3 / 3
第3話
しおりを挟む
4章
綾瀬正義は善人であった。正しくは善人であろうとしていたというのだろうか。
彼を認識してまだ2日程度だが、それでも私は彼を善人と認識していた。
まるで病的なそれは見ていて不愉快ですらあった。そう思えるほどに彼は善意を振りまいていた。それはもう半額バーゲンセールなんてものではなく訪問販売のようで善意の押し売りと言っても差し支えは無いだろう。
やらない善よりやる偽善と言う言葉を耳にしたことがあるが、それは程度にもよるのだと実感した。現に私は彼の一挙手一投足が鼻につき、ストレスの許容値が限界を迎えようとしていた。
私たちは学校近くの公園で今晩、成田和也の夢に入り込むことを約束し、駅へと向かって歩き出した。最後まで協力するかはまだ決めていないが、実際今晩私はどうなるのかということは気になっていた。
公園の外灯が点き始めたことで、私はあたりが暗くなりかけていることに気付いた。
太陽が沈み、夜はあたりを黒に染めた。月は雲に呑まれ外灯の明かりだけが私たちの行く先を知らせてくれた。もともと都会に住んでいたので引っ越してきて、私は田舎の夜に驚いた。外灯が少なく非常に暗いのだ。駅までの道は流石に整備されており、真っ暗なところはないが、私も一応は女子なので夜に暗い道を歩くことには心細さを感じる。はずなのだが、私の中は不快感でいっぱいで心細さなど皆無だった。目の前を歩く男がポイ捨てされたタバコや空き缶を目に付く限り拾ったり、落し物をわざわざ交番に届けたりと、見せ付けるように善人ぶるのである。
「少し冷えてきたな。寒くないか。」
などと細やかな気配りまでされ、逆に背筋がゾクゾクした。
まるで漫画の主人公のように善良な少年を演じようとしていて気持ちが悪かった。
「ねぇ。それどうにかならないの。」
「病気みたいなもんなんだ。気にしないでくれ。」
自覚症状はあるのか。それはそれでやっかいだなと思いつつ、彼の善行をどうにかする術は無いかと思案していた。
彼が自分で病気と言ったことから何らかの信念があり、それに従っていることは理解できた。むしろ彼は病気と言う言葉を使い自分を卑下することで言外にそうさせたのだろう。綾瀬正義と言う人間は実は私が思っているよりも聡い人間なのかもしれない。
彼がどうして人助けやその他多くの善行を始めたのかはわからない。他人に指摘されても曲げない信念ということは彼もまた何らかのトラウマを抱えているのだろう。まぁ他人のトラウマなんて知りたくも無いけど。他人の秘密なんてもう懲り懲りだ。
あくまで想像ではあるが、そこまで理解できたとて私のイライラはどうすることもできない。だってもう限界超えそうだし。なんなら超えてるといっても過言ではないだろう。なのに絶えているのは私がひと回り人間として成長しているからではないだろうか。ご褒美にコンビニでプリンを買って帰ろう。そして早く帰って美味しいご飯を食べて寝よう。まあ寝るとまたコイツと夢で顔を合わせることになるんですけど。なんなの?ねぇなんなのこれ?
もやもやとしていると彼が問いを投げてきた。
「一之瀬。お前は人助けについてどう思う。」
それは直球ではなく見せ球であろう変化球だった。その問いへの返答次第で次の一手を決めかねていると考えられた。場合によっては長い長い自分語りが始まる恐れもある。そんなのには付き合ってられない。だってプリンが待ってるからね。まだ買ってないけども。などと考えつつ見せ球を見送ると、まだバッターボックスで構えてもいないのに二投目を投げてきやがった。
「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。俺が中学生だったときにクラスでいじめがあったんだけどさ。」
「ターイム。」
口を開けたままあほ面になっている彼に私は笑顔で答えてあげた。
「興味なし。」
今回の笑顔には120点をつけてもいいだろう。私もかなり愛想が良くなったものだ。こんなに笑顔を安売りして大丈夫だろうか。彼の善意と違って私の笑顔はプレミアがついてもおかしくないのだ。そもそも非売品である。学校で笑ったことないし。学校でももっと笑った方がいいのかしらと考えていると、
「そうか。悪かったな。また今度にするよ。じゃあまた夢で。」
と別れの挨拶のつもりだろうか。他人が聞くとなんだこのバカップルはと思われるような恥ずかしい台詞を吐いて先に改札へと駆けて行った。改札を通る彼の姿が見えなくなるまで見送り、一緒の電車になりたくないので近くの書店へと向かうことにした。また今度ってなんだよ。勘弁してください。お願いします。
気になっていた本を購入し満足して帰宅した私だが、食後のプリンを買い忘れ悲しい気分のままベッドに入ることとなった。プリン食べたい・・・。
綾瀬正義は善人であった。正しくは善人であろうとしていたというのだろうか。
彼を認識してまだ2日程度だが、それでも私は彼を善人と認識していた。
まるで病的なそれは見ていて不愉快ですらあった。そう思えるほどに彼は善意を振りまいていた。それはもう半額バーゲンセールなんてものではなく訪問販売のようで善意の押し売りと言っても差し支えは無いだろう。
