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第三章 ブランジェさん家
001 馴染みの店
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「あれ? この時間ならまだ開いてるはずなんだけど……」
リックは窓から中を覗き込み、人気のない店内に首をかしげた。
「リック君。本当にここであってるの?」
「えっと、そのはずなんだけど。──すみませ~ん。誰かいらっしゃいますか~?」
リックは扉をノックし大声を張り上げた。木で出来た古い扉はきしみ、あまり強く叩くと壊れてしまいそうだ。
窓から見える店内の棚には布がかけられており、随分前に閉店してしまった空き店舗のような寂しさを感じる。
「おっかしいなぁ。ちょっと地図を……」
「誰か、いらっしゃいましたよ」
「おっ。良かった~」
錠の開く音がすると、扉はゆっくりと中から開かれ、ひょっこりと顔を出したのは、小柄で人の良さそうな老婆だった。
「あらあら。いらっしゃい。折角来ていただいたのに、ごめんなさいね。今、お店を閉めているの」
「あの。レイス=アーネスト様からのご紹介でこちらのお二人をお連れしました。一度、レイス様からのお手紙を読んでいただいてもよろしいですか?」
「あら。レイス君のご紹介なのね。あの子は本当に律儀で優しいのだから。──さあさあ。中へどうぞ」
「ありがとうございます!」
リックはお辞儀すると、ルーシャとヒスイを中へ通し、自分は店には入らず扉を閉めようとした。
「えっ。リック君は?」
「オレはここまでですよ。後はお二人で頑張ってくださいね」
リックの仕事はここまでルーシャ達を送り届けること。もうお別れなのだ。
「そっか。ここまで、ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったですよ。──あ、そうそう。オレにご用がある時は、昨日プレゼントしたぬいぐるみに話しかけてくださいね。お金とドラゴンの匂いがしたらすぐ飛んでいきますので! それでは、ごきげんよう」
リックは営業スマイルで言い切ると、扉を閉めて去っていった。老婆はそれをニコニコと見守っている。
「あらあら。面白い子ね。お二人は……えっと」
「私はルーシャと申します。こちらは、ヒスイです」
「ルーシャちゃんと、ヒスイ君ね。ようこそ、ブランジェさん家へ。私はミールというの、みんなからはミル婆って呼ばれているわ。よろしくね」
「はい。宜しくお願いします」
ミールはブランジェという姓なのだろうか。なんとなく疑問に思いつつ、ルーシャはミールに案内されて店の奥へとついていった。
◇◇◇◇
この店の名は『ブランジェさん家』というそうだ。ミールの夫ロイ=ブランジェが、父から引き継いだパン屋で、代々この場所で商いをしてきたという。
しかし一ヶ月前、一緒に暮らしている孫息子カルロとロイが些細なことで口論になり、孫は店を飛び出し音信不通。ロイはその時、ぎっくり腰になり、今日まで寝たきりだという。
「だから申し訳ないのだけれど、うちは今お手伝いは必要ないの。レイス君が来週こちらに来てくれるみたいだから、それまでお部屋をお貸しすることなら出来るのだけれど……」
レイスはミールが人手不足を嘆いていたので、ルーシャをここへ紹介したのだが、店の状況は大きく変化していた。
「お気遣いありがとうございます。そうしていただけると、とても助かります。お掃除でも何でもお手伝いしますので、教えて下さい」
「あらあら。頼もしいわ。──あっ、そうだわ。主人に許可をとった方がいいわ。ちょっと気難しい人でね。寝たきりになってからは口数もほとんど無くなってしまって、何を考えているのか全く分からないのだけれど……」
言いながらミールもどうしたものかと困っている様子だ。ロイという人に会うのが怖くなってきた。
ルーシャの強ばった顔つきに気がつき、ミールは慌てて取り繕う。
「根はいい人なのよ。主人も本当はパンを焼きたいだろうに、腰が痛いって言って起きてこないのよ」
「お身体、そんなに悪いんですか?」
「どうかしら。きっともう治ってると思うんだけれど、孫のカルロが帰ってこないのがショックなのか……。理由はどうしても話してくれないのよね。──あ、こんな話ばかりでごめんなさいね。レイス君の紹介だって言えば、主人も悪い顔はしないはずよ。レイス君は主人にとって孫みたいなものだから、安心してね」
「はい。ありがとうございます」
