華の運命

夜ト

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この世界

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「雪音」
「…嶺嗣様」

雪音のポタポタと水が滴っている髪の毛をタオルでそっと吹く、嶺嗣にギョッとした目を向けて、2人は震える声を絞り出す。
メイドごときが天下の帝に、意見をいう事は処刑ものだが、恐れを噛み締めて声をだすのが痛々し程分かりやすい。

「っ…私達が」
「帝様はお早くご準備を」

嶺嗣が雪音の世話役が持っている、襦袢を見て頷き、ポケットから簪を世話役に渡す。
首を傾ける雪音の額にチュッとキスをして、踵を返す。

「髪を少しだけ巻き簪でさせ」
「はい」


嶺嗣から渡された簪はピンク色の桜がユラユラと揺れる、桜の真ん中はダイヤモンドが埋め込まれている。

「まぁ綺麗でございますよ」
「さぁさぁ、行きましょう」

雪音をエスコートする様に雪音の手を引きハーレムのドアが開かれる。
ハーレムの外に出る事はなかなか無い上に今日は親友とも会える為、少し気分が浮かれる。

「…」

キラキラとザワっいていた会場が雪音の実現に気付き、シーンと静まりかえる。

そんな時人びとからヒョイと顔を除かせて、雪音を見つけてブンブンと腕を一生懸命振るう、手を振るうだけでも十分なのだが、よっぽど会えた事が嬉しいのだろう。

「硝華ーっ」

ぎゅっと硝華に抱き付く、雪音を大勢の華達や主達が冷たい目と暖かい2っの種類をした目で見る。
雪音より歳上な硝華は今年15に為ったばかりだ。
硝華は雪音の手を引っ張り、余り人が居ないバルコニーの方へ連れていく。

「雪音ーっ久しぶりだね」
「うん…硝華も元気そうだね」

雪音の顔が優れない事に気付き硝華は顔を曇らせる。
雪音の主である、あの人が雪音の体調に気付かないはずがないが…と思い一つの可能性に気づく。

「ーっまさか、ゆき…キミ」

雪音が硝華の次の言葉を言わせない様に慌てて遮る。
雪音が思っている事は、絶対に口に出してはならない…イヤ口に出さなくとも考えているだけで、罪に値する



「違うよーっ」
「今日はその為の御披露目会」

雪音と硝華が同時に言いお互いに首を傾ける。
雪音の言葉に硝華は少し嬉しそうに、顔を綻ばすが、雪音の方はどんよりと暗い顔を見せる。

「今日は雪音が椿になったんじゃないの」
「えっ」

雪音がハッとする、硝華の小さな声は雪音しか聞こえていなかったのは幸いだ、硝華は空気が読める上に頭もいい為言って良い事と言っては成らないことを理解してくれている。
硝華は何か大きな勘違いをしている事に雪音は気付き、小さな手で硝華が着ている振袖の端をそっと掴む。

「…なって、ない…なりたく」
「雪音」

ぎゅっと歯を食い縛る雪音にそっと雪音の背中を撫でる。
硝華も雪音が言わんとしている事を理解したらしい。

「雪音…それは、ダメだよ…雪音は幸せなんだよ」

雪音自身もそれは理解しているが、イヤな物はイヤだし怖い物は怖い。
雪音は普通の華よりもかなり恵まれている、将来の保障がしっかりとしているから。
貴族とて破産はある、破産すれば華を持っ資格は奪われる。
華は別の人に売られるだろう。
だが、雪音はそんな存在ではない。
雪音は選ばれし高価な存在。



「…硝華は…幸せ」
「幸せだよ…華ってだけで、普通の奴隷とは違う、選ばれたんだもん…華は」

華は愛されるべき、愛玩ペットだが薔薇・椿・蕾以外にも性奴隷は存在する。
華を持っ資格がない者と華は愛でる物だが、それでは満足いかない虐める為のただの性奴隷。

「…普通の人になりたい」

ボソリッと呟く雪音の後ろにハッとし顔を向けて、真っ青な顔になり頭を下げる。
雪音はそんな硝華には気付かないで、話を続ける。

「硝華は柴田様といて楽しい」
「華はそういう物だろう」

雪音の身体がガタガタと震える、雪音にしか分からない様に腰を折りの耳元に囁く。

「ーっ」
「みな、今日は集まってくれた事礼をいう、今日集まって貰ったのは外でもない、私の雪音の誕生会だ」

雪音の腰に手を回す、雪音が決して離れない様にキック抱き寄せる。

「…尚人様」

硝華がキョロキョロと会場を見渡し、主たる柴田尚人を探す。
雪音の様子がただならぬ様子だった、柴田は雪音の主たる、帝の護衛であり執事でもある柴田なら何か知っているはずだと。

「キャーッ」

ヨロッと誰かにぶつかり弾みで、硝華は飛ばされるが硝華の腕をぎゅっと掴む人物にパァーッと明るくなる。

「あっ…尚人様ぁ」
「危ないだろう…硝華」

硝華の顔が浮かない顔に



眉を寄せる柴田に、硝華が涙を貯めた瞳を浮かべてすがり付く。
そんな硝華の様子に、柴田は硝華の身体を抱き上げる。
ザワッと辺りがさわめく、それはそのはずだ硝華の主人柴田は帝の護衛であり、執事でもあり帝が信頼の証しにと、柴田が気に入った蕾を買い取り与えたのだ。

「硝華…どうした」
「ーっ雪音はーっ雪音は私たちとは違うのよ」

雪音の噂は華ならば誰でも知っている事だ、そして帝の執事である柴田も知っている事。
知っていても、手を出せない。
見ていることしか、出来ない。
口を開く事も、声に出すことさえ出来ない。
耳にする事も、聞くことさえ出来ない。



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