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第五章
第五章 「業の刃と硝子の魔女」
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第五章 「業の刃と硝子の魔女」
1
あっという間に時間が経ち、魔法大会が翌日まで迫っていた。
「出来た……!」
ラウルスの挑戦が終わったのは、そんな時だった。
「これは、今までとは違う……。絶対にそうだと言い切れる。これは、正真正銘の虹術だわ……!」
自身の周囲を魔力で包みながら、ラウルスは叫んだ。この瞬間に辿り着くまでの過程が齎した成長が彼女から溢れ出し、彼女の動きに合わせてその軌跡が彼女の周囲を優しく照らしていた。夜の帳が下りてすっかりと暗くなった世界をよそに、彼女の立つ空間だけは昼間のように明るかった。
「よし……。先生に見せに行こう!」
足元で力強く咲う花の香を蹴飛ばして、ラウルスは走り出す。
ラウルスは遂に、虹術を完成させた。
達成感と歓喜を帯びた疾走と時間を前後して、クオーレは家の外で目を見開く。
「珍しいですね……。まさか貴方が会いに来るなんて……」
クオーレの目の前には、モノクルを着けた男が立っている。
「フン……」
「それで、何かありましたか? わざわざ貴方が顔を見せるなんて、きっと前向きな話題ではないのでしょうけど……。ねぇ……シルフィーさん?」
クオーレの言葉を聞いてシルフィーは少しだけ不機嫌そうに溜め息をついた。
そして、少しの間を置いて口を開く。
「ザバスから頼まれてな……。自分に何かあったら君を訪ねるようにと」
「何かあったら……?」
クオーレが首を傾げると、シルフィーは腕を組んで言った。
「こんな所に住んでいるならば知らないか……。全く、王都では皆知っているというのに……」
「嫌味はいいですから、用件を言ってくださいよ」
クオーレが溜め息交じりに言うと、シルフィーは静かに言った。
「ザバスが死んだ」
「っ……!」
クオーレは目を見開いた。冷静さは失わなかったが、それでも驚きは隠す事が出来なかった。
「魔族を殺して回っている通り魔がいるみたいだが、どうも殺し過ぎておかしくなったようだな。今では邪魔となる人間は漏れなく殺しているらしく、遂にはザバスをも手に掛けた……。だから、警告に来た。ザバスを殺したというのならば、僕やリジェは勿論の事だが、君もそいつの標的になるかもしれないからな」
シルフィーの話を聞いていたクオーレは暫く黙っていたが、彼がある程度話し終えた所で口を開いた。
「……ザバス君は、もしかして誰が犯人なのか分かっていたのではないですか?」
「……!」
その言葉にシルフィーの表情が変わったのを見て、クオーレは続ける。
「そしてその相手が、私達の知る相手だったから、私達への影響を想定したのではないですか?」
「……流石。察しがいいのは十四年前から変わらないな」
ネクタイでモノクルを拭きながら、シルフィーは言った。
「ならば、どんな警告かは分かるよな?」
「……」
シルフィーがそう言うと、クオーレは表情を曇らせた。
「早い所、避難する事だ。王都でそいつと会うならばまだ対応できるかもしれないが、こんな誰もいない所でザバスを殺すような奴と会ったのならば……いくら君でも無事では済まないだろう」
「……」
シルフィーの言葉を聞きながら、クオーレは南側の森の向こうを見た。
(ラウルス……)
出会った頃よりもずっと濃密に熟れた彼女の魔力を感じ取りながら、クオーレは少しだけ寂しげに瞼を閉じ、暫くしてから静かに微笑んだ。
「分かっていますよ、シルフィーさん……」
そして少しだけ間を置いてから、クオーレは呟くように彼に言った。
「長い事、武器を捨てて戦いから退いてきた私には、もう〝彼〟を倒す事も止める事も難しいでしょうから……。貴方やザバス君が思っているように、変に首を突っ込むのは利口ではないし、私は早急に消えるべきでしょうね……」
「……」
黙って話を聞くシルフィーにクオーレは振り返る。
「でも……まだ少しだけここにいさせてください。明日まで……。あの時、婚約者を喪ったあの時から生きる意味を見出せなかったけれど、何だか最後まで見届けたいと思える未来ができて、それが私の生きる意味になりました……。だから、最後まで見届けさせてください。明日で、それが終わるのです」
クオーレが最後まで言い終えると、シルフィーは半ば呆れたような顔で、それでいて穏やかな表情を浮かべて笑った。
「好きにしたまえ……。君はいつも僕の言う事だけは素直に聞かなかったからな……。半ば分かっていたのか、ザバスも君の要求を尊重するよう言っていたよ」
「ごめんなさいね。私は貴方の事が少しだけ嫌いなのです」
笑顔のままそう言って、再び南側を眺めたクオーレを見て、シルフィーは苦笑いを浮かべながら同じように南側を見た。
「……」
かなり離れた距離でも感じ取れる膨大な魔力の奔流は、シルフィーの目にもしっかりと理解出来ているようだった。
(確かに、これは見事だな……。この堅物魔女が夢中になるのも分かる気がする……)
「彼女は、夢を叶えつつあります。〝誰かの為に魔法を使える〟立派な人間に……。そんなあの子の成長を見るのがとても楽しい」
まるでシルフィーの心の中を見抜いたように、クオーレが言った。
すると、彼もクオーレの言葉に返答するように静かに言った。
「この前、王都の職人街で美しい魔法を使う少女に会ったよ……。僕が知っているような〝誰かを壊すために使うもの〟ではなく、ただ単純に〝困っている人を助ける為に使ったもの〟として詠まれた詩は、立派な魔法使いの背を見せてくれたんだ。もしも、彼女が明日の魔法大会に出場したのなら、これまでの歴史を変えるような結果を出すだろうと思ったよ」
シルフィーがそう言って笑うと、クオーレはまた少しだけ微笑んだ。
「あの子は、もう最高の魔女ですよ。とうの昔に私なんかでは到底追い付く事は出来ない程……」
クオーレが言うと、シルフィーもまた静かに笑った。
「君は本当に可愛くない奴だったが、能力は確かだったからな……。君の弟子は、最高の師を得たんだろうね。そして間違いなく、君は素晴らしい魔女を見つけたんだ」
「……やっぱり貴方が嫌いです。一言一言癪に障るけれど、物事の見方や発言は確かですからね。十四年前から、羨ましいくらいに完璧でした……」
互いに穏やかな表情で貶し合うと、二人は素直な笑顔を浮かべた。
「いい弟子だね……」
「ええ、あの子は私の誇りです」
最後の最後に意見を合わせると、二人は暫くの間、南側で閃く魔力の輝きを見つめていた。
2
「ぐ……クソッ……」
肩を震わせながら泣きじゃくる、トパーズのような瞳の女性が抱く青年の亡骸を見て、白い鎧に包まれた雄々しい気迫を発する青年が歯を食い縛った。
「ッ……!」
「そ……そんな……」
後から来た、モノクルを着けた青年も息を呑み、茶色いフレームの眼鏡が特徴的な女性は酷く動揺した。
「……」
悲哀に満ちた空気に包まれた一行を、少しだけ離れた位置から黒い髪の青年は見つめていた。
(ヴェール……。お前にはこの結末が分かっていたのか……?)
