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さらば、行政改革ギルド 4
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テンノー陛下の業務用パソコンは、実は特注である。このパソコンだけは彼の従者を始めとする有識者たちとネットワークが構築されており、相互にやり取りができるようになっているのだ。その機能を利用して、早速テンノー陛下のパソコンにも自動文字起こしツールがインストールされた。ボイスレコーダーとパソコンを接続すると、ものの数秒で4時間の閣議の内容が文書化されていく。そこから文書の自動校正ツールを使い、「あー」とか「えー」のような会話に不必要な言葉を除去すれば、あっという間に閣議記録の完成である。
テンノー陛下は周囲をご覧になられた。まだこの仕事をもらってから数分だ。自動文字起こしツールを使っているような形跡が見られないことからも、おそらく前任者は延々とボイスレコーダーを聞いて閣議の内容をタイピングしていったに違いなく、この僅かな時間で文字起こしの仕事が終わっているとは誰も思っていないだろう。とりあえず、ここに潜入した以上色々な仕事を経験したい。陛下は早速お作りになられた閣議記録をフラッシュメモリにコピーされると、次なる仕事をもらうべく上司のカスオの元へと赴いた。
「カスオ課長、先程の閣議記録の件ですが――」
「ああ!?何度も話しかけるな!仕事が終わってから報告に来い!」
「はい。終わりましたので指示を仰ぎに来ました」
「は?こんな時間で終わるわけねーだろ。適当に仕事するんじゃない!」
「現物をご確認下さい。この通り終わっております」
フラッシュメモリをカスオに渡す。そのあまりの自信満々さに、カスオも流石に「本当に終わったのか?」などと動揺しながらフラッシュメモリを受け取る。だが、すぐに冷静さを取り戻すと、再びテンノー陛下に命令を下した。
「……終わったって言うなら見てやるよ。それが俺の仕事だからな。でもお前、上司に書類見せるのに紙で持ってこないわけ?普通印刷して持ってくるでしょ?まさか俺にこのパソコンの小さい画面を見てチェックしろって言ってんの?」
「……考えが至らず申し訳ございません。ただちに印刷して持参致します」
「おう、早くしろ」
数十枚にもおよび紙の束をお持ちになったテンノー陛下は、それをトントンと整えて再びカスオの元に向かわれた。カスオはそれを横目に見ると、開口一番文句を付けた。
「カスオ課長、先程の――」
「ダメ、やり直せ」
「え?」
「お前、それ両面印刷にしたろ」
「はい。紙が勿体ないので」
「いやいや、上司に見せる書類に勿体ないも何もないだろ!……うわ、お前しかも割付印刷にしてるの?こんなちっちゃい文字を俺に読ませるなよ。仕事したことあんのか」
「申し訳ございません」
「とにかく、もう一回印刷してきて。これじゃ読めないから」
「承知致しました」
両面割付印刷、すなわち紙1枚あたり4ページ分の印刷をしていた書類は、通常印刷をすることで4倍の量になり、数十枚の紙の束は数百枚の広辞苑へと進化した。今度こそ書類を見てもらうべく、テンノー陛下は書類をお持ちになってカスオの机へと――。
「お前さ、上司に書類見せるのにこんな紙の束のままで渡すわけ?普通クリップで留めるとかなんかするじゃん?なんにも考えてないの?」
「大変申し訳ございません」
「あーあ、いつになったら俺はこの書類を見れるんだろうな」
「すぐにお持ちします」
「テンノ!お前、ホントに仕事したことある?馬鹿正直にクリップに留めて持ってくるやつがいるかよ!こんな数百枚もクリップで留めたところで、すぐ外れちゃうだろ!?ファイリングして持ってきて」
「テンノさあ……お前いい加減にしろよ。ファイルって言ったらキングファイルだろ。こんな薄っぺらい100均のファイルで持ってこられても困るんだよ。」
「おう、やっとできたか。じゃあ書類見るから戻ってて。……おいテンノ!お前1ページ目から誤字あるんだけどどうなってんの?……ボイスレコーダーの内容そのまま書いた?それじゃあ意味ないだろ!そういうのも訂正して出すんだよ!お前、これ全部一回自分で確認しろ。で、もう一回全部印刷して持ってこい」
「もう持ってきたのか?ホントに全部見たんだろうな?……ふむ、直ってそうな感じだな。よし、じゃあこの内容でいいわ。俺も書類全部見る程暇じゃないから。お前、この書類の下にページ番号振ってもう一回印刷しろ。それをファイリングしたらその仕事一旦終わりな」
「おいテンノ!!お前のファイリングした書類、表紙が付いてないぞ!いつやったか分かるようにちゃんと表紙を付けろよ!常識だぞ!!」
「テンノ、お前の作った表紙、なんかイマイチだから直して。……あ?前の閣議記録に合わせて作った?あー、そうなの。じゃあいいや。それに枠印打って自分の判子押して持ってこい。俺の承認印付けるわ」
「テンノさあ、お前もっとちゃんとした判子ないの?こんな判子じゃダメだぞ。……何がダメか分からない?お前そんなことも分からないのか!これじゃ簡単に偽造できるだろ!?もっと自分専用のちゃんとした判子買ってこい!こう文字がくねくねしてるやつだぞ」
「という感じだ」
「それは大変お疲れ様でございました、テンノー陛下」
テンノー陛下の自室。初日の仕事を終えて家路につかれた陛下は、中央ギルド入社日早々残業をして帰ってきた。しかし、彼が帰る頃になっても他の誰も帰宅はしておらず、パソコンや手元の書類とにらめっこを続けていたという有様だ。大日本帝国のトップ組織がこうでは、下部組織は勿論、一般の企業も早々変われまい。それに――。
