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幕間 ―ショートカット無しにタイムは縮まらない2―

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「だからショートカットキー使えってええええええええええええ!!!!」
「「きゃあああああああああ!!!!!」」

突然隣でザザちゃんが騒ぎ出すからびっくりした。いきなり耳元で大きな声を上げないで欲しいわ。ほら、お嬢なんか目を回してる。

「びっくりさせないでちょうだいよ!!」
「やはり我慢なりません。マカオさん、ちょっと“元に戻す”して下さい」
「元に戻す?いいけど、えーっと……」
「だからマウスを持つなあああああああああああ!!!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」



「お二人はCtrl+sの使い手だったので安心したのに、まさかここで俺を裏切ってくるなんて思いもしませんでした。今後“元に戻す“するときは『Ctrl+z』で行って下さい」
「ざ、ザザ君、マウスで『元に戻す』押すのはダメなのかしら」
「もし今後もマウスクリックで戻すなら、お嬢さんのココアにこっそり塩を入れます」
「地味!嫌がらせが地味!」

はあ、とザザがくっっっっっそデカいため息をつく。両手を上に軽く上げ、こんなことも分からないのかと首を左右に振る動作付きだ。あ、マカオのこめかみがピキピキいってる。

「いいですか。わざわざマウスを画面の左上の持っていってフロッピーマークを押して上書き保存しているのは、世のお局様と言われるババアたちだけです。この行為は若年層からしたら犯罪級の行いなんですが、それはショートカットキーを使用するよりも多くの時間を浪費するからです。”浪費”ですよ、消費じゃありません。あれ、こないだも同じこと言った気がするな。まあいいや。
 具体的に時間の話をしましょうか。『キーボードから手を離してマウスを握り、左上のフロッピーマークにカーソルを合わせて押す』までの時間を考えてみますね。カーソルがぴったり合わないこともあるでしょうから、平均で5秒かかるとします。一方、ショートカットキーの『Ctrl+s』を押して保存した場合、俺なら1秒もかからずに“元に戻す”できます。すると、俺はお二人よりも4秒多く別の仕事をしていることになりますよね。ショートカットキーを覚えるだけで、俺は4秒間の効率化をしているんです。え?たった4秒って言いました???なるほど、全然何も分かっていない人の意見ですね。
 せっかくですから別の話をしましょう。この“元に戻す”は、文書の編集作業だけでなく画像の貼付け作業、OutaCADのような他のアプリケーション等大体すべてに適用できるんです。『画像のサイズをマウスでドラッグして変える』→『気に入らないから戻す』なんて作業も、Ctrl+zなら一瞬です。 こういったその他諸々の作業のことまで考えると、一回の『元に戻す』行為あたり平均10秒以上の短縮に繋がるので、汎用性の極めて高い効率化と言えるわけですね。
 我々は書類仕事がほとんどですから、1日に20回くらいは、この上書き保存という行為をするでしょう。1日に20回くらいは、この元に戻すという行為をするでしょう。年間の稼働日を230日くらい(365日-(年間休日120日+休暇数=130日))と仮定すると、1日当たりの労働時間削減効果は、10秒 × 20回 = 200秒/日です。1年間当たりの削減効果は、200秒/日 × 230日 = 46,000秒/年 = 767分/年 = 12.8時間/年、大体13時間の時間外削減になるわけです。
 おっと!!まだ終わりじゃないですよ!『Ctrl+y』も覚えて帰ってもらいます。こっちのショートカットキーは『先に進む』ですね。さっきの『画像のサイズをマウスでドラッグして変える行為』を例に挙げると、「この文章消したけど、やっぱりこっちの方が良いかな?いや、やっぱりあっちにしようかな?」「画像のサイズ、どっちがいいかな?こっち……いや、あっち……やっぱりこっち!」なんてことをする時に役立ちます。元に戻す程頻繁に使用することはありませんが、およそ1日10回使うと考えれば、元に戻すの削減量12.8時間/年の半分として、先に進むは 6.4時間/年の時間外削減、トータルでは20時間/年の削減効果があるわけです!時間外の賃金を2,000バルク/時間とすれば、1人当たり年間4万バルク、うちのギルド員全員がショートカットキーを使うようになれば16万バルクのランニングコストをカットできるわけです!先日カイリキギルド長にはお教えしたのでバリバリ活用されているみたいですが、お二人はあの脳みそ筋肉ギルド長にパソコンで劣っているというわけですかそうですかそれはそれは可哀想に」
「「」」


翌日、行政改革ギルド員は他のショートカットキーをザザに聞きに行った。
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