異世界ギルドで業務効率化 ―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―

のちのちザウルス

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幕間 ―ちゃんと引継書に書いていけ―

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新しい仕事を任された。
これまでこの仕事は団塊の世代であるジジイがやっていたわけだが、定年退職間近であることから退職前に別の担当者に投げることになったらしい。
ありがちな経緯を聞き、まあ定年退職なら仕方ないかと俺は引継書類を確認した。その時の気持ちはこうだ。

「クソがあああああ!!!!!」
「え?」
「なんだこの会社のトイレットペーパーにも劣るチリ紙は!!!!誰が作ったああああああああああ!!!??」
「わ、私よ」
「お嬢かああああああああああああ!!!!!」
「ひいいいいいいいいい!!!」



「も、申し訳ございません。取り乱しました……」
「いえ。こちらこそ、会社のトイレットペーパーにも劣るチリ紙を作ってしまってごめんなさいね」
「お嬢さん、もう許して下さい……!」

建築ギルドへ引き継ぐ予定の『水道設備の改良工事』業務。引継書類の作成方法について一日の長があるザザが、今回も書類を全面監修のもと各人に引継書を作らせていた。特に難航したのが、専門性の高いお嬢の業務である。ザザのかつての専門は電力分野であったため、建築関係には疎く、基本的にはお嬢の作成案で行こうと提案していた。
一応基礎工事のいろは程度は勉強していたし、配管工事の施工管理経験もあったことから、引継書がある程度完成してから指摘を出せば良いかと思っていたのだが――。

「で、でも、この書類はひどいです!あんまりですよ!」
「何があんまりなのよ!!!!」
「怒らないで!!パワハラですよ!!!」
「あんたの発言はモラハラでしょ!!!!!」
「はい、申し訳ございません」
「よろしいですわ。……私だってこういった書類を作るのは不得手なんです。ザザ君が詳しいのでしたら、優しく教えて下さいませ」



「建築ギルドのマニュアルですの?」

最初に確認したのは、引継書の中身ではない。他ギルドのマニュアルだ。

「おそらく、ある程度整っているはずですわ。中央ギルドに完工の手続きを出すものもありますし、規定に沿って書かなければ中央のチェックで弾かれますから」
「であれば、引継書はここまで細かく書く必要はありません。マニュアル化がされていれば、まずはマニュアルを読んで、どうしても理解できない点を引継書で確認することで業務は完結するはずですから」
「な、なるほど」
「建築ギルドでマニュアル化されている内容は削除しましょう。詳細はマニュアル参照とでも書いておけば良いです」

と言うなり、ザザはどんどん取消線を引いていく。
引継書は取消線だらけになり、残るは必要なことだけになった。

「この辺の考えは賛否両論ありますが、まあとりあえず良しとしましょう。問題は次です。例えばここの業務内容について見て下さい」

業務内容:
水道設備の老朽化部分についての調査
 ・トウキョー市街 大日本橋ポイント
 ・オーサカ市街  御堂筋ロードバイクライン
 ・ナゴヤバシリシネ区(特別スラム地区)

「何が問題なのかしら」
「5W1Hが書かれていません。情報量が少なすぎる、引継書あるあるです。
 誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように行うのか。その情報が必要です。先程伺った話によれば、トウキョー市街の大日本橋ポイントの調査は、中央ギルド管理区域にまたがっている部分もありますから、恐らく立会が必要なんですよね?」
「その通りよ」
「日程は調整済みですか?」
「まだよ」
「であれば、その調整が必要ですよね?オーサカ市街も、商人ギルド管轄の土地の地下を調査しますから、事前に書類申請がなければならない。その書類手続きは終わっていますか」
「まだよ」
「いつまでに書類申請をしなければなりませんか」
「確認していないわ」

堂々とし過ぎて笑うわ。

「今は閑散期ということもありますから、お嬢さんも余裕の対応をされていると思います。ですが、事前の書類申請を忘れていたら、業者の準備が良くても商人ギルドが対応してくれない、なんてことがあるでしょう。
 引継書に書いてほしいのは、定型化された仕事のやり方ではなく『5W1H』の情報です。特に『いつまでに』の情報は超重要ですよ。間に合わなかったり、忘れてましたなんてことがあったりしたら、後任の方の業務全体に影響が出ます」

確かに。と、お嬢はうんうん頷いている。
おめえ本当に分かってるんだろうな。

「この5W1Hを分かりやすく伝えるのが、業務フローチャートを作る方法です。俺は昔は現場の人間だったので、工程表と言った方が馴染みがありますが」
「ザザ君はここの職場が初めてじゃないの?」
「細かい話はいいんです。工程表、見た事ありますか?」
「ないわ」
「じゃあ、エンターネットで検索して下さい。あー、こんなやつね!って感じの画像がそれなりに出てきますし、テンプレート……他の方が作成された書類もゴロゴロ転がっています。便利な時代になったものです」



「できたわ!!!」
「流石です、お嬢さん。これなら俺は文句無しですね」

出来上がった引継書を見て、ザザは緊張を解いて破顔した。カイリキのチェックはあるものの、ここまで仕上がれば及第点以上だろう。
ザザの考えとして、引継書にはパワーをかけすぎるべきではない、というものがある。引継書はあくまでも業務の補助的に使うものであり、実務において書いてあることを100%使用するわけではないからだ。例えば、後任の担当者が死ぬほど優秀な場合、『何を・いつまでに』の部分さえわかれば、前任者以上に爆速で仕事を片付けるケースもある。逆に自分よりもへなちょこな人間が担当になることもあるが、それはそれ。業務引継をしたら、後は自分ではなく、後任の業務になるのだ。だからこそ――。

「最後に、絶対に引き継がないといけないことについて話します」
「え?もう引継書は完成じゃないの?」
「引継書に書くかどうか、俺はいつも任せてることですので」
「あらそう、一体何かしら」


「今抱えている業務の問題を全部白状して下さい」


引継書、それは往々にして、すべてが網羅されることはないのである。
※書類に書かなくても、今ある問題は必ず口頭でも伝えよう!!絶対だぞ!!

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