「なるほどな。この大日本帝国にああいった人間が紛れていては、とても国策など満足にできるわけがなかろうて」
テンノー陛下は不敵に笑うと、作戦を練るべく従者に声をおかけになろうとしたが、今が21時を回っていることにお気付きになられると、そのまま従者を居室に帰した。とりあえず、従者には平日に振替で休みを取らせよう。そして、次の自身の休みにまとめて作戦会議を行うことにした陛下は、浴室へ湯浴みをしに向かわれた。
テンノー陛下は周囲をご覧になられた。まだこの仕事をもらってから数分だ。自動文字起こしツールを使っているような形跡が見られないことからも、おそらく前任者は延々とボイスレコーダーを聞いて閣議の内容をタイピングしていったに違いなく、この僅かな時間で文字起こしの仕事が終わっているとは誰も思っていないだろう。とりあえず、ここに潜入した以上色々な仕事を経験したい。陛下は早速お作りになられた閣議記録をフラッシュメモリにコピーされると、次なる仕事をもらうべく上司のカスオの元へと赴いた。
「カスオ課長、先程の閣議記録の件ですが――」
「ああ!?何度も話しかけるな!仕事が終わってから報告に来い!」
「はい。終わりましたので指示を仰ぎに来ました」
「は?こんな時間で終わるわけねーだろ。適当に仕事するんじゃない!」
「現物をご確認下さい。この通り終わっております」
フラッシュメモリをカスオに渡す。そのあまりの自信満々さに、カスオも流石に「本当に終わったのか?」などと動揺しながらフラッシュメモリを受け取る。だが、すぐに冷静さを取り戻すと、再びテンノー陛下に命令を下した。
「……終わったって言うなら見てやるよ。それが俺の仕事だからな。でもお前、上司に書類見せるのに紙で持ってこないわけ?普通印刷して持ってくるでしょ?まさか俺にこのパソコンの小さい画面を見てチェックしろって言ってんの?」
「……考えが至らず申し訳ございません。ただちに印刷して持参致します」
「おう、早くしろ」
数十枚にもおよび紙の束をお持ちになったテンノー陛下は、それをトントンと整えて再びカスオの元に向かわれた。カスオはそれを横目に見ると、開口一番文句を付けた。
「カスオ課長、先程の――」
「ダメ、やり直せ」
「え?」
「お前、それ両面印刷にしたろ」
「はい。紙が勿体ないので」
「いやいや、上司に見せる書類に勿体ないも何もないだろ!……うわ、お前しかも割付印刷にしてるの?こんなちっちゃい文字を俺に読ませるなよ。仕事したことあんのか」
「申し訳ございません」
「とにかく、もう一回印刷してきて。これじゃ読めないから」
「承知致しました」
両面割付印刷、すなわち紙1枚あたり4ページ分の印刷をしていた書類は、通常印刷をすることで4倍の量になり、数十枚の紙の束は数百枚の広辞苑へと進化した。今度こそ書類を見てもらうべく、テンノー陛下は書類をお持ちになってカスオの机へと――。
「お前さ、上司に書類見せるのにこんな紙の束のままで渡すわけ?普通クリップで留めるとかなんかするじゃん?なんにも考えてないの?」
「大変申し訳ございません」
「あーあ、いつになったら俺はこの書類を見れるんだろうな」
「すぐにお持ちします」
「テンノ!お前、ホントに仕事したことある?馬鹿正直にクリップに留めて持ってくるやつがいるかよ!こんな数百枚もクリップで留めたところで、すぐ外れちゃうだろ!?ファイリングして持ってきて」
「テンノさあ……お前いい加減にしろよ。ファイルって言ったらキングファイルだろ。こんな薄っぺらい100均のファイルで持ってこられても困るんだよ。」
「おう、やっとできたか。じゃあ書類見るから戻ってて。……おいテンノ!お前1ページ目から誤字あるんだけどどうなってんの?……ボイスレコーダーの内容そのまま書いた?それじゃあ意味ないだろ!そういうのも訂正して出すんだよ!お前、これ全部一回自分で確認しろ。で、もう一回全部印刷して持ってこい」
「もう持ってきたのか?ホントに全部見たんだろうな?……ふむ、直ってそうな感じだな。よし、じゃあこの内容でいいわ。俺も書類全部見る程暇じゃないから。お前、この書類の下にページ番号振ってもう一回印刷しろ。それをファイリングしたらその仕事一旦終わりな」
「おいテンノ!!お前のファイリングした書類、表紙が付いてないぞ!いつやったか分かるようにちゃんと表紙を付けろよ!常識だぞ!!」
「テンノ、お前の作った表紙、なんかイマイチだから直して。……あ?前の閣議記録に合わせて作った?あー、そうなの。じゃあいいや。それに枠印打って自分の判子押して持ってこい。俺の承認印付けるわ」
「テンノさあ、お前もっとちゃんとした判子ないの?こんな判子じゃダメだぞ。……何がダメか分からない?お前そんなことも分からないのか!これじゃ簡単に偽造できるだろ!?もっと自分専用のちゃんとした判子買ってこい!こう文字がくねくねしてるやつだぞ」
「という感じだ」
「それは大変お疲れ様でございました、テンノー陛下」
テンノー陛下の自室。初日の仕事を終えて家路につかれた陛下は、中央ギルド入社日早々残業をして帰ってきた。しかし、彼が帰る頃になっても他の誰も帰宅はしておらず、パソコンや手元の書類とにらめっこを続けていたという有様だ。大日本帝国のトップ組織がこうでは、下部組織は勿論、一般の企業も早々変われまい。それに――。
「なるほどな。この大日本帝国にああいった人間が紛れていては、とても国策など満足にできるわけがなかろうて」
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