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さらば、行政改革ギルド 5
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そこから次の休みまでは酷いものであった。とにかく、どんな仕事をするにもスピード感がないのである。現代日本でもそうだが、国のトップ組織や一流企業になればなるほど、その意思決定の速度は極めて遅くなる傾向がある。中央ギルドもその例に漏れず、どんなことを決定するにも逐一上司である上級国民――超上級国民と呼称することにしよう――のお伺いを立てなければならなかったのだ。その一幕がこれだ。
「おいテンノ」
「はい、なんでしょうか」
「行政改革ギルドが蓄電池トラムを運行させているのは知っているな」
「ええ、勿論。私も利用しました」
「それに伴って、現在馬車業を営んでいる人間からクレームが入っている。俺たちの仕事はどうなるんだ、とな」
「伺っております。私も行政改革ギルドの会見を見ましたが、中央ギルドがそのサポート、もとい補助等を行うとも伺っております」
「ああ。その内容について閣議で話し合ってる最中なんだが、もうそろそろ閣議決定しそうなんだ。だから、お前通知文作って準備しておけ。他のギルドに送る用のやつと、国民に周知するようのやつな」
「分かりました」
「ああそう、お前まったく分かってなさそうだから言っておくわ。その通知文、できたら他のギルドに送る前に、一回送付先全部のギルドマスターにチェックしてもらえよ」
「え?」
「え?じゃねえだろ!他のギルドの全職員が見るんだから、いっぱい確認してもらわないとダメだろうが!いいか、全部のギルマスが承認するまで送るの禁止だからな」
「承知致しました」
「おう、頼んだぞ。ああ、そうだ。お前、建築ギルドに送る時は気を付けろよ。あそこはまた文書のルールが違うから、適当な書き方してると建築のギルマスに直されるからな」
「……こういってはなんですが、下位のギルドのルールを適用するのですか」
「そういう決まりなんだから守らないとダメだろ!俺たちはトップの組織なんだから、やつらの細かいルールも守ってないと『こんなことも守れないのか!』とか逆にうるさいんだよ!とにかく頼んだぞ!!」
というエピソードに始まり、逐一各所のお伺いを立てながら1つの通知文を作るのに2日かかった。かと思えば、馬車業の件について先日閣議決定したことも、『本当にこの決定に妥当性はあるのか?』と蒸し返され、作成した通知文の内容が白紙に戻ることもあった。
問題はこれだけにとどまらない。閣議の翌日に突如発生した大型の台風により、一部の地域で災害派遣の必要が出たのだが、緊急を要するにも関わらず『通常の承認手続きルート』を通さなければならなかったため、現地に災害復旧部隊を派遣する時期が遅れてしまったということがあった。テンノー陛下は、災害時であるため緊急での承認行為をお求めになられたのであるが、カスオはそれを真っ向から拒否。重要な事項こそ慎重に行うべきだと主張して臨時の閣議を開き、その閣議で決まったことを翌日蒸し返し、災害復旧部隊への指示書を作らせるより先に閣議記録を取りまとめさせるなど、とにかくやりたい放題である。
流石に緊急対応についてはちんたら行うべきではないとご判断されたテンノー陛下は、私財をご投じになられて私設の部隊を投入、秘密裏に災害復旧工事をするようご指示されたのはまさしく英断であらせられたと言えよう。
とにもかくにも、陛下はこのたった数日という極めて短い期間の中で、いかに中央ギルドのトップである超上級国民が腐敗し、下層の上級国民や若年層が仕事をやりにくいという現状があるかご理解なされたのである。
「まず、とにかく部下に対する叱責が多い印象を受ける」
週末の土日。テンノー陛下は、国民のためとお休みになられることもなく、従者を集めて中央ギルドの状況をご説明されていた。おっと、勿論テンノー陛下は優秀な方であらせられるので、従者たちには先んじて振替休日を取らせている。とはいえ、従者の貴重な家族との時間を奪ってしまったとお心を痛めて頭をお下げになる場面もあり、従者たちはそれはそれで動揺しまくっていたのであるが。
さて、舞台は再びテンノー陛下の自室である。一国の主が住むには小さいこの8畳程度の部屋に集められた従者たちは、この1週間で陛下がご体験された中央ギルドの話を聞いていた。
「こんなデータがあるのを知っているか。上司に限らないが、暴言を吐かれた人間に及ぼされる影響について研究したものだそうだ。これによれば、暴言を吐かれた側の人間は、大幅にその能力を低下すると判明している。暴言を受けた本人は、その直後から処理能力が61%、創造性が58%低下するらしい。それだけではない。その暴言を受けた周囲にいる人間……そうだな、例えば余の周りに座っていた同僚たちの処理能力は33%、創造性は39%低下しているそうだ。そして、それを目撃しただけの通りすがりの人間も、処理能力が25%、創造性が45%低下するらしい。高々暴言と侮ることなかれ、暴言はこんなにもその人間の能力を貶めるのだ」
「陛下がお姿をお隠しになっているとはいえ、仮にも上司である人間が、この時代にそこまで暴言を吐くものなのでしょうか」
「うむ、良い所に気が付いたな。余もこのご時世そんなに人間はいないと思っていたが、ヤツは余に対して211回、この1週間で暴言を吐いている。余は全部覚えているぞ」
その凄絶な笑みに従者は思わず苦笑いを返すと、しまったという風なお顔をされた陛下は咳払いをなされて場を仕切り直す。
「とにかくだ。このままでは大日本帝国が危うい。カスオに限らず、他のギルド員も影響されて暴言が多くなっているし、そもそも全体的に仕事が非効率的だ。こんな有様では他国に大差をつけて負ける日が来るだろう。おっと、これは間違いであるな。当にこの大日本帝国は、他国に大差をつけて負けている。その自覚をせねばなるまい」