黒い髪の青年はふとそんな事を考える。
(この先悪い方向に転んだら、俺には何かできるだろうか……?)
そして、そんな考えが過った時、彼の目線の先の白騎士が叫んだ。
「これが俺達の戦いの終わりだと……⁉ ふざけるな……ッ! 認めん……俺は認めんぞッ‼」
他の者達が悲しみに暮れる中でただ一人怒りに燃える白騎士。
(悪い方向に……)
そんな彼の様子を見ながら、黒い髪の青年は悲しみとは別の所で芽生えた〝不安〟のようなものを、心の片隅に抱かずにはいられなかった。
クオーレと別れて、シルフィーは王都に向かって走っていた。周囲に気を配りながら、慎重かつ迅速に森を抜けようとしていた。
(北側の布陣が消えた……)
クオーレに会う前に、彼は自身の能力で安全弁を用意していたのだが、そこに綻びができた事を感じ取っていた。
「力の強い精霊を選んだのに……、それでも駄目だったのか……」
シルフィーは万物に宿る精霊を操る術に長けた魔法使いである。その力を使ってアビスフォレストの入り口に防衛のための結界を張っていた。
しかし、ほんの少し前にその結界が何者かによって破壊されたのだ。
(ザバスを殺すだけに留まらず、僕の精霊魔法をも破壊するか……。やはり、最悪の形で〝彼〟と会う事になりそうだ……)
そんな事を考えながら進んでいたシルフィーだったが、
「……!」
前方から感じ取った只ならぬ雰囲気に、咄嗟にその足を止めた。
「……」
そして、その先の景色に目を見開いた。
そこには、鋭い殺意のような圧力を放つ黒騎士がいた。
「ザバスをも殺し、僕の魔法を破壊できる、そんな力を持ち、魔族を殺し回る理由を持つ〝人間〟は……君しかいないよな……」
シルフィーが言うと、黒騎士はあまり彼を意識に入れずに、まるで独り言のように話し出した。
「大きな魔力を感じた……。この森の奥に途轍もなく大きなものが暫く燃え上がっていたように感じた。それはお前ではない……。それは分かる。と、するとだ……」
そこまで言うと、黒騎士は南側の景色の先を眺めた。
(まずい状況だな……。これは……)
「知ってどうする……。君は、何が目的でこんな事をしている?」
質問を投げかけながら、シルフィーは臨戦態勢を整える。
「……」
そんなシルフィーの様子を見て、黒騎士も持っていた剣を彼に向けた。
「今の君には僕も羽虫程度の障害に過ぎないか……? 〝導師〟は、味方がいないと成り立たない役職だと……?」
シルフィーがそう言うと、黒騎士は何処か呆れたような様子で一歩前へ踏み出した。
「そこまで分かっていて尚もお前は構えているな……」
黒騎士はもう一歩前へ出る。
「その仮面の傷は、きっとザバスが殴ったんだろう?」
黒騎士の仮面は少しだけひび割れている部分があった。シルフィーはその場所を見ながら続ける。
「僕も〝英雄〟だ。ザバスが君に立ち向かったのならば、僕も同じ事をするよ」
「……」
シルフィーは自身の周囲を魔力で包むと、鋭い視線を黒騎士に向けた。
(クオーレの事は、正直どうだっていい。だけど、彼女が見届けるであろう、彼女の〝生きる意味〟の行く末は些か興味がある。それを知っていて障害を放っておくのは野暮だろう……)
「やはり、違うな。お前じゃない……」
半ばシルフィーへの関心を失い、南側に視線を向ける黒騎士に向かって、シルフィーは駆け出した。
「相手になってもらうぞ……!」
数多の精霊の助力を纏いながらシルフィーは今一度鋭い視線を黒騎士に向けた。
森の北側での激突と時間を前後して、クオーレは家の前で考える。
(シルフィーさんの結界の一つが破壊されたと……)
「残念だけど、悠長に構えている余裕はないみたいですね……」
シルフィーの警告通り、良からぬ事が起きていて、それが意外にもすぐ側まで来ている事に、クオーレは溜め息を吐いた。
「先生!」
「ラウルス……」
彼女のもとに、弟子が戻って来たのはそんな時だった。
「私、やりました! 虹術を……」
笑顔でクオーレのもとに駆け寄ったラウルスだったが、彼女の表情を見て喋るのを止めた。
「先生……?」
そして、笑顔をその表情から消して彼女の顔を覗き込んだ。
「……」
クオーレの表情には陰りが見られた。
「どうしたんですか……?」
長い事クオーレと過ごしてきたので、ラウルスにも彼女が今、ラウルスの最終試験とは関係のない事に関心を向けていて、それでいてそれに対して頭を悩ませている事が理解できた。
「ごめんなさい、ラウルス……。折角だけれど、少しだけ大事な用事ができてしまって……。直ぐに試験を始めたい所だけど……」
クオーレは曇った表情をそのままにラウルスに言った。
「大丈夫ですよ……。先生がそんな顔するなんて……。きっと重要な事ですよね?」
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
申し訳なさそうな顔でクオーレはラウルスに近付くと、封筒を取り出して彼女の手に握らせた。
「これは……?」
封筒の宛名はリジェだった。少しだけ余裕がなかったのか、かなり雑な殴り書きで書かれた名前だった。
「申し訳ないけれど、早急にリジェちゃんに届けて欲しいの……」
「構いませんが……」
ラウルスは今までにない程暗い表情のクオーレを見て、不安な気持ちを感じずにはいられなかった。
「差し支えなければ、内容は何です……?」
「……」
何も言わず、クオーレは目を逸らし、俯いた。
「……行ってきます」
「ごめんなさい……」
ラウルスは箒を出して空に飛び上がった。
「水術〝霞道〟一の詩・ユートピアミラージュ」
「……!」
彼女が飛び上がったと同時に、クオーレは静かに魔法を唱えていた。
(私の姿を……?)
