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第三章 ブランジェさん家
002 お見合い相手
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カーテンを閉めきった暗い部屋の中で、ブランジェさん家の主人、ロイはベッドに横たわりこちらに背を向けて休んでいた。
「あなた。お休み中失礼します。実はね、レイス君の紹介で訪ねてきている子がいるの。今はお店を閉めているから、お手伝いは募集していないけれど、次にレイス君がお店に来るまでの間、離れを貸して上げても良いかしら?」
「……勝手にしろ」
ロイが背を向けたまま呟くと、ミールはにっこり微笑んでルーシャとヒスイの背中を押し、こっそり耳打ちした。
「ささ、ご挨拶だけ済ませちゃって」
「は、はい。──ロイさん。私はルーシャと申します。不束者ですがよろしくお願いいたします。何でもお手伝いしますので、ご用があれば──」
ルーシャが挨拶すると、ロイは急にムクリと体を起こし、ルーシャとヒスイへと交互に視線を伸ばした。
「君は……。そちらの坊やは……」
「僕はヒスイと申します。レイス様のご紹介で──」
「おお! レイス君は二人とも見つけてきてくれたのか!?」
ロイは勢い良く立ち上り、老人とは思えないほど俊敏に移動すると、ルーシャの手を力強く握った。
「君みたいな子を待っていたんだよ! きっとカルロも気に入るだろう。さすがレイス君だ。わっはっはっは!」
「あらあら? あなたったらご機嫌ね。もしかして、お手伝いさんをみたらパンを焼きたくなったのかしら?」
「お手伝いのヒスイ君も嬉しいが、何よりルーシャさんを紹介してくれたことが嬉しいのだ。寝てはいられんよ。はっはっは」
ロイは大きな口を開けて笑い、さっきまで寝込んでいた人間とは思えない声量を発している。これなら当分の間、ルーシャはパン屋さんの手伝いが出来るかもしれない。
「ロイさん。私、パン作りでもお掃除でも、お店のために頑張りますので、よろしくお願いいたします」
「おお。パン作りまでヤル気があるのか。パンは好きかい?」
「はい。大好きです。それに私、パイ作りが趣味なんです」
「そうかそうか。レイス君に感謝せねばいかんな。こんな素敵なお嫁さんを紹介してくれて。さあ、下でパンを焼くぞ。是非ワシのパンを食べておくれ。はっはっはっ」
ロイは上機嫌で部屋を飛び出すと階段を駆け降りていった。三人はロイの勢いに全く付いていけずに、その場に取り残される。
「えっと。ミールさん。今、ロイさんがお嫁さんって言っていたような……」
「私もそう聞こえたわ。主人ったら、まさかレイス君にお見合い相手までお願いしていたのかしら。ルーシャさんはお手伝いで来てくれたのよね?」
「はい。お見合いをするつもりも、お嫁に来たつもりもありません」
ただでさえ偽装婚約中なのに、その上お見合いなんて出来るはずがない。
「早く訂正しなくちゃ。ごめんなさいね。せっかちな人で」
◇◇◇◇
夕食はとても豪華だった。
ミールの野菜シチューにローストビーフ。
それから、みんなで作った焼き立てパンだ。
「さあさあ。沢山食べておくれ。うちのパンの味を知ったら、他では食べられなくなるぞ」
ロイは気前良くルーシャとヒスイに食事を勧める。しかし三人は気まずいまま夕食の席についていた。
ルーシャが婚約者では無いということを、ロイに言えなかったのだ。
生地を力一杯こねながら、ロイは言っていた。
「カルロはここでの生活が嫌になったそうだ。こんな古くさくて貧乏な店の孫じゃ、女性にフラれてしまうんだとさ」
「あなた、それが喧嘩の理由なの?」
「そうだ。こんな店じゃ結婚相手も出来ない。こんな人生嫌だ。と言って、カルロは飛び出して行った。でも良かったよ。ルーシャさんのようなパン好きの可愛い婚約者がいたら、カルロだって考え直してくれるだろうさ。この店と共に歩む人生を悲観せず、前向きにな」
「あなた……」
「ルーシャさん。まだカルロに会ってもいないのに、婚約者などと呼んでしまってすまないね。でも、きっと気に入る。カルロは、根はいい子なんだ。ワシもミールとはお見合いで知り合ってな。きっと上手くいく。うんうん」
「わ、私もお手伝いします」
「おお、そうかそうか。やってみるか。ほら、ヒスイ君も」
「は、はい」
そして言い出せないまま、みんなでパンを作った。初めてのパンは不格好なものしか作れなかったけれど、味は最高だった。
それから夕食の後、ルーシャとヒスイはロイに内緒でミールに呼び出された。
「ルーシャさん。孫のカルロが帰ってくるまででいいの。お見合い相手のふりをしてくれないかしら」
「その、カルロさんはいつお戻りに? それに、ふりだけで済まなくなるような事にはならないとお約束できますか?」
ヒスイはミールの願いを予想していたのだろう。続けざまにミールに疑問を投げかけた。
「いつ戻るかは分からないけれど、ルーシャさんがカルロを気に入らないと言えば、無理に結婚なんて絶対にならないわ。こんなことをお願いしてごめんなさいね。でも、主人がパンを焼く姿を久しぶりに見れたら、とても嬉しくって。本当のことを言ったら、きっとまた……」
