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のちのちザウルス

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マナー講師のマナー、ほとんどマイルール説 5

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「あなたたち、全員で仕組んだわね!!ちゃんとしたマナーを知らないから、マナーに詳しい私をひがんでるんでしょ!!」

マナコは声も擦りきれんばかりに金切り声を上げた。それも仕方ないことだろう。今しがた、彼女は自身の信じたマナーをここにいるすべての人間に否定されたのだから。
納得がいかないと、マナコは場所も構わず叫び続ける。

「一体何が間違ってるって言うのよ!!あなた!あなたはどこのギルドマスターよ!?」
「お、オレですか?オレは建築ギルドのーー」
「建築ギルドはこんな初歩の初歩も分からないって言うの!?コイツらのマナーと私のマナー、私の方が正しいに決まってるじゃない!!」

先程までの丁寧な態度はどこへやら。マナコの化けの皮は剥がれ、自分こそが正しいのだと主張をする。だが、それを聞いて我慢ならなかったのは建築ギルドマスターの方だった。

「初歩の初歩も分からないだと!あんただって随分失礼な態度を取るじゃないか!あんたのマナーなんて、これっぽっちも正しくないとオレは思うね!何が『書類を手渡ししましょう(笑)』だ!俺がいなかったらどうするつもりなんだよ!大体オレは勿論、先輩や部下のコイツらだって、誰もあんたの言う『マナー(笑)』なんてやったこともないし、話にも聞いたことないぞ!!」

そーだそーだ!ギルド員、スタンディングオベーション。

「ほら!コイツらだってそう言ってるさ!!そもそも、俺たち上席者は判子の傾きなんかより中身の方が大事なんだぞ!傾きなんかどうでもいいに決まってるだろ!」
「そんなわけないでしょ!!!判子は目上の人に敬意を示すためにおじぎして押さなきゃダメなのよおおおおお!!!!」
「おじぎして判子押さなきゃ怒る人ー!!!」

しーん。

「はいゼロにーん!!」
「クソがあああああああああ!!!!」



この時、行政改革ギルドは置いてきぼりを食らっていた。最前列にいるものの、周りの勢いが凄すぎて完全に雰囲気に呑まれている。

「(ボソボソ)マカオさん!どうするんですかこれ!っていうか、建築ギルドマスターめっちゃ口悪いな!」
「(ボソボソ)どうしようもないわよ!ザザちゃんが最初にケンカ売ったんでしょ!」
「(ボソボソ)ケンカ売ったのはあのババアですよ!何がおじぎ判子だ、ふざけんな!」
「(ボソボソ)聞こえるわよ!」

混沌。大会議室は騒然とし、収集がつかなくなって――。

「喝ッ!!!!!!!!!!」

キィィイイイイイイイン!!!という強烈なノイズが、場の空気を引き締めた。音の発生源を見ると、カイリキが仁王立ちでマイクの前に佇んでいた。

「少々議論が白熱したようですので、こちらで止めさせていただきました。皆様、落ち着かれましたか?」

カイリキが問うと、それまでの空気は霧散した。立ち上がってまでマナコに抗議をしていたギルド員も、落ち着きを取り戻して着席する。マナコも、多少ばつが悪そうにしながらも、渋々といった感じで席に着いた。

「落ち着いたようですね。では、私から1つ話をさせていただきましょう。まずマナー講師のマナコさん、マナーとはなんですか?」
「マナーとは何か?」

マナコは質問の意図が読めなかったが、話を振られた以上沈黙するわけにもいかない。

「……マナーとは、公衆が過ごしやすいよう『守らなければならないルール』です」
「なるほど。ではうちのギルドを代表して、ザザ君はどう思うかな?」
「『守らなければならないルールではない』ですね。それは法律であって、マナーじゃない。マナーってのは、相手に不快な思いをさせないための『手段』です」
「うん、なるほどね。さて皆さん。この通り、マナーの考え方も人それぞれ違います。ですが、相手に迷惑をかけないという点では一致していると私は思います」

公務モードのカイリキが、全体に伝わるように語りかけた。それはマナーの本質なのだと、彼自身もそう思っている。

「じゃあさっきの話を振り返ってみましょう。判子を押す時は、目上の人におじぎをするように傾けて押す。確かに、この時担当者には目上の人間を敬う気持ちがあります」
「そうでしょうそうでしょう!」
「ですが、別に判子を傾けて押したからといって、私たちギルドマスターは『コイツらは上司を敬っているな、ヨシ!』と思うことはありません。逆に!判子をふんぞり返るように押しても『上司を見下している!』なんて思うこともありません」
「え?」
「おや、マナコさん。随分意外そうな顔をされますね。別に冗談でもなんでもなく、私たちギルドマスターは何にも思いませんよ。つまり、これは我々ギルド職員からすると死ぬほどどうでもいいマナーなんですね。あなたの言う『守らなければならないルール』ではないわけです」
「そ、そんなわけないわ!!!」

マナコ、再び発狂。だが、カイリキはそれを即座に遮る。

「ですが、逆にやった方がいい行為もあります。例えば、上席者に締切を伝えるのは非常に重要です」
「え!?」
「おや、マナコさんはご存知でない?おっと、そういえば先程大きな声で『部下が締切を設定するのは失礼にあたるので、締切の話はしないようにしましょう!』なんて仰ってましたね。ですが、我々ギルドマスターだけでなく、上席者というものは重要な案件や締切が近いものを知っておきたいのです。部下が一生懸命早めに書類を出してくれたのに、私が確認不足で締切を過ぎてしまった、なんてことになったら逆に失礼じゃないですか」

うんうんと他のギルドマスターたちが頷く。

「締切の話をしないなんて、もってのほかです。いつまでにチェックをすれば良いか明確にしてくれた方が、互いに動きやすいと私たち上席者は思います」
「そ、そんな……私のマナーが……」

マナコは膝から崩れ落ちた。彼女を支えていたのは、小さな自尊心と絶対的なマナーに対する自信であった。誰にもマナーを否定されず、他者をマナーという自分のルールに従わせ続けた結果、マナコは自分のマナーこそが至高であると錯覚したのだろう。
誰が見ても、もう彼女はボロボロだ。来期からはギルドの合同講習は開かれなくなり、このマナコの姿を見ることもないだろう。段々可哀想になってきたカイリキは、しょんぼり項垂れるマナコに声を――。

「よし、それじゃあ時間もあることですし、このエセマナー講師に正しいマナーを教えてあげましょう!皆さんも良い機会ですので聞いていって下さい!!」

――声をかける前にザザが場を仕切り始めた。
ザザ・ナムルクルス、
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