はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

文字の大きさ
11 / 77
第一話 ~春~ 再就職先は地獄でした。――いえ、比喩ではなく本当に。

再就職一日目で部下持ちです。

しおりを挟む
「こんにちは。あなた達は一体何者ですか?」

「ほえ~?」

「ぼくら、こおに~!」

「こおに、こおに~!」

 そう言って、三人はトンガリ帽子を取ってみせてくれました。帽子の下、ちょうど旋毛の辺りに小さな角が生えています。
 なるほど。小さくてファンシーな格好をしていても、鬼には変わりないみたいです。

「か……彼らは新人獄卒の子鬼達だ……。君の部下、司書補になる子達だよ……」

 子鬼さん達と話している最中、震える声が聞こえたと思ったら、後ろに閻魔様が立っていました。どうやらクリティカルヒットのダメージから回復したようです。
 けれど、閻魔様のダメージ状態なんてどうでもいいです。それより今この人、とんでもなく重要な素敵ワードを言いましたよね。

「部下? この子達が私の部下になるんですか? 本当に?」

「何だか不安になるくらい、すごくうれしそうだね……」

 現世ではド新人でまだ下僕さえいなかった私が、ここでは正式な部下持ち。
 フフフ。いい響きですよね、『部下』って。

「まあいいか。ともあれ、これからみんなで協力して、この図書館を切り盛りしてくれ。まずは片付けからだが、この子達は見かけによらず力持ちだからね。みんなで頑張れば、きっとすぐに終わるよ」

 優しい上司スマイルで、閻魔様がポンポンと私の肩を叩きます。とりあえずセクハラで訴えてみましょうか、このエロ大王。
 それにしても、なるほど、なるほど……。

「つまりこの子達を馬車馬のようにこき使って、この廃墟を片付けろということですか。こんな可愛い子達をブラック企業のように過労死寸前まで絞り尽せと……。――とことん外道ですね、閻魔様。御自身で地獄を巡って、性根を叩き直してこればいいのに」

「いや、儂、『みんなで協力して』『みんなで頑張れば』って言ったよね。何、この儂が悪いって感じの雰囲気。というか、儂の話を聞いて即今みたいな思考にいく君の方が、よっぽど悪魔じみている気がするんだけど……」

「閻魔様、ずるいですよ! なじられるのは、秘書官である私の仕事のはずです!」

 Mの血が騒いだのか、兼定さんまで復活してきました。
 自分の欲求を満たすためなら、どんな傷でも高速回復させて駆けつける。いやはや、本当に素晴らしきドM根性ですね。もう迅速にくたばればいいのに。――ああ、ここはすでに死後の世界でした。残念。

「時に閻魔様、なぜにこの子達はこんなファンシーな格好をしているのです?」

「ん? いや、それは石上君から次に来る司書は若い女の子だと聞いて……」

「閻魔様の命を受け、私が亜音速で製作しました。一着一分です。糸――と言いますか、縄を使わせたら、地獄で私の右に出る者はいませんよ!」

 閻魔様の言葉を引き継ぎ、兼定さんがイケメンスマイルで答えてくれました。
 技術の出どころはさておき、一着一分って凄まじい裁縫技術ですね。度し難い変態であることを除けば本当に超人ですよ、この似非執事。
 ともあれ、この子たちのメルヘンチックな格好の意味はよくわかりました。

「ふむふむ。つまりこの子達の格好は、メルヘン大王の趣味と兼定さんのドMスキルの賜物と言うわけですね。私のために妙な気遣いをいただき、どうもありがとうございます。お二人の性癖は鳥肌が立つくらい気色悪いですが、この子達はとても可愛いです!」

 私を迎えるため、いろいろ気を回してくれた二人に、最高の笑顔でお礼を言います。

「……………………。フッ……」

 感極まった顔を見られたくないのか、地べたに崩れ落ちた閻魔様が指で『の』の字を書き始めました。
 何やら「儂、メルヘン趣味じゃないもん……」とかいう声が聞こえますが、感動のあまり気が狂っただけでしょう。私、気にしません。
 なお、兼定さんは「ハァハァ……。笑顔でさらりと罵倒――最高です!」と言って悶えています。人生楽しそうですね、この人。

 さて、狂人二人は自分の世界に入ってしまいましたし、これから一緒に仕事をする子鬼さん達に改めて挨拶をするとしましょうか。
 私は早速、愛くるしい身なりをした三人に部下の方へと向き直りました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...