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2.兄との邂逅
「帝国と婚姻を結ぶことで、王国の未来は安泰だ」
セレスティアは無言で父の顔を見つめる。
「帝国への出立は3日後とする」
「かしこまりました」
静かに答える。
「準備はすでに手配している。後はお前が、その役目を果たすだけだ」
父の目には国王としての欲がだけが爛々と輝いている。セレスティアの嫁入りを足がかりに、王国の権威をさらにあげようと思っているのだろう。ザインツベルグ帝国の脅威さえ抑えられればこの王国はさらに手を広げられるとでも思っているのだろう。
(そんなにうまくいくとも思わないけれど……)
帝国がセレスティアを手に入れたからといって、王国に侵攻しないとは限らない。それどころか、セレスティアを手元に置いていることで関税を下げろなどと言ってくるのではないだろうか。もっとも、セレスティアがこの父にとって人質となり得ないのだが。そうなると帝国でのセレスティアの立場は厳しいものとなるだろう。
「もう行け」
国王はそう告げると、すでにセレスティアへの関心はなくなったようにさっさと行けという風に手を振った。セレスティアは何も言わず、静かに書斎を後にした。
国王の書斎からセレスティアの私室へ続く廊下はすっかり静まりかえっている。窓から差し込む月の光が冷たくあたりを照らす。時々すれ違う使用人たちもセレスティアに話しかけることはしない。
だんだんと足取りは速くなっていく。目の前に迫る現実が心をかき乱す。
その時、廊下の先から重厚な靴音が響いてきた。顔を上げると、彼女の目に映ったのは長兄である第一王子グレゴリーだった。整った容姿と堂々たる風格は、彼が次代の王となるべき人物であることを物語っている。だが、その完璧さが、いつもセレスティアには遠い存在だと感じさせる原因でもあった。
「……セレスティアか」
グレゴリーの声にも感情の欠片もない。父にそっくりなところも、セレスティアが兄を避ける一因でもあった。セレスティアは彼に深々と頭を下げ、儀礼的に口を開く。
「王国の若き太陽に、挨拶申し上げます」
グレゴリーはセレスティアを一瞥すると、冷笑を浮かべた。
「お前こそ、無事でいられるのが奇跡だな。父上の書斎から出てきたようだが、何かしでかしたのか?」
その言葉に含まれる軽蔑に、セレスティアの胸がわずかに痛んだ。しかし彼女は、長年培った冷静さを失うことなく答える。
「父上から、ザインツベルグ帝国皇帝との婚姻を命じられてございます」
エリアスの目がわずかに細まり、その表情には一瞬の驚きが浮かんだ。しかし、それはすぐに冷淡な顔へと戻った。
「ふん、そうか。誰も引き取り手がないお前にしては、身に余る大役だな。せいぜいローディア王国の恥を晒さぬよう、気をつけることだ」
「ご忠告、痛み入りますわ」
それだけ言うと、セレスティアは再び歩き出した。兄の冷たい視線が背中に突き刺さるのを感じながらも、一度も振り返ることはなかった。
どれだけ言葉が刃のように鋭く突き刺さろうとも、表情を変えると彼は嬉々としてセレスティアをいじめ抜こうとするだろう。兄に弱さを見せる訳にはいかない。
兄から離れたところまで来て、セレスティアはそっと息を吐き出した。父や兄と話すと痛感する。自分は彼らに愛されない存在なのだと。自分は誰からも必要とされない、価値のない存在なのだと心が軋む音がする。
「私はここを出て私の道を見つけるの」
セレスティアは自分に言い聞かせるようにそう言うと、冷たい壁に囲まれた王宮の中をただ一歩ずつ歩みを進めた。
セレスティアは無言で父の顔を見つめる。
「帝国への出立は3日後とする」
「かしこまりました」
静かに答える。
「準備はすでに手配している。後はお前が、その役目を果たすだけだ」
父の目には国王としての欲がだけが爛々と輝いている。セレスティアの嫁入りを足がかりに、王国の権威をさらにあげようと思っているのだろう。ザインツベルグ帝国の脅威さえ抑えられればこの王国はさらに手を広げられるとでも思っているのだろう。
(そんなにうまくいくとも思わないけれど……)
帝国がセレスティアを手に入れたからといって、王国に侵攻しないとは限らない。それどころか、セレスティアを手元に置いていることで関税を下げろなどと言ってくるのではないだろうか。もっとも、セレスティアがこの父にとって人質となり得ないのだが。そうなると帝国でのセレスティアの立場は厳しいものとなるだろう。
「もう行け」
国王はそう告げると、すでにセレスティアへの関心はなくなったようにさっさと行けという風に手を振った。セレスティアは何も言わず、静かに書斎を後にした。
国王の書斎からセレスティアの私室へ続く廊下はすっかり静まりかえっている。窓から差し込む月の光が冷たくあたりを照らす。時々すれ違う使用人たちもセレスティアに話しかけることはしない。
だんだんと足取りは速くなっていく。目の前に迫る現実が心をかき乱す。
その時、廊下の先から重厚な靴音が響いてきた。顔を上げると、彼女の目に映ったのは長兄である第一王子グレゴリーだった。整った容姿と堂々たる風格は、彼が次代の王となるべき人物であることを物語っている。だが、その完璧さが、いつもセレスティアには遠い存在だと感じさせる原因でもあった。
「……セレスティアか」
グレゴリーの声にも感情の欠片もない。父にそっくりなところも、セレスティアが兄を避ける一因でもあった。セレスティアは彼に深々と頭を下げ、儀礼的に口を開く。
「王国の若き太陽に、挨拶申し上げます」
グレゴリーはセレスティアを一瞥すると、冷笑を浮かべた。
「お前こそ、無事でいられるのが奇跡だな。父上の書斎から出てきたようだが、何かしでかしたのか?」
その言葉に含まれる軽蔑に、セレスティアの胸がわずかに痛んだ。しかし彼女は、長年培った冷静さを失うことなく答える。
「父上から、ザインツベルグ帝国皇帝との婚姻を命じられてございます」
エリアスの目がわずかに細まり、その表情には一瞬の驚きが浮かんだ。しかし、それはすぐに冷淡な顔へと戻った。
「ふん、そうか。誰も引き取り手がないお前にしては、身に余る大役だな。せいぜいローディア王国の恥を晒さぬよう、気をつけることだ」
「ご忠告、痛み入りますわ」
それだけ言うと、セレスティアは再び歩き出した。兄の冷たい視線が背中に突き刺さるのを感じながらも、一度も振り返ることはなかった。
どれだけ言葉が刃のように鋭く突き刺さろうとも、表情を変えると彼は嬉々としてセレスティアをいじめ抜こうとするだろう。兄に弱さを見せる訳にはいかない。
兄から離れたところまで来て、セレスティアはそっと息を吐き出した。父や兄と話すと痛感する。自分は彼らに愛されない存在なのだと。自分は誰からも必要とされない、価値のない存在なのだと心が軋む音がする。
「私はここを出て私の道を見つけるの」
セレスティアは自分に言い聞かせるようにそう言うと、冷たい壁に囲まれた王宮の中をただ一歩ずつ歩みを進めた。
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