63 / 65
最終章 それぞれの道
010 謝罪
しおりを挟む
「おい。マジかよ。ザクロの奴」
焦るコハクとは裏腹に、ヒスイは落ち着いていた。
「コハク。ザクロが何をしたか分からないんですか? アリスの石化を解いたんですよ」
「石化を解くって、そんな力持ってる訳……」
コハクも言いかけて気付いた。
ザクロが何をしたのかを。
「そっか。私と同じ事をしたのね」
「そうです。ザクロはアリスの力を借りたのです。でも、それは簡単には返せない。竜玉と混ざり、次の儀式まで切り離すことは不可能でしょう。それに」
「クレス。ここはどこ? 一体何があったの?」
目覚めたアリスはクレスの胸で泣いていた。
まるで無垢な少女のように。
「もしかして。記憶もないのか?」
「恐らく、力が使えた事で生じた記憶は、力と共に失われたのだと思います」
「それなら、アリスさんはやり直せるのかしら?」
「それは分かりませんが……」
守護竜となったザクロは、滝壺伸ばす池に舞い戻り、クレスへと言葉を発した。
『クレスよ。君の心は清らかで澄んでいる。その心のままアリスを愛し導いてあげるのだ。私に出来る友としての最大限の愛なのだ』
「ありがとう。ザクロ君。皆さんもすみませんでした。私にはアリスを止めることが出来なかった。呪いに魅せられた彼女の心を私に向けることが出来なかった。でも、これからは新しくやり直せる。本当にありがとう」
これからアリスと共に,この国で犯した罪を償う為に出頭すると言い、クレスは去っていった。
クレスが見えなくなると、ルーシャはリックに気になっていたことを尋ねた。
「それで、結局リックはどうやって呪いを弾き返したの?」
「それは……今度オレん家来る? そうだ! ハネムーンにオースルンド王国を選ぶなんて、いかがですか?」
「は、ハネムーンって……」
「さっき告白してただろ? みんな聞いてたから。もしかしたら国中全部に聞こえてたかも」
「そんな訳ないでしょう!?」
真っ赤に染まるルーシャの顔を面白がるリックを横目に、ヒスイはルーシャの手を取り囁くように言った。
「行きたいならどこへでも連れていきますよ? 僕は守護竜ではないので、国の外へも行けますから」
「行きたいところ……」
◇◇◇◇
「ルーシャさんを僕に下さい」
シェリクス領アーネスト伯爵家にて、ヒスイは深々と頭を下げた。アーネスト伯爵は突然の申し出に呆然と口を開け放った。
「な、ななな何を……。お、お前は執事だろう?」
「守護竜の生贄にしていいとお考えだったのに、執事は駄目なのですか?」
「そ、それは名誉なことだ。国の為になるのだからな。それに比べて貴様は……」
伯爵はヒスイとルーシャへ交互に視線を伸ばした。
ヒスイの後ろに守られるようにして立ち、ルーシャは伯爵へと不安げな眼差しを向けている。
「もう。ルーシャを解放していただけませんか。彼女は守護竜の花嫁としての責務を果たし、アーネスト伯爵様なんて放っておいてもいいのに、こうして挨拶に来たのですから」
「……そ、そうだ。私のことなど放っておけばいい。お前の顔なんて見たくもないのだからな」
ヒスイの物言いにカッととり、伯爵は目の前の書物に手を伸ばすと、ルーシャは反射的にヒスイの後ろに身を隠した。脅えるルーシャがヒスイの瞳に映り込み、握った拳が怒りで震えた。しかし、ルーシャはその手をヒスイの手に重ね、小さく首を横に振る。
「はぁ。親子で雲泥の差ですね。レイス様は、ルーシャを母の形見と言い大切にしてくださっているのに」
「うるさい。黙れ!!」
振り払った拳でグラスが割れ、アーネスト伯爵の手から血が流れた。ルーシャは駆け寄り伯爵の手を握りしめその傷を癒した。
「お、お前。魔法が……使えるのか?」
「伯爵様。私は叔母様のお陰で命を繋ぐことができました。守護竜様の魂に触れた時、過去を見させていただきました」
「何を言っているのだ……」
「叔母様が私を守ってくれたのです。だから、叔母様は、私のせいで……」
「そんな事、分かっている。あいつには、娘がいなかったから、お前を本当の娘のように可愛がっていた。あいつなら迷わずそうしただろうと……。私もお前のことを、レイスのように形見に思えたら良かったのに……」
「叔父様?」
「それなのに。お前はあの事故で魔力を失い、背中には大きな傷を作り……どうして良いか分からなかった。そんな娘が幸せになれると思わなかった。だから、シェリクス公爵から話を頂いた時、受け入れることにしたのだ。──もう好きに生きなさい。私の許しなど要らぬのだ。私はお前の父を名乗る資格は無いのだから」
「叔父様っ。今まで、育ててくださりありがとうございました」
泣きついたルーシャを、アーネスト伯爵は戸惑いながらもそっと背中に手を添えた。
「すまなかったな。ルーシャ」