「……」
自身に対して使用された魔法に、ラウルスの不安は更に大きくなった。
「先生……」
「……」
彼女のいる場所とはほんの少しだけずれた場所を見つめる師の、どんよりと曇った表情が引っ掛かったが、ラウルスは敢えて考えるのを止めた。
「……」
そして静かに彼女から目線を外し、王都を目指した。
「ぐ……」
傷だらけになりながら、シルフィーは膝を突いた。
「もういい……」
黒騎士は静かに言うと、シルフィーから視線を外した。
「向こうに少し魔力を感じた……。やはりお前以外にも誰かいるな……」
黒騎士はシルフィーに背を向け、歩き出した。
「ッ……」
(隙だらけだが……油断ではなく、余裕だろうな……)
ここから何をしようとも、自分に勝ち目がない事を、シルフィー自身分かっていた。同じように黒騎士も彼に対して一切の脅威を感じていないようだった。
(だが……)
シルフィーは最後の精霊の力を借りて、自身を魔力で包み込んだ。
「……!」
言う事を聞かない脚を強引に従わせて、シルフィーは黒騎士に突進した。
「……飽いた」
近付いて来るシルフィーを見て黒騎士はただ一言そう言った。
「ッ……‼」
その直後、シルフィーの全身に強烈な一撃が叩き込まれた。
「ぐはぁ……ッ⁉」
夜空に、敗者の悲鳴が打ち上げられた。
3
「本当に、行ってしまうの?」
「ええ。何だか、素直に喜ぶ事が出来ないですから……」
茶色いフレームの眼鏡の女性の問いに、トパーズのような瞳の女性が静かに答えた。
魔王との戦いが終わり、王都では終戦のパレードが開かれていた。
そんな賑やかな世界の外れにある、比較的静かな場所で、二人は向かい合っていた。
「ヴェールの事は……残念だったわね……」
「……」
眼鏡の女性が言うと、トパーズのような瞳の女性は寂しげに俯いた。
「今の貴方にこんな事言うのは、好ましい事ではないと分かっているわ……。でも……、それでもヴェールは貴方が前を向いて歩いていく事を望んでいたと、私は思う……」
「ええ、分かっています……。分かって……いるの……」
しんみりとした空気に溶け込んでしまいそうな声を絞り出した後、トパーズのような瞳の女性は眼鏡の女性に背を向けた。
「でも……、今は一人にさせてください。私は、そこまで強くないよ……」
「クオーレ……」
左手の薬指を暫く眺めた後、トパーズのような瞳の女性はステンドグラスのような配色の手袋で左手を覆い隠した。
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
振り返らずにそう言った彼女の背を、眼鏡の女性は穏やかな目で見つめた。
「ううん。ゆっくりと休んで……。私はいつでも待っているから……。もしも貴方が落ち着いたら、また会いましょうね……」
眼鏡の女性は寂しそうな表情を浮かべていたが、最後は笑ってそう言った。
「ありがとう。リジェちゃん……」
控えめに笑ってそう言うと、トパーズのような瞳の女性はゆっくりと歩き出した。
「……」
無駄な魔力を出さず、精神を集中させながら、クオーレは目を閉じたまま、開けた場所で立っていた。
(二つの大きな魔力が何度も点滅するのを感じた……。多分一つはシルフィーさん……)
彼が何かを察知して王都に戻ろうとした時点で、クオーレも、遅かれ早かれ訪れる〝その瞬間〟への覚悟を決めていた。
(ただ、怖い……。ラウルスの、あの子の涙を想像すると……。あの子の〝その先〟に私がいない事を考えると……。寂しくて堪らない……)
その瞬間が訪れた時に、果たしてどんな結果で終わるのか、この先どんな過程を辿ったとしても、待っているものが一つしかないのではないか……。そう考えると、心が少しずつささくれていくようだった。
「……!」
そんなクオーレの後ろ向きな感情をまるで運命が蔑ろにするかのように、無情にもその瞬間は訪れる。
「……」
自身の方へゆっくりと歩いて来る存在に、クオーレは覚悟を固めて言葉を投げる。
「十四年前から思っていたのですけれど、貴方の性格が不安の種でした……。何だか極端で融通の利かない感じが、良い方向にも悪い方向にも転んでしまいそうで……」
相手は構わずに足を進めるが、クオーレは続けた。
「貴方という人間が、光の面と影の面そのものを司っているようだった……。何というかほんの少しのきっかけで、良し悪しの定率が引っくり返ってしまうような、〝良くも悪くも受け取る事が出来る〟基準の上を生きている人に見えて仕方がなかったのです……」
そう言ってクオーレが面と向かって闘志を向けると、〝彼〟も歩を止めた。
「表裏一体……。貴方は、〝あの日〟を境に引っくり返ってしまった……。〝聖騎士〟、いいえ……」
自身に剣を向けるその相手をゆっくりと見据えて、クオーレはその男の名を呼んだ。
「暗黒騎士・ロルベーア……」
男は仮面を外して彼女を見た。かつて誇り高き正義感を帯びていたその目は、今や冷たく尖った怒りだけが蠢いていた。
「クオーレ……」
その男は、かつてクオーレ達と共に魔王を倒すべく戦い、その戦いの勝利を以て、彼女達と共に〝英雄〟と呼ばれた男だった。
4
「ッ……⁉」
王都に向かう空の上で、ラウルスは背後の森から只ならぬ緊張を感じた。今までにない程に不気味な胸騒ぎに、ラウルスは本能的に背を向ける事を拒絶する。
(やっぱり、何かが起こっている……)
「……」
ラウルスが振り返ると、途轍もなく大きな魔力の奔流が絶えず森から溢れていた。
「……」
(果たして、このまま王都に行くべきなのだろうか……?)
