彼岸花

結紬

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独立

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「よしっ」

俺は今日から一人暮らしをする。
親元を離れて暮らすということに不安はあるが楽しみだ。
仕事が安定したら母さんのところに顔出しに行こう!




そう思っていたのは今から2年前。
仕事が忙しくて実家には1回も帰れていない。俺が入った会社は俗に言う「ブラック」というものだった。
仕事は失敗続きで上司には怒られて、同僚にも冷たい目で見られる。毎日身体的にも精神的にもクタクタだ。

自分が何をしたかったのかなんて忘れてしまった。何がしたくてこの会社に入ったのか、一人暮らしをし始めたのか。
もう、やめてしまいたい…。
でも今辞めたらみんなに迷惑がかかってしまう。ただでさえ今でも迷惑しかかけていないのに…。
俺は人に迷惑をかけることしか出来ない。

思えば俺は昔から人に迷惑をかけて生きてきたと思う。
母さんは俺を女手一つで育ててくれた。母さんは、朝早くから夜遅くまで働いていたのに俺はずっと我儘を言っていた。それなのに母さんはどんなときも俺を笑顔で受け入れてくれた。俺が学校で喧嘩をして相手を傷つけた時も、教師に嫌われてカンニングを疑われた時も俺の味方だった。
自分の子供で血が繋がっているという理由だけで無条件に愛してくれた。もちろん怒る時もあるがその時は俺を思ってくれているというのが言葉の節々から伝わっていたことが今では分かる。
どんなに仕事が忙しい時も俺の誕生日や入学式、卒業式の日には休みを取って俺と一緒にいて祝福してくれた。

なのに今では2年も顔を見せないなんて…。俺はとんだ親不孝者だ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
母さんが倒れた。過労だそうだ。
昔から仕事ばっかりしてて今まで倒れなかったのが不思議なくらい。
俺はやっと母さんに会いに行った。母さんは家を出る前に見た時よりも痩せていた。
「もう歳だ。よる年波には勝てない」と笑っていたが、俺は夢を見ているかのように感じていた。
あの元気だった母さんが倒れた。しかもこんなに痩せてしまっている。
俺は泣きそうになった。そんな俺を母さんは笑った
「何、泣いてんの?あんたらしくない」
いつものように、元気に、バカにするような感じで。
俺はそれにまたきつく言い返してしまうんだけど。普通にいつも通りの母さんの様子にほっとする。
俺はそれで気が緩んで会社や人間関係について愚痴をこぼした。
母さんは静かにそれを聞いて俺に「続けていけないようなら、その会社にいて体を壊すようならやめてしまえ。迷惑なんて考えるな。確かに人に迷惑をかけることはいいことではないけど、自分の心身の体調が1番大事だ。それを聞いて心配しない親はいない」と、そう言った。
その言葉にハッとした。俺は昔から人に迷惑をかけてきた。だけどそんな俺をいつでも見捨てず、支えてくれた母さんのように誰かの絶対的な味方になりたいと思い、まずは1人で生きれるようになろうとしたのだ。
母さんはやっぱり凄い。俺が忘れてしまっていたことを容易く思い出させてくれる。
俺は母さんが心配だったが上司はそれを許してくれず会社に戻り仕事をした。
今俺がやっている仕事が終わったらこの会社をやめて他の仕事を探そう。
そう決めて。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

それから月日は流れ、俺はその会社を辞め転職した。そこは前の職場と違いちゃんと休みを取れたし母さんにも定期的に会いに行けた。
母さんに心配かけまくって、迷いまくってどうしようもない俺はもうすぐ子供が生まれる。妻と母さんは仲が良くて噂に聞く嫁姑問題は無いようだ。さすがだと思う。
俺の妻になってくれた人は優しくてでも自分を持ってる強かな人だ。
俺を選んでくれた妻を幻滅させなために、産まれてくる子供の立派な父親になれるように俺は自由に、俺という者を見失わないように生きてく。
もう見失ってしまわないように。
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