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第一話 ~春~ 再就職先は地獄でした。――いえ、比喩ではなく本当に。

リニューアルオープンの日が決まりました。

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「さてと、君からの報告と要求は以上だね? なら、儂も一つ聞いておきたいことがあるのだが……」

「はい。私に答えられることなら何なりと」

 私が頷くと、閻魔様は「オホンッ!」と一つ咳払いをし、期待するような口調でこう言いました。

「地獄分館だが、いつ頃から開館することが可能かを教えてもらいたい」

 ああ、そう言えば地獄分館って、現在は臨時休館ということになっていたのでした。去年の春に前の司書がいなくなってからは開店休業、年末からは完全休業です。
 期待した様子で聞いてきたということは、閻魔様も現状を憂いていたということでしょうか……。
 ――このゴリラ、ちゃんと分館長としての自覚があったのですね。少し見直しました。

「実は黄泉国立図書館の商議員会から、『どんな形でもいいから、さっさと開館しろ!』とせっつかれていてね。片付けが終了したのなら、できるだけ早く開館してほしいところなのだが……。――でないと儂、来月の商議員会でまた怒られちゃうし……」

 前言撤回。このヒゲ、単に商議員会が怖いだけでした。見た目は超強面のくせに、何と情けない。

「で、宏美君、どうだろうか?」

「そうですね……」

 確かに片付けは終了しましたが、開架である地下一階に置いてあった資料の内、一割少々は廃棄や要修理で利用不可。
 正直なところ、今の状態で開館するのは如何なものかという気もします。
 けれど……。

「そういうことでしたら、今日からでも開館しますよ」

 私ははっきりと、そう答えました。
 ここは、お偉いさんと分館長の要望を叶えるのを優先すべきでしょうからね。
 それに――すぐ使える本は若干少ないですが、せっかく整えた私の城です。できることなら、早く人に見せて自慢したいですしね。

 どうだ、これが私の図書館だぞ、と……。

 本の修理やその他もろもろの作業は、追々なんとかしていけば良いでしょう。
 幸い、私には可愛く優秀な部下がいます。立場上は地獄分館の人間ではありませんが、高圧的に命令すれば喜び勇んで飛んでくるハイスペック変態執事もいます。彼らの助力があれば、意外とすぐに片が付くかもしれませんしね。

「おお、そうか。ならば、区切りよく三日後、五月一日から開館としよう」

「わかりました。では、早速開館の準備を進めるようにいたします」

 私の返事を聞いて、閻魔分館長も大喜びです。
 商議員会で、よほどいびられていたのでしょうね。このセクハラ親父、私の手を握って「ありがとう、ありがとう!」と何度もお礼を言ってきました。
 痴漢行為で本当に檻の中へ放り込んでやりますかね、このゴリラ。ウフフ……。

 まあとりあえず、自慢したいという私情は隠して、この件は閻魔様への貸しということにしておきましょう。
 この貸しは大きいですよ、閻魔様。
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