自身が手に持つ封筒を見て、ラウルスは表情を曇らせる。これを手渡した時の師の顔を思い出すと、嫌な想像が頭を何度も過った。
「……」
暫く考えていたが、時間が経てば経つ程に原因不明の焦燥が強くなっていく。
「ごめんなさい。先生……ッ!」
ラウルスは、躊躇する理性を黙らせて、封筒を開けた。今までクオーレの指示に背いた事などなかったのだが、ラウルスは初めてその禁を拒絶した。只の勘だったが、今回ばかりはクオーレの指示に素直に従うと後悔する気がしたのだ。
中には一枚だけ手紙が入っていて、たった一言、殴り書きがされていた。
「ッ……⁉」
そして、その文章を見た瞬間、ラウルスは手紙を投げ捨て、踵を返した。
「先生……ッ‼」
投げ捨てられた手紙が、彼女の加速に煽られて彼方へ吹き飛ばされた。
「ラウルスをお願い」
手紙にはそう書かれていた。
終戦のパレードの夜、王都の外れの目立たない場所で、二人の男が立っていた。そしてそのうちの一人、黒い髪の青年は、白い鎧を燃やしながら剣を握るもう一人の青年を見ていた。
めでたい日の、誰もが歓喜に満ち溢れているであろう時間の中で、まるで切り取られたかのように逸脱しているその空間は、異質な空気で溢れていた。二人は少しも動かなかったが、名状しがたい独特な感覚が、中枢神経を絶えず刺激していた。
「ロルベーア……お前、何を考えている?」
黒い髪の青年は、剣を握る青年に聞いた。
「……」
ロルベーアと呼ばれた青年はただただ静かに鎧を破壊していく炎を見つめている。
「ずっと変だ。確かに俺達よりもヴェールとの付き合いが長いお前の気持ちは相当なものだと思うよ……。でもお前、あいつの〝死〟を王都に隠したり、あいつを弔おうともしていなかっただろう」
黒い髪の青年が言うと、ロルベーアは振り返らずに、ゆっくりと口を開いた。
「今はまだ……弔わん。〝俺達の〟戦いは終わったが、〝俺の〟戦いはまだ終わっちゃいない。いや、終わらせられる訳がない……。この先どんなに掛かろうと、相応の〝結果〟が出なければ、この戦いは絶対に終わらないんだよ、ザバス」
そこまで言って、ロルベーアは振り返る。
「ッ……⁉」
ザバスと呼ばれた青年は少し凍り付いた。
ロルベーアの纏う雰囲気が異様だった。人形のように生気を失った顔、そこからザバスを見つめる眼は一切の感動を失ったように、視線が湿っていた。
「俺には、分からないよ……」
「分らんさ……」
静かに向かい合う二人を、少しずつ弱まっていく炎が不気味に照らしていた。
クオーレは静かに口を開く。
「理由はもう聞きません。何となく、分かる気がするから……」
クオーレの言葉にロルベーアは少し不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「お前は憎くないのか? あの日、目の前であいつを喪ったお前は……」
クオーレは表情を曇らせて、ロルベーアを見た。
「確かに悲しかった……」
そして、消えるように呟いた。
「……」
そんな彼女をロルベーアは無表情で見つめている。
「彼を心から愛していましたから……。憧れがいつしか深い恋心に変わって、結婚を誓って、初めてを捧げ彼に抱かれ、最後の戦いの時も共に生き抜く事を約束した……。そんな相手を喪ったのだから……」
十四年前から引き摺っていた悲しみの蓋を開けて、クオーレは俯く。
「ならば、どうしてお前はここにいる? 何故何もせずに呑気に時を費やしている?」
「……!」
ロルベーアの問いに、クオーレは強く燃える心を表情に透写して顔を上げた。
「それが、彼の望んだ事だから」
「何……?」
ロルベーアは怪訝そうな表情を浮かべていたが、クオーレは構わずに続けた。
「彼の親友である貴方なら、彼の性格をよく分かっていたでしょう? 彼は仇討ちなんか望まない……。例え自分がどうなろうと、自分の周囲の幸福の為に平気で命を晒す人だった……ッ! 置いて行かれたのは悲しかったけれど、私は彼の選択に抗議しない。彼が望んで示してくれた生き方を私は誇って歩いて行きたい。彼を救えなかった悔いは、今後繰り返さないように心に留めるだけでいい。彼はそれを望んでいました。私は、そんな彼を裏切りたくないの……ッ‼」
「馬鹿を言うな……ッ!」
初めてロルベーアが怒りを表情に張り付けた。
「馬鹿じゃない……。すごくまともです。依然変わらず彼を愛しているから、私は戦いを捨てたのです。彼が齎した、平和な時代を壊さないために」
「黙れッ‼ あいつを想う心を忘れたのかッ⁉ 真にあいつを想っていたのなら、あいつの結末を怒り、戦い続けるものだろうッ‼」
憤るロルベーアにクオーレは鋭い視線を向けた。
「ヴェールは死にました。……死んでよかったと初めて思いますよ……」
そして、同時に憐れむような表情を彼に向けた。
「今の貴方の姿を見せたら、彼を深く傷付けてしまう……」
「……!」
その瞬間、ロルベーアの中で何かが燃え上がったように、クオーレは感じた。
「どうやら、英雄としての矜持を失ったようだな……」
そう言うと、ロルベーアは、黒く歪んだ殺意と共にクオーレに剣を向けた。
「もういい……。お前に少しだけ期待していた俺が馬鹿だった。お前も、俺の敵だ」
「汚れた口を閉じなさい……。あなたの呼吸は大気を汚す……」
クオーレも左手を翳し、自身の周囲を魔力で包み込んだ。
「この世に別れを告げるがいい……。直ぐにあいつに会わせてやる……」
「私は死なない……。彼が望んだように、悲劇を乗り越え〝幸せ〟を掴む……」
刹那、二つの闘志が火花を散らす。
かつて共に戦った〝英雄〟が、明確な敵意を胸に激突した。
第五章 「業の刃と硝子の魔女」
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あっという間に時間が経ち、魔法大会が翌日まで迫っていた。
「出来た……!」
ラウルスの挑戦が終わったのは、そんな時だった。
「これは、今までとは違う……。絶対にそうだと言い切れる。これは、正真正銘の虹術だわ……!」
自身の周囲を魔力で包みながら、ラウルスは叫んだ。この瞬間に辿り着くまでの過程が齎した成長が彼女から溢れ出し、彼女の動きに合わせてその軌跡が彼女の周囲を優しく照らしていた。夜の帳が下りてすっかりと暗くなった世界をよそに、彼女の立つ空間だけは昼間のように明るかった。
「よし……。先生に見せに行こう!」
足元で力強く咲う花の香を蹴飛ばして、ラウルスは走り出す。
ラウルスは遂に、虹術を完成させた。
達成感と歓喜を帯びた疾走と時間を前後して、クオーレは家の外で目を見開く。
「珍しいですね……。まさか貴方が会いに来るなんて……」
クオーレの目の前には、モノクルを着けた男が立っている。
「フン……」
「それで、何かありましたか? わざわざ貴方が顔を見せるなんて、きっと前向きな話題ではないのでしょうけど……。ねぇ……シルフィーさん?」
クオーレの言葉を聞いてシルフィーは少しだけ不機嫌そうに溜め息をついた。
そして、少しの間を置いて口を開く。
「ザバスから頼まれてな……。自分に何かあったら君を訪ねるようにと」
「何かあったら……?」
クオーレが首を傾げると、シルフィーは腕を組んで言った。
「こんな所に住んでいるならば知らないか……。全く、王都では皆知っているというのに……」
「嫌味はいいですから、用件を言ってくださいよ」
クオーレが溜め息交じりに言うと、シルフィーは静かに言った。
「ザバスが死んだ」
「っ……!」
クオーレは目を見開いた。冷静さは失わなかったが、それでも驚きは隠す事が出来なかった。
「魔族を殺して回っている通り魔がいるみたいだが、どうも殺し過ぎておかしくなったようだな。今では邪魔となる人間は漏れなく殺しているらしく、遂にはザバスをも手に掛けた……。だから、警告に来た。ザバスを殺したというのならば、僕やリジェは勿論の事だが、君もそいつの標的になるかもしれないからな」
シルフィーの話を聞いていたクオーレは暫く黙っていたが、彼がある程度話し終えた所で口を開いた。
「……ザバス君は、もしかして誰が犯人なのか分かっていたのではないですか?」
「……!」
その言葉にシルフィーの表情が変わったのを見て、クオーレは続ける。
「そしてその相手が、私達の知る相手だったから、私達への影響を想定したのではないですか?」
「……流石。察しがいいのは十四年前から変わらないな」
ネクタイでモノクルを拭きながら、シルフィーは言った。
「ならば、どんな警告かは分かるよな?」
「……」
シルフィーがそう言うと、クオーレは表情を曇らせた。
「早い所、避難する事だ。王都でそいつと会うならばまだ対応できるかもしれないが、こんな誰もいない所でザバスを殺すような奴と会ったのならば……いくら君でも無事では済まないだろう」
「……」
シルフィーの言葉を聞きながら、クオーレは南側の森の向こうを見た。
(ラウルス……)
出会った頃よりもずっと濃密に熟れた彼女の魔力を感じ取りながら、クオーレは少しだけ寂しげに瞼を閉じ、暫くしてから静かに微笑んだ。
「分かっていますよ、シルフィーさん……」
そして少しだけ間を置いてから、クオーレは呟くように彼に言った。
「長い事、武器を捨てて戦いから退いてきた私には、もう〝彼〟を倒す事も止める事も難しいでしょうから……。貴方やザバス君が思っているように、変に首を突っ込むのは利口ではないし、私は早急に消えるべきでしょうね……」
「……」
黙って話を聞くシルフィーにクオーレは振り返る。
「でも……まだ少しだけここにいさせてください。明日まで……。あの時、婚約者を喪ったあの時から生きる意味を見出せなかったけれど、何だか最後まで見届けたいと思える未来ができて、それが私の生きる意味になりました……。だから、最後まで見届けさせてください。明日で、それが終わるのです」
クオーレが最後まで言い終えると、シルフィーは半ば呆れたような顔で、それでいて穏やかな表情を浮かべて笑った。
「好きにしたまえ……。君はいつも僕の言う事だけは素直に聞かなかったからな……。半ば分かっていたのか、ザバスも君の要求を尊重するよう言っていたよ」
「ごめんなさいね。私は貴方の事が少しだけ嫌いなのです」
笑顔のままそう言って、再び南側を眺めたクオーレを見て、シルフィーは苦笑いを浮かべながら同じように南側を見た。
「……」
かなり離れた距離でも感じ取れる膨大な魔力の奔流は、シルフィーの目にもしっかりと理解出来ているようだった。
(確かに、これは見事だな……。この堅物魔女が夢中になるのも分かる気がする……)
「彼女は、夢を叶えつつあります。〝誰かの為に魔法を使える〟立派な人間に……。そんなあの子の成長を見るのがとても楽しい」
まるでシルフィーの心の中を見抜いたように、クオーレが言った。
すると、彼もクオーレの言葉に返答するように静かに言った。
「この前、王都の職人街で美しい魔法を使う少女に会ったよ……。僕が知っているような〝誰かを壊すために使うもの〟ではなく、ただ単純に〝困っている人を助ける為に使ったもの〟として詠まれた詩は、立派な魔法使いの背を見せてくれたんだ。もしも、彼女が明日の魔法大会に出場したのなら、これまでの歴史を変えるような結果を出すだろうと思ったよ」
シルフィーがそう言って笑うと、クオーレはまた少しだけ微笑んだ。
「あの子は、もう最高の魔女ですよ。とうの昔に私なんかでは到底追い付く事は出来ない程……」
クオーレが言うと、シルフィーもまた静かに笑った。
「君は本当に可愛くない奴だったが、能力は確かだったからな……。君の弟子は、最高の師を得たんだろうね。そして間違いなく、君は素晴らしい魔女を見つけたんだ」
「……やっぱり貴方が嫌いです。一言一言癪に障るけれど、物事の見方や発言は確かですからね。十四年前から、羨ましいくらいに完璧でした……」
互いに穏やかな表情で貶し合うと、二人は素直な笑顔を浮かべた。
「いい弟子だね……」
「ええ、あの子は私の誇りです」
最後の最後に意見を合わせると、二人は暫くの間、南側で閃く魔力の輝きを見つめていた。
2
「ぐ……クソッ……」
肩を震わせながら泣きじゃくる、トパーズのような瞳の女性が抱く青年の亡骸を見て、白い鎧に包まれた雄々しい気迫を発する青年が歯を食い縛った。
「ッ……!」
「そ……そんな……」
後から来た、モノクルを着けた青年も息を呑み、茶色いフレームの眼鏡が特徴的な女性は酷く動揺した。
「……」
悲哀に満ちた空気に包まれた一行を、少しだけ離れた位置から黒い髪の青年は見つめていた。
(ヴェール……。お前にはこの結末が分かっていたのか……?)
黒い髪の青年はふとそんな事を考える。
(この先悪い方向に転んだら、俺には何かできるだろうか……?)
そして、そんな考えが過った時、彼の目線の先の白騎士が叫んだ。
「これが俺達の戦いの終わりだと……⁉ ふざけるな……ッ! 認めん……俺は認めんぞッ‼」
他の者達が悲しみに暮れる中でただ一人怒りに燃える白騎士。
(悪い方向に……)
そんな彼の様子を見ながら、黒い髪の青年は悲しみとは別の所で芽生えた〝不安〟のようなものを、心の片隅に抱かずにはいられなかった。
クオーレと別れて、シルフィーは王都に向かって走っていた。周囲に気を配りながら、慎重かつ迅速に森を抜けようとしていた。
(北側の布陣が消えた……)
クオーレに会う前に、彼は自身の能力で安全弁を用意していたのだが、そこに綻びができた事を感じ取っていた。
「力の強い精霊を選んだのに……、それでも駄目だったのか……」
シルフィーは万物に宿る精霊を操る術に長けた魔法使いである。その力を使ってアビスフォレストの入り口に防衛のための結界を張っていた。
しかし、ほんの少し前にその結界が何者かによって破壊されたのだ。
(ザバスを殺すだけに留まらず、僕の精霊魔法をも破壊するか……。やはり、最悪の形で〝彼〟と会う事になりそうだ……)
そんな事を考えながら進んでいたシルフィーだったが、
「……!」
前方から感じ取った只ならぬ雰囲気に、咄嗟にその足を止めた。
「……」
そして、その先の景色に目を見開いた。
そこには、鋭い殺意のような圧力を放つ黒騎士がいた。
「ザバスをも殺し、僕の魔法を破壊できる、そんな力を持ち、魔族を殺し回る理由を持つ〝人間〟は……君しかいないよな……」
シルフィーが言うと、黒騎士はあまり彼を意識に入れずに、まるで独り言のように話し出した。
「大きな魔力を感じた……。この森の奥に途轍もなく大きなものが暫く燃え上がっていたように感じた。それはお前ではない……。それは分かる。と、するとだ……」
そこまで言うと、黒騎士は南側の景色の先を眺めた。
(まずい状況だな……。これは……)
「知ってどうする……。君は、何が目的でこんな事をしている?」
質問を投げかけながら、シルフィーは臨戦態勢を整える。
「……」
そんなシルフィーの様子を見て、黒騎士も持っていた剣を彼に向けた。
「今の君には僕も羽虫程度の障害に過ぎないか……? 〝導師〟は、味方がいないと成り立たない役職だと……?」
シルフィーがそう言うと、黒騎士は何処か呆れたような様子で一歩前へ踏み出した。
「そこまで分かっていて尚もお前は構えているな……」
黒騎士はもう一歩前へ出る。
「その仮面の傷は、きっとザバスが殴ったんだろう?」
黒騎士の仮面は少しだけひび割れている部分があった。シルフィーはその場所を見ながら続ける。
「僕も〝英雄〟だ。ザバスが君に立ち向かったのならば、僕も同じ事をするよ」
「……」
シルフィーは自身の周囲を魔力で包むと、鋭い視線を黒騎士に向けた。
(クオーレの事は、正直どうだっていい。だけど、彼女が見届けるであろう、彼女の〝生きる意味〟の行く末は些か興味がある。それを知っていて障害を放っておくのは野暮だろう……)
「やはり、違うな。お前じゃない……」
半ばシルフィーへの関心を失い、南側に視線を向ける黒騎士に向かって、シルフィーは駆け出した。
「相手になってもらうぞ……!」
数多の精霊の助力を纏いながらシルフィーは今一度鋭い視線を黒騎士に向けた。
森の北側での激突と時間を前後して、クオーレは家の前で考える。
(シルフィーさんの結界の一つが破壊されたと……)
「残念だけど、悠長に構えている余裕はないみたいですね……」
シルフィーの警告通り、良からぬ事が起きていて、それが意外にもすぐ側まで来ている事に、クオーレは溜め息を吐いた。
「先生!」
「ラウルス……」
彼女のもとに、弟子が戻って来たのはそんな時だった。
「私、やりました! 虹術を……」
笑顔でクオーレのもとに駆け寄ったラウルスだったが、彼女の表情を見て喋るのを止めた。
「先生……?」
そして、笑顔をその表情から消して彼女の顔を覗き込んだ。
「……」
クオーレの表情には陰りが見られた。
「どうしたんですか……?」
長い事クオーレと過ごしてきたので、ラウルスにも彼女が今、ラウルスの最終試験とは関係のない事に関心を向けていて、それでいてそれに対して頭を悩ませている事が理解できた。
「ごめんなさい、ラウルス……。折角だけれど、少しだけ大事な用事ができてしまって……。直ぐに試験を始めたい所だけど……」
クオーレは曇った表情をそのままにラウルスに言った。
「大丈夫ですよ……。先生がそんな顔するなんて……。きっと重要な事ですよね?」
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
申し訳なさそうな顔でクオーレはラウルスに近付くと、封筒を取り出して彼女の手に握らせた。
「これは……?」
封筒の宛名はリジェだった。少しだけ余裕がなかったのか、かなり雑な殴り書きで書かれた名前だった。
「申し訳ないけれど、早急にリジェちゃんに届けて欲しいの……」
「構いませんが……」
ラウルスは今までにない程暗い表情のクオーレを見て、不安な気持ちを感じずにはいられなかった。
「差し支えなければ、内容は何です……?」
「……」
何も言わず、クオーレは目を逸らし、俯いた。
「……行ってきます」
「ごめんなさい……」
ラウルスは箒を出して空に飛び上がった。
「水術〝霞道〟一の詩・ユートピアミラージュ」
「……!」
彼女が飛び上がったと同時に、クオーレは静かに魔法を唱えていた。
(私の姿を……?)
