婚約者に騙されて守護竜の花嫁(生贄)にされたので、嫌なことは嫌と言うことにしました

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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最終章 それぞれの道

010 謝罪

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「おい。マジかよ。ザクロの奴」

 焦るコハクとは裏腹に、ヒスイは落ち着いていた。

「コハク。ザクロが何をしたか分からないんですか? アリスの石化を解いたんですよ」
「石化を解くって、そんな力持ってる訳……」

 コハクも言いかけて気付いた。
 ザクロが何をしたのかを。

「そっか。私と同じ事をしたのね」
「そうです。ザクロはアリスの力を借りたのです。でも、それは簡単には返せない。竜玉と混ざり、次の儀式まで切り離すことは不可能でしょう。それに」

「クレス。ここはどこ? 一体何があったの?」

 目覚めたアリスはクレスの胸で泣いていた。
 まるで無垢な少女のように。

「もしかして。記憶もないのか?」
「恐らく、力が使えた事で生じた記憶は、力と共に失われたのだと思います」
「それなら、アリスさんはやり直せるのかしら?」
「それは分かりませんが……」

 守護竜となったザクロは、滝壺伸ばす池に舞い戻り、クレスへと言葉を発した。

『クレスよ。君の心は清らかで澄んでいる。その心のままアリスを愛し導いてあげるのだ。私に出来る友としての最大限の愛なのだ』
「ありがとう。ザクロ君。皆さんもすみませんでした。私にはアリスを止めることが出来なかった。呪いに魅せられた彼女の心を私に向けることが出来なかった。でも、これからは新しくやり直せる。本当にありがとう」

 これからアリスと共に,この国で犯した罪を償う為に出頭すると言い、クレスは去っていった。
 クレスが見えなくなると、ルーシャはリックに気になっていたことを尋ねた。

「それで、結局リックはどうやって呪いを弾き返したの?」
「それは……今度オレん家来る? そうだ! ハネムーンにオースルンド王国を選ぶなんて、いかがですか?」
「は、ハネムーンって……」
「さっき告白してただろ? みんな聞いてたから。もしかしたら国中全部に聞こえてたかも」
「そんな訳ないでしょう!?」

 真っ赤に染まるルーシャの顔を面白がるリックを横目に、ヒスイはルーシャの手を取り囁くように言った。

「行きたいならどこへでも連れていきますよ? 僕は守護竜ではないので、国の外へも行けますから」
「行きたいところ……」

 ◇◇◇◇

「ルーシャさんを僕に下さい」

 シェリクス領アーネスト伯爵家にて、ヒスイは深々と頭を下げた。アーネスト伯爵は突然の申し出に呆然と口を開け放った。


「な、ななな何を……。お、お前は執事だろう?」
「守護竜の生贄にしていいとお考えだったのに、執事は駄目なのですか?」
「そ、それは名誉なことだ。国の為になるのだからな。それに比べて貴様は……」

 伯爵はヒスイとルーシャへ交互に視線を伸ばした。
 ヒスイの後ろに守られるようにして立ち、ルーシャは伯爵へと不安げな眼差しを向けている。

「もう。ルーシャを解放していただけませんか。彼女は守護竜の花嫁としての責務を果たし、アーネスト伯爵様なんて放っておいてもいいのに、こうして挨拶に来たのですから」
「……そ、そうだ。私のことなど放っておけばいい。お前の顔なんて見たくもないのだからな」 

 ヒスイの物言いにカッととり、伯爵は目の前の書物に手を伸ばすと、ルーシャは反射的にヒスイの後ろに身を隠した。脅えるルーシャがヒスイの瞳に映り込み、握った拳が怒りで震えた。しかし、ルーシャはその手をヒスイの手に重ね、小さく首を横に振る。

「はぁ。親子で雲泥の差ですね。レイス様は、ルーシャを母の形見と言い大切にしてくださっているのに」
「うるさい。黙れ!!」

 振り払った拳でグラスが割れ、アーネスト伯爵の手から血が流れた。ルーシャは駆け寄り伯爵の手を握りしめその傷を癒した。

「お、お前。魔法が……使えるのか?」
「伯爵様。私は叔母様のお陰で命を繋ぐことができました。守護竜様の魂に触れた時、過去を見させていただきました」
「何を言っているのだ……」
「叔母様が私を守ってくれたのです。だから、叔母様は、私のせいで……」
「そんな事、分かっている。あいつには、娘がいなかったから、お前を本当の娘のように可愛がっていた。あいつなら迷わずそうしただろうと……。私もお前のことを、レイスのように形見に思えたら良かったのに……」
「叔父様?」
「それなのに。お前はあの事故で魔力を失い、背中には大きな傷を作り……どうして良いか分からなかった。そんな娘が幸せになれると思わなかった。だから、シェリクス公爵から話を頂いた時、受け入れることにしたのだ。──もう好きに生きなさい。私の許しなど要らぬのだ。私はお前の父を名乗る資格は無いのだから」
「叔父様っ。今まで、育ててくださりありがとうございました」

 泣きついたルーシャを、アーネスト伯爵は戸惑いながらもそっと背中に手を添えた。

「すまなかったな。ルーシャ」



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