僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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完璧弟と白衣の姉と

11話

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帰り道の公園は妙に湿気が多くかつ、いつもより気温が高いのが影響したのか霧が濃かった。

少し気は紛れたけど、凛に心配かけすぎたかもしれない。ラインが幾つか通知を貯めるほど私は彼に会う後ろめたさが強くなって、公園で1人ベンチに腰掛けていた。

思えば私はたまにひとりになりたい時は、いつもここにいた気がする。
今月は既に12月、もう今年も終わりかけというタイミングで私は時の過ぎ去りの速さを痛感していた。

「私……来年は30になるな。」

20代最後の1年がもう少しで終わりかけなことに気がつく。
定職らしき定職にも就かず、適当に生きて適当に死ぬ。
どうにも回転の早すぎる頭は先の不安を駆り立てていた。
そして、ひとつの疑問にまとまっていく。
私、このままでいいのかな?なんて……。

すると、1人の女性が隣のベンチに座るのを見つける。
金髪で、私と同い年か少し上くらいの女性だ。
どうやら、ジョギングの最中だったらしい。

「あー!つかれた!でも全然痩せる気がしない!」

独り言がでかい……。
そんなに太ってるのかと女性を見ると全くそんなことはなかった。
スタイルはいい方で痩せる必要あるのか?なんてツッコミたくなる。
でも、私は妙にその女性の容姿を見てピンと来てしまった。

「……あ……あの!!」
「うわ!?びっくりした~!」

女性はあどけない表情でこちらを見つめていた。
肌は褐色で、どこか自信に溢れたその表情には覚えがあった。
そう、かつて世界の理不尽さに悶えた時に私が夢中になった伝説のAV女優、橘遥香にそっくりな女性が目の前にいたのだった。

「こんな時間に人居たんですね!もしかしてお取り込み中でした?」
「……いえ、そんなことは無いです。」

女性はにこやかに私に近づいてきた。
私とは違う、まるで太陽のように明るく、そして温かい雰囲気はインタビューの彼女そのものだった。

「……あの、知ってる女優さんに似ていたので。」

まだ確信は持ててなかったので、いきなりあなたAV女優ですか?なんて聞けなかったので私はジャブ程度に彼女に聞いてみると思いのほかそれが彼女に衝撃を与えていた。

「え!?私の事認知されてる方ですか?嬉しい!男性は多いけど女性はあんまりいないから……!」

どうやらドンピシャだったらしい。
予感が確信に変わって先程まで霧がかってる白黒の世界が妙に夜景に代わり少し彩るように見えてしまった。

「……もしかして、橘……遥香さんですか?」

すると、女性はゆっくり頷いてへへんと誇るようにわらっていた。

「元ね!今は普通に主婦してます!」

私には衝撃だった。
元AV女優……人によっては黒歴史にする人もいる業界だと言うのに、彼女はそれを誇っていた。
それを見て、やはり彼女は一流なのだと思い知らされていた。

「あ、良かったら隣座ってもいい?」
「……どうぞ。」

私は彼女を見て少し懐かしがる。
研究職を離れては私は彼女の作品に没頭していた。
演技とか、様々な彼女のジャンルを追っていたけど、共通して彼女はどんな目にあっても楽しそうだった。
私はそんな彼女のことが好きだった。

妙にその追憶が緊張感を走らせる。
そんな人物が、今隣に座っている。
そう思うと心拍数が上がり、次の言葉が詰まってしまうようだった。
何を話せばいい?そんな人に今の私を見せてどうなる?それほどまでに彼女は大きかった。

「お姉さん、名前はなんて言うの?」
「……佐々木結愛です。」
「結愛!?めっちゃ可愛い名前じゃん!」
「……いやいや、可愛いのは名前だけですよ。」
「そんな事ないわよ!小柄で、可愛くて羨ましいな~!もし娘がいたらそういう名前にするのもありだったかも。」

そういえば、彼女主婦と名乗っていた。
今は何してるんだろう。
というか、そこまで聞いて良いのだろうか?