やらない善よりやる偽善と言う言葉を耳にしたことがあるが、それは程度にもよるのだと実感した。現に私は彼の一挙手一投足が鼻につき、ストレスの許容値が限界を迎えようとしていた。
私たちは学校近くの公園で今晩、成田和也の夢に入り込むことを約束し、駅へと向かって歩き出した。最後まで協力するかはまだ決めていないが、実際今晩私はどうなるのかということは気になっていた。
公園の外灯が点き始めたことで、私はあたりが暗くなりかけていることに気付いた。
太陽が沈み、夜はあたりを黒に染めた。月は雲に呑まれ外灯の明かりだけが私たちの行く先を知らせてくれた。もともと都会に住んでいたので引っ越してきて、私は田舎の夜に驚いた。外灯が少なく非常に暗いのだ。駅までの道は流石に整備されており、真っ暗なところはないが、私も一応は女子なので夜に暗い道を歩くことには心細さを感じる。はずなのだが、私の中は不快感でいっぱいで心細さなど皆無だった。目の前を歩く男がポイ捨てされたタバコや空き缶を目に付く限り拾ったり、落し物をわざわざ交番に届けたりと、見せ付けるように善人ぶるのである。
「少し冷えてきたな。寒くないか。」
などと細やかな気配りまでされ、逆に背筋がゾクゾクした。
まるで漫画の主人公のように善良な少年を演じようとしていて気持ちが悪かった。
「ねぇ。それどうにかならないの。」
「病気みたいなもんなんだ。気にしないでくれ。」
自覚症状はあるのか。それはそれでやっかいだなと思いつつ、彼の善行をどうにかする術は無いかと思案していた。
彼が自分で病気と言ったことから何らかの信念があり、それに従っていることは理解できた。むしろ彼は病気と言う言葉を使い自分を卑下することで言外にそうさせたのだろう。綾瀬正義と言う人間は実は私が思っているよりも聡い人間なのかもしれない。
彼がどうして人助けやその他多くの善行を始めたのかはわからない。他人に指摘されても曲げない信念ということは彼もまた何らかのトラウマを抱えているのだろう。まぁ他人のトラウマなんて知りたくも無いけど。他人の秘密なんてもう懲り懲りだ。
あくまで想像ではあるが、そこまで理解できたとて私のイライラはどうすることもできない。だってもう限界超えそうだし。なんなら超えてるといっても過言ではないだろう。なのに絶えているのは私がひと回り人間として成長しているからではないだろうか。ご褒美にコンビニでプリンを買って帰ろう。そして早く帰って美味しいご飯を食べて寝よう。まあ寝るとまたコイツと夢で顔を合わせることになるんですけど。なんなの?ねぇなんなのこれ?
もやもやとしていると彼が問いを投げてきた。
「一之瀬。お前は人助けについてどう思う。」
それは直球ではなく見せ球であろう変化球だった。その問いへの返答次第で次の一手を決めかねていると考えられた。場合によっては長い長い自分語りが始まる恐れもある。そんなのには付き合ってられない。だってプリンが待ってるからね。まだ買ってないけども。などと考えつつ見せ球を見送ると、まだバッターボックスで構えてもいないのに二投目を投げてきやがった。
「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。俺が中学生だったときにクラスでいじめがあったんだけどさ。」
「ターイム。」
口を開けたままあほ面になっている彼に私は笑顔で答えてあげた。
「興味なし。」
今回の笑顔には120点をつけてもいいだろう。私もかなり愛想が良くなったものだ。こんなに笑顔を安売りして大丈夫だろうか。彼の善意と違って私の笑顔はプレミアがついてもおかしくないのだ。そもそも非売品である。学校で笑ったことないし。学校でももっと笑った方がいいのかしらと考えていると、
「そうか。悪かったな。また今度にするよ。じゃあまた夢で。」
と別れの挨拶のつもりだろうか。他人が聞くとなんだこのバカップルはと思われるような恥ずかしい台詞を吐いて先に改札へと駆けて行った。改札を通る彼の姿が見えなくなるまで見送り、一緒の電車になりたくないので近くの書店へと向かうことにした。また今度ってなんだよ。勘弁してください。お願いします。
気になっていた本を購入し満足して帰宅した私だが、食後のプリンを買い忘れ悲しい気分のままベッドに入ることとなった。プリン食べたい・・・。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。
その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。
友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。
兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。
そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。
当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる