主人公達へ

マシュマロン

文字の大きさ
11 / 11
ワールドパンデミック編

十章 彼にとっての救済

しおりを挟む
兄さんを倒す方法。それは緑の協力が必要不可欠である。

「……これで頼めるかい?」

「任せて、でも、この規模だと、持っても10分。それ以内に倒して」

「十分すぎるくらいだよ」

身体スペックで勝てないというのなら、能力の応用で倒すしかない。
今だその場を動こうとしない優一に、視線を向ける。

「行くぞ!」

「うん!」

「シャドウスケート」「ナチュラルクイーン」

2人の声がピッタリ重なる。それと同時に影二は優一に向かって走り出し、緑は地面に手をつけ、能力を発動させる。

2つのタワーマンションを繋ぐように、5階部分から縄状になるように根をはやす。
すると、広範囲全てにクロスするように影が出来上がる。その出来上がった影に影二は身を潜めて近づく。

「ちっ、届かないな」

「それも計算のうちさ!」

わざわざ高い所に根を張ったのは、優一に触れられて向きを変えられないようにするため。

優一の背後に出現し、頭部を狙ってストレート。優一はそれを、難なくかわす。代わりに身をよじり、左手を地面につけ右足で影二の顎めがけて蹴りあげる。

影二は、体制が崩れている。これをかわすことは……容易い。

あえてもっと体制を崩す。この回避方法は誰も使わない方法だ。何故なら、これを使うと、次の一手が遅れるため、かわしたところでなんの意味もないからだ。

でも、今は状況が違う。

「!?」

スレスレで蹴りを交わしたあと、再び影に潜む。これにより追加攻撃をうける心配はない。

再び背後に周り、今度は優一の膝目掛けて蹴りを狙う。

次は反応が遅れたようで、鮮やかに蹴りが決まる。

ーーいける!

思考が加速。次の一手。かかと落としが決められる。そう思った矢先、思いがけないことが起こる。

優一は崩れた体勢からムーンサルトを鮮やかに決める。

「がぁ!」

体制が崩れるのを防ぐと同時に顎へのカウンター。再び影二が膝から崩れ落ちてしまう。

「これで終わりだ」

振り下ろされる腕。揺れる視界で影二はその拳を捉える。まだ……だ!

ーー負け……るか!

顎を蹴られた痛みが残るが、逆にその痛みが戦意を加速させた。

刹那の状況判断。やつの腕が振るわれて直撃したら恐らく僕は死ぬ。かわすには距離が近すぎる。ならば……。

腕1本折れる覚悟で行くしかない。だが、体勢が悪い。一か八かだ。

振り下ろされた腕を、左手を犠牲にガード。
骨が粉砕される音がこの場に響き渡る。痛みを感じている暇は、今の影二には無い。ただ……。

ーー右手で殴るだけだ!

「うおおおおぉ!兄さん、思い出してくれ!」

思いを乗せた最大の一撃。狙いは1点。頭だけだ。

「ぐぁぁ!」

影二の拳は優一の脳天に届く。頭を狙ったので、意識が朦朧とし、地面に膝をつけた。

「にい……さん……」

兄を呼ぶ。それに答えるかのように優一が反応する。

「えい……じ……?」

「!」

どうやら、頭にダメージを受けた事で、記憶が戻ったようだ。その事実を知り、影二の瞳からは、自然と涙が零れ落ちた。

「えい……じ。すまなかった……」

「ううん……大丈夫だよ……。それよりも、何があったの?」

影二の問いに、優一は何があったのかを鮮明に思い出す。すると優一がハッとして、思い出した事を口に出す。

「逃げろ。奴らはお前達の仲間、明留を狙っている」

「明留を……どうして?」

「確か、それは12人のーーー」

優一が何か言おうとした時、銃声が響く。

「え?」

その銃声とともに、優一は地面に倒れた。綺麗に脳天を撃ち抜かれている。
つまり、即死だ。

「うそ、兄さん……」

「影二君!」

緑がこちらに急いで近づいてきて声をかけてくれるが、影二の耳には届かない。

「兄さん!兄さん!」

嗚咽の混じった声で、兄の名を叫ぶ。当然、倒れた優一が反応することは無い。

「影二君、落ち着いて!」

緑が影二を抑えるが、抵抗をやめない。

「はな……せ、離せよ緑!兄さんが!」

「今は敵に狙われているんだよ!隠れないと!」

「く、離せ!」

尚も抵抗を続ける影二。こうなっては致し方ない。

「ナチュラルクイーン!」

ナチュラルクイーンで催眠花を咲かせ、影二に匂いを嗅がせる。

「兄さん……兄さ……にい……に……」

意識が薄れている中でも、ずっと兄の名を叫び続けていた。緑は少し罪悪感を覚えつつも、今は身を守ることを優先する。
 
「ナチュラルクイーン!」

周りに大樹を作ることで自分たちが狙われないようにする。

「これで、大丈夫……。後は影二君が落ち着くまで……」

緑は影二の頭を膝に乗せて、敵が去るのをじっと待ち続けた。



「アナザー様、1352番の始末、完了しました」

狙撃銃を構えた黒髪の女は、無線で通信をする。

「ご苦労さま。戻ってこい」

「了解しました。ですが、1352番を始末して本当に良かったのですか?」

「ああ。もうそいつには用はない。既に量産は出来ているのだからな……」

「なるほど……。それでは、帰投します」

黒髪の女は狙撃銃を背中にかけ、その場から風と共に消えていった。


名前 影二

能力 シャドウスケート

能力レベル 5

影に潜む能力。影の中の移動速度は通常の約2倍。代わりに体全体を力で覆わなければ、異次元に吹っ飛ぶので、注意が必要。


名前 優一

能力 フルリフレクション

能力レベル 6 

両手に虹色のオーラをまとい、触れた能力の向きを変化させることが出来る。ただし、自分に危害のある攻撃しか、向きを変えられない。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...