「……今お子様がいらっしゃるのですか?」
「うん!高校生位のがね!ほらみて!この子直輝っていうの!」

すると、彼女は頼んでもいないのに息子の写真を見せてきた。少しあどけない表情をしている少年の姿が鬱陶しそうにこちらを見つめていた。

「……ってことは、AVは子育てしながらやってたんですか?2000作品くらい出てましたよね!?」
「え、結構私に詳しいわね。」
「……昔あなたの作品よく見させてもらってました。」
「うわー!嬉しいな!……あの頃大変だったけどめっちゃ楽しかったなー。」

そう言って彼女は遠い目をしていた。
きっと楽しかったことや辛かったことなどを思い出してるのだろう。
研究1本で今は空っぽな私とは大違いだった。

「結愛さんは今何してるの?」
「……今は、ちょっと家出中です。」
「あはは、実は私も!最近バクバク食べてたら直輝に太った?なんて言われてムカついたから今日はダイエット家出してるんだ!」

すると彼女は近くの自販機で缶コーヒーを2本買うと1本私にくれた。

「ほれ!お姉さんからの奢りだ!」
「……どうも。」
「逆に……結愛ちゃんはどうしてこんなところで座ってるの?」

私はふとなぜ座ってるか考えたがよくわからなかった。
この霧のように不透明で、なんとも言えない不安や焦燥感で離れてただけだった。

「……私、元々研究職をしてたんですけど、紆余曲折あって辞めて今は弟に半分養ってもらいながら仕事してるんです。それが……結構惨めで。」
「うんうん。」
「……最近同僚とお茶会をしたんだけど、私にも見せない面を見せたりして、私が弟の人生の足枷になってないかとか……考えちゃったら顔を合わせるのも辛くなりました。」
「そうなんだ。」

しばらく、沈黙が流れた。
こんな小さな悩みをこんな大きな人に話していいのかと、悩んだけど妙にしっかりと聞いてくれてるせいかポロポロと自分の思いを打ち明けてしまう。

「結愛ちゃんは、弟さんは好き?」
「……大好きです。こんなどうしようもない私を、いつも助けてくれるから。でも、だからこそ負担になってないかと。」
「弟さんは多分、その気持ちだけで十分じゃないかな?」
「え。」

私は固まってしまう。
凛はそれだけで十分なの?迷惑しかかけてないのに、姉として何もしてやれてないのに。

「私もAV入って、息子のために必死に働いたけど……息子が実はいじめを受けてたりとか、悩んでることに気がついて上げられなくてついには不登校になった時期があったんだよね。」

確かに彼女は多忙だった。
きっと、金を稼いで何不自由ない生活をするのが正解だと思ったのだろう。

「でもね!なんか……きちんと息子と向き合うようにして、たまに頼ったりするとすごく嬉しそうにしてくれるんだよね。家族って……そういう何かしてあげるっていう事じゃなくて、小さな日常に感謝して信じ合えればそれでいいのかな?なんて最近思うようにしてるんだ!」

当たり前のようで、核心を突いているようだった。
凛は、確かに楽しそうだった。
ご飯作る時も、仕事の愚痴を言う時も、私の失言にツッコミをする時も……どんな時も彼はどこか楽しそうだった。

スマホの通知がなる、しばらくするとまた通知が鳴るのを感じると私は何をするべきかはっきりとした気がした。私は咄嗟に立ち上がる。

「……ありがとうございました。私、帰ります。」

すると遥香さんも、うわははと陽気に笑い出して立ち上がり伸びをした。

「うん!それがいいかも!さーて……私も直輝に晩飯作ってやるかな~。あ!そうだ……!」

すると、伝説のAV女優はスマホを出して私に差し出した。

「ねえ!今度また愚痴トークしようよ!私の連絡先渡すからさ!意外と主婦は暇でね~また結愛ちゃんのこと教えてよ!」
「……はい!」

私は彼女と連絡先を交換して、そのまま彼女と別れて自宅を目指す。
霧がかってる公園は完全に晴れていて、逆に湿気がないからか冷え込んでくる。

私も、あの寂しがり屋な弟に顔を見せてやろう。
重くドロっとした気持ちはまるで小さくなり……私の足すらも軽くなっていった。
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