100 / 128
何もしてないならパソコンは壊れない 3
しおりを挟む
「こういうことです。だからヘルプデスクはイヤだって断ったんですよ」
「ごめんよザザ君……よーく、理解したよ」
ヘルプデスクは恐ろしい場所である。どんな人間からどんな質問が来るか分からないからだ。まあ、今回のは流石に極端な例ではあるが、例えば専門用語を使わずにできる限り分かりやすく伝えたつもりでも、ITの知識が無い人間には中々理解してもらえないのも事実だ。伝えたいことが伝わらない。そんなもどかしさが、ヘルプデスク業務の難しい所だとザザは思う。さらに、一度の説明では理解されないことも多く、良かれと思って二度三度相手の話した内容を復唱することにより、問合せをした人の逆鱗に触れてしまうなんて事例もしばしばあるのも悩みの種だ。慣れや経験によって様々な問合せに順応できるようになるとは言え、先方が感情的になるとこちらは疲弊するし、対応する側としてもやりきれない部分が多い。
だが、まだ今日という日は終わらない。たまたま全員の手が空いた一瞬の隙を突いて、再びヘルプデスク用の電話が鳴り響く。だが、全員が牽制し合って誰も電話を取ろうとしない。死にかけのお嬢は勿論、マカオも化粧が完全に崩れているし、あの普段笑顔を絶やさないハーフですら引き攣った顔だ。カイリキも心がくじけており、とても電話を取ろうという気持ちにはなれなかった。『頼む、誰か電話を取ってくれ』という心の底からの叫びを感じ取ったザザは、見かねてため息を一つ。
「……仕方ないですね。一発手本を見せますので、今日一日は皆さんこんな感じで乗り切って下さい。ほら、ヘッドセット付けて」
ザザは電話を取り、それ以外のメンバーは音声のモニタリングをするためにヘッドセットを装着した。ヘルプデスクは勿論コールセンターのような部署は、新人教育のために音声を共有できるような機能を持ったシステムを構築している場合が多い。ここ行政改革ギルドにおいてはヘルプデスクが後付けで設置されたため、特殊なヘッドセットを用いて音声の共有が可能になっている。閑話休題。
「はい、行政改革ギルド ヘルプデスクでございます」
『お疲れ様です。冒険者ギルドのソードです。実は、何もしていないのにパソコンが壊れてしまって……』
「なるほど。何がどのように壊れたのですか?」
『ええ。使っているノートパソコンのキーボードが、まったく反応しなくなって……』
「何もしていないのに?変な話ですね」
『え、ええ。そうなんです。朝電源を入れたらキーが打てなくなってて、それでログインもできなくなってて。仕事が出来なくて困っているので、代わりの新しいパソコンが欲しいんですが』
「何もしていないのに、壊れたんですね?」
『え?は、はい……』
「な に も し て い な い の に ?」
『……あ、あの』
「……」
『……』
「なぁあああ、にぃいいい、もぉおおお、しぃいいい、てぇえええ」
『ごめんなさい!私がやりました!昨日コーヒーをキーボードにこぼしました!』
「では、キーボードの修理手配を致しますので、これから送付するMxcelファイルに必要事項を書いて行政改革ギルドのザザ宛に送って下さい」
『はい……』
「ではありがとうございました。失礼致します」
「おお!!すごいよザザ君!!」
「流石だわ!アタシもこうやればいいのね!!」
ザザ、べた褒め。流石に本人も悪い気はしないのか、ぽりぽりと頬をかいて柄にもなく照れている。
「別に大したことないです。大体、“何もしてないのに壊れた”っていうのは、大別すると次の3つのパターンしかありません。1つ、“本当は何かしたけど、その自覚がない”。2つ、“本当は何かしたし、その自覚があるけど、怒られそうだから隠したい”。3つ、“本当に何もしていない”です。今回はたまたま楽な2番目を引いただけですから」
「それでも流石だわ、私も見習いたいくらい」
「よして下さい。こんな業務、さっさとどっか別の部署に移管してやめたいくらいなんですから。禁断のパターン4を引いた時なんか絶望ですよ」
「パターン4?」
「4つ目は、“実際には何か色々やったけど、それが原因でおかしくなったと思っていない”です」
「……地獄だわ」
「所詮自己申告ですからね。実際には100%なんかしています。それを毎回毎回探っているようじゃ、こんなヘルプデスクみたいな仕事は一生無くならないですよ。いつの時代もパソコン使えないおバカさんが必ずいますからね」
ザザはため息。同時に、その現実を教えられた皆もため息。はあ。
だが、現実は変わらない。このままでは、近く行政改革ギルドは他のギルドの手によって潰され、大日本帝国民の問題を解決できなくなってしまう。それだけは避けねばなるまい。とりあえず、行動しなければ現状は変わらないだろう。
「――まずはマニュアルを使ってなんとかしてみますか」
