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 つい先ほど、ある国があっけなく滅んだ。

 その国は王がおらず、代わりに有力な権力者が沢山いた。その権力者同士が闘争に励んだ結果、皆政治を怠るようになり不満が爆発した民衆に革命を起こされたのだ。

 新たな王の選出。
 革命の主導者であるアニサキスは考えた。この国は絶対権力者である王が居ないからたった3年で滅んだんだと。

 だが私は王の器では無い、それよりも宰相の方が我が実力を発揮出来るだろうと自覚している中でどうしようかと思案していた時、ふととある物が目に入った。

 ちょうどそこに都合よく岩盤に突き刺さっている剣がある。たしかそれは前の前に存在した国の王が使っていたとされる王剣だ。これを抜いた物は王の素質があるとされる伝説があるが……

 刹那、アニサキスが選択した行動は……

「よし王を決める大会をするぞ!」

 やることが決まったなら話は早い。剣を抜いた人が王になれるというタレコミを流し参加者をつのることにした。

 こうして世界中から荒れくれどもが集う大会が行われることとなったのである。



       ◇



 時は飛んで大会は大詰めに来ていた。

「フン。自称怪力自慢の有象無象共めが。もはやワシともう1人しか残ってないではないか!」

「アイツは世界最強と謳われているリ•チョウ! アイツならもしかしたら!」

 リ•チョウは『うんとこしょどっこいしょ』とかけ声をかけて剣を抜こうとしますが、悲しいかな。岩盤と一体化しているのかと疑うレベルで剣は岩盤深くに突き刺さっており、抜けないどころか全くビクともしない。

「無理だぁぁぁぁ!」

「あのリ•チョウでもダメだと!?」

 あの世界最強の怪力で知られるリ•チョウですらダメだった所を見届けた審判のアニサキスはため息をついて最後の挑戦者の名を呼ぶ。

「どうした? ここに勇者はおらんのか? この剣を引き抜いた者が次の王となるのだぞ。最後はアーズヴェルドという青年か」

「なあお前やってみろよ」

「無理に決まってるだろ。さっきのゴツい奴だって無理だったんだぜ」

「力だけじゃ抜けねぇよ」

 最後の挑戦者アーズヴェルドが民衆を掻き分けながら剣の前に対峙する。アニサキスはその青年の発言に不思議と興味を持った。

「ほう、そなたは力の他に必要な要素があると考えてるのかい?」

 アニサキスの問いにアーズヴェルドはこう答える。

「選ばれし者なら力などなくてもおのずと剣は抜けるってことよ」

 アニサキスは唸った。逆になんて説得力のある身体だと。筋肉はまるで皆無でありまるで枯れ果てたもやしのような体型。権力者にありがちなカリスマもありそうにない。そんな奴がよくもまあそんな自信があるものだなと思わずアニサキスは嘲笑していた。

 しかしそれとは別にして、この者が言ってることも間違ってはないだろうともアニサキスは思っていた。

「だがこの者の言うとうり、今までの力自慢が挑んではすごすごと帰っていった。この剣は王選定の剣、単純な力では抜けんのだ!」

 数多の挑戦者が沈んできたのを観てきた民衆は、この青年に対して懐疑的な目で見ていた。最後の挑戦者がこれじゃ、次に起こす国はまた共和制だなと言い始める者すら現れるほどだった。

 そんな圧倒的アウェー感漂う空間に立たされて居るはずのアーズヴェルドはというと自信を全く崩さず元気に指示を飛ばしている。

 アニサキスはその様子を見てこの青年は思ってたより骨がありそうだと感じていた。だがどうやって抜く気だと思案していると、突然アーズヴェルドは右手を高く掲げそして語りだす。

「確かに力だけじゃ無理だろう。だが準備を怠らなければいいのだ!」

「準備とはなんだ?」

 アニサキスの問いにアーズヴェルドは一切耳を貸さず、右手でビクトリーマークを作りそれを天高く掲げ、左手で剣を指差しこう叫んだ。

「おまえらかかれー!」

 アーズヴェルドの掛け声に応じてバケツに水を入れている部隊100名、ハンマー部隊50名が次々と岩盤下へ集まり作業を開始していた。

「なんだコイツら!?」

「おい待て! コイツら周囲の地面を水で柔らかくしてるし、剣が立ってる岩盤もハンマーで削ってるぞ!」

 アニサキスは唖然しつつ目の前の状況を静観している。厳密には、アニサキスの頭の中が絶賛混乱中であり出来事を理解していないのが正解である。

 当の本人アーズヴェルドはというと、パラソルがついている玉座を模様した椅子に座ってジュースを飲みながら指示を飛ばしていた。

「おまえら、やりすぎるなよ。あくまで『引き抜く』必要があるんだからなぁ」

 そんな状況に民衆も黙ってるはずはなくアーズヴェルドに対して猛烈な野次が飛んでくる。

「きたねーぞ!」

「そんなのありかよ!」

「うるせ~ぞ! このクソ凡骨共!」

 アーズヴェルドはそんな野次にも負けずに野次に野次を返しつつも、自身の持論を展開しだす。

「王になるためにはこういう知恵と決断力が必要なんだわ! あと凡骨共は準備にいちゃもんつけているが、おまえらはあした必要な物を事前に荷物に入れたりとか準備しないんか? してない奴は今日からでもした方がいいと俺は思うけどなぁ!」

「ボス、このくらいでいかがでしょう」

「ハハ、コイツはいい! もうそこら辺にいる子供でも引き抜けそうじゃねぇの!」

「もう力いらねぇじゃん」

 このまま王の座はアーズヴェルドの手に渡ってしまうのか? 後半へ続く。


 
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