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完璧弟と白衣の姉と
1話
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「……姉ちゃん!起きてる?」
疲れたからだを誰かに揺さぶられる。
若くて優しい声、最近メロいという言葉が流行っているのだが少し高く、それでいて色気のある奥ゆかしいこの声こそ、メロいの擬人化なのかもしれない。
「……。」
「おーい!姉ちゃん?」
「……私は今、睡眠中。」
「いや、睡眠中って答えられるほど起きてるじゃん。そろそろ起きた方がいいんじゃない?今日学校でしょ?」
この男は佐々木凛、私の6個下の弟で今はデザイナーの仕事をしている。訳あって、私は今彼と一緒に暮らしている。
「……ふっふっふ、考えが甘いな。私は今日は振替休日。」
「いや、報告連絡相談してよ姉ちゃん。」
この男は常識人である。
身長は170cmあるし、家事もできる恐ろしく完璧……姉でなければ結婚しちゃうね。
「ご飯作ってあるから!今日は在宅ワークしてるから部屋は入ってこないでね!」
「……部屋にこもって、くしゃくしゃの紙を増やして、ナニしてるんだい?」
そんな私の下ネタにすかさずチョップをする。
とはいえ、あくまでツッコミなので痛覚はなかった。
「……ごめん。」
「分かればよろしい。」
そう言うと、凛は自部屋に籠って作業に没頭して言った。
☆☆
高層マンションでコーヒーと2枚のトーストをもちゃもちゃと頬張る。
私は佐々木結愛、現在28歳のしがない生物教諭をしている。
元々は大学で博士号を取れる寸前まで研究していたのだが、クソ教授に勝手に論文を盗作されて手柄を横取りされてからは教授をぶん殴って今に至る。
「……困った、支払いが沢山。」
そして、私は何をトチ狂ったのか奨学金と借金でいっぱいになっていた。
理由はわかる、奨学金は大学院も出るために高い金額がかけられている。
研究員の時に少し研究費用が足りなかったから私的に消費者金融をつかってしまった。
その後、私は博士号を逃してそこから1年はずっと働かずにパチプロをしていたのだが、やはりそこにも結果を出せず住んでたところを追い出されたのだ。
途方にくれたところを凛に助けてもらい、今はちょっと安定して生活ができている。
それが私こと……佐々木結愛だった。
正直言って中々にクレイジーだと思う。
一応凛に毎月3万円払って家事をして貰っていて、私はもう三十路になるのに自立できてない自分を心の底から嫌いになりそうだった。
「お、姉ちゃんちゃんとトースト食べてる!偉い偉い!」
「……おい、なんかその褒め方ムカつくぞ。」
「だって、去年の姉ちゃん飯も食わずに12時間パチンコ屋さんから帰ってこなかった日あったよね?」
「……むう、その話はやめて欲しい。」
凛が朝の会議を終わらせたのか私の向かいの席でコーヒーを飲んでいた。
弟の淹れるコーヒーは美味しい。たまにラテアートでハートをいくつも組み合わせたものを作ってしまったりと、本当に器用だと思う。
「……仕事は?」
「ああ、もう数枚先方から採用されてるし……その後の依頼内容も既に作ってあるからしばらく仕事しなくても成果は出せるように仕込んであるんだよね。」
……ほんと、我が弟ながら恐ろしいと思う。
ふらっとカフェに行ってはインスピレーションが浮かんだと20個のデザインを仕上げてしまうのだけど、大体一発で採用されるのでストックが溜まりに溜まるらしい。
「姉ちゃんは仕事はどう?」
「……んー、一応副担でクラスは持ってるけど生徒から結愛ちゃん呼ばわりでムカつく。」
「まあ、姉ちゃん小さくて可愛いからね!」
「……おい、それはどういう意味だ?」
私はアイコスを手に取るとすかさず凛に止められてしまった。ほっぺを抓られて頬にビキビキと怒りマークをしている。
「姉ちゃん~?俺の家の中ではアイコス辞めてってったよね?」
「……ごべんなざい。」
「まあ、分かればよろしい。おっと電話……お世話になっております!あ、採用ですか!ありがとうございます!……え、追加で依頼ですか?是非是非!じゃあヒアリングついでにこの後そちらにお伺いしても……!」
突然凛は仕事モードになる。
この男は昔から本当に要領がいい。
例えばドラ〇エ9をやる時も、私は魔法使いで序盤で99レベルにしていたのに対して、この男は同じ時間で強い技を見抜いていたためレベル1でも私以上の強さを見せた時には度肝を抜かれたことがある。
その結果が、積み重なり6個上の姉としての尊厳もあっさりと抜かれてるのだろだろう。
「姉ちゃん!今空いてる?」
「……え、どうしたの急に。」
「ちょっと気分転換にさ、三重行こうよ!三重!」
「……三重?」
「採用された先方が三重にあってさ、ヒアリングついでに行きたいし、新幹線とかの方が作業捗るんだよね!松阪牛食べに行こうよ!」
「………。」
ヤバい、コイツ何言ってるか分からない。
なんでこんなにスペック高いの?あ、私も博士号取りかけたか……いや、取ってないからせいぜい売れないバンドマン程度の価値しかないから説明になってない。
「……お、奢りだからな。」
「うん!」
弟は背は高くなったのだけど、昔から姉ちゃんっ子で人懐っこい表情でウキウキとしていた。
彼は右手にアップルウォッチをつけて、外出の準備をする。
「……よし、出かけるか。」
「え、姉ちゃん…白衣だよ?」
私はいつもの服装で三重に行く準備をする。