「ごめんよザザ君……よーく、理解したよ」
ヘルプデスクは恐ろしい場所である。どんな人間からどんな質問が来るか分からないからだ。まあ、今回のは流石に極端な例ではあるが、例えば専門用語を使わずにできる限り分かりやすく伝えたつもりでも、ITの知識が無い人間には中々理解してもらえないのも事実だ。伝えたいことが伝わらない。そんなもどかしさが、ヘルプデスク業務の難しい所だとザザは思う。さらに、一度の説明では理解されないことも多く、良かれと思って二度三度相手の話した内容を復唱することにより、問合せをした人の逆鱗に触れてしまうなんて事例もしばしばあるのも悩みの種だ。慣れや経験によって様々な問合せに順応できるようになるとは言え、先方が感情的になるとこちらは疲弊するし、対応する側としてもやりきれない部分が多い。
だが、まだ今日という日は終わらない。たまたま全員の手が空いた一瞬の隙を突いて、再びヘルプデスク用の電話が鳴り響く。だが、全員が牽制し合って誰も電話を取ろうとしない。死にかけのお嬢は勿論、マカオも化粧が完全に崩れているし、あの普段笑顔を絶やさないハーフですら引き攣った顔だ。カイリキも心がくじけており、とても電話を取ろうという気持ちにはなれなかった。『頼む、誰か電話を取ってくれ』という心の底からの叫びを感じ取ったザザは、見かねてため息を一つ。
「……仕方ないですね。一発手本を見せますので、今日一日は皆さんこんな感じで乗り切って下さい。ほら、ヘッドセット付けて」
ザザは電話を取り、それ以外のメンバーは音声のモニタリングをするためにヘッドセットを装着した。ヘルプデスクは勿論コールセンターのような部署は、新人教育のために音声を共有できるような機能を持ったシステムを構築している場合が多い。ここ行政改革ギルドにおいてはヘルプデスクが後付けで設置されたため、特殊なヘッドセットを用いて音声の共有が可能になっている。閑話休題。
「はい、行政改革ギルド ヘルプデスクでございます」
『お疲れ様です。冒険者ギルドのソードです。実は、何もしていないのにパソコンが壊れてしまって……』
「なるほど。何がどのように壊れたのですか?」
『ええ。使っているノートパソコンのキーボードが、まったく反応しなくなって……』
「何もしていないのに?変な話ですね」
『え、ええ。そうなんです。朝電源を入れたらキーが打てなくなってて、それでログインもできなくなってて。仕事が出来なくて困っているので、代わりの新しいパソコンが欲しいんですが』
「何もしていないのに、壊れたんですね?」
『え?は、はい……』
「な に も し て い な い の に ?」
『……あ、あの』
「……」
『……』
「なぁあああ、にぃいいい、もぉおおお、しぃいいい、てぇえええ」
『ごめんなさい!私がやりました!昨日コーヒーをキーボードにこぼしました!』
「では、キーボードの修理手配を致しますので、これから送付するMxcelファイルに必要事項を書いて行政改革ギルドのザザ宛に送って下さい」
『はい……』
「ではありがとうございました。失礼致します」
「おお!!すごいよザザ君!!」
「流石だわ!アタシもこうやればいいのね!!」
ザザ、べた褒め。流石に本人も悪い気はしないのか、ぽりぽりと頬をかいて柄にもなく照れている。
「別に大したことないです。大体、“何もしてないのに壊れた”っていうのは、大別すると次の3つのパターンしかありません。1つ、“本当は何かしたけど、その自覚がない”。2つ、“本当は何かしたし、その自覚があるけど、怒られそうだから隠したい”。3つ、“本当に何もしていない”です。今回はたまたま楽な2番目を引いただけですから」
「それでも流石だわ、私も見習いたいくらい」
「よして下さい。こんな業務、さっさとどっか別の部署に移管してやめたいくらいなんですから。禁断のパターン4を引いた時なんか絶望ですよ」
「パターン4?」
「4つ目は、“実際には何か色々やったけど、それが原因でおかしくなったと思っていない”です」
「……地獄だわ」
「所詮自己申告ですからね。実際には100%なんかしています。それを毎回毎回探っているようじゃ、こんなヘルプデスクみたいな仕事は一生無くならないですよ。いつの時代もパソコン使えないおバカさんが必ずいますからね」
ザザはため息。同時に、その現実を教えられた皆もため息。はあ。
だが、現実は変わらない。このままでは、近く行政改革ギルドは他のギルドの手によって潰され、大日本帝国民の問題を解決できなくなってしまう。それだけは避けねばなるまい。とりあえず、行動しなければ現状は変わらないだろう。
「――まずはマニュアルを使ってなんとかしてみますか」
0
あなたにおすすめの小説
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる