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ワールドパンデミック編
八章 影二と優一 その2
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パンデミックが起きる、1年前のクリスマス。
母親が死んだ。
母は、ニューワールドという大企業に勤めており、その会社の実験により死亡。研究中の事故死という扱いになっていた。
元々女手1つで2人の子供を養っていたので、給料が高いところに行かなければならなかった。
母は毎日、どんな仕事をしているのか。それを教えてくれることは無かった。日に日に家にいる時間も短くなっていき、とうとう、この世界からいなくなってしまった。
「兄さん……僕達……どうすれば」
「心配するな影二、兄貴に任せておけ」
「うん!」
兄の言葉からは、いつも勇気を貰える。なぜなら、たくましいからだ。何事にも物怖じせず、立ち向かっていく、兄の姿に、影二は憧れを抱いていた。
それから数日経ったある日。優一の体に異常が起きた。脳梗塞で意識不明の状態。手術が必要らしい。
影二は恐怖した。もし、兄さんまでいなくなったら……。
頭の中で、そんなことを思いたくない。そう思っていたいのに、不思議と頭を何度も何度もよぎる。
「兄さん……置いていかないで……」
今にも消えそうな声で呟いた時、手術中と書いてある赤いランプの光が消えた。
扉が開かれ、眠る兄の姿が視界に入る。
「兄さん……兄さん!」
今にも兄の生死を確認しようと近づこうとする。だが、それは院長に止められてしまう。
「落ち着いて……大丈夫。手術は成功したよ」
「本当……ですか?」
「ああ。もちろん。君のお兄さんは生きている」
「よかった……」
この時、影二はまだ知らなかった。この病院がニューワールドという大企業と繋がっていることに……。
「モルモットの様子はどうだ?」
「ノアさん……はい。手術は成功。恐らく1352番は人間を遥かに超えた身体スペックを得たことでしょう。覚醒は恐らく明日かと……」
「そうか、ご苦労」
ノアと呼ばれた男は、優一の病室に向かう。
そして、歩きながら小さな声で呟く。
「実験は成功だ、アナザー……」
次の日、エイジは兄の様子を見に、病室に入ると、優一が目を覚まし、外をじっとみていた。
「兄さん!」
心の底からの安堵で気づかなかったが、脳梗塞の手術が終わって1日で目が覚めるなんて、おかしな話だ。
「影二……か?」
「うん!そうだよ」
思えばこの時、もっと周りを見ればよかったと思う。病室のベッドの下の大量の注射器にさえ、気づいていれば……。
2020年 12月24日。
いよいよ明日、兄さんが退院する。
心を弾ませ、病院の前に着く。中に入ろうとした刹那。非常に信じ難い事が、目の前で起きてしまった。
ガシャン!窓ガラスが割れる音と共に、1人の男が、12階から落ちてくる。
その人影を間違えるはずがない。
「兄……さん?」
異様な空気と共に降りてきた優一は、影二に目もくれず、横を通り過ぎていく。
とても人間の芸当では無い。
「兄さん!」
すれ違った兄の方を向いた時、目を見開いて驚いた。
兄が何処にもいないのだ。消えてしまった。
その日、何も飲まず食わずで街中を探し回ったが、兄の姿を発見することが出来なかった。
次の日も探し回ったが、パンデミックという事件により、捜索不能。生き別れてしまったのだった。
母親が死んだ。
母は、ニューワールドという大企業に勤めており、その会社の実験により死亡。研究中の事故死という扱いになっていた。
元々女手1つで2人の子供を養っていたので、給料が高いところに行かなければならなかった。
母は毎日、どんな仕事をしているのか。それを教えてくれることは無かった。日に日に家にいる時間も短くなっていき、とうとう、この世界からいなくなってしまった。
「兄さん……僕達……どうすれば」
「心配するな影二、兄貴に任せておけ」
「うん!」
兄の言葉からは、いつも勇気を貰える。なぜなら、たくましいからだ。何事にも物怖じせず、立ち向かっていく、兄の姿に、影二は憧れを抱いていた。
それから数日経ったある日。優一の体に異常が起きた。脳梗塞で意識不明の状態。手術が必要らしい。
影二は恐怖した。もし、兄さんまでいなくなったら……。
頭の中で、そんなことを思いたくない。そう思っていたいのに、不思議と頭を何度も何度もよぎる。
「兄さん……置いていかないで……」
今にも消えそうな声で呟いた時、手術中と書いてある赤いランプの光が消えた。
扉が開かれ、眠る兄の姿が視界に入る。
「兄さん……兄さん!」
今にも兄の生死を確認しようと近づこうとする。だが、それは院長に止められてしまう。
「落ち着いて……大丈夫。手術は成功したよ」
「本当……ですか?」
「ああ。もちろん。君のお兄さんは生きている」
「よかった……」
この時、影二はまだ知らなかった。この病院がニューワールドという大企業と繋がっていることに……。
「モルモットの様子はどうだ?」
「ノアさん……はい。手術は成功。恐らく1352番は人間を遥かに超えた身体スペックを得たことでしょう。覚醒は恐らく明日かと……」
「そうか、ご苦労」
ノアと呼ばれた男は、優一の病室に向かう。
そして、歩きながら小さな声で呟く。
「実験は成功だ、アナザー……」
次の日、エイジは兄の様子を見に、病室に入ると、優一が目を覚まし、外をじっとみていた。
「兄さん!」
心の底からの安堵で気づかなかったが、脳梗塞の手術が終わって1日で目が覚めるなんて、おかしな話だ。
「影二……か?」
「うん!そうだよ」
思えばこの時、もっと周りを見ればよかったと思う。病室のベッドの下の大量の注射器にさえ、気づいていれば……。
2020年 12月24日。
いよいよ明日、兄さんが退院する。
心を弾ませ、病院の前に着く。中に入ろうとした刹那。非常に信じ難い事が、目の前で起きてしまった。
ガシャン!窓ガラスが割れる音と共に、1人の男が、12階から落ちてくる。
その人影を間違えるはずがない。
「兄……さん?」
異様な空気と共に降りてきた優一は、影二に目もくれず、横を通り過ぎていく。
とても人間の芸当では無い。
「兄さん!」
すれ違った兄の方を向いた時、目を見開いて驚いた。
兄が何処にもいないのだ。消えてしまった。
その日、何も飲まず食わずで街中を探し回ったが、兄の姿を発見することが出来なかった。
次の日も探し回ったが、パンデミックという事件により、捜索不能。生き別れてしまったのだった。
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