また、引きこもってしまうだろう。
それはルーシャもヒスイも分かっていた。
ロイはカルロに帰って来て欲しいのだ。
その唯一の希望が、ここの店にお嫁に来てもいいと言ってくれる、お見合い相手の存在なのだ。
「はい。分かりました。私はお孫さんのお見合い相手になります」
「あなた。お休み中失礼します。実はね、レイス君の紹介で訪ねてきている子がいるの。今はお店を閉めているから、お手伝いは募集していないけれど、次にレイス君がお店に来るまでの間、離れを貸して上げても良いかしら?」
「……勝手にしろ」
ロイが背を向けたまま呟くと、ミールはにっこり微笑んでルーシャとヒスイの背中を押し、こっそり耳打ちした。
「ささ、ご挨拶だけ済ませちゃって」
「は、はい。──ロイさん。私はルーシャと申します。不束者ですがよろしくお願いいたします。何でもお手伝いしますので、ご用があれば──」
ルーシャが挨拶すると、ロイは急にムクリと体を起こし、ルーシャとヒスイへと交互に視線を伸ばした。
「君は……。そちらの坊やは……」
「僕はヒスイと申します。レイス様のご紹介で──」
「おお! レイス君は二人とも見つけてきてくれたのか!?」
ロイは勢い良く立ち上り、老人とは思えないほど俊敏に移動すると、ルーシャの手を力強く握った。
「君みたいな子を待っていたんだよ! きっとカルロも気に入るだろう。さすがレイス君だ。わっはっはっは!」
「あらあら? あなたったらご機嫌ね。もしかして、お手伝いさんをみたらパンを焼きたくなったのかしら?」
「お手伝いのヒスイ君も嬉しいが、何よりルーシャさんを紹介してくれたことが嬉しいのだ。寝てはいられんよ。はっはっは」
ロイは大きな口を開けて笑い、さっきまで寝込んでいた人間とは思えない声量を発している。これなら当分の間、ルーシャはパン屋さんの手伝いが出来るかもしれない。
「ロイさん。私、パン作りでもお掃除でも、お店のために頑張りますので、よろしくお願いいたします」
「おお。パン作りまでヤル気があるのか。パンは好きかい?」
「はい。大好きです。それに私、パイ作りが趣味なんです」
「そうかそうか。レイス君に感謝せねばいかんな。こんな素敵なお嫁さんを紹介してくれて。さあ、下でパンを焼くぞ。是非ワシのパンを食べておくれ。はっはっはっ」
ロイは上機嫌で部屋を飛び出すと階段を駆け降りていった。三人はロイの勢いに全く付いていけずに、その場に取り残される。
「えっと。ミールさん。今、ロイさんがお嫁さんって言っていたような……」
「私もそう聞こえたわ。主人ったら、まさかレイス君にお見合い相手までお願いしていたのかしら。ルーシャさんはお手伝いで来てくれたのよね?」
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◇◇◇◇
夕食はとても豪華だった。
ミールの野菜シチューにローストビーフ。
それから、みんなで作った焼き立てパンだ。
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ルーシャが婚約者では無いということを、ロイに言えなかったのだ。
生地を力一杯こねながら、ロイは言っていた。
「カルロはここでの生活が嫌になったそうだ。こんな古くさくて貧乏な店の孫じゃ、女性にフラれてしまうんだとさ」
「あなた、それが喧嘩の理由なの?」
「そうだ。こんな店じゃ結婚相手も出来ない。こんな人生嫌だ。と言って、カルロは飛び出して行った。でも良かったよ。ルーシャさんのようなパン好きの可愛い婚約者がいたら、カルロだって考え直してくれるだろうさ。この店と共に歩む人生を悲観せず、前向きにな」
「あなた……」
「ルーシャさん。まだカルロに会ってもいないのに、婚約者などと呼んでしまってすまないね。でも、きっと気に入る。カルロは、根はいい子なんだ。ワシもミールとはお見合いで知り合ってな。きっと上手くいく。うんうん」
「わ、私もお手伝いします」
「おお、そうかそうか。やってみるか。ほら、ヒスイ君も」
「は、はい」
そして言い出せないまま、みんなでパンを作った。初めてのパンは不格好なものしか作れなかったけれど、味は最高だった。
それから夕食の後、ルーシャとヒスイはロイに内緒でミールに呼び出された。
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「その、カルロさんはいつお戻りに? それに、ふりだけで済まなくなるような事にはならないとお約束できますか?」
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「いつ戻るかは分からないけれど、ルーシャさんがカルロを気に入らないと言えば、無理に結婚なんて絶対にならないわ。こんなことをお願いしてごめんなさいね。でも、主人がパンを焼く姿を久しぶりに見れたら、とても嬉しくって。本当のことを言ったら、きっとまた……」
また、引きこもってしまうだろう。
それはルーシャもヒスイも分かっていた。
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