REM-夢を渡る少女-

しぃ

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第1話

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1章 プロローグ

【夢】
1,睡眠中に、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。視覚像として現れることが多いが、聴覚・味覚・触覚・運動感覚を伴うこともある。
2,将来実現させたいと思っている事柄。

 人は夢を見る生き物だ。【夢】。それは睡眠中にみるものであり、将来に向けて掲げる目標でもある。
 行きたい大学、なりたい職業、ああしたい、こうしたい。それは、小さなものから大きなものまで。十人十色の夢で世界は溢れている。
 一般的に夢という言葉の持つイメージは良いもので、時には眩しくもある。
しかしそれは私にとって、目の上のたんこぶでしかなかった。
 それはけして大きな夢を掲げていたからでも、廻りに自分より優れた人間がいたからでもない。元より私に掲げるような大層な夢や目標はないのだ。更に言えば私は夢を見ない。この場合の夢とは睡眠中に見る方の夢だ。
 誰でも夢の中では主役でヒーローになり得る。そういう意味合いの言葉を目に、耳にするたび私の中に負の感情が蓄積されていく。
私が夢を見るとき、それは十中八九が悪夢なのである。
 だってそうでしょ?私が夢を見るとき。その夢はもれなく他人の夢なのだ。
 これは主人公に憧れる私、一之瀬望の物語だ。


2章 始まり
 それは突然の出来事で避けることができなかった。一生の不覚である。
 「廊下を走るな」。小学生になる頃から現れる学生にとっての宿敵のようなものである。多くの生徒は成長と共に落ち着きを習得し、小学校低学年でこの宿敵とは折り合いをつけるのだが、高校生にもなってまだ廊下を走るやつがいるだなんて。それも急ぎの用事があるということではなく鬼ごっこをやっていることが伺える。一瞬、私は小学生に戻った夢でも見ているのではないかとアホなことを思ってしまった。しかし、「ごめん」と軽い謝罪の言葉を残し去っていく男子生徒はこの学校の制服を着ており、小学生が持つかわいらしさを持ち合わせていなかった。
 私は廊下を曲がる際、走ってきた男子生徒とぶつかってしまったのだ。それだけならまだ良かったのだが、ぶつかる寸前に反射で手を体の前にかざしてしまい、同じような体勢をとった男子生徒の手と触れてしまったのだ。ここで生まれるのがときめきや恋心だったならばなんて素晴らしいボーイミーツガールの物語なのだろう。しかし実際私の中にはそうした感情はなく、驚きから怒りへと代わり現在は絶望へと姿を変えていた。
「今夜は悪夢か。」
 絶望の淵に立たされた私だがその感情は二転三転してまた姿を変えていた。
 夢を見るのは久しぶりだったこともあり口をついて出た言葉とは裏腹に、私は少しワクワクしていた。


 最後に夢を見たのはいつ頃だっただろうか。そのとき私はある日突然手に入れた能力をもてあましていた。

 最初に能力に気付いたのは友達との会話がきっかけだった。
「昨日、夢に望ちゃんがでてきたよ。なにしたかあんまりおぼえてないんだけどね。」
「私も愛ちゃんと夢で会ったよ。偶然だね。私は水族館に一緒に行ってイルカのショーを見たよ。」
「私もそんなんだった気がしてきた(笑)」
「はいはい(笑)」
 と、最初は冗談と思い深く考えることはなかった。しかし、他人と同じような夢を見ることが多くなり、次第に疑問が確信へと変わった。
 他人の夢に入り込んでいることに気付くのにそう時間はかからなかった。そして、他人の秘密を知ることへの欲求を止めることは中学1年の私にはまだ難しいことだった。

 夢の世界では、その夢の持ち主は深層心理そのものであり、質問に嘘偽り無く答えてくれた。
「○○君が好き」「○○君は気持ち悪い」「総額2万くらいは万引きをした」色恋沙汰から犯罪暦まで、あるものは武勇伝のように自分の醜態を晒してくれた。
 このとき私はクラスの友達の裏と表の顔を知り、人間とはどういう生き物なのかを理解したつもりになっていた。そして、他人の秘密を知ることに陶酔していった。

 そして事件は起きたのだ。ある日、私はいじめの対象になってしまった。

 昨今、スクールカーストといった言葉を耳にするが、この言葉が生まれたのも当然。学校に平等はないのだ。なぜなら学生は多くのものから守られており「自由」という凶器と「未成年」という最強の免罪符を持ち合わせた最悪のモンスターなのである。間違いを犯すことが前提の子供社会において大なり小なり犯罪が生まれるのは必然である。発覚しているいじめ問題や、万引きは氷山の一角に過ぎないだろう。この現状が事態を悪化させている要因でもあるだろう。

 ばれなければ問題にならないし、皆でやれば怖くないのだ。無数の暗黙のルールに加え閉鎖的な空間である学校では、いじめが起こらない方がおかしいとすら思えてしまう。
 但し、そのいじめの対象については誰しもがなり得るというのが子供社会の最も恐ろしいところだろう。
 社会に出れば社長、部長等の役職により明確な立ち位置が決まる。そして上の者は権力を保持し、下の者を纏め上げる責任がある。

 一方で、暗黙の階級があったとてそこは、未成年。自由であるが彼らの辞書には責任と言う言葉は存在しないのだ。代わりに免罪符というより難解な言葉が載っていたりするから面白い。更に言うと理屈だけでは成り立たないお年頃なのだ。
 ちょっとしたことでいじめる側からいじめられる側へ転落することも珍しくないだろう。ただしそれは誰の意思でもなく、その場の空気によって決まるのだ。日本人とは流される生き物である。
 いじめ自体には明確な理由はないのだ。ちょっとした会話や仕草が原因でいじめに発展するケースすら珍しくないだろう。いじめ談義に花を咲かせてしまったが、今問題なのはそのベクトルが私へと向けられていることだ。しかしまぁ、仕方の無いことなのだろう。いじめられる側の気持ちなど当事者にならなければわからないもので、私はこのとき反省をしたし、いじめに加担したことを初めて後悔した。しかし、私の改心といじめが収まるのかというのは別問題で、言うまでもなく収まることはなかった。

 だから私はクラスそのものを壊したのである。掌握した彼ら彼女らの醜い部分を晒すことで。その日、その瞬間は最高に高ぶったことを覚えている。
 事件が収束に向かい卒業する頃、私はこの能力のせいで中学時代には何も残らなかったのだと結論付け能力は封印した。

 それ以来、私はこの力で他人の秘密を知ることをやめた。そもそも他人の夢に入ることをやめた。経験から能力についていくつかの法則は見つけていた。

1、寝る前に最後に直接肌に触れた相手が寝ている場合相手の夢に強制的に繋がってしまう
2、相手が先に目覚めた場合、相手の夢の中に閉じ込められてしまう
3、閉じ込められた場合、相手が再び睡眠に入ると前回の続きへと夢が誘導される
4、ノンレム睡眠に入ると、夢の世界は停止する(自分は動ける)
5、目が覚めると能力はリセットされ、再び誰かに触れると能力が発動する(おそらく24時間サイク
ルとなっている)
6、0時になると強制的に意識が飛び、睡眠状態へと移行する
7、他人と接触しない場合、夢は見ない

 封印以来、発見もあった。私は自分の夢を見ることができないのである。封印して以来、夢の無い眠りから覚める日々が続き、1週間を過ぎたあたりで私は現状を把握した。
 また、もし他人に触れてしまった場合、目覚ましを早めにセットし、対照の夢の中でアラームを待ち、夢から覚めれば能力はリセットされるのである。私は安眠のために二度寝という裏技を編み出したのだ。しかしどうやらこのリセットにも法則があるようで全てを把握することまではできていない。 

 一度徹夜を試みたことがあった。勉強はできる方だったこともあり、一夜漬けで徹夜などといった経験はなく、22時頃にはいつも眠りに就いていた私だったが、その日は、他人と接触してしまい、重たい気分でベッドに入っていた。しかし、この日はいつもと違い遅い時間まで意識は覚醒したままだった。そして、眠らなければどうなるのかということを試さずにはいられなかった。
 手持ち無沙汰に時計を眺めると、時計の針が12時を目指し長針と短針が重なろうとしていた。昔から規則正しい生活をしていた私にとって背徳感もあり、気分は高揚していた。後から迫る秒針を目で追い、日を跨ぐ瞬間を今か今かと子供のように待つ。その瞬間を迎える寸前、私は意識を失うこととなる。強制的な眠りへの導入だ。
 この体験から私は0時がこの能力のサイクルの基準となっているのだと理解した。それと同時にいくつもの疑問が生まれた。この力を知れば知るほど謎は増えたが私はある結論に至った。この能力は未知数だが、何者かによって制御されているのではないかと。

 学校で男子生徒とぶつかってしまった日の夜。
 私はある決心をした。いつ消えるか分からない力だが、一生消えないという可能性もあるのだ。今までのように人との接触を絶っていては学生を全うすることはできても、社会に出ることができないだろう。高校を卒業するまでにはこの力を知り、制御すべきなのは分かりきっている。コミュニケーション能力を鍛えるにはどうすればいいのか分からないが、まずはこの力について確認をしていこう。
 その日私は久しぶりに他人の夢の中を探索することにした。
 夢の中とは言ってもそこは、他人の夢。私自身は超能力が使えたり、空を飛ぶことはできない。
 夢の中でケガをしたこともないし、死んだことも無いが、おそらくどちらもヤバイ予感しかしない。この力を受け入れ向き合っていくにはそのうち多くの実験が必要になってくるだろう。
そんなことを考えていたときである
「あんたも、夢に入り込めるんだな。」
「え?」
振り返るとそこには一人の男の子がいた。
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