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なんとかすべきは上司と飲み会、他多数 8

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巨躯の男が膝をつく。筋肉の塊が地面に這いつくばる様は異様。
行政改革ギルドは、朝から重い空気に包まれていた。

「僕は……これまで人に法律違反を強いてきたのか……」

2メートルを超す山のような男は、今では小さな砂山と化していた。体中から負のオーラが立ち上り、執務室内をどんよりとしたじめじめの波動が伝播していく。会話をしていたザザは、大男が途端に小さくなる様に驚愕し過ぎたのかおろおろとするばかりだし、お嬢は我関せずと書類を黙々と処理していく。マカオもハラハラしながら事の成り行きを眺めていた。

「ザザ君、本当に申し訳ないことをした。謝罪をさせていただく」
「ええ!?い、いえ、そこまでのことは……」
「お詫びと言ってはなんだが、今夜君を飲み会に連れて行こうと思う。いいかな?」
「え?いや、今日は予定が入っているので……」
「何!?ザザ君、上司の誘いを断ろうって言うのかい!?」
「ええ!?やめて下さいよ!そんなこと言ったら”ハラスメントで犯罪”になりますよ!」
「おげえええええええええええ!!!!!」
「カイリキさん!!!!!」

砂山は地面に突っ伏し、完全に大地と同化した。土下寝状態だ。大地が息も絶え絶えに話す。

「の、飲み会の誘いもダメなのかい……?」
「さ、誘うこと自体は良いと思いますが、無理矢理誘って来なかったからと評価を下げるのは違法ですね。ついでに言えば、誘って断れない空気があるのも良くないです」

マカオとお嬢がピクリと反応する。
そして、項垂れる大地は下を向いているというのに、彼女たちの反応に気付いてしまった。気付いてしまったが故に、彼女らに声をかけてしまった。

「まかお…… おじょう……」
「「はい」」
「きのうの のみかい、じつは いきたく なかった?」
「アタシ、彼氏とデートが……」
「じ、実は、私も昨日は家族とディナーの予定が……」
「おぼろろろろろろろろろろろろ!!!!!」

大惨事。
執務室は、後悔の念に堪え切れなくなったカイリキのゲロの臭いが蔓延しており、ザザは限界が来た。

「と、とりあえず、部屋の換気をしましょう!!気分が落ち込むと良くないですし、うんこまみれの汚物の世界といえど、空気の入替は大事です!」
「ザザ君、この部屋に換気装置はないわ。換気するなら窓を開ける必要があるけれど、私たちの書類が飛んじゃうから、ここ数年開けたこともないわ」
「え!?換気装置ないんですか!?それも違法じゃないですか!!!この建物ヤバイですよ!!!」
「」

カイリキは死んだ。
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