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第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
読書週間をします。
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「読書週間をやります」
「……………………。……は?」
十月の半ばに差し掛かった、ある日のこと。
シンデレラ城に最上階にある閻魔様の執務室を訪ねた私は、休憩中と思われる閻魔様に読書週間実施を提言しました。
――あ、おやつの温泉まんじゅう、おいしそう。
私の提案を聞いた閻魔様は、間抜け面で首を傾げています。
こうして見ると、まんまゴリラですね。
ついでに理解力も猿並に落ちてしまったご様子。
仕方ありませんね。もう一度言い直してあげましょう。
「ですから、モグモグ。読書週間をやります、モグモグ」
「ああ、うん……。それはわかったけど、とりあえず、その『読書週間』って何かな?」
温泉まんじゅうを食べながらもう一度言ってあげると、閻魔様はありえない質問を返してきました。
アハハ。このヒゲ、一体何を言っているのでしょう。
「閻魔様、地獄分館の分館長をやっているくせに、読書週間も知らないのですか。――ったく、これだからゴリラは……」
「君さ、最近儂に対する悪態をまったく取り繕わなくなったよね……」
「私と閻魔様の仲ですからね。無礼講ですよ、無礼講」
「いや、単に儂が、一方的に罵倒され続けているだけな気がするのだが……」
ズーンという効果音でもつきそうな勢いで俯く閻魔様。兼定さんなら泣いて喜ぶところなんですけどね。
余談ですが、兼定さんはただ今出張中ですので、この場にはいません。何でも、定期視察で地獄の各地を回っているとのことです。
まあ、今は兼定さんの動向なんてどうでもいいのですよ。私もそれほど暇ではありませんし、話を進めるとしましょう。
「いいですか、閻魔様。読書週間というのは、文字通り読書を推進する行事を集中的に行う期間のことです。現世では、10月27日から11月9日まで――文化の日を中心とした二週間がこの期間に当たります」
「文化の日を中心に……。ああ! そう言えば、天国本館でも毎年その時期に色々とイベントをやっていたな。なるほど、あれはそういうことだったのか」
閻魔様が合点のいったという顔で、手を打ちました。
どうやらあの世にも、読書週間の文化はちゃんとあったようです。だというのに、今まで知らなかったとはどういう神経をしているのでしょうか、このボンクラ。
「閻魔様がいかにトンチキかは置いとくとして、あの世にも読書週間があるなら話は早いです。地獄でもそれをやります」
「あ……。もう決定事項なんだ……」
閻魔様が諦めたような哀愁を漂わせながら、遠い目で窓の外を眺めます。
と思ったら、閻魔様はすぐにこちらへ視線を戻しました。せわしない人ですね。
「まあいいや。君がそう言うならやってみようか、その『読書週間』とやらを」
「おや? 意外とあっさり認めてくださいましたね。閻魔様、何か悪いものでも拾い食いしましたか?」
「……君、普段儂のことをどんな目で見ているのかな?」
「いやですね。聞きたいのですか? 実は閻魔様、兼定さんに負けず劣らずのドM?」
「違うよ! というか儂、本当にどう思われてるの!」
閻魔様が両手を上下にブンブン振って喚き出しました。
どう思われているのかなんて、それはもう、ねえ……。
そんなことを聞きたがるなんて、さすがは兼定さんを従えている御方だけのことはありますね。身震いしてしまう程の気色悪さです。
「はあ……。もういいよ。問い質しても、儂が痛い目見るだけだし。――別に悪いものを食べたわけじゃないよ。実は夏以降、商議員会における地獄分館の評価が、さらに芳しくない状態になっていてね。こういうところでアピールしておくのも悪くはないかと思っただけだよ」
閻魔様の答えを聞き、今度は私がポンと手を打ちます。
確かにイベントごとは、わかりやすい活動成果となります。うまく成功させることができたなら、これほどよいアピールはないでしょう。
――ただ……一つ解せないですね。
「にしても閻魔様、地獄分館の評価が芳しくないって、また何かやらかしちゃったのですか? ――これだから木偶の坊は……」
「うん! 君ね、ちょっと胸に手を当てて、ここ半年の行いを思い出してごらん」
言われるがままに胸に手を当て、地獄分館の司書になってから今日までのことを思い返してみます。
思えば図書館再建に新人研修、不良更生、他もろもろと、色々なことをやってきましたね。そのすべてが、地獄分館司書の名に恥じない大活躍だったと言えるでしょう。
これを総合的に考えると、つまり……。
「私、そろそろ功労者として表彰されてしまうかもしれませんね。いやはや、照れてしまいます」
「どうしてそうなった!」
閻魔様が信じられないものを見るような顔で吠えました。
はて、何かおかしいことを言ったでしょうか?
