアルベリクで満たされていく。
アルベリクがこんなにせっかちだったなんて、知らなかった。
アルベリクから解放され、セシルには聞きたいことが山ほどあった。
「アルベリク様……っくしゅん」
全身ずぶ濡れだったことを、すっかり忘れていた。
気が付いたらもっと寒く感じ、くしゃみの次は身体がブルッと震えた。
「セシルっ。屋敷へ行こう。まずは、風呂だな」
「はい」
アルベリクはマントを外しセシルの身体をくるむとそのまま抱き上げ、屋敷へと向かった。
◇◇
屋敷に着くと、レクトはセシルを見て眉間にシワを寄せていた。
そうそう。レクトの第一印象は最悪だった。
メアリは変わらぬ穏やかな笑顔で迎え入れてくれた。
懐かしい。ずっとここにいられたらいいのに。
でも、今度はどうしたらいいのだろう。クリスから逃れるためには、やっぱり、ここにいたら駄目なんだろうな。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる