異世界ギルドで業務効率化 ―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―

のちのちザウルス

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幕間 ―来週有給取ります―

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行政改革ギルドは、『入社時に10日間の有給休暇を付与する』という決まりになっている。


「来週の頭に休暇を取りたい?」
「はい、よろしくお願い致します」

したがって、ザザは早速もらった有給休暇を活用するべく、上司であるカイリキへ報告しに向かった。

「来週は飛び石で祝日があるので、そこにぶつけて4連休にしようと思いまして」
「なるほどね……」

ここで困ったのはカイリキである。ザザは『一体どこでそんな知識を学んできたんだ』とばかりに業務に対するノウハウ的な物を持ってはいるものの、基本的なビジネスマナーには疎いというのがカイリキの見解である。今この瞬間も、カイリキはビジネスマナーに欠けるザザに対し、どのようなアプローチでマナー違反を指摘しようかと悩んでいた。
一拍、二拍ほどで思考をまとめ、カイリキはザザに優しく話しかける。

「ザザ君」
「なんでしょう」
「君は社会人経験が浅いから知らないかもしれない。だから今のうちにきちんと教えておきたいことがあるんだ」
「はい、ありがとうございます。どんなことでしょうか」
「まずはあの週間勤務表を見てほしい」

と、カイリキが指差す。その先には、古ぼけた模造紙に全員の名前と出張先や打合せ等の日程が書かれた、所謂スケジュール表があった。
月曜日は誰の予定も入っておらず、火曜日は祝日、水曜日はカイリキが出張でお嬢が会議、1日飛んで金曜日はマカオが1日出張と記載されている。何も記載がなければ、基本的には内勤……すなわち机上業務で書類の処理を行うのだ。
カイリキはそのスケジュール表のある点を指摘する。

「月曜日、皆の予定はどうなっているかな」
「え?何も書かれていないので……机上業務をされるのかなと思いますが」
「そう。でも業務の内容は今問題じゃないんだ。大事なのは、僕もマカオもお嬢も、全員出社するってことなんだよ」
「ええ、そうみたいですね」

まるで他人事だ。カイリキは、どうやらザザが本当に理解していないのだということを悟り、やはり今のうちに説明せねばと言葉に重みを持たせて続きを話す。

「いいかいザザ君。社会人生活において、上司や他の先輩が休暇を取っていないのに有給休暇を取得するというのは、マナー違反なんだ」
「そうなんですか?」
「うん。だから、ザザ君が月曜日に休暇を取るのはホントはダメなんだよ」
「でも、法律では『会社側は社員の有給休暇取得を拒否してはならない』んですよね?それを拒否するんですか?法律違反じゃないんですか?」
「ぬああああああああああ!!!!」



「そうだったのか……なんてことだ……僕は、今まで皆の休暇取得を拒否してしまっていた……」

カイリキが非力になってしまい、会話もままならなくなって小一時間。
ようやく言葉を発するレベルにまで戻ったものの、口からは後悔と懺悔の言葉しか出てきていない。ともあれ、このままでは休暇を取りたいのに話が進まない。ザザは落ち着いたのを見計らって、おずおずと言葉をかけた。

「か、カイリキさん……お話しても大丈夫でしょうか?」
「ザザ君……僕は、法律も守れないダメなマッチョだよ……」
「お、お、おお落ち着いて下さい!!そんなに卑下することはありませんよ!それに、俺の休暇申請だって急な話でした。大体こういうのは1ヶ月くらい前に申請出すのがマナーですし……。そうだ、それに、ギルド側だって一応は拒否する権利がありますよ!」
「え、本当かい……!」

途端に顔に希望が宿るカイリキ。ザザは、まだ雲行きは怪しいように思うが、一応会話は出来そうだと判断した。

「はい、本当ですよ。時季変更権というやつですね。
 例えば、ギルドや商会の繁忙期に休暇を取りたいという人がいるとします。かき氷屋さんなんかが分かりやすいでしょうか。あれは夏が繁忙期、というか書き入れ時ですよね。一番の儲けられるタイミングです。むしろ冬は全く売れません。だから、商会としては夏に物凄く働いてほしいんです。それなのに、夏に従業員が休暇を取ると人工(にんく)が減って稼げなくなります。
 これを防ぐために、休暇を取得したい人に対して、商会側は休暇を取らないでくれと言うことができます。これが時季変更権です」
「じゃ、じゃあ、僕は法律違反ではないってことか!」
「話はまだ終わっていません。
 まず基本的なことですが、ギルド員や商会の従業員に限らず、働いている方には年次有給休暇が付与されるのはご承知の通りかと思います。この休暇は権利です。いついかなる時に取得しても良い権利です。ギルド等の側は拒否することはできません。
 先程の時季変更権というのは、『拒否ではなく時季の変更』です。本来なら従業員がこの日に取得したいと予定していたものを雇用主都合でやめさせて、別の日に取得させるというものです。細かな規定としては、休暇を取得することで業務に著しい不都合が生じる場合に申し入れできる、というような内容だったかと思いますが……まあ、詳細は別途法律を見た方が良いでしょう。
 ちなみに、カイリキさんは俺に休暇を取るのはマナー違反と仰ってましたが、別の日に取得させることは考えていらっしゃいましたか?」
「……いいえ」
「では、俺が休暇を取るのはマナー違反かもしれませんが、やはりカイリキさんの行いは法律違反だと思います」
「ぐはああああああああああ!!!!」

轟沈。巨漢は机に沈んだ。
ここだ、とザザは畳みかける。弱っている人に救いの手を差し伸べ、罪悪感を薄れさせていけ。心の中の悪魔が鎌首を持ち上げていく。

「どうでしょう。ここは罪滅ぼしも兼ねて、月曜日は全員休暇を取るというのは」
「……え?」
「そもそも、法律が改正されて『年間5日以上は必ず休暇を取得しなければならなくなった』んです。皆さん遅くまで働いてらっしゃいましたし、休暇は取得されていないのでは?」
「た、確かに今年は休暇は取っていないが……」
「では尚更です!休暇未取得という法律違反を犯さないように、月曜日は全員休暇にしましょう!
 マカオさん、お嬢さん。お二人ともお急ぎの仕事はありますか?」

くるりと振り返り、ザザは満面の笑みで先輩二人の方を振り返る。その顔に張り付いた邪悪なツラを見て全てを察したマカオは大声を上げ、お嬢はニヤリと笑う。

「ないわね!アタシは急ぎの仕事はないわ!」
「私もよ、まったく問題ないわ!」
「決まりです!カイリキさん、これはチャンスですよ」
「ちゃん……す」
「昨今、部下に休暇を適切に取らせるのがマナーとされているそうです。マネジメントというやつですね。ここでマカオさんとお嬢さんにも休暇を取らせて、法律とマナーを守っていきましょう!過去の失敗はここで洗い流せばいいんですから!」
「わかった。かいりき、みんなといっしょに、げつようび、やすむ」
「はい!それでは失礼致します!」

意気揚々とザザは自分のデスクに戻る。鼻歌混じりにカイリキの元を離れ、そのカイリキはもはや虫の息と化していた。(物理的に)大きな犠牲を払いつつも、こうして行政改革ギルドの休暇取得事情は改善される運びとなった。



月曜日、久しぶりに取得した休暇を有効活用し、マカオとお嬢は心身ともにリフレッシュしていた。
久々に自分の趣味に走り、「ああ、まだ休みが2日も残っている……!」とザザに感謝を述べていく。
一方のカイリキ。仕事一筋の彼にとって、休みというのは慣れないものであった。しかしながら、久しぶりの妻とのゆっくりとしたコミュニケーションが、仕事で疲れた彼の心を解きほぐしていく。
カイリキは大好きな妻ににゃんにゃんと甘え、最高の休暇を過ごした。
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