「……」
自身に対して使用された魔法に、ラウルスの不安は更に大きくなった。
「先生……」
「……」
彼女のいる場所とはほんの少しだけずれた場所を見つめる師の、どんよりと曇った表情が引っ掛かったが、ラウルスは敢えて考えるのを止めた。
「……」
そして静かに彼女から目線を外し、王都を目指した。
「ぐ……」
傷だらけになりながら、シルフィーは膝を突いた。
「もういい……」
黒騎士は静かに言うと、シルフィーから視線を外した。
「向こうに少し魔力を感じた……。やはりお前以外にも誰かいるな……」
黒騎士はシルフィーに背を向け、歩き出した。
「ッ……」
(隙だらけだが……油断ではなく、余裕だろうな……)
ここから何をしようとも、自分に勝ち目がない事を、シルフィー自身分かっていた。同じように黒騎士も彼に対して一切の脅威を感じていないようだった。
(だが……)
シルフィーは最後の精霊の力を借りて、自身を魔力で包み込んだ。
「……!」
言う事を聞かない脚を強引に従わせて、シルフィーは黒騎士に突進した。
「……飽いた」
近付いて来るシルフィーを見て黒騎士はただ一言そう言った。
「ッ……‼」
その直後、シルフィーの全身に強烈な一撃が叩き込まれた。
「ぐはぁ……ッ⁉」
夜空に、敗者の悲鳴が打ち上げられた。
3
「本当に、行ってしまうの?」
「ええ。何だか、素直に喜ぶ事が出来ないですから……」
茶色いフレームの眼鏡の女性の問いに、トパーズのような瞳の女性が静かに答えた。
魔王との戦いが終わり、王都では終戦のパレードが開かれていた。
そんな賑やかな世界の外れにある、比較的静かな場所で、二人は向かい合っていた。
「ヴェールの事は……残念だったわね……」
「……」
眼鏡の女性が言うと、トパーズのような瞳の女性は寂しげに俯いた。
「今の貴方にこんな事言うのは、好ましい事ではないと分かっているわ……。でも……、それでもヴェールは貴方が前を向いて歩いていく事を望んでいたと、私は思う……」
「ええ、分かっています……。分かって……いるの……」
しんみりとした空気に溶け込んでしまいそうな声を絞り出した後、トパーズのような瞳の女性は眼鏡の女性に背を向けた。
「でも……、今は一人にさせてください。私は、そこまで強くないよ……」
「クオーレ……」
左手の薬指を暫く眺めた後、トパーズのような瞳の女性はステンドグラスのような配色の手袋で左手を覆い隠した。
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
振り返らずにそう言った彼女の背を、眼鏡の女性は穏やかな目で見つめた。
「ううん。ゆっくりと休んで……。私はいつでも待っているから……。もしも貴方が落ち着いたら、また会いましょうね……」
眼鏡の女性は寂しそうな表情を浮かべていたが、最後は笑ってそう言った。
「ありがとう。リジェちゃん……」
控えめに笑ってそう言うと、トパーズのような瞳の女性はゆっくりと歩き出した。
「……」
無駄な魔力を出さず、精神を集中させながら、クオーレは目を閉じたまま、開けた場所で立っていた。
(二つの大きな魔力が何度も点滅するのを感じた……。多分一つはシルフィーさん……)
彼が何かを察知して王都に戻ろうとした時点で、クオーレも、遅かれ早かれ訪れる〝その瞬間〟への覚悟を決めていた。
(ただ、怖い……。ラウルスの、あの子の涙を想像すると……。あの子の〝その先〟に私がいない事を考えると……。寂しくて堪らない……)
その瞬間が訪れた時に、果たしてどんな結果で終わるのか、この先どんな過程を辿ったとしても、待っているものが一つしかないのではないか……。そう考えると、心が少しずつささくれていくようだった。
「……!」
そんなクオーレの後ろ向きな感情をまるで運命が蔑ろにするかのように、無情にもその瞬間は訪れる。
「……」
自身の方へゆっくりと歩いて来る存在に、クオーレは覚悟を固めて言葉を投げる。
「十四年前から思っていたのですけれど、貴方の性格が不安の種でした……。何だか極端で融通の利かない感じが、良い方向にも悪い方向にも転んでしまいそうで……」
相手は構わずに足を進めるが、クオーレは続けた。
「貴方という人間が、光の面と影の面そのものを司っているようだった……。何というかほんの少しのきっかけで、良し悪しの定率が引っくり返ってしまうような、〝良くも悪くも受け取る事が出来る〟基準の上を生きている人に見えて仕方がなかったのです……」
そう言ってクオーレが面と向かって闘志を向けると、〝彼〟も歩を止めた。
「表裏一体……。貴方は、〝あの日〟を境に引っくり返ってしまった……。〝聖騎士〟、いいえ……」
自身に剣を向けるその相手をゆっくりと見据えて、クオーレはその男の名を呼んだ。
「暗黒騎士・ロルベーア……」
男は仮面を外して彼女を見た。かつて誇り高き正義感を帯びていたその目は、今や冷たく尖った怒りだけが蠢いていた。
「クオーレ……」
その男は、かつてクオーレ達と共に魔王を倒すべく戦い、その戦いの勝利を以て、彼女達と共に〝英雄〟と呼ばれた男だった。
4
「ッ……⁉」
王都に向かう空の上で、ラウルスは背後の森から只ならぬ緊張を感じた。今までにない程に不気味な胸騒ぎに、ラウルスは本能的に背を向ける事を拒絶する。
(やっぱり、何かが起こっている……)
「……」
ラウルスが振り返ると、途轍もなく大きな魔力の奔流が絶えず森から溢れていた。
「……」
(果たして、このまま王都に行くべきなのだろうか……?)
