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ようこそ魔法学校へ 9

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「ここからはハーフさんの方が得意分野かな」
「任せて下さーい☆」
「お二人ともよくハーフさんの話を聞いて下さいね。彼はこう見えて学生の頃から投資をしてるベテランなんですから」
「あは、照れちゃいますね!」

元気いっぱいにハーフが答え、マカオとお嬢に向き直った。彼には、これから投資に対して恐怖感を持っている2人の心持ちをなんとかしてもらわなければならない。お金に無知であり、ようやく危機感を覚えた彼女たち。彼女たちの今後の人生を豊かに、そして効率的にするために、少しでも資産運用のことを知ってもらう必要があるだろう。

「最初にお二人の気持ちは伺いました!お二人の投資に対するイメージは、『自分のお金を元手にお金を100倍にする可能性があるけど、お金がゼロになっちゃう可能性もある』って感じですよね???」
「「そうよ」」
「勿論その可能性もあります。けど、それはある意味では間違いなんです。
投資というのは、ローリスクローリターン、ミドルリスクミドルリターン、ハイリスクハイリターン……つまり、リスクとリターンが表裏一体です。だから、少ないリスクの投資をすれば、リターンこそ少なくなりますが、投資に使った元金はほぼそのままです。お金がゼロになる可能性は限りなく低くなります。
逆に、お二人が思っているようなイメージ通り、お金がゼロになっちゃう人も確かにいます。例えば、『FXXで有り金全部溶かした顔』っていうのが昔エンターネットで流行りました。あれは『有り金を全部投資にする』っていう大きなリスクをかけて失敗しちゃったから絶望しているんです。有り金全部かけるなんて、とんでもないリスクですよね?ですが、例えばその“有り金全部”をかけた投資資産の価値が2倍3倍、もっと言えば100倍になったら、その人たちは大きなリターンを得る可能性を持っているんです」

ハーフは一呼吸。あ、可愛い。

「先日、コリアントチャイナ国がのちのちザウルスのいるテラ島を攻撃したことはご存知ですよね?あの攻撃の前の週から、戦争になるかもしれないと“アダマンタイト”や“ドラグタイト”といったレアメタルの値段が高騰しました。特にドラグタイトは一夜にして150倍近い値段を付けたそうです。つまり、あの攻撃によって大きなリターンを得た人がいるわけですね。コリアントチャイナが発行する国債も、のちのちザウルス撃破によるあまりに大きすぎるリターンに目が眩んだ人たちによって一気に値段が上がったそうです。
 ところが、いざのちのちザウルスへ攻撃をしてみると、コリアントチャイナ国は一瞬にして返り討ちに遭いました。それも、僅かな反撃の隙もなく、完膚なきまでに生き恥を晒しての敗北です。あは、大変ですね。コリアントチャイナ国債は暴落、ドラグタイトはのちのちザウルスへの有効な攻撃手段足りえないと、今度は一夜にして価値が500分の1にまで価格が下落したそうですよ。これがハイリターンの対価、リスクです。
つまり、戦争という不確定な要素、リスクに身銭を投じ、瞬間的に大きなリターンを得た人もいれば、逆に大損をした人も出たんですね」

マカオとお嬢は興味深そうに話を聞いている。そう、一般的に彼女たちや大日本帝国民が感じている投資に対する思いは、投資家が抱いている思いから極端に離れているのだ。

「一方で、低いリスクを取れば、リターンこそ少ないものの比較的安全に資産を増やすことが出来ます。分かりやすいのは大日本帝国債、債券ですね。国が発行しているので、ボクたちの大日本帝国が敵国に沈められない限りは基本的に大丈夫です。大日本帝国債を購入すると1年で1%の年利、利息みたいなものが付きます。100万バルク分の国債を購入して1年経てば、何もしなくても1万バルク貰えるんですよ☆」
「で、でも、それだってたった1%じゃない!」
「あれ???マカオ先輩の資産は預金、つまり銀行にあるんですよね?一番金利の高い大日本帝国銀行だって金利0.001%ですよ???あは、ボクの方が1000倍お得ですね☆」

ガーン!!!!

