彼岸花

結紬

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悲しい思い出

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「行ってきます」

私はあの日、その一言を言わなかった。

それをきっと永遠に後悔するだろう。



その日は寝坊をしてしまい学校に遅れそうだった。
それをお母さんに当たってしまった。
お母さんは何も悪くないとわかったいながら。でもあの時は焦っていたせいで怒りやすくなっていたのだろう。
朝ごはんを急いで食べて、学校に行く準備をしていると間に合うか間に合わないかギリギリな時間になったしまった。お母さんはその時しつこく忘れ物はないかと、今日は届けることもできないと言ってきていた。
「わかってる!忘れ物もないから!」
そう言って私は怒鳴ってしまった。
家を出る時お母さんに呼び止められてどうせくだらないことだろうと思って無視しようと思った。でももし大事な音だったらどうしようと思って聞いた。
なのに内容は今日は妹の誕生日だから寄り道しないで帰ってくることの念押し。そこまで大事なことではなかったこと、少しではあったが時間を無駄にしてしまったことへの遅刻してしまうのではないかという焦り、お母さんに対して多くの負の感情が湧き出て無言で、しかも強くドアを閉めて出てしまった。
学校もギリギリ遅刻してしまい、その日はイライラしたまま過ごしていた。
帰りに友人にちょっと本屋によろうと言われた。朝お母さんに言われた言葉を思い出したが、本屋に少しよるくらい大丈夫だろう。そんな浅はかな考えをしていた。
気になっていた本を買えた私は朝のことなど忘れていた。
家に帰ると妹から「遅いよ、お姉ちゃん。いつもどうり帰ったならこんなに遅くないじゃん」とムスッとしながら言われた。
お母さんは私を待ってる間に買い物に行ったらしい。まだ帰ってきていなかった。

…………………………………

遅い。お母さんが帰ってこないのだ。
私には早く帰ってこいと言っていながら買い物にこんなに時間をかけるなんて。妹はソワソワと時計を見ながら待っている。
そんな時に1本の電話がかかってきた。
その内容は
「お母さんが事故にあった」
という言葉。頭が真っ白になった。お母さんが居なくなってしまうかもしれないという事は考えたことなんてなかった。
妹を連れて病院に行った。お父さんも駆けつけて手術が終わるのを待った。
だけど、お母さんは亡くなった。
お母さんが事故にあった場所はいつも行っているスーパーの近くではなく、そこから近いコンビニだった。お母さんは私を怒らせてしまったからと私の好きなパンを買っていたのだ。私は泣いた。膝から崩れ落ちて大きい声を上げて泣いた。
ごめんなさい。ごめんなさい。
「行ってきます」それはどこに行っても無事に帰ってくるという意味を持つ。
「行ってらっしゃい」は無事に戻ってください。
こんなに大事な言葉を私は言わなかった。聞かなかった。
イライラしていたのはただの八つ当たりなのに。お母さんは何も悪くなかったのに。今はもう言えない言葉が頭の中をぐるぐる回る。
ふと顔を上げると泣いている妹が見えた。そうだ、今日は妹の誕生日なのだ。私のせいで妹の大切な日をお母さんが亡くなった悲しい日にしてしまった。お母さんが亡くなったのはいわば私のせいだ。妹を抱きしめてまた泣いた。
ごめん。ごめんね。
そうずっと言い続ける私に妹は、お姉ちゃんのせいじゃないよ。と私に抱きつきながら、泣きながら言った。

その日から私は必ず「行ってきます」という言葉を言っている。あの日言えなかった言葉を。また後悔しないように。自分の大切な日に少しだけ笑顔が減る妹にケーキを買って、お父さんは花を買って。すぐに家に帰る。

私はあの日の自分の過ちを忘れない。後悔を絶対に忘れてはいけない。

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