はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

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第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?

天国本館のカウンターは戦場でした。

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 研修三日目。つまりは新人研修最終日。
 この日は受講者全員、朝から本館のロビーに集められました。

「さて皆さん、本日はここ、黄泉国立図書館天国本館でいくつかの業務を体験していただこうと思います」

 開館二十分前。まだ利用者のいないロビーで、石上さんが本日の実務研修に関しての説明をしてくれています。
 ちなみに一歩引いた位置には、藤原さんもいらっしゃっています。
 今日はこの二名で、受講者の監督をするようです。
 黄泉国立図書館が誇るツートップ。盤石の布陣ですね。

「皆さんも一日目の講義で知っての通り、天国本館は膨大な蔵書数を誇るため、利用者からの依頼を受けて職員が本の出納を行います。また、本の利用方法は館内閲覧のみですから、利用が終わった本が次々と返ってきます。本日皆さんに行ってもらうのは、この依頼の受付と本の出納、返却された資料の配架、閲覧室の巡回です。――では皆さん、今から配る紙を一枚ずつ受け取ってください」

 そう言って、石上さんが受講者にコピー紙を回しました。受け取って内容を読んでみると、そこには本日の班分けと班ごとのスケジュールが書かれています。
 ふむふむ……。私達地獄分館組は全員揃ってA班ですね。
 スケジュールは午前中がカウンターでの依頼受付、午後が最初に本の出納で、最後に閲覧室の巡回ですか。

「それでは、A班の皆さんは小生がご案内します。B班の方々は藤原殿の指示に従ってください」

 スケジュールを確認する私達に、石上さんが手際よく指示を出していきます。
 班ごとに分かれた私達はそれぞれ石上さんと藤原さんに付いて、各班の持ち場へと移動を開始しました。

「さあ皆さん、ここが天国本館の閲覧申請カウンターです」

 私達A班が案内されたのは、役所のようにいくつも窓口が並んだカウンターでした。数えてみたところ、一度に10人が並んで利用者の対応ができるようになっています。
 さすがは黄泉国立図書館の本館です。受付カウンターの広さも、地獄分館とは比べ物になりませんね。

「本日は一番から三番までのカウンターを研修用に使わせてもらうことになっています。それでは、二人一組でカウンターに付いてください。私は後ろに控えていますので、わからないことがあったらすぐに呼んでくださいね」

「「「はい(は~い)!」」」

 A班全員で石上さんへ返事をするのと同時、開館を告げる館内アナウンスが流れました。
 地獄分館ではほとんど人が来ない毎日でしたが、ここではそのようなことはないでしょう。つまり、私の実力を如何なく発揮できるというわけです。

(さあ、気合を入れてカウンターに入るとしましょうか!)

 私はペアを組んだとまとさんと共に、颯爽と一番カウンターへ入って行きました――。


 * * *


「――はい! これで午前の研修は終了です。A班の皆さん、お疲れ様でした」

 利用者の流れが一段落したところを見計らい、石上さんがパンパンと手を打ちながら私達の注目を集めました。
 言われて腕時計を見てみれば、すでにお昼を回っています。
 全然気が付きませんでした。

「何この戦場……。利用者多過ぎ……」

「僕達、なんで天国で地獄を見ているんだろう……」

 交代の職員に席を譲っていたら、受講者達の話し声が聞こえてきました。
 あはは。戦場というのは、なかなかに言い得て妙ですね。利用者数なんてたかが知れている分館や分室と違い、本館のカウンター業務は正に戦場と言えるほどの忙しさでした。
 私達受講者にとって、この忙しさは最早軽いカルチャーショックですよ。
 さすがは、日本のあの世で最大最高の図書館。蔵書数、施設規模だけでなく、一日の利用者数もメガトン級です。
 おかげで息をつく暇もなく、あっという間に午前中の実務研修が終了です。

「少し時間をオーバーしてしまいましたね。では、一時十分までお昼休憩の時間とします。お昼休憩が終わりましたら、次は旧館地下一階の第一閉架書庫へ集合してください。――それでは、解散!」

 A班の面子が全員カウンターを出たところで、石上さんが事務連絡を入れます。
 慣れない受付業務で疲れきった私達は、その連絡をぼんやりした頭で聞き、ゾンビのような足取りで受付カウンターを後にしたのでした。

 フフフ……。天国本館の恐ろしさ、たっぷりと体験させてもらいましたよ……。
 才色兼備のスーパー司書である私をここまで追い詰めるとは、誠にあっぱれです。褒めて遣わす。
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