焦るコハクとは裏腹に、ヒスイは落ち着いていた。
「コハク。ザクロが何をしたか分からないんですか? アリスの石化を解いたんですよ」
「石化を解くって、そんな力持ってる訳……」
コハクも言いかけて気付いた。
ザクロが何をしたのかを。
「そっか。私と同じ事をしたのね」
「そうです。ザクロはアリスの力を借りたのです。でも、それは簡単には返せない。竜玉と混ざり、次の儀式まで切り離すことは不可能でしょう。それに」
「クレス。ここはどこ? 一体何があったの?」
目覚めたアリスはクレスの胸で泣いていた。
まるで無垢な少女のように。
「もしかして。記憶もないのか?」
「恐らく、力が使えた事で生じた記憶は、力と共に失われたのだと思います」
「それなら、アリスさんはやり直せるのかしら?」
「それは分かりませんが……」
守護竜となったザクロは、滝壺伸ばす池に舞い戻り、クレスへと言葉を発した。
『クレスよ。君の心は清らかで澄んでいる。その心のままアリスを愛し導いてあげるのだ。私に出来る友としての最大限の愛なのだ』
「ありがとう。ザクロ君。皆さんもすみませんでした。私にはアリスを止めることが出来なかった。呪いに魅せられた彼女の心を私に向けることが出来なかった。でも、これからは新しくやり直せる。本当にありがとう」
これからアリスと共に,この国で犯した罪を償う為に出頭すると言い、クレスは去っていった。
クレスが見えなくなると、ルーシャはリックに気になっていたことを尋ねた。
「それで、結局リックはどうやって呪いを弾き返したの?」
「それは……今度オレん家来る? そうだ! ハネムーンにオースルンド王国を選ぶなんて、いかがですか?」
「は、ハネムーンって……」
「さっき告白してただろ? みんな聞いてたから。もしかしたら国中全部に聞こえてたかも」
「そんな訳ないでしょう!?」
真っ赤に染まるルーシャの顔を面白がるリックを横目に、ヒスイはルーシャの手を取り囁くように言った。
「行きたいならどこへでも連れていきますよ? 僕は守護竜ではないので、国の外へも行けますから」
「行きたいところ……」
◇◇◇◇
「ルーシャさんを僕に下さい」
シェリクス領アーネスト伯爵家にて、ヒスイは深々と頭を下げた。アーネスト伯爵は突然の申し出に呆然と口を開け放った。
「な、ななな何を……。お、お前は執事だろう?」
「守護竜の生贄にしていいとお考えだったのに、執事は駄目なのですか?」
「そ、それは名誉なことだ。国の為になるのだからな。それに比べて貴様は……」
伯爵はヒスイとルーシャへ交互に視線を伸ばした。
ヒスイの後ろに守られるようにして立ち、ルーシャは伯爵へと不安げな眼差しを向けている。
「もう。ルーシャを解放していただけませんか。彼女は守護竜の花嫁としての責務を果たし、アーネスト伯爵様なんて放っておいてもいいのに、こうして挨拶に来たのですから」
「……そ、そうだ。私のことなど放っておけばいい。お前の顔なんて見たくもないのだからな」
ヒスイの物言いにカッととり、伯爵は目の前の書物に手を伸ばすと、ルーシャは反射的にヒスイの後ろに身を隠した。脅えるルーシャがヒスイの瞳に映り込み、握った拳が怒りで震えた。しかし、ルーシャはその手をヒスイの手に重ね、小さく首を横に振る。
「はぁ。親子で雲泥の差ですね。レイス様は、ルーシャを母の形見と言い大切にしてくださっているのに」
「うるさい。黙れ!!」
振り払った拳でグラスが割れ、アーネスト伯爵の手から血が流れた。ルーシャは駆け寄り伯爵の手を握りしめその傷を癒した。
「お、お前。魔法が……使えるのか?」
「伯爵様。私は叔母様のお陰で命を繋ぐことができました。守護竜様の魂に触れた時、過去を見させていただきました」
「何を言っているのだ……」
「叔母様が私を守ってくれたのです。だから、叔母様は、私のせいで……」
「そんな事、分かっている。あいつには、娘がいなかったから、お前を本当の娘のように可愛がっていた。あいつなら迷わずそうしただろうと……。私もお前のことを、レイスのように形見に思えたら良かったのに……」
「叔父様?」
「それなのに。お前はあの事故で魔力を失い、背中には大きな傷を作り……どうして良いか分からなかった。そんな娘が幸せになれると思わなかった。だから、シェリクス公爵から話を頂いた時、受け入れることにしたのだ。──もう好きに生きなさい。私の許しなど要らぬのだ。私はお前の父を名乗る資格は無いのだから」
「叔父様っ。今まで、育ててくださりありがとうございました」
泣きついたルーシャを、アーネスト伯爵は戸惑いながらもそっと背中に手を添えた。
「すまなかったな。ルーシャ」
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる