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幕間 ―ショートカット無しにタイムは縮まらない―

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「ショートカットキー使えよおおおおおおおおお!!!!」
「うわあああああああああ!!!!!」

突然隣でザザ君が騒ぎ出すからびっくりした。いきなり耳元で大きな声を上げないで欲しい。僕上司だよ?

「ど、どうしたのいきなり!!」
「我慢なりません。ちょっと上書き保存してみて下さい」
「上書き保存?いいけど、えーっと……」
「マウスを持つなあああああああああああ!!!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」



「いいですか、今後上書き保存するときは『Ctrl+s』で行って下さい」
「わ、分かったけどさ、別にマウスで『上書き保存』押して保存してもいいじゃないか」
「もし今後もマウスクリックで保存するなら、カイリキさんのことを陰で“老害”って呼びます」
「なんでさ!僕ギルド長だよ!?」

はあ、とザザがくっそデカいため息をつく。両手を上に軽く上げ、こんなことも分からないのかと首を左右に振る動作付きだ。今、君の評価下がったから。

「いいですか。わざわざマウスを画面の左上の持っていってフロッピーマークを押して上書き保存しているのは、世のおじさんたちだけです。後でマカオさんとお嬢さんにも聞いてみて下さい。この行為は若年層からしたら犯罪級の行いなんですが、それはショートカットキーを使用するよりも多くの時間を浪費するからです。”浪費”ですよ、消費じゃありません。
 具体的に時間の話をしましょうか。『キーボードから手を離してマウスを握り、左上のフロッピーマークにカーソルを合わせて押す』までの時間を考えてみますね。カーソルがぴったり合わないこともあるでしょうから、平均で5秒かかるとします。一方、ショートカットキーの『Ctrl+s』を押して保存した場合、俺なら1秒もかからずに保存できます。すると、俺はカイリキさんよりも4秒多く別の仕事をしていることになりますよね。ショートカットキーを覚えるだけで、俺は4秒間の効率化をしているんです。え?たった4秒って言いました???なるほど、全然何も分かっていない人の意見ですね。この小さな効率化の積み重ねが、やがて大きな効率化を生むんですよ。このショートカットキーはその第一歩です。
 我々は書類仕事がほとんどですから、1日に20回くらいは、この上書き保存という行為をするでしょう。年間の稼働日を230日くらい(365日-(年間休日120日+休暇数=130日))と仮定すると、1日当たりの労働時間削減効果は、4秒 × 20回 = 80秒/日です。1年間当たりの削減効果は、80秒/日 × 230日 = 18,400秒/年 = 307分/年 = 5時間/年ですよ!時間外の賃金を2,000バルク/時間とすれば、1人当たり年間1万バルク、全員がショートカットキーを使うようになれば1万バルク×人数分のランニングコストをカットできるんです。当然、マカオさんとお嬢さんもショートカットキーを使っていますから、うちのギルドは年間3万バルク時間外費用を削減しているのに一体ギルド長は何をしているんでしょうか忙しいですか説明してもらっていいですか???」
「」


翌日、カイリキはCtrl+sでMordを上書き保存した。
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