「もしかして閻魔様、優秀な私に嫉妬しているのですか? いやですね~。見苦しいですよ、見た目も心も」
「………………。……もう、何でもいいや」
再び諦めたような遠い目で、窓の外に広がる山脈の彼方を見つめる閻魔様。
自らの醜さ、愚かさを悔い改めたようですね。良い心がけです。
「で、宏美君。『読書週間』とやらで、君は一体何をやるつもりかな?」
「そうですね……。差し当たっては、『おはなし会』と『読書マラソン』でもしてみようかと思います」
「ふむ。『おはなし会』というのはわかるけど、『読書マラソン』というのが儂にはよくわからないな。一体、どういうことをやるのかな?」
「通常は読書をして感想を書くということを繰り返していくものですが、今回は捻りを加えた楽しい趣向を考えております。絶対楽しいイベントになりますから、安心してお任せください」
「ああ……。なんて不安を掻き立てられる笑顔……」
閻魔様が何かつぶやいていますが、気違いの戯言に付き合う気はありません。
私プロデュースによる最高に楽しい読書週間、始まり、始まりですよ!
ウフフフフ……。
「……………………。……は?」
十月の半ばに差し掛かった、ある日のこと。
シンデレラ城に最上階にある閻魔様の執務室を訪ねた私は、休憩中と思われる閻魔様に読書週間実施を提言しました。
――あ、おやつの温泉まんじゅう、おいしそう。
私の提案を聞いた閻魔様は、間抜け面で首を傾げています。
こうして見ると、まんまゴリラですね。
ついでに理解力も猿並に落ちてしまったご様子。
仕方ありませんね。もう一度言い直してあげましょう。
「ですから、モグモグ。読書週間をやります、モグモグ」
「ああ、うん……。それはわかったけど、とりあえず、その『読書週間』って何かな?」
温泉まんじゅうを食べながらもう一度言ってあげると、閻魔様はありえない質問を返してきました。
アハハ。このヒゲ、一体何を言っているのでしょう。
「閻魔様、地獄分館の分館長をやっているくせに、読書週間も知らないのですか。――ったく、これだからゴリラは……」
「君さ、最近儂に対する悪態をまったく取り繕わなくなったよね……」
「私と閻魔様の仲ですからね。無礼講ですよ、無礼講」
「いや、単に儂が、一方的に罵倒され続けているだけな気がするのだが……」
ズーンという効果音でもつきそうな勢いで俯く閻魔様。兼定さんなら泣いて喜ぶところなんですけどね。
余談ですが、兼定さんはただ今出張中ですので、この場にはいません。何でも、定期視察で地獄の各地を回っているとのことです。
まあ、今は兼定さんの動向なんてどうでもいいのですよ。私もそれほど暇ではありませんし、話を進めるとしましょう。
「いいですか、閻魔様。読書週間というのは、文字通り読書を推進する行事を集中的に行う期間のことです。現世では、10月27日から11月9日まで――文化の日を中心とした二週間がこの期間に当たります」
「文化の日を中心に……。ああ! そう言えば、天国本館でも毎年その時期に色々とイベントをやっていたな。なるほど、あれはそういうことだったのか」
閻魔様が合点のいったという顔で、手を打ちました。
どうやらあの世にも、読書週間の文化はちゃんとあったようです。だというのに、今まで知らなかったとはどういう神経をしているのでしょうか、このボンクラ。
「閻魔様がいかにトンチキかは置いとくとして、あの世にも読書週間があるなら話は早いです。地獄でもそれをやります」
「あ……。もう決定事項なんだ……」
