はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

文字の大きさ
28 / 77
第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?

研修、二日目です。

しおりを挟む
 二日目第一講義:レファレンス論 講師:ダンタリオン氏

 日付変わって、新人研修二日目。午前中の講義はレファレンス論です。レファレンスとは、司書が利用者の探しものや調べものをお手伝いするサービスのことです。

 この講義を担当されるのはアメリカ天国議会図書館からやってきた特別講師、ダンタリオン先生。
 名前を聞いてピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、この方、リアル悪魔です。現在はアメリカの天国住まいですが、昔は七十二の魔神の一柱とか呼ばれていた、れっきとした悪魔さんなのです。

 そんな彼がアメリカ天国議会図書館で働いているのには、当然ながら理由があります。
 何とこの方、悪魔界の派閥争いに敗れ、公爵位やら悪魔パワーやらを剥奪されてしまったのだそうです。
 さらに首まで取られそうになったから、移民ウェルカムなアメリカ天国へ這う這うの体で亡命。今は唯一残った豊富な知識を活かし、アメリカ天国議会図書館でレファレンス部門のトップを務めているとのことでした。

 昔はソロモンさんに呼ばれてブイブイ言わせていたそうですが、こうなってしまうと色々形無しですね。
 ただ、当の本人は息苦しい社交界から解放され、自由を謳歌しているみたいです。悠々自適なセカンドライフというやつですよ。人生、何がどう転ぶかわかったものではありませんね。

 ――さて、そんな没落悪魔が行う講義。その内容がどんなものだったかと言えば……悪魔らしくなかなかに鬼畜外道なものでしたね。

「レファレンスは実践が一番!」

 と、流暢な日本語(日本のアニメを週に百時間程見ていたら、自然と覚えたとのこと。この悪魔、いつ仕事をしているのでしょうか)で宣った彼は私達を三班に分け、『何この無茶振り!』的な課題を出してきました。
 探す本はそれぞれ違いますが、課題内容はすべての班で同じです。A4用紙を一枚だけ渡し、「この本を探してきなさい」と、それだけです。
 渡されたA4用紙には、本の見開き二ページ分の内容が印刷されていました。 しかも、ご丁寧なことにページ番号は消されています。
 つまり、渡された二ページに書かれた内容だけを頼りに本を探して来いというわけです。蔵書数一千万冊オーバーを誇るこの本館から、たった二時間で。

 しかも見つからなかった場合は、メイド服か執事服で先生の買い物(アニメDVD、フィギュア、ゲームなど)に一日付き合うという罰ゲーム付きです。もう最悪です。

 まあ、さすがに黒歴史確定な罰ゲームは皆さん御免だったらしく、全班見事に本を見つけ出しましたけどね。
 で、みんな本を見つけられて、めでたし、めでたし。――といけば良かったのですが、そうは問屋が卸さなかったわけで……。

 何とあのオタク講師、私達が必死に本を探している間、多目的室のプロジェクターを使って、一人でアニメ鑑賞会を開いていたのです。
 それを知った受講者一同は大激怒。私の扇動と指揮に従った受講者達は、ダンタリオン先生にメイド服を着せた上で、ニューハーフメイドカフェなるものに売り飛ばしました。
 先方も初の外国人メイドに野太い雄叫びを上げて喜んでいましたし、先生も日本のサブカルチャーが堪能できて本望だったことでしょう。

 いやはや、良いことをした後というのは、大変清々しいものですね。
 今度こそ本当に、めでたし、めでたし。



 二日目第二講義:図書補修学 講師:黒仙こくせん

 研修二日目の午後は、二コマ分の時間を使って図書補修学です。文字通り、本の修理について教えてくれる講義でした。
 この講義における最も驚くべき点は、やはり講師でしょうね。
 何と図書補修学の講師は――。

「「「くろいはくせんさんだ~!」」」

 そう。うちの子鬼さん達の言葉通り、講師として現れたのは白仙さんと瓜二つの容姿をした御老体だったのです。
 唯一の違いは、白仙さんの髭と眉毛が白かったのに対し、彼はそれらが真っ黒ということでしょうか。――ああ、いや、今の白仙さんは見事なパチンコ玉ですから、首から上に毛があるかないかの違い、という方がわかりやすいですね。

 ――え? この人、何者かって? 

 どうやらこの黒仙さん、白仙さんの双子の弟さんらしいです。講義が終わった後に確認したら、あっさり教えてくれました。
 ちなみに私のことは、白仙さんから色々と聞いているとのことでした。その所為か知りませんが、黒仙さんは私と話す間、常に目を泳がせ、冷や汗を掻きまくり、喧々諤々と震えていらっしゃいました。

 あの似非仙人、黒仙さんに一体どんな説明をしたのでしょうか。今度、地獄裁判所でじっくりと聞かせていただくとしましょう。
 さて、最高級のおもてなしをするために、まずは拷問――いえ尋問部屋の予約をしておかねば。ウフフ……。

 ――と、それは横においておくとしましょう。

 話を戻して肝心の講義の方はと言いますと、職人さんによる実演及び体験教室といった風情のものでした。
 図書館内でできる簡単な本の修繕を、まず黒仙さんが実演。それが終わったら、受講者である私達が同じ修繕を体験するという形です。

 ただ……修繕体験自体は、正直言って今更感しかありませんでしたね。
 どこかのアホ獄卒達のおかげで、私や子鬼さん達はその手の実体験に事欠きませんでしたから。
 兼定さんが半分以上修理してくれましたが、私達だって百冊単位で本の修理を経験したのです。もはや、そこらの司書には絶対負けないレベルと言ってよいでしょう。

 ですが――そんな修復の大家たいかたる私から見ても、黒仙さんの実演は見応えのあるものでした。

 例えるなら、そうですね。
 兼定さんの修理が速さ重視の大量生産とするなら、黒仙さんの修理は職人によるオーダーメイドといった感じでしょうか。速さでは兼定さんに軍配が上がりますが、黒仙さんの修理は本のことを第一に考えた修理と言えます。
 さすがは、この道二千年余り(黒仙さんの自己申告)のキャリアを誇る修繕のプロフェッショナルです。あのパチンコ玉仙人の弟でなければ、今すぐにでも誘拐――もとい地獄分館の職員として招聘したいくらいでしたよ。

 何はともあれ、どこぞの武勇伝パワハラ講師やアニオタ講師と違い、実にまともで為になる講義でした。
 グッジョブです、黒仙さん。
 ご褒美にあなたの髭は毟らないであげましょう。感謝してくださいね!


 * * *


 ――はい!
 以上で二日間にわたる講義のダイジェストは終了です。お付き合いいただき、ありがとうございました。
 さて、これらの講義を無事に修了した私達受講者一同は、いよいよ本館での業務実習に臨むのでした。
 果たして、どうなることやら……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...