「とは言え、大日本帝国債券だって絶対にリスクがないとは言えません。というか、投資においてノーリスクでリターンがあるものなんてないんです。自分の許容できるリスクの範囲内でお金を運用して増やしていく、それが投資です」
「言わんとしたいことは分かったわ」

今度手を挙げたのはお嬢。

「でも、仮に債券に100万バルク投資したとしても、1年かけて手に入るのは1万バルク。そんなんじゃ、さっきの人生100年時代には心許ないのではなくって?」
「あは、複利の話をしていませんでしたね。複利を利用したら、お金が雪だるま式に増えていくんですよ。じゃあ、分かりやすい事例をもとにお話しますね☆
さっきの100万バルクが仮に年利10%になったとしたら、ボクのお金は1年後に110万バルクになりますよね?この増えた10万バルクを、もう一回投資に回したら、次の年は年利10%でいくらもらえますか?」
「110万バルクの10%だから……11万バルク?」
「正解です!年利で増えたお金をもとに投資をすることで、前の年より1万バルク多くもらえましたね。あは、とってもお得☆だって、前の年にもらった10万バルクは不労所得、働かずにもらったお金なんですよ!働かずにもらったお金で、次の年はもう1万バルク多くお金がもらえちゃいました!
じゃあ、次の年も同じようにもらった11万バルクを投資に回したら、一体いくらになりますか?」
「110万バルクに11万バルクを足して121万バルク、その10%……はっ!12万バルクもらえるわ!」
「はい!またお得になりました☆
これが複利です。元金で手に入れた利子を使って、お金を倍々ゲーム的にどんどん大きく育てる方法ですよ。勿論、複利で手に入れたお金だけじゃなく、日頃からお金を積立投資していけば、増えるお金の金額もどんどん上がっていきます☆
とは言え、年利10%なんてとんでもないリターンのあるものは当然ハイリスクですから、一般的に高い利回りを目指すなら利率3~4%くらいのもので運用するのがいいですね。国債だけじゃなく、国内株式や外国株式、不動産投資なんかも織り交ぜながら、リスクを分散します。一つに投資を絞ると、何かのきっかけで暴落した時に全滅しちゃいますから、自分でリスクを分散しておくといいですよ☆」

ハーフはイキイキと語っている。自分の好きなことや良いと思っていることを人に話す時、誰だって饒舌になるだろう。だが、今回の場合は『相手の理解を得ること』も重要だ。それを分かっているハーフは、具体的に説明をする。

「実例を出しましょうか。仮に利率4%、日頃からお金を積み立てるとして毎月5万バルク、20年間株式や債券に投資し続けたら、いくらになると思いますか?あは、面倒なので答え言っちゃいますね☆
年間5×12で60万バルクを20年で1200万バルク、ここに毎年手に入る利息を全部投資に回した時、20年後に手元にある金額は……」
「「……き、金額は?」」


「――およそ1800万バルク」
「「!!?!?」」
「あは、マカオさんみたいに銀行に預けて0.001%の利子をもらっていたら、1201万バルクです。一方投資で頑張って資産を増やしたボクは1800万バルクです!600万バルク、元の資産1200万バルクの50%も得しちゃいましたね☆」
「私今日から投資するわ!」
「アタシも!」

実例を聞いて、先程までの心配はどこへやら、急激にやる気を出す2人。だがそれでいいのだ。自分の意思で、自分の将来のために投資をするという気持ちが芽生えたことが重要だ。
いずれ世の中美味しい話ばかり転がっているわけではないと、その身をもって知ることになる日が来るだろう。しかし、投資をする以上損失しない、すなわち勝ち続けるということはあり得ない。同様に、いつまでたっても儲からないということもないはずだ。自分に合ったリスクのもと、リターンを享受できるように教育、あるいは自主的に勉強を続けていかなければならないだろう。
そして、彼らの仕事はここで終わりではない。彼女たちのように投資に忌避感を持つ人間を説得して勉強させ、彼らひいては大日本帝国を豊かな国家にしなければならないのだ。だが、今日という日は、大日本帝国で投資の勉強をさせるための第一歩になったことは間違いない。

「あは!ザザ先輩、まずは2人、投資の道に引きずり込みました☆」
「その言い方はなんか違うからやめな」
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