朝の都会の喧騒は、いつもより激しく、そして冬の寒さで少しビルの間の乾いた風がビルに吹き荒れていた。
疲れたからだを誰かに揺さぶられる。
若くて優しい声、最近メロいという言葉が流行っているのだが少し高く、それでいて色気のある奥ゆかしいこの声こそ、メロいの擬人化なのかもしれない。
「……。」
「おーい!姉ちゃん?」
「……私は今、睡眠中。」
「いや、睡眠中って答えられるほど起きてるじゃん。そろそろ起きた方がいいんじゃない?今日学校でしょ?」
この男は佐々木凛、私の6個下の弟で今はデザイナーの仕事をしている。訳あって、私は今彼と一緒に暮らしている。
「……ふっふっふ、考えが甘いな。私は今日は振替休日。」
「いや、報告連絡相談してよ姉ちゃん。」
この男は常識人である。
身長は170cmあるし、家事もできる恐ろしく完璧……姉でなければ結婚しちゃうね。
「ご飯作ってあるから!今日は在宅ワークしてるから部屋は入ってこないでね!」
「……部屋にこもって、くしゃくしゃの紙を増やして、ナニしてるんだい?」
そんな私の下ネタにすかさずチョップをする。
とはいえ、あくまでツッコミなので痛覚はなかった。
「……ごめん。」
「分かればよろしい。」
そう言うと、凛は自部屋に籠って作業に没頭して言った。
☆☆
高層マンションでコーヒーと2枚のトーストをもちゃもちゃと頬張る。
私は佐々木結愛、現在28歳のしがない生物教諭をしている。
元々は大学で博士号を取れる寸前まで研究していたのだが、クソ教授に勝手に論文を盗作されて手柄を横取りされてからは教授をぶん殴って今に至る。
「……困った、支払いが沢山。」
そして、私は何をトチ狂ったのか奨学金と借金でいっぱいになっていた。
理由はわかる、奨学金は大学院も出るために高い金額がかけられている。
研究員の時に少し研究費用が足りなかったから私的に消費者金融をつかってしまった。
その後、私は博士号を逃してそこから1年はずっと働かずにパチプロをしていたのだが、やはりそこにも結果を出せず住んでたところを追い出されたのだ。
途方にくれたところを凛に助けてもらい、今はちょっと安定して生活ができている。
それが私こと……佐々木結愛だった。
正直言って中々にクレイジーだと思う。
一応凛に毎月3万円払って家事をして貰っていて、私はもう三十路になるのに自立できてない自分を心の底から嫌いになりそうだった。
「お、姉ちゃんちゃんとトースト食べてる!偉い偉い!」
「……おい、なんかその褒め方ムカつくぞ。」
「だって、去年の姉ちゃん飯も食わずに12時間パチンコ屋さんから帰ってこなかった日あったよね?」
「……むう、その話はやめて欲しい。」
凛が朝の会議を終わらせたのか私の向かいの席でコーヒーを飲んでいた。
弟の淹れるコーヒーは美味しい。たまにラテアートでハートをいくつも組み合わせたものを作ってしまったりと、本当に器用だと思う。
「……仕事は?」
「ああ、もう数枚先方から採用されてるし……その後の依頼内容も既に作ってあるからしばらく仕事しなくても成果は出せるように仕込んであるんだよね。」
……ほんと、我が弟ながら恐ろしいと思う。
ふらっとカフェに行ってはインスピレーションが浮かんだと20個のデザインを仕上げてしまうのだけど、大体一発で採用されるのでストックが溜まりに溜まるらしい。
「姉ちゃんは仕事はどう?」
「……んー、一応副担でクラスは持ってるけど生徒から結愛ちゃん呼ばわりでムカつく。」
「まあ、姉ちゃん小さくて可愛いからね!」
「……おい、それはどういう意味だ?」
私はアイコスを手に取るとすかさず凛に止められてしまった。ほっぺを抓られて頬にビキビキと怒りマークをしている。
「姉ちゃん~?俺の家の中ではアイコス辞めてってったよね?」
「……ごべんなざい。」
「まあ、分かればよろしい。おっと電話……お世話になっております!あ、採用ですか!ありがとうございます!……え、追加で依頼ですか?是非是非!じゃあヒアリングついでにこの後そちらにお伺いしても……!」
突然凛は仕事モードになる。
この男は昔から本当に要領がいい。
例えばドラ〇エ9をやる時も、私は魔法使いで序盤で99レベルにしていたのに対して、この男は同じ時間で強い技を見抜いていたためレベル1でも私以上の強さを見せた時には度肝を抜かれたことがある。
その結果が、積み重なり6個上の姉としての尊厳もあっさりと抜かれてるのだろだろう。
「姉ちゃん!今空いてる?」
「……え、どうしたの急に。」
「ちょっと気分転換にさ、三重行こうよ!三重!」
「……三重?」
「採用された先方が三重にあってさ、ヒアリングついでに行きたいし、新幹線とかの方が作業捗るんだよね!松阪牛食べに行こうよ!」
「………。」
ヤバい、コイツ何言ってるか分からない。
なんでこんなにスペック高いの?あ、私も博士号取りかけたか……いや、取ってないからせいぜい売れないバンドマン程度の価値しかないから説明になってない。
「……お、奢りだからな。」
「うん!」
弟は背は高くなったのだけど、昔から姉ちゃんっ子で人懐っこい表情でウキウキとしていた。
彼は右手にアップルウォッチをつけて、外出の準備をする。
「……よし、出かけるか。」
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私はいつもの服装で三重に行く準備をする。
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