「陛下、そのようなことは――」
「ないと言えるか?余はそうは思わんぞ。我が国は負けている。少なくとも、国の中枢を握る人間の質は極めて低いと言わざるを得ない。あれだけの間者……“スパイ”が潜んでいるのではな」
「おいテンノ」
「はい、なんでしょうか」
「行政改革ギルドが蓄電池トラムを運行させているのは知っているな」
「ええ、勿論。私も利用しました」
「それに伴って、現在馬車業を営んでいる人間からクレームが入っている。俺たちの仕事はどうなるんだ、とな」
「伺っております。私も行政改革ギルドの会見を見ましたが、中央ギルドがそのサポート、もとい補助等を行うとも伺っております」
「ああ。その内容について閣議で話し合ってる最中なんだが、もうそろそろ閣議決定しそうなんだ。だから、お前通知文作って準備しておけ。他のギルドに送る用のやつと、国民に周知するようのやつな」
「分かりました」
「ああそう、お前まったく分かってなさそうだから言っておくわ。その通知文、できたら他のギルドに送る前に、一回送付先全部のギルドマスターにチェックしてもらえよ」
「え?」
「え?じゃねえだろ!他のギルドの全職員が見るんだから、いっぱい確認してもらわないとダメだろうが!いいか、全部のギルマスが承認するまで送るの禁止だからな」
「承知致しました」
「おう、頼んだぞ。ああ、そうだ。お前、建築ギルドに送る時は気を付けろよ。あそこはまた文書のルールが違うから、適当な書き方してると建築のギルマスに直されるからな」
「……こういってはなんですが、下位のギルドのルールを適用するのですか」
「そういう決まりなんだから守らないとダメだろ!俺たちはトップの組織なんだから、やつらの細かいルールも守ってないと『こんなことも守れないのか!』とか逆にうるさいんだよ!とにかく頼んだぞ!!」
というエピソードに始まり、逐一各所のお伺いを立てながら1つの通知文を作るのに2日かかった。かと思えば、馬車業の件について先日閣議決定したことも、『本当にこの決定に妥当性はあるのか?』と蒸し返され、作成した通知文の内容が白紙に戻ることもあった。
問題はこれだけにとどまらない。閣議の翌日に突如発生した大型の台風により、一部の地域で災害派遣の必要が出たのだが、緊急を要するにも関わらず『通常の承認手続きルート』を通さなければならなかったため、現地に災害復旧部隊を派遣する時期が遅れてしまったということがあった。テンノー陛下は、災害時であるため緊急での承認行為をお求めになられたのであるが、カスオはそれを真っ向から拒否。重要な事項こそ慎重に行うべきだと主張して臨時の閣議を開き、その閣議で決まったことを翌日蒸し返し、災害復旧部隊への指示書を作らせるより先に閣議記録を取りまとめさせるなど、とにかくやりたい放題である。
流石に緊急対応についてはちんたら行うべきではないとご判断されたテンノー陛下は、私財をご投じになられて私設の部隊を投入、秘密裏に災害復旧工事をするようご指示されたのはまさしく英断であらせられたと言えよう。
とにもかくにも、陛下はこのたった数日という極めて短い期間の中で、いかに中央ギルドのトップである超上級国民が腐敗し、下層の上級国民や若年層が仕事をやりにくいという現状があるかご理解なされたのである。
「まず、とにかく部下に対する叱責が多い印象を受ける」
週末の土日。テンノー陛下は、国民のためとお休みになられることもなく、従者を集めて中央ギルドの状況をご説明されていた。おっと、勿論テンノー陛下は優秀な方であらせられるので、従者たちには先んじて振替休日を取らせている。とはいえ、従者の貴重な家族との時間を奪ってしまったとお心を痛めて頭をお下げになる場面もあり、従者たちはそれはそれで動揺しまくっていたのであるが。
さて、舞台は再びテンノー陛下の自室である。一国の主が住むには小さいこの8畳程度の部屋に集められた従者たちは、この1週間で陛下がご体験された中央ギルドの話を聞いていた。
「こんなデータがあるのを知っているか。上司に限らないが、暴言を吐かれた人間に及ぼされる影響について研究したものだそうだ。これによれば、暴言を吐かれた側の人間は、大幅にその能力を低下すると判明している。暴言を受けた本人は、その直後から処理能力が61%、創造性が58%低下するらしい。それだけではない。その暴言を受けた周囲にいる人間……そうだな、例えば余の周りに座っていた同僚たちの処理能力は33%、創造性は39%低下しているそうだ。そして、それを目撃しただけの通りすがりの人間も、処理能力が25%、創造性が45%低下するらしい。高々暴言と侮ることなかれ、暴言はこんなにもその人間の能力を貶めるのだ」
「陛下がお姿をお隠しになっているとはいえ、仮にも上司である人間が、この時代にそこまで暴言を吐くものなのでしょうか」
「うむ、良い所に気が付いたな。余もこのご時世そんなに人間はいないと思っていたが、ヤツは余に対して211回、この1週間で暴言を吐いている。余は全部覚えているぞ」
その凄絶な笑みに従者は思わず苦笑いを返すと、しまったという風なお顔をされた陛下は咳払いをなされて場を仕切り直す。
「とにかくだ。このままでは大日本帝国が危うい。カスオに限らず、他のギルド員も影響されて暴言が多くなっているし、そもそも全体的に仕事が非効率的だ。こんな有様では他国に大差をつけて負ける日が来るだろう。おっと、これは間違いであるな。当にこの大日本帝国は、他国に大差をつけて負けている。その自覚をせねばなるまい」
「陛下、そのようなことは――」
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