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第1話
しおりを挟む「パパ、お帰りなさーい!」
仕事から帰ってきた父を玄関に出迎え、妹は飛びつく。
「お土産は? お土産は?」
「はっはっは、美味しいものを買ってきてあるからちょっと待ちなさい。とりあえずコートくらいは脱がせておくれ」
「お帰りなさい。お父様……」
深々と頭を下げる私のか細い声は無視して、父と妹は笑いあいながら広い屋敷の奥へと向かう。
いつもの光景です。
私が生まれた時、誕生を心待ちにしていた父は産着にくるまれた私の姿を見るなり思いきり顔を引きつらせたそうです。
私の肌が青みがかっていたからです。
青い肌は海外から連れてこられて奴隷として使役されているメラニ族特有のものなのです。
もっとも私の肌の青さは純粋なメラニ族よりもかなり薄い色なのですが。
不貞を疑われた母は必死に抗弁したといいます。
母の曾祖母がメラニ族の解放奴隷だったのでその特徴が現れたのでしょう、と。
実際にそういったことはよくあることだったのです。
とても美しかったというその曾祖母は、それゆえに貴族に見初められて自由を得たのだと聞いています。
父に溺愛されて嫁いだ母の美しさもその血によるものです。
不貞の証拠などなく、私はそのまま父の娘として育てられました。
つけられた名はメラニー。なんて雑な名付けでしょう。
父の私に対する態度は明らかに距離をおいたものだったようです。
それどころか虐待めいた行為もあったとか。
記憶はないのですが、私の片目が見えないのは泣き止まない赤ん坊の私に苛立った父が物を投げつけたせいらしいのです。
見えないだけで潰れたりはしてないのですが。
私の幼い頃の記憶は母の呪詛の言葉で埋め尽くされています。
「あなたさえ産まなければ……」
無邪気に母を慕う私にぼそぼそと投げつけられるのはいつもそのセリフ。
言葉の意味など分からない私は母にしがみつき振り払われる。
「あなたさえ産まなければ……」
私が生まれて以降、父と母の間には溝ができていたようなのです。
私が三歳の時、妹が生まれました。
真っ白い肌を持ち父によく似た妹は親族みんなに歓迎され、天使のようだとちやほやされました。
それを機に父と母の関係も良好なものに転じました。
対して私は家族にとってひたすら目障りな存在になっていったのです。
食卓はみんなとは別。
私は冷めた料理を一人で食べる。
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