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序章 転生と辺境の村
叡智之神
しおりを挟む神殿を包み込んだ白光は、まるで昼の太陽をそのまま閉じ込めたかのようだった。
石壁に描かれた古代文字が浮かび上がり、柱に刻まれた模様が脈動するように輝く。
村人たちは誰もが目を覆い、光の奔流に息を呑んでいた。
「う、うわぁ……!」
「ま、眩しくて……!」
祭壇の中央――そこに立つノエルだけが、光の中心で静かに目を閉じていた。
「……ノエル!」
エリオットの叫びも、厚い光の壁に遮られて届かない。
白髭の司祭は杖を取り落とし、震える声を漏らした。
「な、なんという輝き……! こんな光、見たことがない……!」
人々は誰もが“神が降臨した”のだと錯覚した。
外で待っていた子供たちまでも、扉の隙間から洩れる光に目を丸くしている。
だがその時、ノエルの意識は別の場所へと引き込まれていた。
音も影もない虚空。
ただ無限の静寂と、星々のような光の粒子が漂う世界。
(ここは……どこだ?)
そう思った瞬間、澄んだ声が頭の奥に響いた。
――汝に授けよう。《叡智之神》。
「……!」
心臓が大きく跳ねた。
声はさらに続く。
――汝の知をもって、形を創り、知を授け、成長を加速せよ。
次の瞬間、概念そのものが流れ込んでくる。
音でも言葉でもない。
それは“理解”だ。
まるで無限の書物を一瞬で読み解くように、知識の奔流が脳裏を駆け抜けた。
「う……っ!」
熱い光がノエルの掌から溢れ出し、胸の奥に何かが刻み込まれる感覚。
世界の理の一部が、自分の中に組み込まれていく。
(これが……俺のスキル?)
“知を形にし、与え、成長を促す”――その意味の片鱗だけを掴んだ瞬間、ノエルは直感した。
これは単なる便利な加護ではない。
人や物、ひいては世界そのものを変え得る力だと。
やがて光は静かに収まり、ノエルの意識は再び神殿へと引き戻されていった。
◆
足元には、祭壇の石畳が微かに焦げた跡を残している。
ノエルはぼんやりと天井を見上げ、震える手を見つめた。
(……まさか、神級スキル?)
伝説でしか語られない存在。数百年に一人現れるかどうかの奇跡。
それが今、自分に宿った。
頭の片隅で、前世で読んだラノベの定番展開がよぎる。
――ハズレスキルからの大逆転。
――追放された少年が無双する物語。
苦笑がもれた。
(……いや、俺は追放なんてされない。この村のみんながいる)
村人たちの顔が次々と浮かぶ。
共に畑を耕し、食卓を囲み、笑い合ってきた仲間たち。
――ああ、これが俺の物語の始まりなんだ。
胸の奥で、熱が大きく脈打った。
神殿の光が静まり、長い沈黙が訪れた。
先ほどまで昼のように明るかった空間は、嘘のように静かで、ただ焦げた石畳からかすかな煙が立ちのぼっている。
「……お、収まったのか?」
「ノエルは……無事なのか……?」
村人の一人が恐る恐る声を漏らす。
すると、震える司祭が石板を高く掲げ、声を張り上げた。
「記されたスキル名――《叡智之神》!」
一瞬の沈黙。
だが次の瞬間、神殿の空気が爆ぜたようなどよめきに包まれた。
「な、なんだと……神級スキル……!?」
「伝承でしか聞いたことがない……!」
「まさか、この小さな村から選ばれるなんて……!」
誰かがその場に膝をつき、涙をこぼした。
別の者は天を仰ぎ、震える声で「神が……神がこの地を祝福された……!」と叫んだ。
老人たちは手を取り合い、若者は歓喜の叫びを上げ、子供たちは目を輝かせてはしゃぎ回る。
泣き笑いする人々の中心で、ノエルはまだ自分の掌を見つめていた。そこに淡く輝く紋章が確かに浮かんでいる。
「ノエル……!」
人々が我先にと駆け寄り、次々と祝福の言葉をかける。
「神童どころか、神様そのものじゃねぇか!」
「これで村は救われる!」
「ノエルがいれば、村は発展していく!」
熱気は祝祭のようだった。神殿は祈りと歓声に満ち、老いも若きも彼の名を呼ぶ。
その中で、仲間たちが彼のもとへ集まってきた。
レオンは肩を組みながら大声で笑う。
「おいおい! もう“神童”じゃ足りねぇな! これからは“神ノエル”って呼んでやる!」
サラは口元に手を当て、少し不安そうに微笑んだ。
「ノエル……すごい、すごいよ……でも、ちょっと怖いくらいの力だね」
マルクは腕を組み、照れくさそうに頷いた。
「同い年の俺たちが、こんなすごいヤツと一緒だなんて……誇らしいな」
ディランは帳面を小脇に抱えながら、冷静に言う。
「神級スキル……つまり、この村の未来はノエルにかかってるってことだ。やれやれ、責任重大だな」
そしてエリオット。
彼は握り締めた拳を突き出し、いつものように力強い笑みを浮かべた。
「お前が光ってる時、正直死ぬかと思ったけど……よかった! ノエル、おめでとう!」
笑いと涙と興奮が入り混じる友情の輪。
ノエルは照れ臭そうに笑いながら言った。
「ありがとう。でも……俺一人の力じゃない。ここまで来れたのは、みんながいたからだ」
サラはその言葉に目を細め、柔らかく囁いた。
「ノエルなら、きっと世界を変えられるよ」
その一言が、ノエルの胸に静かに響いた。
◆
やがて神殿の扉が開かれる。
朝日が差し込み、雪を反射して世界全体が一層明るく輝いて見えた。
光の中で、村人たちは一斉にノエルを祝福する歌を口ずさみ始める。
ノエルは胸に手を当て、星空ではなく朝日に向かって静かに誓った。
(この力で、必ず村を――そして世界を豊かにする)
仲間と共に歩み、神に与えられた叡智をもって。
少年は新たな時代の幕を切り開く存在となった。
そして心の奥で、小さく笑みを浮かべる。
「……あとは、可愛い嫁を探す!」
朝の光が神殿を満たす中、ノエルの願いはひそやかに空へと溶けていった。
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