閻魔様が諦めたような哀愁を漂わせながら、遠い目で窓の外を眺めます。
と思ったら、閻魔様はすぐにこちらへ視線を戻しました。せわしない人ですね。
「まあいいや。君がそう言うならやってみようか、その『読書週間』とやらを」
「おや? 意外とあっさり認めてくださいましたね。閻魔様、何か悪いものでも拾い食いしましたか?」
「……君、普段儂のことをどんな目で見ているのかな?」
「いやですね。聞きたいのですか? 実は閻魔様、兼定さんに負けず劣らずのドM?」
「違うよ! というか儂、本当にどう思われてるの!」
閻魔様が両手を上下にブンブン振って喚き出しました。
どう思われているのかなんて、それはもう、ねえ……。
そんなことを聞きたがるなんて、さすがは兼定さんを従えている御方だけのことはありますね。身震いしてしまう程の気色悪さです。
「はあ……。もういいよ。問い質しても、儂が痛い目見るだけだし。――別に悪いものを食べたわけじゃないよ。実は夏以降、商議員会における地獄分館の評価が、さらに芳しくない状態になっていてね。こういうところでアピールしておくのも悪くはないかと思っただけだよ」
閻魔様の答えを聞き、今度は私がポンと手を打ちます。
確かにイベントごとは、わかりやすい活動成果となります。うまく成功させることができたなら、これほどよいアピールはないでしょう。
――ただ……一つ解せないですね。
「にしても閻魔様、地獄分館の評価が芳しくないって、また何かやらかしちゃったのですか? ――これだから木偶の坊は……」
「うん! 君ね、ちょっと胸に手を当てて、ここ半年の行いを思い出してごらん」
言われるがままに胸に手を当て、地獄分館の司書になってから今日までのことを思い返してみます。
思えば図書館再建に新人研修、不良更生、他もろもろと、色々なことをやってきましたね。そのすべてが、地獄分館司書の名に恥じない大活躍だったと言えるでしょう。
これを総合的に考えると、つまり……。
「私、そろそろ功労者として表彰されてしまうかもしれませんね。いやはや、照れてしまいます」
「どうしてそうなった!」
閻魔様が信じられないものを見るような顔で吠えました。
はて、何かおかしいことを言ったでしょうか?
「もしかして閻魔様、優秀な私に嫉妬しているのですか? いやですね~。見苦しいですよ、見た目も心も」
「………………。……もう、何でもいいや」
再び諦めたような遠い目で、窓の外に広がる山脈の彼方を見つめる閻魔様。
自らの醜さ、愚かさを悔い改めたようですね。良い心がけです。
「で、宏美君。『読書週間』とやらで、君は一体何をやるつもりかな?」
「そうですね……。差し当たっては、『おはなし会』と『読書マラソン』でもしてみようかと思います」
「ふむ。『おはなし会』というのはわかるけど、『読書マラソン』というのが儂にはよくわからないな。一体、どういうことをやるのかな?」
「通常は読書をして感想を書くということを繰り返していくものですが、今回は捻りを加えた楽しい趣向を考えております。絶対楽しいイベントになりますから、安心してお任せください」
「ああ……。なんて不安を掻き立てられる笑顔……」
閻魔様が何かつぶやいていますが、気違いの戯言に付き合う気はありません。
私プロデュースによる最高に楽しい読書週間、始まり、始まりですよ!
ウフフフフ……。
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