馴染みの店とは聞いていたが、レイスとは家族同然の間柄みたいだ。
「それじゃあ、二階へ案内するわね」
リックは窓から中を覗き込み、人気のない店内に首をかしげた。
「リック君。本当にここであってるの?」
「えっと、そのはずなんだけど。──すみませ~ん。誰かいらっしゃいますか~?」
リックは扉をノックし大声を張り上げた。木で出来た古い扉はきしみ、あまり強く叩くと壊れてしまいそうだ。
窓から見える店内の棚には布がかけられており、随分前に閉店してしまった空き店舗のような寂しさを感じる。
「おっかしいなぁ。ちょっと地図を……」
「誰か、いらっしゃいましたよ」
「おっ。良かった~」
錠の開く音がすると、扉はゆっくりと中から開かれ、ひょっこりと顔を出したのは、小柄で人の良さそうな老婆だった。
「あらあら。いらっしゃい。折角来ていただいたのに、ごめんなさいね。今、お店を閉めているの」
「あの。レイス=アーネスト様からのご紹介でこちらのお二人をお連れしました。一度、レイス様からのお手紙を読んでいただいてもよろしいですか?」
「あら。レイス君のご紹介なのね。あの子は本当に律儀で優しいのだから。──さあさあ。中へどうぞ」
「ありがとうございます!」
リックはお辞儀すると、ルーシャとヒスイを中へ通し、自分は店には入らず扉を閉めようとした。
「えっ。リック君は?」
「オレはここまでですよ。後はお二人で頑張ってくださいね」
リックの仕事はここまでルーシャ達を送り届けること。もうお別れなのだ。
「そっか。ここまで、ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったですよ。──あ、そうそう。オレにご用がある時は、昨日プレゼントしたぬいぐるみに話しかけてくださいね。お金とドラゴンの匂いがしたらすぐ飛んでいきますので! それでは、ごきげんよう」
リックは営業スマイルで言い切ると、扉を閉めて去っていった。老婆はそれをニコニコと見守っている。
「あらあら。面白い子ね。お二人は……えっと」
「私はルーシャと申します。こちらは、ヒスイです」
「ルーシャちゃんと、ヒスイ君ね。ようこそ、ブランジェさん家へ。私はミールというの、みんなからはミル婆って呼ばれているわ。よろしくね」
「はい。宜しくお願いします」
ミールはブランジェという姓なのだろうか。なんとなく疑問に思いつつ、ルーシャはミールに案内されて店の奥へとついていった。
◇◇◇◇
この店の名は『ブランジェさん家』というそうだ。ミールの夫ロイ=ブランジェが、父から引き継いだパン屋で、代々この場所で商いをしてきたという。
しかし一ヶ月前、一緒に暮らしている孫息子カルロとロイが些細なことで口論になり、孫は店を飛び出し音信不通。ロイはその時、ぎっくり腰になり、今日まで寝たきりだという。
「だから申し訳ないのだけれど、うちは今お手伝いは必要ないの。レイス君が来週こちらに来てくれるみたいだから、それまでお部屋をお貸しすることなら出来るのだけれど……」
レイスはミールが人手不足を嘆いていたので、ルーシャをここへ紹介したのだが、店の状況は大きく変化していた。
「お気遣いありがとうございます。そうしていただけると、とても助かります。お掃除でも何でもお手伝いしますので、教えて下さい」
「あらあら。頼もしいわ。──あっ、そうだわ。主人に許可をとった方がいいわ。ちょっと気難しい人でね。寝たきりになってからは口数もほとんど無くなってしまって、何を考えているのか全く分からないのだけれど……」
言いながらミールもどうしたものかと困っている様子だ。ロイという人に会うのが怖くなってきた。
ルーシャの強ばった顔つきに気がつき、ミールは慌てて取り繕う。
「根はいい人なのよ。主人も本当はパンを焼きたいだろうに、腰が痛いって言って起きてこないのよ」
「お身体、そんなに悪いんですか?」
「どうかしら。きっともう治ってると思うんだけれど、孫のカルロが帰ってこないのがショックなのか……。理由はどうしても話してくれないのよね。──あ、こんな話ばかりでごめんなさいね。レイス君の紹介だって言えば、主人も悪い顔はしないはずよ。レイス君は主人にとって孫みたいなものだから、安心してね」
「はい。ありがとうございます」
馴染みの店とは聞いていたが、レイスとは家族同然の間柄みたいだ。
「それじゃあ、二階へ案内するわね」
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