自身が手に持つ封筒を見て、ラウルスは表情を曇らせる。これを手渡した時の師の顔を思い出すと、嫌な想像が頭を何度も過った。
「……」
暫く考えていたが、時間が経てば経つ程に原因不明の焦燥が強くなっていく。
「ごめんなさい。先生……ッ!」
ラウルスは、躊躇する理性を黙らせて、封筒を開けた。今までクオーレの指示に背いた事などなかったのだが、ラウルスは初めてその禁を拒絶した。只の勘だったが、今回ばかりはクオーレの指示に素直に従うと後悔する気がしたのだ。
中には一枚だけ手紙が入っていて、たった一言、殴り書きがされていた。
「ッ……⁉」
そして、その文章を見た瞬間、ラウルスは手紙を投げ捨て、踵を返した。
「先生……ッ‼」
投げ捨てられた手紙が、彼女の加速に煽られて彼方へ吹き飛ばされた。
「ラウルスをお願い」
手紙にはそう書かれていた。
終戦のパレードの夜、王都の外れの目立たない場所で、二人の男が立っていた。そしてそのうちの一人、黒い髪の青年は、白い鎧を燃やしながら剣を握るもう一人の青年を見ていた。
めでたい日の、誰もが歓喜に満ち溢れているであろう時間の中で、まるで切り取られたかのように逸脱しているその空間は、異質な空気で溢れていた。二人は少しも動かなかったが、名状しがたい独特な感覚が、中枢神経を絶えず刺激していた。
「ロルベーア……お前、何を考えている?」
黒い髪の青年は、剣を握る青年に聞いた。
「……」
ロルベーアと呼ばれた青年はただただ静かに鎧を破壊していく炎を見つめている。
「ずっと変だ。確かに俺達よりもヴェールとの付き合いが長いお前の気持ちは相当なものだと思うよ……。でもお前、あいつの〝死〟を王都に隠したり、あいつを弔おうともしていなかっただろう」
黒い髪の青年が言うと、ロルベーアは振り返らずに、ゆっくりと口を開いた。
「今はまだ……弔わん。〝俺達の〟戦いは終わったが、〝俺の〟戦いはまだ終わっちゃいない。いや、終わらせられる訳がない……。この先どんなに掛かろうと、相応の〝結果〟が出なければ、この戦いは絶対に終わらないんだよ、ザバス」
そこまで言って、ロルベーアは振り返る。
「ッ……⁉」
ザバスと呼ばれた青年は少し凍り付いた。
ロルベーアの纏う雰囲気が異様だった。人形のように生気を失った顔、そこからザバスを見つめる眼は一切の感動を失ったように、視線が湿っていた。
「俺には、分からないよ……」
「分らんさ……」
静かに向かい合う二人を、少しずつ弱まっていく炎が不気味に照らしていた。
クオーレは静かに口を開く。
「理由はもう聞きません。何となく、分かる気がするから……」
クオーレの言葉にロルベーアは少し不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「お前は憎くないのか? あの日、目の前であいつを喪ったお前は……」
クオーレは表情を曇らせて、ロルベーアを見た。
「確かに悲しかった……」
そして、消えるように呟いた。
「……」
そんな彼女をロルベーアは無表情で見つめている。
「彼を心から愛していましたから……。憧れがいつしか深い恋心に変わって、結婚を誓って、初めてを捧げ彼に抱かれ、最後の戦いの時も共に生き抜く事を約束した……。そんな相手を喪ったのだから……」
十四年前から引き摺っていた悲しみの蓋を開けて、クオーレは俯く。
「ならば、どうしてお前はここにいる? 何故何もせずに呑気に時を費やしている?」
「……!」
ロルベーアの問いに、クオーレは強く燃える心を表情に透写して顔を上げた。
「それが、彼の望んだ事だから」
「何……?」
ロルベーアは怪訝そうな表情を浮かべていたが、クオーレは構わずに続けた。
「彼の親友である貴方なら、彼の性格をよく分かっていたでしょう? 彼は仇討ちなんか望まない……。例え自分がどうなろうと、自分の周囲の幸福の為に平気で命を晒す人だった……ッ! 置いて行かれたのは悲しかったけれど、私は彼の選択に抗議しない。彼が望んで示してくれた生き方を私は誇って歩いて行きたい。彼を救えなかった悔いは、今後繰り返さないように心に留めるだけでいい。彼はそれを望んでいました。私は、そんな彼を裏切りたくないの……ッ‼」
「馬鹿を言うな……ッ!」
初めてロルベーアが怒りを表情に張り付けた。
「馬鹿じゃない……。すごくまともです。依然変わらず彼を愛しているから、私は戦いを捨てたのです。彼が齎した、平和な時代を壊さないために」
「黙れッ‼ あいつを想う心を忘れたのかッ⁉ 真にあいつを想っていたのなら、あいつの結末を怒り、戦い続けるものだろうッ‼」
憤るロルベーアにクオーレは鋭い視線を向けた。
「ヴェールは死にました。……死んでよかったと初めて思いますよ……」
そして、同時に憐れむような表情を彼に向けた。
「今の貴方の姿を見せたら、彼を深く傷付けてしまう……」
「……!」
その瞬間、ロルベーアの中で何かが燃え上がったように、クオーレは感じた。
「どうやら、英雄としての矜持を失ったようだな……」
そう言うと、ロルベーアは、黒く歪んだ殺意と共にクオーレに剣を向けた。
「もういい……。お前に少しだけ期待していた俺が馬鹿だった。お前も、俺の敵だ」
「汚れた口を閉じなさい……。あなたの呼吸は大気を汚す……」
クオーレも左手を翳し、自身の周囲を魔力で包み込んだ。
「この世に別れを告げるがいい……。直ぐにあいつに会わせてやる……」
「私は死なない……。彼が望んだように、悲劇を乗り越え〝幸せ〟を掴む……」
刹那、二つの闘志が火花を散らす。
かつて共に戦った〝英雄〟が、明確な敵意を胸に激突した。
第五章 「業の刃と硝子の魔女」
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